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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第13章 妖精の砂糖菓子
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2. のんびりティータイム

「お母さま、見て~!」

「きゃー! ルチア、何しているのっ!!」


 楽しそうに自分のことを呼ぶ娘を見て、ティアラローズは顎が外れるのでは!? というくらいに驚いた。

 見ると、ルチアローズが庭園の木に登っていたからだ。木の下ではタルモがハラハラしながら見守っている。

 さらにその後ろでは、オリヴィアが「天才すぎですわ!」と瞳を輝かせている。



 毎日庭園で遊ぶおてんば姫、ルチアローズ・マリンフォレスト。

 ティアラローズとアクアスティードの第一子で、マリンフォレストの第一王女だ。

 金色がかったハニーピンクの瞳はパッチリし、濃いピンク色の髪は両サイドでお団子にしている。

 内に精霊サラマンダーの魔力を持ち、火系統の魔法の才能がある。とはいえルチアローズはまだ小さいので、自分から魔法を使うということはほとんどない。


 五歳になったルチアローズは、それはもう毎日庭園を駆け回っている。日本だったら、幼稚園の年長さんくらいだろうか。

 騎士たちの姿をよく見ていることもあって、ルチアローズは「騎士(きち)になりゅ!」というのが最近の口癖だ。なんでも、ママとパパを守ってあげたいのだという。


 ――守ってくれるというのは、とても嬉しいけれど……。

 どうか無茶な遊びだけはしないでほしいと、切に願うティアラローズだ。


「だいじょーぶ、ルチアは騎士(きち)だから!」


 木の上に立ち、キリッとした顔で告げる娘はどこか誇らしげだ。

 きっとあの運動神経のよさは、アクアスティード譲りだろう。間違っても自分はこんなすいすい木登りができないとティアラローズは思う。


 すると、「きゃー! ルチアローズ様―!?」という第三者の声が。

 ティアラローズが声の方を振り向くと、顔を青くしているフィリーネがいた。その腕には、長男のクリストアを抱いている。


「フィリーネのその反応を見るとなんだか落ち着くわね……」

「ティアラローズ様、そんなことを言っている場合ではないでしょう……!」


 しかし慌てるフィリーネをよそに、ルチアローズは「フィリーネ! クリス!」と名前を呼ぶと嬉しそうに笑顔を見せ、そのまま木からジャンプした。


「~~~~っ!?」

「――っ、!」


 今度こそ声にならない悲鳴を上げたティアラローズだったが、寸でのところでタルモがルチアローズを受け止めてくれた。


「はぁ……心臓が止まるかと思ったわ」

「本当に……。タルモがいなかったら、どうなったことか……」


 ティアラローズとフィリーネの心臓はドッドッドッドッと嫌な音を立てている。

 けれど当の本人ルチアローズはけろりとしているので、親の心配にはまったく気づいていないのかもしれない。



 安堵からへたりと地面に座り込んでしまったのは、フィリーネ・コーラルシア。

 黄緑色の綺麗な髪と、セピアの瞳。昔からティアラローズの侍女をしてくれている、しっかりした女性だ。

 今はアクアスティードの側近エリオットの妻で、二人の間には二歳の長男のクリストアに、一歳の長女フィンと、生まれたばかりの次女エレーネがいる。



 コーラルシア家の長男、クリストア・コーラルシア。

 サラサラの薄黄緑の髪はフィリーネ譲りで、おっとりした深碧の瞳はエリオットに似ている。

 エリオットはシュティルカとシュティリオの側近にしたいと考えているようだが、おっとりした性格なのでフィリーネはそんな大役が務まるのか今から心配しているらしい。



「大丈夫? フィリーネ。クリスも、驚かせてしまったわね」

「ありがとうございます」


 ティアラローズは座り込んでしまったフィリーネに手を貸して起こし、元気に走り回るルチアローズを見て苦笑する。

