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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第13章 妖精の砂糖菓子
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4. アクアスティードの魔力

 スイーツ店『妖精の砂糖菓子』も無事軌道に乗り、平穏な毎日を過ごしている……と思いきや、ルチアローズの騎士ごっこに付き合わされて地味にハードな毎日を送っていたりする。


「はあぁ~もうクタクタだわ」


 シュティルカとシュティリオが寝ている横にダイブして、ティアラローズは大きく息をはく。

 今までルチアローズに付き合って、おままごと――もとい騎士ごっこをして遊んでいた。


「お疲れ様、ティアラ」

「アクア……。アクアも、騎士たちも、みんなすごいですね。わたくし、少し動いただけでへとへとになってしまいました」


 これでもストレッチやちょっとした筋トレをしているというのに、ルチアローズの体力についていける気がしない。

 ティアラローズがベッドにダイブした揺れのせいか、隣から「んぅ~?」という寝ぼけた声が聞こえてきた。


「ルカ、起こしてしまったかしら」

「まま……」


 シュティルカは大きな欠伸をして、のそのそとティアラローズの方へ這いずってきた。そのまま手をのばして、ぎゅ~っと抱き着いてくる。どうやら、まだ寝ぼけているみたいだ。


「ごめんなさいね、まだ眠たいわよね」


 ティアラローズは「いい子いい子」とシュティルカの頭を撫でてあげる。そのまま横になって、子守歌をうたう。


「花のゆりかごを揺らして、いい子いい子にお眠りなさい♪」


 すると、たちまち瞼が落ちてシュティルカは気持ちよさそうに寝息を立て始めた。

 そんな可愛い様子を見ていたら、ティアラローズもうとうとしてきてしまった。まだドレスのままだし、化粧だって落としていないというのに……。


 ――起きなきゃ。


 どうにかベッドから立とうと腕に力を入れたところで、優しい手が頭を撫でた。


「! アクア、そんなことをされたら寝ちゃいます」

「構わないよ」

「わたくしが構いますっ!」


 こんなの気持ちよすぎて、眠ってしまうに決まっている。

 このままではいけないと思い立ち上がろうとするのだが、アクアスティードが遠慮なしに寝かせようとしてきた。


「全部やっておいてあげるから、大丈夫」

「――っ!?」


 アクアスティードの言葉に、ぶわっと顔が熱を持つ。


 ――それは全然大丈夫ではないやつでは!?


 アクアスティードに夜着に着替えさせられ、化粧を落とされ……と考えたら、さすがに申し訳なさすぎる。

 しかもアクアスティードのことなので、化粧水なども使い完璧に仕上げてくれるのだろう。


 ――そんなことをされたら、自堕落になってしまうわ!


 ぶんぶん首を振り、ティアラローズはどうにか起き上がる。

 アクアスティードが残念そうにしているけれど、ティアラローズだって同じような気持ちだ。なので、ぎゅっとアクアスティードに抱きついた。


「……ちゃんと起きているときに甘えさせてくださいませ」

「うん。寝ているティアラも可愛いけど、やっぱり起きてこうやって甘えてくれるティアラは格別だ」


 くすりと笑い、アクアスティードは「もっと甘えて」とティアラローズに優しいキスをする。


「ん……」


 ティアラローズが素直に受け入れると口づけが段々と深くなり、体が跳ねる。このまま押し倒されてしまう――そんなことを考えた瞬間、アクアスティードの動きがピタリと止まった。

 何かに驚くような、そんな表情をしている。


「……アクア?」

「あ、いや……。なんだか、ティアラの中の魔力が大きくなっているような気がして」


 それで思わずフリーズしてしまったらしい。


「あ……確かに最近、ちょっと増えているみたいです。とはいえ、特に異変などはないですよ?」

「ティアラの体調が悪くなってないならいいけど……何かあったら、ちゃんと相談すること。心配になるだろう?」

「……はい」


 ティアラローズは素直に頷きつつも、魔力が増えて強くなりたいとも思っている。そうすれば、いつまでもアクアスティードに守られてばかりではなく、堂々と隣に立てるからだ。


 ――でも、そんなことを言ったらまた心配されてしまうわね。


 容易に想像することができて、思わず笑みがこぼれてしまう。

 しかしそれを見逃すアクアスティードでもない。


「ティアラ?」


 何を考えたの? と、アクアスティードが顔を近づけてくる。その手はわくわきと動かされているので、白状するまでくすぐられてしまうのだろう。


「わたくしも強くなれるかと思って……!」

「なんの躊躇いもなく言うね……」

「……だって、アクアは言うまでわたくしをくすぐったりするではありませんか」


 そうなったら、最終的に白状させられることは決定事項なのだ。

 だったら、さっさと口にしてしまった方がいい。ティアラローズはそう判断したのだが、アクアスティードのがっかり具合がひどい。行き場を失った手が寂しそうだ。


「…………」

「……っ、ちょ、アクア! 無言でくすぐるのはやめ……っ! ふ、ふふっ」


 白状したのにくすぐられてしまい、ティアラローズは身をよじらせる。


「アクアがくすぐるなら、わたくしだって――!」

「ティアラ?」


 同じようにくすぐろうと思ったティアラローズだったが、ふいにその手が止まる。視線が行った先は、自分の左手の薬指にはめてある『星空の王の指輪』だ。

 わずかにだが、キラキラと輝いている。


 ――魔力が溢れている?


