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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第13章 妖精の砂糖菓子
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1. 賑やかな毎日

 高く澄み渡る空に、深く色鮮やかな魚の泳ぐ海と、豊かな実りがある新緑の森。ここマリンフォレストは、星空の王と三人の妖精王が見守る美しい国だ。

 その国の隣――ラピスラズリ王国から嫁いできた王妃ティアラローズは、子育てに仕事にと充実した毎日を過ごしている。



 そんなティアラローズが第二子と第三子の双子の王子を出産して、三年が経った。

 今は王城の自室でスイーツカタログを見て、ああでもないこうでもないと頭を悩ませている。お菓子は、ティアラローズにとって大事な栄養源だ。



 ティアラローズ・ラピス・マリンフォレスト。

 この国の王妃であり、乙女ゲーム『ラピスラズリの指輪』の悪役令嬢でもある。そして今は、三人の子どもの母親だ。

 ハニーピンクのふわふわの髪と、澄んだ水色の瞳。甘く優しい笑顔は、まさに聖母と言っていいだろう。



 そして三人の子ども――ルチアローズ、シュティルカ、シュティリオは仲良くお昼寝中だ。

 すやすや眠るルチアローズだが、「んん~っ」寝返りを打った拍子にブランケットをはいでしまった。

 その声に気づいたティアラローズは、カタログから顔を上げて可愛い娘たちの下へ行く。

 ブランケットをかけ直してあげて、優しく額を撫でる。気持ちよさそうに寝ている姿はいつまででも見ていたいと、そんな親ばかなことを考えてしまう。


 そんなティアラローズと子どもたちを見ている人物が一人。


「はあぁ~、今日もとっても素敵だわ!」


 うっとりした表情で見つめているのは、オリヴィアだ。

 胸の前で手を組んで、今この光景を生涯脳裏に焼き付けようとしている。早く、早くカメラを開発しなければ……そんなことを考えながら。

 そしてドレスのポケットからハンカチを取り出して、己の鼻に当てる。ハンカチは一瞬で血が滲んだ。


「美しい光景です、ティアラローズ様!」

「オリヴィア様……もう鼻血は出なくなったものだとばかり」

「ノンノン! 修行の甲斐もあって普段は出なくなりましたけれど、尊いと感じたら溢れ出ますわ……!」


 オリヴィアの言葉に苦笑しつつも、確かに以前よりは鼻血も落ち着いているから仕方ないとティアラローズは席に戻る。



 この世界を愛しすぎている続編の悪役令嬢、オリヴィア・アリアーデル。

 フィリーネが産休に入っているため、今は臨時でティアラローズの侍女をしてくれている。本人曰く、「先輩のお世話ができるなんてこの上ない幸せ!」ということらしい。

 侍女であるのだが、その傍らには執事であるレヴィが控えているという不思議な構図もできあがっている。



 オリヴィアの執事、レヴィ。

 きっちり整えられた黒髪と、オリヴィアの髪色と同じローズレッドの瞳。執事服を着こなし、立ち姿は常に優雅だ。

 何よりもオリヴィアのことを一番に考え――いや、オリヴィアのことしか考えていないと断言してしまっていいだろう。



 しばらく子どもたちの寝顔を堪能したオリヴィアは、ハッとする。


「そうだったわ! ティアラローズ様、お店のデザインができあがったんでした」

「オリヴィア様、ありがとうございます」


 ティアラローズはカタログをテーブルに置いて、オリヴィアから図面を受け取る。そこにはとある店舗の設計図、外装と内装のデザインが描かれていた。

 赤いレンガの建物は、その外観こそ可愛らしいがかなり広い作りになっている。一階部分には五十席のテーブルがあり、二階は個室が五部屋ある。

 本当はもっとこぢんまりした造りに……とも思ったのだが、間違いなく大行列になってしまうのは目に見えているので、かなりの広さを用意した。



 ――ここは『妖精の砂糖菓子』。

 ティアラローズがプロデュースして作っているスイーツ店だ。

 貴族、庶民、分け隔てなく利用できるようなお店にしたいと作られている。値段はリーズナブルなものから、スイーツコースまで用意している。

 一階部分は誰でも気軽にスイーツを食べに来られるレストランで、二階の個室は貴族向けに用意している。



「とても可愛いデザインね!」

「ええっ! 二階は完全予約制の個室ですし、わたくしたちがお茶会をするのに使ってもいいくらいですわ」


 わくわくしながら設計図を見るティアラローズに、オリヴィアも頷く。

 今までもスイーツ店を作りたいと考えていたティアラローズだったけれど、仕事や子育てが忙しくてなかなか実行に移すことができていなかった。

 いまや、マリンフォレストにはフィリーネの弟のアランが庶民向けスイーツの『フラワーシュガー2号店』ができていて賑わいを見せている。


 ――完成したら、アラン様も招待しなきゃ。

 そしてどんどんスイーツの輪が広がったらいいとティアラローズは考える。

 そうすれば、毎年開催されているスイーツ大会ももっともっと盛り上がるだろう。スイーツ大会はかなり話題になっていて、他国からの観光客も増えているのだ。


「さ、一度お茶にいたしましょう」

「そうね」


 オリヴィアの声にティアラローズが頷くと、すでにレヴィが紅茶の準備を始めていた。どうやらこの執事は、主人の行動を先読みしているらしい。

 茶葉のいい香りに、ティアラローズは肩の力を抜いて首を回す。書類などの確認が多かったため、かなり凝ってしまったようだ。


「ふぅ……」


 ティアラローズが息をつくと、オリヴィアが背後に回ってきて肩をマッサージしてくれた。ちょうど凝っているところで、とても気持ちがいい。


「お疲れ様です」

「ありがとうございます、オリヴィア様」

「もう凝り凝りですわ!」

「あっ、いたたたたたっ」


 オリヴィアに肩をぐりぐりされて、ティアラローズは悲鳴を上げる。ここまで痛くなるほど肩を酷使していたとは……!

