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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第13章 妖精の砂糖菓子
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5. 可愛いママ

「ティアラ!?」

『にゃにゃにゃっ!?(え、どういうこと!?)』


 突然姿が変わってしまったことに、ティアラローズはもちろんアクアスティードも驚いた。だってまさか、人間が猫になるなんて。


 ティアラローズはもふっとした自分の足を見て、さっと青ざめる。

 急いで姿見の前まで行って、全身を確認した。



 姿見に映っているのは、ふわふわの白猫。

 種類はペルシャに似ていて、毛並みはロングヘア。パッチリした水色の瞳にはティアラローズの面影が残っている。



『にゃにゃにゃ~!(猫になってる!!)』


 ――しかも可愛い!!

 ぜひ抱きしめたいけれど、姿が猫になってしまってはそんな悠長なことを考えている余裕なんて一ミリもない。


『にゃにゃうにゃう!(どうしよう!)』


 ティアラローズが姿見の前であわあわしていると、ふいに後ろから抱き上げられた。脇の下とお尻を支えてくれているので、しっかり固定されている。

 もちろん自分を抱き上げた人物は、アクアスティードだ。


「ティアラ……だよね?」

『にゃうぅ(そうです)』

「いったいどうして……って、直前に星空の王の指輪が光っていたのだから、それ関連であることは間違いないか。すまない、ティアラ」

『にゃにゃ~!(アクアのせいではありませんっ!)』


 申し訳なくしているアクアスティードに、ティアラローズはぶんぶん頭を振ってそんなことはないのだという意思を伝える。

 もし星空の王の指輪が関係していたとしても、それはアクアスティードだけのせいではない。自分にだって、力不足なところはあるはずだ。


「にゃ~としか聞こえないけど……ティアラが言いたいことはわかるよ。ありがとう、ティアラ」

『にゃん(よかった)』


 ティアラローズがほっと胸を撫でおろすと、アクアスティードがくすぐるようにティアラローズの額を撫でた。


『!』


 指先でくすぐられるその感触が、人間のときとまったく違う。なんともいえないむずがゆさと、幸せな気持ちが込み上げてくるのだ。

 もっともっと撫でてほしいと、そう思ってしまう。


 ――やだ、わたくしったら!


 はしたない、そんなことを思いつつも、もっと撫でてほしくて無意識のうちに自分の額をアクアスティードの手に押し付けてしまう。ぐりぐり擦りつけて、この人は自分の旦那様なのだとマーキングする。


