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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第12章 月と太陽に星空の加護を
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12. それぞれの想い

「ティアラ様~! アクア様~! どこですかー!!」


 マリンフォレストの王城の裏山に、アカリの声がこだまする。その泣きそうな声につられてか、妖精たちも同じようにティアラローズとアクアスティードのことを呼ぶ。


『ティアラ、どこ~!?』

『出てきたら新しいお菓子のお花育ててあげるからぁ~~!』


 普段は一緒にいないアカリと森の妖精たちも、今ばかりは気持ちが一緒のようだ。大声でティアラローズの名前を叫び、森の中を捜しまわっている。


 その後を追うのは、ハルトナイツとダレルだ。

 二人もティアラローズとアクアスティードのことを心配し、捜している。


 ティアラローズとアクアスティードが、星空を見に行ったことはアカリたちも知っていた。実は、アカリも別の場所でハルトナイツと星空を見ていたのだ。

 その際、途中で確かに海の魔力は感じることができた。できたのだが……妖精の星祭りなのだから、そういうこともあるだろうとアカリはスルーしてしまった。

 朝になってティアラローズたちと朝食を……という段階で、二人がいないことに気付いたのだ。


「はぁ、はっ……いませんね、ティアラお姉様……」

「ダレル、あまり無茶をするな。獣道だから、歩くのが大変だろう」


 息を切らすダレルをハルトナイツが気遣うが、ダレルはすぐに首を振る。


「体力がないだけで、獣道は慣れてるから大丈夫です。一番慣れてないのはきっと、ティアラお姉様です……」


 アクアスティードが一緒にいるだろうが、それでも大変な目に遭っている可能性はある。いや、ティアラローズのことだから何かしらの事案には巻き込まれているだろう。


 山の中を駆け回ったアカリが、「どこにもいません~!」と泣きながらハルトナイツとダレルの下へ戻ってきた。

 気配を感じることもできないので、近くにいないのだろうとアカリは結論を出したようだ。


「そうか……」


 ハルトナイツは拳を握りしめ、どうしたものかと思案する。

 そもそもの原因は、海の妖精王パールの魔力がとある理由で暴走してしまったことに起因する。

 ハルトナイツも、アカリも、ダレルも、どちらかといえば魔法は得意分野だ。むしろ、国でも十の指に入るほどだろう。

 ゆえに、パールの魔力の暴走により、それに当てられてどこか別の場所へ行ってしまった……ということは頭ではわかっていた。

 けれど、一縷の望みをかけて捜し回っていた。


「ティアラ様、どこにいっちゃったんだろう。きっと、楽しい乙女ゲームな展開を繰り広げてるんだ」

「ちょっと待てアカリ、ティアラたちの心配をしてるんじゃないのか?」


 まさか泣きそうな声でティアラローズを捜していたのは、自分も一緒に行きたかったという心の表れだったのか。

 ひきつった表情で問うハルトナイツから、アカリは一瞬だけ視線をずらす。そしてにっこり笑って、「そんなことありません!」と告げる。


「……嘘だな」

「嘘ですね」

「ダレル君までっ!?」


 アカリはガガーンとショックを受けたが――まあ、仕方がないだろう。



 ***



「昨日の夜、わたくしがもっとちゃんと確認をしていればよかったんです……」


 どんよりとしたフィリーネが、壁に向かってティアラローズの名前を呟く。

 せっかくの星祭りなのだからと、ティアラローズとアクアスティードに許しをもらい、フィリーネもエリオットと一緒に星空を見ていたのだ。

 そのため、普段は寝るティアラローズに挨拶をするが――昨日は、それができなかった。


 そして朝、登城したらティアラローズもアクアスティードもいなかった、というわけだ。


「ふぃーね?」

「ハッ! 失礼いたしました、ルチアローズ様。ティアラローズ様とアクアスティード陛下は少しだけお出かけしているので、今はフィリーネと一緒に遊びましょうね」

「あーい」


 ルチアローズは、フィリーネの言葉に笑顔で頷いた。

 フィリーネはなんていい子なのだろうと思いながら、ティアラローズたちを捜しに行ったエリオットに早く見つけて帰って来てと、心の中で祈った。



 ***



「お前、自力で俺のところに来たのか……」


 目の前にいる人物を見て、キースは呆れるように呟いた。


「それは、まあ、頑張りました。今回の件は、人間の力だけでどうにかするには、規模が大きすぎますから」


 キースの鋭い視線に耐えながらも言葉を続けたのは、エリオットだ。

 今回の件に関して、早急な解決をするためには妖精王の力が必要不可欠であると判断した。それもあり、どうにか単身キースの下へとやってきた次第である。


 しかしキースは、大きくため息をつく。


「そりゃあ、俺だって助けてやりたいが……今回ばかりは、俺の役目じゃないからな。俺がなんかしたら、クレイルにどやされる」

「クレイル様に、ですか」


 そこは原因になるパールではないのかと思ったエリオットだったが、そういえばあの二人は相思相愛だったということを思い出す。

 確かに、たとえすぐに解決しなければいけない問題ではあっても、クレイルからしてみれば、ほかの男に解決されては面目が立たないだろう。


 エリオットからすればいち早く解決する方法でお願いしたいところだが、いかんせん相手は妖精王だ。ここまで乗り込んできておいてあれだが、下手なことを言うことはできない。


