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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第12章 月と太陽に星空の加護を
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15. 王の色

「――あ」

「ティアラ?」


 朝食を口に運ぼうとした瞬間、ティアラローズの体がピタリと止まった。正確には、お腹に感じた違和感で動くことができなくなった。

 出産予定日まではあと五日ほどあったけれど、ずれてしまうことは珍しいことではない。


 すぐにアクアスティードが席を立ち、ティアラローズの体を支える。子どもがすぐに生まれるわけではないことは、わかっている。

 まずはティアラローズが落ち着けるように、優しく背中をさする。


「エリオットは医師に、フィリーネはダレルに連絡を」

「はいっ!」

「すぐに!」


 アクアスティードはゆっくりティアラローズを抱き上げて、部屋を出た。出産を行う部屋は、すでにいつでも使えるように準備されている。

 歩く速度に気をつけながら、アクアスティードはタルモを先頭にして急いだ。




 今回の出産は、アクアスティードも立ち会いをすることになっている。

 医師には駄目だと言われたが、ティアラローズが受け入れてくれたこともあり、押し切らせてもらった。


 辛そうに呼吸を繰り返すティアラローズの手を握って、アクアスティードは「大丈夫」と声をかける。

 アクアスティードの顔を見たティアラローズが、ふっと笑った。


「眉間に皺がよっていますよ、パパ」

「……どうにも緊張してしまってね。ティアラの辛さを、少しでも代わってあげられたらいいのに」


 第一子出産の際は隣の部屋で落ち着かないまま待っていたが、一緒にいるというのはもっと落ち着かないものだ。

 ティアラローズが少しでも声をあげると、心臓がひどく大きな音を立てる。


「――あっ、うぅ」

「ティアラ!」

「はぁ、はっ、だいじょ、ぶ。元気な赤ちゃんを産みます……から、ね?」

「……ああ」


 アクアスティードはティアラローズの手を握り返して、無事に生まれますようにと祈る。きっと、隣の部屋で待機しているダレルや、ほかのみんなもそうだろう。


 それからほどなくして――産声が上がった。


「ふええぇぇんっ、ふえぇ」

「生まれた……!」

「よか……っ、あ、うぅ……っ」


 しかし、ティアラローズの体の違和感は消えなかった。そして耳に届くのは、「もう一人!」という医師の声。

 ティアラローズがいきむのと同時に、再び産声が上がる。


「ふええぇっ、ふえぇんっ」



 二人の赤ちゃんを出産し、ティアラローズは大きく息をはく。双子だなんてまったく想像していなかったので、生まれた赤ちゃんを見て目を見開く。


「男の御子です、二人の王子です!!」


 医師の声に、室内がわっと沸く。

 マリンフォレストに誕生した、初めての王子だ。これを喜ばずして、どうしようか。ティアラローズは涙ぐみながらも、必死に体を起こす。


「ティアラ」

「……アクア」


 アクアスティードに背中を支えてもらい、二人で赤ちゃんを医師から受け取る。抱くと、その柔らかさや、生きている鼓動が伝わってくる。

 無事に生まれてくれたというだけで、ただただ嬉しい。


 しかし、そんな安らかな時間は一瞬で終わってしまった。


 二人の赤ちゃんの魔力が、膨れ上がったのだ。おそらく、胎内から出たことによって、与えられていた影響が変わってしまったためだろう。