「……ティアラ、可愛すぎるよ」

『うみゃぁ~(ああぁっ、わたくしったら!!)』

「もふもふで、毛並みも綺麗だ」

『……っ!』


 今度は顎の下をくすぐられて、ティアラローズはもう降参とばかりに寝転がる。するとお腹も撫でられて、さらにとろけさせられてしまう。


『みゃ~(これは危険だわ!)』

「ん~」

「なにー?」


 ティアラローズがみゃーみゃー喋っていたからか、シュティルカとシュティリオが目を覚ましてしまった。


『にゃにゃあっ!(どうしよう、隠れなきゃ!!)』


 ティアラローズが慌てて逃げられる場所を探そうとしたが、それより先にシュティルカに「ねこちゃ?」と掴まってしまった。


『にゃああぁ~』

「……ルカ、リオ、優しく撫でてあげて」

『にゃぁっ!?(アクア!?)』

「あい!」

「にゃんにゃ」


 シュティルカが元気に返事をし、シュティリオも嬉しそうにティアラローズのもふもふを抱きしめてきた。


 ――うぅ、無碍にできないわ。


 幸い自分が母親であることはばれていないので、ここは猫として貫き通すのがいいだろうと結論を出す。

 アクアスティードも笑顔で見守っているので、おそらくそのつもりなのだろう。


 ――なら、今は猫として接するのが一番ね。


 そう思い遊んであげようとしたのだが――勢いよく扉が開いて、ルチアローズが飛び込んできた。


「お母さま~っ、あれ?」


 しかし目当てのティアラローズの姿を見つけることができず、きょとんと目を瞬かせる。

 ルチアローズの後ろに控えていたメイドは、アクアスティードの姿があったため礼をしてその場を後にした。


 ルチアローズはきょろきょろ室内を見回して、アクアスティード、シュティルカ、シュティリオ……と、順番に全員を見る。

 そして最後にルチアローズの瞳に映ったのは――可愛い白猫。


「……お母さま?」

『にゃっ!?』

「――!」

「まま?」

「まーま?」


 ルチアローズの言葉に、全員が驚いた。

 だってまさか、猫を見て自分の母親だと言うなんて思いもしなかったからだ。てっきり、可愛い猫ちゃんと言われてもふもふされるくらいだろうと思っていたのに。

 シュティルカとシュティリオもティアラローズのことをじいぃっと見つめ、すぐに「まま!」と瞳を輝かせた。


『にゃにゃぁ~っ!?(どうしてわかったの!?)』


 ティアラローズが逃げるようにシュティルカの腕から出ると、アクアスティードに抱き上げられた。


「たぶん、魔力で判断したんだろうね。姿は猫だけど、魔力や雰囲気はいつものティアラだから」


 子どもの方が内面をよく見ているものだと、アクアスティードが感心している。


『にゃ……(なるほど……)』

「お母さま、かわい~!」


 ルチアローズはにこにこしながら、ティアラローズのことをぎゅっと抱きしめてきた。その顔はとても嬉しそうなので、仕方がないと大人しく抱きしめられる。


「えへへ」

「あ~ずういー!」

「ぼくもー!」


 シュティルカとシュティリオが自分も自分もと主張を始め、二人でティアラローズにのしかかってくる。


『にゃにゃっ!?』


 さすがに今の小さな体では、子ども三人とはいえ押しつぶされてしまう。

 ティアラローズが慌てて逃げようとすると、ルチアローズが「め!」とシュティルカとシュティリオに注意をした。


「お母さまが潰れちゃうでしょ?」

「う~」

「んぅ……」


 ルチアローズに注意されて、シュティルカとシュティリオはしょんぼり眉を下げつつも、ティアラローズから離れてくれた。


 ――お姉ちゃんの言うことを聞いて偉いわ……!