 どうしようか百面相をしているエリオットを見て、キースはくつくつ笑う。


「まあ、そこまで気に病むな。クレイルは優秀な空の妖精王だぞ?」


 しかもパールがしでかしたことへの責任なのだから、喜んで請け負うだろう。ということで、キースは割とすぐに解決すると踏んでいる。それが、慌てていない理由だ。


 逆に一番慌てて心配している人物は――




「ああもう、どうして上手く魔力を操れないのじゃ!!」


 王城裏手の山頂で、パールは声を荒らげる。


「落ち着いて、大丈夫だから」

「~~っ、落ち着いていられるわけがなかろう! ティアラはわらわのせいで、魔力の歪に巻き込まれてしまったのじゃぞ!? いったいどこにいったのか……」


 わかることは、マリンフォレストにはいないということだ。祝福を与えているパールは、二人がマリンフォレストにいればその気配がわかる。

 しかし今は、それを感じることができずに焦っていた。


 クレイルは思案しながら、解決策を口にする。


「パールは魔力を使ってしまったから、おそらく先ほどと同じ規模で魔法を使うことは不可能だ」

「そんな……」


 パールは絶望した表情で、クレイルを見つめる。


「でも」

「なんじゃ、解決策でもあると言うのかえ?」

「私とパール、二人で魔法を使えばもう一度歪を起こすことができる。ただ、その際は向こう側になんらかの影響を与えてしまうと思うけれど……」


 安全策ではないが、今考えうる最良であると、クレイルは告げる。


「むむ……それはまあ、確かに一理ある。元々、わらわよりもクレイルの方が力も大きいからの」

「そうそう。だからパール、私にすべて任せてくれたらいいよ」

「…………」


 嬉しそうに告げるクレイルを、パールはジト目で睨む。


「そもそも……いや、いいのじゃ。すまぬが、力を貸してくれ」


 クレイルのせいで魔力が暴走したのだと文句を言いたい気持ちがあったけれど、どちらにせよ自分の未熟さのせいだとパールは言葉を飲み込む。


「もちろん」

「……ん」


 パールは頬を染めながら、クレイルの手を取る。一回りほど大きな手は、自分ほど柔らかくはなくて……男の手であることを知る。

 思わず、恥ずかしさからか、パールの手がわずかにピクリと動く。


「ん?」

「……っ、な、なんでもないのじゃ。わらわが海の魔力で同じ歪を探すから、おぬしはそれを空の魔力でこじ開けてほしいのじゃ」

「わかった」


 クレイルの返事を聞いて、パールは小さく深呼吸をする。今はまだ魔力の歪を感じることができるが、これ以上時間を空けたらそれも消えてしまうだろう。

 ――失敗はできない。


 パールは集中し、自身の魔力をどんどん大きくしていく。そして感知した歪を顕現させ、それを維持させるためにありったけの魔力を流し込む。

 今のパールでは、これが精いっぱいだ。


「クレイル……っ!」

「――うん。あとは任せて、パール」


 静かに返事をしたクレイルは、練り上げていた空の魔力をその歪へとぶつけ――ティアラローズがいるであろう場所と道を繋ぐ。

 しかしこの際の魔力の調整が、なかなかに難しいのだ。強すぎても、弱すぎても、向こう側に影響を与えてしまう。

 しかし魔力の調整に関することは、クレイルの得意分野だ。キースはなんだかんだパワーでどうにかしてしまうし、パールは魔力の配分を決めることがあまり得意ではない。


「さあ、帰っておいで……ティアラローズ、アクアスティード――ッ」


 クレイルが小さく呟いた瞬間、パールが感極まり、繋いでいた手をぎゅっと握りしめてきた。その瞳には涙の粒が見て取れる。

 ああ、これは期待を裏切るわけにはいかない。クレイルはそう思ったのだが、思いのほか……パールに握られた手が、熱を持つ。


 だからそれは、ちょっとした油断だったし、普段であればあり得ないことで。まあつまり、嬉しさでクレイルの魔力が……想定よりも多く放出されてしまったのだ。


「え?」


 思わず口を開いて、パールはぽかんとする。


「ごめん。いや、でも……大丈夫。たぶん、向こう側の空がちょっと荒れるだけだから」

「ちょっと、のう……」


 本当にそうなのだろうかと頭を抱えたくなったけれど、視界に現れたハニーピンクを見てそんなことは吹き飛んでしまった。

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