 ルチアローズはクリストアの前にやってきて、ドレスの裾をつまんで愛らしくお辞儀をした。

 おてんばではあるのだが、ティアラローズの教育もあって礼儀はきちんと身についている。


「いらっしゃい! フィリーネ、クリス!」

「ごきげんよう、ルチアローズ様」

「……こんにちは」


 フィリーネが笑顔で挨拶をするとクリストアも挨拶をするのだが、すぐにフィリーネの後ろへ隠れてしまった。

 もしかしたら、思った以上に木からジャンプしたルチアローズに驚いてしまったのかもしれない。

 しかしルチアローズは、そんなクリストアの手を取って「遊びましょ!」と嬉しそうに微笑む。


「……うん」


 こくんと頷いたクリストアは、フィリーネの後ろから出てきた。そのままルチアローズと手を繋いで、芝の上へ座る。

 ティアラローズがいったい何をして遊ぶのだろうと見ていると、とことこぬいぐるみがこちらへ歩いてくるではないか。


「あら……」

「ルチアローズ様のぬいぐるみ、でしょうか」

「クリスを見て、一緒に遊ぶために部屋から動かしたみたいね」


 ルチアローズは普段魔力を使うことはほとんどないけれど、ぬいぐるみを動かすことに関しては別だ。

 遊び相手で友達、という感覚があるようで、こうしてときおり動かしている。


 以前ティアラローズがどうやって動かしているのか尋ねたこともあったが、「おいで~って呼ぶんだよ」と説明されて理解するのはちょっとあきらめ気味だ。


「ぬいぐうみだ~!」


 クリストアがぱぁっと嬉しそうな顔をして、ぬいぐるみの方へとてとて歩いていく。ルチアローズが手を繋いであげているのが、なんともお姉さんらしい。


「はぁぁ~可愛いですわ!」


 ずっと眺めていたいくらいだと、見守っていたオリヴィアが息を荒くしている。鼻血こそ出てはいないが、そろそろ危険かもしれない。


「ぬいぐるみで遊んでいるし、わたくしたちはお茶でもしましょうか」

「ええ、そうしましょう。レヴィ!」

「ハッ、すでに!」


 ティアラローズが提案すると、すでにレヴィがお茶会のセッティングを終えていた。

 サンドイッチなどの軽食からケーキまで、いったいいつ用意したのか? と。いや、彼に関しては考えても無駄だろう。



 ということで、大人はのんびりティータイムだ。


 フィリーネはクリストアがルチアローズと遊んでいるのを見て、肩の力を抜いたようだ。子育て真っ最中ということもあり、顔には疲れの色が浮かんでいる。


「今はみんないるから、フィリーネもゆっくりしてね」

「ありがとうございます、ティアラローズ様。ルチアローズ様のときにわかっていたつもりでしたが、子育てとはこんなにも大変なのですね。……もちろん、嬉しいこともたくさんあるのですけれど」


 まだまだ慣れることはなさそうですと、フィリーネは笑う。


「オリヴィア様、わたくしの代わりに侍女をしていただいてありがとうございます」

「いえいえ。とても充実して楽しい毎日を過ごしているから、フィリーネは自分のことを第一に考えるのよ」

「はい」


 最初は短期間とはいえ、公爵家の令嬢であるオリヴィアに自分の代わりをさせるなんて! と思ったフィリーネだが、今ではすっかり慣れてしまった。

 というのも、オリヴィアがティアラローズやアクアスティード、その子どもたちに対してめちゃくちゃテンションが高いからだろう。さらにレヴィもいるので、基本的な仕事に関しては何の問題もなかった。


 フィリーネは紅茶を一口飲んでから、「そういえば」と話題を切り出した。


「近いうちに、アランが来るといっていました」

「まあ、アラン様が?」

「ティアラローズ様がお作りになったスイーツ店『妖精の砂糖菓子』が気になって仕方がないようです。そのお祝いに、と」

「嬉しいわ。招待状を贈ろうと思っていたの」


 まさかアランから来てくれるとはと、ティアラローズの頬が緩む。

 これはとびきりのスイーツフルコースを用意して出迎えなければと、いつも以上に気合が入るというものだ。

 貴族向けスイーツはもちろんだが、アランがメイン事業にしている庶民向けスイーツも新しいものを食べてほしい。


 ――ああ、やることが山積みだわ!