 普段はあまり感じていなかったけれど、子どもたちは日々成長しているのだなと感慨深く思う。


 ルチアローズはお団子ヘアに使っているリボンをほどいて、ティアラローズの首のところにかけてきた。

 アクアスティードはそれを取り、ルチアローズを見る。


「つけてあげるの?」

「うん!」


 元気いっぱいなルチアローズの返事にくすりと笑い、アクアスティードはリボンをティアラローズの首元に結んであげる。

 水色の可愛いレースのついたリボンは、真っ白な毛によく似合う。


「可愛い!」

「かぁい~!」

「かあい!」

『にゃにゃぁ~!(ありがとう、ルチア)』


 ティアラローズはお礼の代わりに、ルチアローズの頬に顔を寄せて頭をぐりぐり擦りつける。


『にゃにゃっ』

「きゃー、くすぐったいの」


 それを見たシュティルカとシュティリオが「ぼくも~」と言って、親子で楽しくじゃれあった。



 ***



『…………』

「えっ!? ティアラローズ様!?」

「これは驚きました……」

「……!」


 翌日になってもティアラローズの体は人間に戻らなかったため、オリヴィアとレヴィ、エリオット、タルモにのみ事情を説明した。


「ティアラは体調不良、ということにしておいてくれ」

「かしこまりました」


 ひとまずすぐに混乱するようなことはなさそうで、ティアラローズはほっとする。


『にゃ~(よろしくお願いします、オリヴィア様)』

「ティアラローズ様……あぁっ、とってもとっても可愛いですわ! さすがはわたくしの先輩っ! すはすはした……っうぅぅ」

「オリヴィア」


 オリヴィアが猫になってしまったティアラローズに対する思いの丈を口にしている途中で、レヴィがハンカチで鼻をそっと押さえる。


『にゃうん……(こんなに鼻血を出して、体調は大丈夫なのかしら……)』


 赤く染まったハンカチを心配していると、レヴィがすぐ新しいハンカチに替えていた。なんとも冷静で優秀な執事だ。


 鼻血の止まったオリヴィアは咳払いをし、「レヴィ」と執事に呼びかける。

 すると、レヴィの懐から猫用のブラシが数種類、それから猫じゃらしや蹴りぐるみなどのおもちゃが出てきた。


『にゃっ!?(なんでそんなものを!?)』


 つい今しがたティアラローズが猫になったという話をしたのに、一式そろえているなんて……やはりこの執事はかなりおかしい。

 現に、オリヴィアも「これから用意してもらおうと思っていたのに!」と驚いている。


「こちらは最高級品の猫ブラシですから、ティアラローズ様にぴったりかと思います」

「さすがよ、レヴィ!」

「オリヴィアの執事ですから、当然です」


 オリヴィアはレヴィの用意したブラシを手にすると、優しくティアラローズの背中をブラッシングしてみせた。

 普段は髪をとかしてもらっていたけれど、猫になると全身のブラッシングが必要になってくる。


『にゃぁ……』

「大丈夫ですわ、ティアラローズ様! 猫の姿でも、わたくしが完璧に仕上げてみせますもの」


 ちょっと不安ではあったのだが、オリヴィアはかなりやる気になってくれているようだ。現に、ブラッシングの手際もいい。


『にゃうぅ~』


 ――気持ちいい。

 猫はブラシが好きな子と嫌いな子の差が激しいけれど、どうやら自分は好きなタイプだったようだ。

 このままごろんと寝転がって、身を任せてしまいたい。

 そう思っていたのだが、ストップがかかる。


「オリヴィア嬢、ブラッシングは私がしよう」

「かしこまりました、アクアスティード陛下」


 どうやらアクアスティードは気持ちよくブラッシングされるティアラローズの姿を見せたくなかったようで、自分がしてあげることにしたようだ。

 その愛溢れる様子に、オリヴィアは瞳を輝かせ頷いている。


「では、わたくしはティアラローズ様のスケジュール調整をするために下がらせていただきますね」

「私も予定の調整と、図書館で似た事例がないか調べてみます」

「私は扉の外で護衛をしています」

「よろしく頼む」


 全員が退室したのを確認し、アクアスティードは肩の力を抜いた。ソファに沈み込むように腰かけたので、かなり気を抜いている。


『にゃ?(アクア、お疲れかしら……)』


 ティアラローズが心配になってアクアスティードの膝の上に飛び乗ると、優しく撫でてくれた。

 そして真剣な瞳が向けられ、ドキリとする。


「ティアラ、少し……その……」

『にゃ?』

「オリヴィア嬢が相手とはいえ、無防備すぎる」

『!』


 部屋にはエリオットたちもいたのに、ブラッシングで気持ちよさそうにしているティアラローズを見てハラハラしていたらしい。


 ――確かに! わたくしったら、いくら猫とはいえほかの男性の前で……はしたないわ!


 ガガーンとショックを受けたティアラローズは、いてもたってもいられなくてソファの下へ逃げ込む。

 人間と違って狭くて暗いところにもいけるので、猫はすごい。


「ちょっ、ティアラ!」

『にゃにゃ~!(今は合わせる顔がありません!)』


 無意識のうちに尻尾も揺れてしまう。

 アクアスティードがしゃがみ込んでソファの下を覗き込み、「おいで」とティアラローズに手招きをする。


『にゃっ!(アクアが膝をついてソファの下を……!)』


 それは駄目だと瞬時に判断し、ティアラローズはばっと飛び出す。そのままアクアスティードの胸におさまると、くすくす笑われてしまった。


『にゃうぅ』

「いや、可愛いと思ってね。ブラッシングしてあげる」


 アクアスティードはソファに座り直して、ティアラローズを膝にのせてブラッシングを始める。


『にゃ~(気持ちいい……)』

 ――さすがはアクア、ブラッシングの腕前も超一流だわ……!


 気付くと、ティアラローズはすっかり眠りに落ちてしまった。



「……寝ちゃったのか」


 アクアスティードは気持ちよさそうに寝ているティアラローズの額を撫でる。しかしその表情は、先ほどまでの優しい笑みではなく厳しいもので。


「ティアラ……」


 しんとした室内に、アクアスティードの声が静かに落ちた。

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