 医師が「ダレル様を呼んでください!」と叫ぶのと、同時だったろうか。


 アクアスティードが袖をまくると、その手首に腕輪がはめられていた。


「それ、は……」


 腕輪は、ティアラローズも見たことがあるものだ。

 あのときの別れ際に、ルカとリオから譲り受けた魔法の腕輪。それぞれの魔力を抑える役割があると言っていたものだ。


 焦る思考の中で、ティアラローズは生まれてくる赤ちゃんを思って腕輪を譲ってくれたのだろうと結論を出す。

 この腕輪があれば、赤ちゃんの魔力を抑えることができるだろう。ティアラローズは二人に感謝し、胸に抱く赤ちゃんを見て――息を呑んだ。


 そっと開いた瞳の色が、ティアラローズの記憶に残る色だったからだ。

 キラキラ輝く、オッドアイの瞳。

 宝石のような水色と金色は、ルカと、リオと、同じもので。



「シュティルカには、月の腕輪を。シュティリオには、太陽の腕輪を」



 アクアスティードが赤ちゃんの命名をし、その細い腕に腕輪をつける。すると、あっという間に魔力が抑えられた。

 赤ちゃん――シュティルカとシュティリオは、安心するようにすやすやと眠っている。


「あの世界は……未来、だったのね」


 それでは、自分たちに正体を教えられなかったことも頷ける。ルカとリオの二人は、ティアラローズたちの未来にいったい何が起こるか知っていたのだから。


 ティアラローズはアクアスティードに寄りかかり、その表情を覗き込む。


「アクアは知っていたの?」


 教えてくれたらよかったのにと、ティアラローズは少しだけ拗ねる。けれど、アクアスティードは首を振る。


「なんとなく、そうかなと思っていただけだよ。私も確信があったわけじゃない」

「……そうだったんですね。でも、ルカとリオはわたくしたちのことを知っていて……自分たちに、この腕輪を必要だと知っていて、託してくれたんですね」


 生まれる前からなんとできた息子たちだろうかと、ティアラローズは苦笑する。まさか、生まれたばかりの息子に助けてもらった回数の方が多いなんて。

 これからは、ティアラローズが一生懸命守らなければ。


「これからよろしくね、ルカ、リオ」


 ティアラローズは二人の頬に、キスを送った。



 ***



 無事に生まれた王子たちを見るために、たくさんの人が押し寄せてきた。


「ああもう、しばらくはティアラローズ様と普段から面識のある方以外はお断りです!!」


 面会の申し入れを仕分けているのは、フィリーネだ。

 絶対に、ティアラローズの負担になるような人は室内にいれないぞと、目を光らせている。

 この面会は一ヶ月後、こっちはニヶ月後……と、ティアラローズの負担にならないようにスケジュールを組んでくれている。



「さすがに王子の誕生ともなると、すごいわね」

「しかも双子だからね」

「ええ」


 ベッドでゆっくりお茶を飲みながら、隣に置かれた大きい花のゆりかごを見る。そこには、シュティルカとシュティリオが気持ちよさそうに眠っている。

 そのすぐ近くでは、ルチアローズが生まれたばかりの弟たちを嬉しそうに見ている。どうやら姉弟の仲は良好そうだ。


「はぁ~王子様、とっても可愛い! きっと、将来はアクア様似のイケメンですね!」


 アカリがはしゃぎながら、にこにこ顔でシュティルカとシュティリオを見ている。

 フィリーネにこの部屋への入室が許されたのは、それぞれの側近をはじめ、アカリ、ダレル、オリヴィア、ティアラローズの両親だ。


「ティアラローズ様とアクアスティード陛下の御子というだけでも、もう……ああ尊いっ!!」


 オリヴィアは前屈みになりながら、鼻をハンカチで押さえる。シュティルカとシュティリオが尊すぎて、鼻血が……っ!