 普段見ることのできない神秘さに、ティアラローズは目が釘付けになる。

 アクアスティードもそれに気付いたようで、視線がティアラローズの指輪へ移った。同じように、異変を察知したのだろう。


 ――でも、嫌な感じはしない。


 それはきっと、この星空の指輪がアクアスティードの魔力を受けているからだろう。


 ――ということは、わたくしの魔力が増えてきたと思ったのは……アクアの魔力が増えているせい?

 この指輪は、強大すぎるアクアスティードの力の一部をティアラローズが受け止めるためのもの。

 つまり、アクアスティードが強くなっているということだ。


「ティアラの魔力が強くなった原因は、これか……」

「そうみたいですね。アクアは、不調などありませんか?」

「私はまったく問題ない。……ただ、ティアラの負担になっているなら何か解決策を考えた方がいい」


 そう言って、アクアスティードは顎に手を当てて真剣に考え込む。

 魔力問題はとても大変だということは、ティアラローズが子どもを身ごもったときに嫌というほど経験しているのだ。

 今度はいったいどんなことが起きるのだと、そんなことを思ってしまう。


 アクアスティードはティアラローズをぎゅっと抱きしめて、その肩口に顔をうずめる。


「私が不甲斐ないばかりに、すまない」

「不甲斐なくなんてないです。アクアはわたくしの素敵な旦那様ですから。誰よりも努力して頑張っていることは、わたくしが知っています」


 これで不甲斐なかったら、きっとこの世界に甲斐性のある男性なんていないだろう。

 ティアラローズが笑顔で告げると、抱きしめていたアクアスティードの力が少し緩んだ。


「ありがとう、ティアラ」

「いいえ。ちょっと弱気なアクアは、なんだか珍しいですね。甘えますか?」

「ティアラ……こんな状況だって言うのに、楽しんでるだろう?」

「――――」


 ずばり言い当てられてしまい、ティアラローズはさっと顔を逸らす。


「ティアラは自分のこととなると楽観視して、後回しにする」

「……否定はできないかもしれませんが、本当に体調などは悪くないんですよ? 魔力だって、そんなに気にするほどでもないですし」


 むしろ魔法の扱いが上手くなっていると感じているので、ティアラローズ的には嬉しいことづくしなのだが……アクアスティードは心配で仕方がないようだ。


 ――アクアの気持ちももちろんわかるのだけれど……っ!


 でも、今まであまり魔法が得意でなかったので――正直、ちょっと嬉しいなとはしゃいでしまう自分がいることも否定はできない。

 そしてふと、ティアラローズはピコンととあることを思いつく。ぱっと表情が明るくなったからか、アクアスティードから「何を思い付いたの?」と言われてしまう。


「……アクアに、魔法の使い方を教えてもらったらいいのでは……と」

「魔法を?」

「はい。わたくしが使う魔法はお菓子作りという限定的なものだったのですが、魔力が増えたこともあって、違う使い方もできるようになったんです」


 ティアラローズはサイドテーブルに置いてあった水差しを手に取って、ほとんどなくなっていた水を魔法で満たしてみせた。今までだったら、こんなことはできなかった。


「なるほど……確かに、きちんと魔法を習うのは悪いことじゃない。私でよければ、いつでも教えるよ」

「ありがとうございます」


 快諾してくれたアクアスティードに、ティアラローズはお礼とばかりにぎゅっと抱き着く。体重を預けると、受け止めてもらえるのでとても安心できる。


 ――アクアの腕の中、心地いい。


 ずっとこのまま過ごしたい、なんて思ってしまう。

 するとそれを察してくれたのか、アクアスティードの手がティアラローズの髪を撫でる。ふわふわの髪は触り心地がよく、アクアスティードもいつまでも触れていたいと思ってしまうものだ。


「ティアラ」

「アクア……」


 名前を呼ばれたティアラローズは、アクアスティードの胸元に手をついてゆっくり体を離す。

 優しい金色の瞳が細められたのを見て、自分からも体を少し浮かせてキスを――


『みゃっ!?』


 ――キスをしようとした瞬間、ティアラローズの体が真っ白で愛らしい猫の姿に変わってしまった。

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