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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第12章 月と太陽に星空の加護を
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11. 星空の祝福

 ルカとリオの魔力が暴走しかけていることに気付いたティアラローズとアクアスティードは、すぐに二人の下へ駆け寄った。

 リオは空中から落下し、地面でうずくまっている。肉体的な怪我は酷くなさそうだが、溢れ出る魔力によって苦しそうな表情をしている。


「ルカ、リオ、しっかりして……っ! アクア、魔力が暴走して――指輪が!!」


 どうにか解決策をと、そう思った瞬間――ティアラローズの指輪がいっそう輝きを大きくした。

 左手の薬指につけている二つの指輪のうち、先ほどから光っていた『星空の王の指輪』だ。


「指輪が指し示していたのは、ルカとリオだったの……?」

「ティアラ、指輪を介してティアラの体に異常は――ッ!」

「アクア!?」


 まるで何かを導くかのような輝きに、ティアラローズは息を呑んだ。しかし同時に、指輪を通じてか――アクアスティードに異変が起きた。

 アクアスティードは胸を押さえるようにして、膝をつく。


「……っ、体が熱い」

「嘘、アクア!? しっかりして!」


 ティアラローズが焦り咄嗟に手をのばすと、アクアスティードの金色の瞳と目があった。魔力があふれ出ているようで、普段よりもキラキラと輝いている。

 まるで、夜空に輝いている星空のようだ。


 ――アクアのこんな瞳、初めて見た。


 こんなときだというのに、思わず一瞬だけ見惚れて目を奪われてしまった。

 ティアラローズはいけないと首を振り、アクアスティードの体を支える。


「大丈夫ですか? アクアっ!」

「……は、ああ。大丈夫だ」


 アクアスティードは浅い呼吸を繰り返して、しかしわずかに頬を緩めた。


「もしかしたら、私たちはこのためにこの世界に飛ばされたのかもしれない」

「え……? それは、どういう……?」


 悟った様子のアクアスティードは、ティアラローズの肩を借りてゆっくり立ち上がる。そして視線を、ルカとリオへ向けた。

 つられるように、ティアラローズも二人を見る。


「早く、二人を助けないと……っ!」


 頭上には巨大な鳥もいて、今にもこちらを攻撃してきそうだ。しかし実際は、溢れ出るルカとリオの魔力に威嚇されて手を出してこれない。


「――星空の力よ」


 アクアスティードは落ち着いた声でそう告げて、ティアラローズの薬指にはめられている星空の王の指輪へ触れる。

 すると、アクアスティードの魔力がティアラローズに流れ込んでくるのがわかった。普段とは違う、確かな量の力だ。


 ――アクアの魔力、温かい。


 ティアラローズの肩から、自然と力が抜ける。

 同時に、流れ込んできた星空の魔力の使い方を理解する。


 ――ルカとリオを救うために、わたくしたちはここへ来た。


 アクアスティードはティアラローズの手を取り、ゆるやかに言葉を紡いでいく。


「夜の空を輝かせる星空の力よ。アクアスティードの名の下に、その力の一欠片をかの者に。すべての星を読む力をルカに。すべての星を導く力をリオに」


 すると、ティアラローズの指輪を通してルカとリオに光が降り注ぐ。その光は二人がつけている腕輪に輝きを与えていく。

 ティアラローズとアクアスティードは顔を見合わせて、最後の言葉を口にする。



「星空の祝福を、二人に」



 その言葉をきっかけにし、ルカとリオの腕輪の光がはじけ飛び、二人の金色の瞳が輝きを増した。

 腕輪を経由し、星空の祝福が二人へ降り注いだ。


「――ッ!」

「あっ、これは……っ!?」


 ルカとリオは目を見開き、自分の状態に驚く。しかしすぐに、現状を把握し起き上がる。――そう、頭上にはまだ、巨大な鳥がいる。

 魔力が暴走し、もう倒せないかもしれないと思っていた巨大な鳥だ。しかし今は、ティアラローズとアクアスティードによってもたらされた星空の祝福のおかげで、魔力の制御がいとも簡単にできる。


