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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第12章 月と太陽に星空の加護を
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14. 久しぶりのパジャマパーティー

「えええぇぇ~!? そんなすごい大冒険があったんですか!?」


 ――夜。

 案の定というかなんというか、アカリがオリヴィアを連れてティアラローズを訪ねてきた。

 二人でパジャマに身を包んで、いつかの女子会のようにベッドの上にスイーツを広げて話をする。


 ルチアローズは、アクアスティードが面倒を見てくれている。


「いいなぁ、私も行きたかった~!」

「簡単に言いますけど、大変だったんですからね……アカリ様」


 けして面白がって行く場所ではないのだが、アカリには言ってもわからなさそうだ。


「そんな場所があったなんて……! わたくしも行ってみたかったです!!」

「オリヴィア様まで……」



 瞳をらんらんとさせているのは、オリヴィア・アリアーデル。

 腰まで伸びた艶やかなローズレッドの髪に、強気な瞳。変装用に使っていた伊達眼鏡がすっかり気に入り、普段使いをしている。

 アリアーデル家公爵家の娘だが、もう一つ、この世界での重要な役割がある。それは、『ラピスラズリの指輪』の続編の悪役令嬢だということだ。

 しかし別に、悪いことをしようとしているわけではない。彼女はこの乙女ゲーム、もとい世界を愛しすぎている。

 尊すぎて鼻血を出し、失血死しそうになったのなんて数えきれないほど。趣味は聖地巡礼の、生粋のオタクである。



 オリヴィアは常々、この世界は隅々まで行くことがとても難しいと考えている。


「わたくしもぜひ行きたいですが、妖精王の力を借りないといけないというのは……ハードルが高すぎますわ。レヴィがなんとかしてくれないかしら」

「力を借りるとか、そういう話ではないです……」


 偶然の事故で違う場所へ行ってしまっただけであって、お願いして違う場所へ行かせてもらったわけではない。

 パールとクレイルも、繋がった先はどこだか知らなかったはずだ。


 ティアラローズの言葉に、オリヴィアは「残念ですわ」とため息をつく。


「でもでも、この世界を隅々まで見て回るっていうのは私も賛成! 妖精や精霊、ドワーフだっていたんだもん。この世界には、もっともっと神秘的な何かがあってもいいと思うの!」


 アカリはわくわくしながら、未知の世界を想像している。

 確かにそれは楽しそうだし、いつか世界旅行をしてみるのもいいと、ティアラローズも思う。しかしそれには、大きな問題もあるのだ。


「わたくしたちは、そう簡単に出かけられる身分ではありませんよ……」


 ティアラローズはマリンフォレストの王妃であるし、アカリはラピスラズリ王国の王子妃。オリヴィアは結婚していないけれど、公爵家の令嬢としてすべきことも多いだろう。


「そうなんですよね~」

「不便な身分ですよね~」


 アカリとオリヴィアは、同時にうなだれた。


「かといって、夜逃げ? するわけにもいかないですもんね」

「いっそゲームのエンディングで追放されたらよかったんですけど……なかなか」

「ちょ、アカリ様、オリヴィア様! 冗談でもそんなことを口にしないでくださいませ……」


 いったいどこに夜逃げする王族がいるのか。

 しかもエンディング後に追放なんて、悲しすぎる。というか、どんな結末になったとしてもアクアスティードとティアラローズが追放なんてさせはしないが。

 ティアラローズは痛くなる頭を押さえながら、小さく息をつく。


「とりあえず、今は旅行で我慢しましょう?」

「そうですね……。マリンフォレストも隅々まで見ていませんし、まずは近場のマップを埋め尽くすところからですね!」


 アカリがぐっと拳を握りしめると、「それです!」とオリヴィアもはしゃぐ。


「ラピスラズリ王国の地下にはノーム様の――ドワーフたちの王国があったでしょう? もしかしたら、マリンフォレストの地下にも何かあるんじゃないかしら!」

「えええっ!?」


 オリヴィアの言葉に、ティアラローズとアカリは驚く。しかし、調べたわけではないので完全に否定することはできない。

 そもそもこの王城にも、ゲームのシナリオの一部として地下が作られているのだから。


「最近、古い地理関係の本を読むのにはまっていますの。もしかしたら、地下へ続く道が書かれているかもしれないでしょう? レヴィにも、調べてもらっているの」


 めちゃくちゃやる気のオリヴィアは、きっと誰よりもマリンフォレストの地理を把握しているだろう。

 そしてそれに付き合うレヴィも本当にすごいなと、ティアラローズは思う。



 話は変わり、ティアラローズの第二子の話題になった。


「また魔力が膨大なんですよね? 次はいったいどんな子が生まれてくるんでしょう。ティアラローズ様に似ても、アクアスティード陛下に似ても、美しいことこの上ないですね」