 それを見たフィリーネが、「ああああっ!」と声をあげる。


「オリヴィア様、生まれたばかりの王子たちがいるところでの鼻血はいけません!」

「ああっ、そうね、そうよね! アカリ様、わたくしは一度戦線を離脱いたしますわ! あとのことは任せます!」

「オリヴィア様~! 私、オリヴィア様のためにこの任務、かならず遂行してみせます!!」


 鼻を押さえながら退場するオリヴィアと、その想いを託されたアカリ。いったいなんの任務を遂行するのだとティアラローズは苦笑した。


「とっても賑やかですね、ティアラお姉様」

「そうね。それはそうと……こうして無事に生まれたのも、ダレルのおかげだわ。ありがとう」

「いいえ。ティアラお姉様が元気でよかったです」


 ダレルは産後の体調も気にしてくれていたようだが、いたって良好だ。さすがに疲れはかなりあるが、食欲もあるし、気持ち悪さもない。

 これも、日ごろからダレルのサポートがあったおかげだろう。ダレルはいろいろ勉強をして、栄養面なども見ていてくれたのだ。


 それから少しだけ話すと、フィリーネから「一度お休みされては?」と提案され、解散となった。



 フィリーネに入れてもらったルイボスティーを飲み、一息つく。

 そしてふと、いつも騒がしい……と言ったら怒られてしまうかもしれないが、三人の妖精王がいないことに気付く。


「アクア、キースたちはいないのかしら」


 飛んできそうなのに。


「ああ、三人は夜に来るって言ってたよ。さすがに双子の出産だって聞いて、すぐに行くとティアラが疲れると配慮してくれたんだろう」

「そうだったんですね」


 なら、夜まで少しだけ眠っておいた方がいいだろう。

 ティアラローズがティーカップをサイドテーブルに置くと、アクアスティードがすぐにタオルケットをかけてくれた。


「ずっと隣にいるから、ゆっくり休んで」

「はい」


 ティアラローズが横になると、アクアスティードはうとうとしているルチアローズを抱いて、一緒にベッドへ寝かしてくれた。


「ルチアもお昼寝の時間ね」

「しっかり休んで、早く回復すること。おやすみ、ティアラ、ルチア」


 アクアスティードはそう言って、ティアラローズとルチアローズの額にキスをした。



 ***



「二人に森の妖精王の祝福を!」


 部屋を移ってすぐ、キースがシュティルカとシュティリオに祝福を贈ってくれた。後ろでクレイルが苦笑しているところを見ると、順番を決めてきたのだろう。


「わらわとクレイルからも祝福を授けよう」

「そうだね」


 パールとクレイルもシュティルカとシュティリオに祝福をしてくれた。

 つまり双子は、三人の妖精王から祝福をもらってしまったのだ。


「魔力も強いのに、妖精王の祝福まで……」


 確かにこれでは最強クラスになるのも頷けると、ティアラローズは苦笑する。きっと、二人はティアラローズたちが経験した空の異常と向き合い、そこで力を得るのだろう。


 ――そこに行きつくまでには、長い時間がかかる。


 けれど、今のティアラローズとアクアスティードには、二人に星空の祝福を贈るだけの力がない。

 おそらく、未来の二人を祝福した際の力が大きすぎたのだ。もう一度誰かに祝福ができるようになるまで、どれくらいかかるか予測もできない。


 ――過去のわたくしたちに、二人の未来を託すしかないのね。


 思わぬ事故から起こったことだと思ったが、巡り巡っていろいろなところで繋がっているようだ。



 クレイルが窓際に移動して、カーテンを開ける。

 すっかり日は落ちて、夜になってしまった。空には満天の星がちりばめられ、まるでシュティルカとシュティリオの誕生を祝福しているかのようだ。


 入ってくる夜風が、肌に気持ちいい。


 ベッドサイドに座っていたアクアスティードは、「どうしたんだ?」と夜空に視線を向けるクレイルに声をかけた。

 キースは「月見か?」と笑い、パールは不思議そうにしている。


「この空を見たのは、三度目だ」

「……?」


 クレイルの言葉に、ティアラローズは耳を傾ける。長い年月を生きる、空の妖精王クレイル。空と名のつく妖精なのだから、きっと幾千もの空をその目に映してきたのだろう。

 クレイルは窓の縁に寄りかかり、こちらに体を向ける。



「アクアスティードが生まれた日と同じ、星空だ」



 その言葉を聞いて、その意味を理解できた人はいただろうか。

 ティアラローズはその意味を考えるため脳内で反芻し、キースは「あぁ……確かに同じだ」と何かを思い出した様子。パールは、「この空が……」と、初めて見るがその意味は知っていることを態度で示す。


「次の王は、双子か」


 キースはそう言って、笑った。

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