「ティアラローズ様、無理はいけませんよ?」

「も、もちろんよ!」


 やはりメニューをもう少し増やした方がいいだろうかと考えていたなんて、にっこり笑顔でプレッシャーをかけてくるフィリーネの前ではとてもではないが口にはできない。


「大丈夫、きちんと休んでいるわ。でないと、オリヴィア様からアクアに言われてしまうもの」

「当然です! 甘いお仕置きをしていただきます!!」

「まあ、それはいいですね」

「二人とも、もう……」


 侍女たちの手のひらの上で踊らされている……そんな風に思うティアラローズだった。



 ***



 午後。今日はアクアスティードと一緒の仕事があるため、二人で応接室へと向かう。


「そういえば、ティアラは会うのも久しぶりだったね」

「前にお会いしたのは数ヶ月前でしょうか」


 しかし面会とは、いったいどういった用件だろうとティアラローズは首を傾げる。最近は特に問題もないので、折り入って話すこともあまりなかった。

 到着した応接室に入ると、約束の人物がいた。


「待たせてすまない、アイシラ嬢」

「お久しぶりです、アイシラ様」

「ご無沙汰しております」


 ゆっくりと礼をしたアイシラは、「時間を取っていただきありがとうございます」と微笑んだ。



 海に愛された続編のヒロイン、アイシラ・パールラント。

 淡い水色の髪と、オレンジ色の瞳。線の細い儚げな女性だが、海の中を何時間でも泳いでしまうほど行動力や体力がある。

 海の妖精に祝福されており、マリンフォレストの海の管理を行っている。



 席に着きメイドが紅茶を用意し終わるのを待って、アイシラが口を開く。


「改めて……本日はお時間を取っていただき、ありがとうございました」

「何か問題でも?」

「いえ。本日は、その……わたくし事なのですが……」

「?」


 言いづらそうなアイシラの様子に、ティアラローズとアクアスティードは顔を見合わせる。


「……わたくし、結婚いたします。本日は、そのご報告に」

「! それはおめでとう」

「おめでとうございます、アイシラ様」


 突然のことにとても驚いたが、ティアラローズもアクアスティードもすぐに祝福の言葉を贈る。

 しかし同時に、ティアラローズの頭のなかは『誰と?』という単語で埋め尽くされている。確か続編の攻略対象は――と考えていたところで、アイシラの口から相手の名前があがった。


「……カイルと、結婚します」


 そう告げたアイシラの頬はピンクに染まり、幸せな表情をしている。

 アクアスティードのことをずっと想ってきた彼女がここまでくるにはかなり時間がかかってしまったけれど、こうして笑顔で報告してもらえたことが嬉しいとアクアスティードは思う。


 ――カイルはアイシラ様の執事で、攻略対象キャラクターの一人だわ。


 カイルはずっとアイシラの側に寄り添ってくれ、少しずつ愛を育んできたのだという。

 ただ問題があるとすれば、カイルは貴族ではない……ということだろうか。

 ティアラローズは続編のゲームをプレイしていないのでわからないけれど、かなり大変な道のりだろうということは想像に容易い。


「パールラント公爵は、なんと?」


 アクアスティードの問いに、ティアラローズもドキリとしてしまう。

 厳しい公爵が二人の結婚を許しているのかは、気になる点だ。駆け落ちをすると言われたらどうしようと、一瞬不安になる。


 アイシラは苦笑しながら、「許しをいただきました」と答えた。


「もちろん、お父様を説得するのは大変でした……。ですが、カイルはずっとわたくしのことを側で見守り、助けてくださいましたから」


 パールラント公爵も、なんだかんだカイルのことは息子のように可愛がってくれていたのだとアイシラは告げる。


「最初は『馬鹿を言うな!』と怒鳴られてしまいましたけれど……」

「それは……大変だったね」

「お二人が認められてよかったです」

「ありがとうございます」


 アイシラはどこかすっきりした顔をして、アクアスティードのことを見ている。

 きっともう、あのときの想いはアイシラの中で決着がついたのだろう。アイシラは晴れやかな顔で、応接室を後にした。

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