 巨大な鳥に立ち向かう二人を見て、ティアラローズはほっと息をつく。その肩を、今度はアクアスティードが支えてくれる。


「二人とも、もう大丈夫そうだね」

「はい。びっくりしましたけど、わたくしたちの力で救うことができて、よかった」

「ああ」


 ティアラローズが視線を二人に向けると、ルカが弓を、リオが剣を構えているところだった。


「すごい、魔力が溢れてるのに……制御できる。月の力よ、敵を撃つための矢になれ」

「今なら一人でもあの鳥を倒せそうだ! 太陽の力よ、剣に宿り輝きを放て!」


 ルカの魔力は弓の矢になり、リオの魔力は剣の攻撃力を増加させた。二人の一撃により、巨大な鳥は倒された。


 そして空が晴れ――虹がかかる。


 異常だった空が、本来の色を取り戻したのだ。

 その感動的な光景を見て、ティアラローズの目尻に涙が浮かぶ。


 しかしその反動か、大きな魔力によって空気が揺れた。


「――っ、まさか、俺たちの今の攻撃が歪を生んだ!?」

「それもあるけど、それだけじゃない。この魔力は、空だ」


 リオは焦り、ティアラローズとアクアスティードに気づく。それはルカも同様だったが、リオよりは幾分か冷静だった。


 ルカはリオの手を取り、ティアラローズの下へと駆けてくる。そして急いで自分の腕から腕輪を外して、ティアラローズへ渡す。


「どうやら時間がなさそうなので、手短に。二人の祝福のおかげで、私たちは魔力のコントロールができるようになりました。……お礼に、この腕輪を受け取ってください」

「今までずっと心配させちゃったけど、もう大丈夫だ」


 ルカに続き、リオも腕輪をティアラローズに渡す。


「きっと、必要になるから」

「え、え、えっ!? 待って二人とも、ちゃんと説明を――」


 ――してと。

 そう告げようとした瞬間に、ティアラローズとアクアスティードの体はかき消えた。



 虹のかかる山頂に残ったのは、ルカとリオの二人だけ。

 ずぶぬれになった外套を脱いで、たっぷり息をはく。体の力が抜けていくのを感じながら、地面に座り込んだ。リオなんて、そのまま寝転んでしまった。


「…………行っちゃったな」

「……そうだね」


 しばしの沈黙のあと、寂しげにリオが呟くとルカが頷く。


「二人は……俺たちの力を制御できるようにするために、来てくれたのかな」

「どうだろう。それだったら、別に父様が母様に頼めばいいだけの気もするけど……」


 別に、わざわざティアラローズとアクアスティードがここへ来たという必要はないのではないかと、ルカは考える。

 元々の発端は、海の魔力の歪だった。そのことを考えると、偶然が重なり奇跡が起きたのかもしれないと、そんな風にも思う。


「……疲れた。このまま寝ちゃいそう」

「待てルカ、こんなところで寝ないでくれ。寝落ちしたら俺がおぶって山を下りることになるじゃないか」


 それだけは断固拒否すると、リオが「寝るんじゃない」とルカに呼びかける。……が、実は眠たいのはリオも一緒だ。

 その原因は、新しく授かった星空の祝福と……それによって初めて全力で使いこなすことのできた自分の魔力だろう。その反動で、眠くなっているのだ。


「寝るなよ、ルカ」

「リオだって眠そうじゃない、か……」

「そんなこと、ない……」


 そう言いながらも、二人の意識は段々とまどろんでいく。

 気付けば目を閉じて、小さな寝息が聞こえ始めた。どうやら、緊張の糸が切れたこともあって、眠ってしまったようだ。


 そこに、一つの影が落ちる。


「――ったく。こんなところで寝てるんじゃねぇよ」


 やれやれと頭をかきながら姿を現したのは、森の妖精王キースだ。

 眠ってしまったルカとリオをそれぞれ脇に抱えて、ため息をつきながらも転移する。


 飛んだ先は、王城にある二人の自室だ。

 それぞれのベッドへ寝かせるのは面倒なので、ルカのベッドへまとめて二人を投げる。が、起きたりはせずに気持ちよさそうに寝ている。


 その様子を見てキースが笑っていると、後ろから「ありがとう」と声をかけられた。


「おう、帰って来たのか」

「今しがた。……二人は大丈夫そう? あのあと、ずっと心配だったの」


 ハニーピンクの髪を揺らして、彼女はキースに問いかける。

 眠る二人の安堵した表情を見たら問題はないだろうということはわかるけれど、それでもやはり母親なので心配なのだ。


「大丈夫だろうよ。二人とも、こう見えてタフだし……俺たちの祝福だってあるんだ」


 ちょっとやそっとではへこたれないと、キースは笑う。


「ふふ、そうね。キース、あのとき――助けてくれてありがとう」

「別に。祝福した女を助けるのは、当然だ」

「頼もしいのね」


 彼女がくすくす笑うと、キースは若干照れたような笑みを浮かべる。


「……んで、旅行はどうだったんだ? まさか六人で行くとは思わなかったぜ。一人寂しく留守番する俺のこともちったぁ考えろ」

「とっても楽しかったわ。大丈夫、ちゃんとお土産も買ってきたから!」

「土産、ねぇ」


 どうせ他国の珍しいスイーツやスイーツだろうとキースは予想をする。下手をしたら、逆にスイーツを布教して帰ってきそうだとすら思う。

 それほどに、彼女はスイーツを愛しすぎている。


「もう、なんでそんな不服そうな顔するの。お洒落なグラスで、お酒を飲むのにもピッタリなのよ?」

「グラスなのか」


 それはいいと、キースは思う。

 一緒にワインでも飲んで、のんびりしたい。


「それとね、お酒に合うチョコレートも買ってきたの!」

「やっぱりか」

「なによぅ……」


 やはりスイーツもあったかと、キースはくつくつ笑う。


「まあいいさ、美味いワインと一緒に食べたらいい。もちろん、付き合ってくれるんだろう? 妖精たちも、喜ぶ」

「そうね。妖精たちともしばらく会ってなかったから、なんだか寂しいわね……。みんな、今はいないの?」


 姿の見えない妖精を捜すように視線をさ迷わせると、その理由をキースが教えてくれる。


「荒れた森の手入れをしてる。空と海の妖精も、それぞれの持ち場に掛かり切りだ」

「あ、そうよね……。わたくしたちもこちらの処理が終わったら、手伝わなければね」


 きゅっと拳を握りしめて、彼女はやる気を見せる。その様子が可愛くて、キースは口元を緩め、そのまま頭に触れようとして手をのばして――がしっと第三者に手首をつかまれた。


「キース、人の妻に触れるな」

「お前はまーたタイミングよく戻ってくるな……」


 キースはやれやれと肩をすくめ、触らないと言うように手を上げる。


「とりあえず、二人とも無事だったぞ」

「ああ。感謝する。ありがとう、キース」


 礼を告げて、ルカとリオの頭を撫でる。きっともう、二人ならばどんな困難に立ち向かうこともできるだろう。

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