 オリヴィアがキラキラ瞳を輝かせ、妄想にふけっている。


「私に子どもがいたら、婚約を申し込むのに~! ティアラ様、将来絶対に結婚しましょうね!」

「アカリ様、それは却下です……」


 というか、それではアカリがティアラローズにプロポーズをしたような言い回しではないか。

 苦笑しつつも、二人にティアラローズとアクアスティードの考えを伝える。


「子どもには、ある程度は自由に恋愛をしてほしいと考えています。もちろん、なんでも許す……というわけではないですけど」


 ただ、間違っても本人が嫌がるような相手と無理やり結婚させるといったことはしない。

 しかしだからといって、誰でもオーケーというわけでもない。やはり王族であるのだから、絶対に譲れない部分はあるのだ。それは身分であったり、その志や国を愛することができるかどうか、ということだろう。


「すごい考えてて、偉いです……」

「アカリ様……」

「あ、大丈夫ですよ。私はラピスラズリどころかこの世界を愛してますから!」


 ハルトナイツに嫁いだ自分は、ちゃんと譲れない部分を守っているとアカリは胸を張る。


 ――アカリ様のところは、かなり自由そうね。


 きっとアカリは、何があっても子どもの味方でいるのだろうと思う。それこそ、王族という身分を捨てて好きな人と駆け落ちを――なんて言われても、応援するのだろう。

 ティアラローズにはそれができないように思うので、ある意味純粋なアカリはとても眩しい存在だ。


「とはいっても、まだまだ未来の話ですからね。今は元気に育ってくれることが、一番ですから」

「そうですわね! あぁっ、わたくしは今からルチアちゃんの社交デビューが楽しみで仕方ありませんわ……っ!! それまでにビデオカメラを発明できたりしないかしら……」


 すべてを収めておきたいと、オリヴィアは涙ながらに語る。

 それからしばらく雑談をして、あまり遅くならないうちに三人はベッドへ横になった。身ごもっているティアラローズに、夜更かしなんてさせられないからだ。

 それぞれ生まれてくる赤ちゃんを想像しながら、眠りについた。



 ***



「母子ともに健康ですね」


 ダレルの言葉に、ティアラローズは安堵で胸を撫でおろす。お腹の赤ちゃんは魔力も安定していて、すくすく成長しているようだ。

 ティアラローズのお腹はもう大きくなっており、予定日までひと月ほどになった。


 ダレルは、ティアラローズの体調を見るため、妖精の星祭り以降マリンフォレストに滞在してくれている。


「ありがとう、ダレル。とっても心強いわ」

「いいえ。ティアラお姉様のお役に立てて嬉しいです」


 ダレルが微笑むと、ティアラローズの横に座っていたアクアスティードも「頼もしいな」と笑顔を見せる。


「ティアラお姉様は、私の大切なお姉様ですから。生まれてくる赤ちゃんも、しっかり守って見せます!」


 力強いダレルの言葉に、ティアラローズはなんて出来た弟なのだろうと感動する。

 ルチアローズのときもそうだったが、ダレルには何度も助けてもらった。感謝してもしきれないのだ。


「ありがとう、ダレル!」


 ティアラローズがぎゅっと抱きつくと、ダレルは嬉しそうに抱きしめ返してくれる。しかしすぐに、冷静に今後のことを話す。


「重いものを運んだりするのはよくないですけど、運動をしないのも駄目ですよ。アクアお兄様と、庭園を散歩したりしてくださいね。それから、知らない人に不用意に近づいてはいけません。もしかしたら、魔力が強いかもしれませんからね……それと」


 ダレルはカフェインの摂取や、夜更かしなど、思いつく限りのことを気をつけるようにと、ティアラローズに説明してくれる。


「……出産まで、あと一ヶ月ですね。お父様に手紙を出したら、絶対に行くと返事がきました」

「お父様ったら……」


 ラピスラズリでの仕事が忙しいだろうにと、ティアラローズは苦笑する。けれど、自分のことや、孫のことを大切に思ってくれているということは、よくわかっている。

 早く会えたらいいなと、ティアラローズは微笑んだ。




 診察が終わって、ティアラローズたちは三人でティータイムだ。

 華やかな花茶の香りに、ほっとする。大好きなお菓子も並べられており、どれから食べようかわくわくしてしまう。


 ルチアローズを妊娠した際は、まさかのスイーツ悪阻があったけれど、今回は何事もなく過ごすことができていた。どうしても体がだるかったり、食欲がないときもあったけれど……スイーツは別腹だった。

 そのことだけは、神に感謝をささげたほど。


 スイーツが食べられたら、とりあえずなんとかなるのだ。


「そういえばダレル、ダレルこそ変わりはない? 水の精霊ウンディーネのこととか、心配事もあったから」

「うーん……特に進展はないです。それに、私はまだ小さいので、自分でできることも少なくて。いつか、師匠の痕跡を追えたらいいなとは思います」


 でもそれは、きっともっとあとのことだろうとダレルが話す。


「精霊は、つい最近まで私たちも存在することを知らなかったからね……。サラマンダー様に会うまでは、お伽噺だと思っていたくらいだ」

「そうですね。考えれば、妖精がいるのだから精霊がいても不思議ではなかったんですけどね」


 そう言って、ティアラローズは微笑む。


「わたくしたちも何かわかったら伝えるわ。ダレルも、何かあったらいつでも相談してちょうだい。必ず力になるわ」

「ありがとうございます、ティアラお姉様!」


 それからしばらく雑談をして、お開きとなった。

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