 今日はゆっくりお風呂に浸かって早く眠らなければと、ティアラローズは自分の体を労わろうと思う。


「わたくしがいつでもマッサージいたしますから、遠慮なく言いつけてくださいませっ!」

「はい」


 やる気に満ち溢れたオリヴィアに、ティアラローズは笑顔で頷く。

 最初、オリヴィアがフィリーネが産休の間は自分が侍女をする――そう言いだしたときは驚いたけれど、今は毎日が楽しそうだ。


 ――たまに鼻血を出しているけれど……。


「そうだわ、肩こりに効く温泉があればいいんじゃないかしら……!?」

「さすがはオリヴィア、名案です!」

「ちょ、何を言っているのですかお二人とも!」


 オリヴィアが何か考えを口にするとレヴィは全肯定しかしないので、ティアラローズだけでは深刻なツッコミ不足に陥ってしまう。


 ――レヴィなら温泉も掘りかねないわ!


「大丈夫ですわ! ティアラローズ様は、何も気にせず温泉が掘り上がるのを待てばいいのです」

「絶対に違います……!」


 ティアラローズがぶんぶん首を振って否定していると、「楽しそうな話をしているね」とアクアスティードが部屋へ入ってきた。

 どうやら今日の仕事は一段落したようだ。


「ただいま、ティアラ」

「アクア、お疲れ様です」


 ティアラローズがアクアスティードを出迎えると、こめかみに優しくキスをされる。オリヴィアたちがいるので少し恥ずかしくはあるけれど、嬉しい。



 妻と子どもたちとの時間を大切にしてくれる、アクアスティード・マリンフォレスト。

 ダークブルーの髪と、優しい金色の瞳。整った顔立ちに、ティアラローズはいまだドキドキしてしまうことが多い。

 マリンフォレストの国王とし、さらには星空の王としてこの地とティアラローズたちのことを守ってくれる大切な人だ。



「お疲れ様でございます、アクアスティード陛下」

「ああ。何か変わったことはなかった?」

「いつも通りでございます。ただ、ティアラローズ様の肩こりが酷いので、ぜひ後程マッサージでも……」

「オリヴィア様!」


 なんてことをアクアスティードに言うのだと、ティアラローズは焦る。こんなの、飄々と嬉しそうにマッサージをしてくるに決まっている。

 しかもそれだけでは終わらず、絶対にくすぐられたりするのだとティアラローズの顔は赤くなってしまう。

 それを見たオリヴィアが張り付けたような笑顔の下で「ご馳走様です」と考えているなんて、きっとティアラローズは想像もしていないだろう。


 そんなティアラローズの様子を見て、アクアスティードは笑みを深める。


「仕事と子育てに忙しい奥さんを労わるのは私の役目だからね」

「ふふっ、夫婦の時間ですし、わたくしたちはそろそろ下がらせていただきますわ。失礼いたします」

「ああ、ありがとう」


 オリヴィアとレヴィが優雅に一礼をし、退出していった。

 まるで嵐のようにあっという間のできごとだったと、ティアラローズは熱くなった頬を押さえる。

 オリヴィアは礼儀正しく優雅ではあるが、変に遠慮がない一面もあるのだ。

 その分……このようにアクアスティードとゆっくりする時間を作ってくれることも確かではあるのだが。


 アクアスティードは眠る子どもたちの下へ行き、ベッドへ腰かけた。


「ぐっすり眠っているね」

「ルチアは元気いっぱいで、遊びまわりましたから」


 疲れてしまったのだろうと、ティアラローズは微笑む。最近は暇さえあれば駆け回り、特にタルモを振り回している。

 シュティルカとシュティリオも三歳なので、一生懸命ルチアローズの後についていこうとする姿が可愛いのだ。


 すると、アクアスティードがティアラローズのことを手招きした。


「アクア?」


 ティアラローズが隣に腰かけると、アクアスティードに手を握られる。どうしたのだろうと首を傾げると、アクアスティードはその手に頬を寄せた。


「できるなら、私もティアラのあとをついて歩きたいよ」


 執務が忙しいこともあり、アクアスティードはなかなかティアラローズと一緒の時間を取ることができない。

 なのでほんの少し、子どもたちのことが羨ましいようだ。

 ちょっと拗ねたような態度がなんだか可愛くて、ティアラローズは後ろをついて歩くひよこのような夫を想像しくすりと笑う。


「アクアったら」

「これでも普段、我慢してるんだよ?」


 だから口で言うくらいはいいでしょう、と。

 けれど、そんなことを言ったらティアラローズだって気持ちは同じだ。一日中、子どもたちと一緒にアクアスティードのことを見ていたいと思う。

 パパは頑張ってお仕事をしてくれているのよと、子どもたちにも教えてあげたい。


 でも、子どもたちはきっとすぐに成長してアクアの背中を追うわ。

 母親だからか、なんとなくわかるのだ。


「ティアラのお店が完成したら、時間を作ってみんなで食事に行こう」

「はいっ!」


 すり寄ってきたアクアスティードを抱きしめて、ティアラローズは嬉しそうに微笑んだ。

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