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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第12章 月と太陽に星空の加護を
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7. ティータイム

 ざああああという雨の音で、ティアラローズの意識が浮上した。

 寝たまま首だけを動かして外を見ると、先ほどの晴れ間とは打って代わり、土砂降りの雨。黒い雨雲のせいで、今の時間を推測することが難しい。


「ティアラ?」


 ふいに名前を呼ばれて、後ろから抱きしめられた。そのぬくもりに、体の力が抜けていくことがわかる。

 抱きしめられたまま器用に振り返ると、わずかに疲れの色が残るアクアスティードの顔があった。


「……ずっと起きていたんですか? アクア」

「いや、少しは寝たよ」

「わたくしばっかり、休んでしまいましたね」


 ティアラローズはアクアスティードの頬に手を添えて、「ありがとうございます」と微笑む。

 ルカやリオたちはとても親切にしてくれているけれど、今の状況は分からないことが多い。安易に眠ることができないのも、よくわかる。


「アクアも休んでください。今度はわたくしが起きていますから」


 お任せくださいと、ティアラローズが胸を張って微笑む。


「ありがとう、ティアラ。それじゃあ……お言葉に甘えて少しだけ」


 アクアスティードはそう言って、ティアラローズのことを優しく抱きしめて目を閉じる。どうやら、抱き枕の代わりのようだ。

 もちろん、抱き枕にしてもらえることは嬉しいのだが……さすがに今は駄目だと、ティアラローズはアクアスティードの腕の中から抜け出そうとする。


 ――これじゃあ、わたくしまで寝てしまうわ!


 起きていなければいけないのに、一緒に寝てしまう自信がある……!

 ティアラローズが必死にもがいてみるが、思いのほかしっかりと抱きしめられてしまっていて抜け出すことができない。


「アクア、アクアっ!」

「ん……」


 慌ててアクアスティードの名前を呼ぶが、すでに寝入ってしまっているようだ。


「え、もう寝ちゃってる……」


 驚きつつも、普段はティアラローズの方が早く寝てしまうため、なんだか新鮮な気持ちにもなる。


 ――きっと、ずっと気を張ってくれたからね。


 ありがとうと小さく呟いて、ティアラローズはアクアスティードの額にキスをした。



 ***



 王城の裏手には、塔がある。ルカが魔法の研究をするために使っていて、すでに私室のような扱いだ。

 大切な書物や危険な道具類もあるため、入り口には魔法がかかっており、ルカの許可がなければ中に入ることはできない。


 リオは塔を見上げて、「まーた研究に没頭してるな……」とため息をつく。

 下手をしたらノックに気づかないことも多々あるのだが、幸いなことに今日はすぐにルカが顔を出した。

 魔法の研究に夢中になると、ノックの音にも気付かないからだ。そのときは、出てくるまでなん十分もかかることもある。


「リオ? どうかした?」

「エレーネが呼んでる。ティアラローズ様に、お菓子を準備したからお茶をしようってさ」

「わかった。なら、何か楽しいゲームも一緒に持っていこうか。多少は気がまぎれると思うから」


 ルカは塔に戻り、簡単なゲームを持ってきた。


「それじゃあ、行こうか」

「ああ」




 エレーネが待つ部屋へ行くと、ワゴンにティーセットが用意されていた。

 パステルカラーのマカロンと飴細工のリボンでデザインをしたマカロンタワーに、食べられる花をちりばめたクロカンブッシュ。カッププリンにはたっぷりの生クリームと、その上に大粒の苺。タルトのケーキはレモンを使い、さっぱりした風味に仕上げてある。


 その様子を見たルカとリオは、思わず「おぉ~」と声をあげた。


「これはすごいね……」

「でも、さすがにやりすぎじゃないか……?」


 と、思ってしまうほどだ。

 しかしエレーネは首を振り、「そんなことはありません!」と力強くリオの言葉を否定した。


「ティアラローズ様は不安でしょうから、甘いものをたくさん召し上がって元気になっていただきたいんです!」

「まあ、確かにお菓子に目はないけど……」

「いいじゃない、好きなものを食べてもらえば。それにゲームでもすれば、ちょっとは落ち着くよ」

「そうだな」


 リオは頷いて、エレーネが用意したワゴンに手をかけ歩き出す。


「リオ様、それはわたくしが――」

「エレーネ、私たちが行くことは伝えてある?」

「――あ」


 エレーネが自分の仕事だとリオに主張しようとしたところ、ルカから約束は取り付けているのかと問われ――していないことに顔を青くする。


「なら、お茶をしましょうを伝えて来てもらえる? ただ、無理強いはしないようにね」

「わかりました。急いで確認してまいります!」


 ドレスのまま駆けていくエレーネを見て、ルカとリオは顔を見合わせて苦笑した。



 ***



 寝てしまう――そう思っていたティアラローズだったが、ぐっすり眠れたこともあり、起きていることができた。

 それには、アクアスティードの寝顔を観察したりしていたからという理由も含まれるけれど。


 もう少し観察しようかなと考えていたら、ノックの音が響いた。どうやら、誰かが訪ねてきたようだ。

 その音で、アクアスティードがぴくりと動いた。


「ん、来客……?」

「そうみたいです。ちょっと行ってきますね」

「いや、私が行ってくる。ティアラは待っていて」


 アクアスティードはすぐに立ち上がって、上着を羽織って寝室を出る。すると、「エレーネです」という声が耳に入った。

 ドアを開けると、少し息を切らしたエレーネが立っていた。


「待たせてしまったね」

「いいえ。ルカ様とリオ様の予定も終わりましたので、もしよければティータイムでも……と思ったのですが、いかがでしょうか?」


 お菓子もたくさん用意していますと、エレーネが微笑む。


「ありがとう。ティアラが喜びそうだから、ぜひお願いしようかな」

「はい! すぐにこちらに準備させていただきますね。その前に、お二人のお召替えのお手伝いもさせていただきます」

「なら、私は大丈夫だからティアラをお願いしていいかな?」

「お任せくださいませ!」


 エレーネは近くのメイドにルカとリオにティータイムのことを伝えるように頼み、「失礼いたします」と部屋に入った。


 すると、寝室にいたティアラローズもちょうど顔を覗かせた。アクアスティードとエレーネの会話が聞こえていたようだ。


「ティアラローズ様、よくお休みになられましたか?」

「ええ、とっても。ありがとう、エレーネ」

「よかったです。ティータイムの準備をしていますので、お着替えなどをお手伝いさせていただきますね」


 エレーネはティアラローズを洗面所へ連れて行き、てきぱきと支度を整えてくれた。

 顔を洗い、薄化粧を施し、髪をとかして整えていく。ゆったりとした三つ編みに小花のアクセサリーを散らし、前へ流す。

 パステルカラーの淡いピンクのドレスに、白のボレロを着させてもらった。


「とってもお似合いです、ティアラローズ様」

「ありがとう、エレーネ」


 準備が終わると、何やら部屋から話声が聞こえてきた。


「ああ、ルカ様とリオ様が来られたようですね」

「二人とも忙しいでしょうに、時間を取ってくれたのね」


 ティアラローズとエレーネが部屋へ行くと、ルカとリオが笑顔で迎えてくれた。そしてテーブルの上には、ときめきを隠せないほどのお菓子。


 ――わ、すごい!


 思わず目を見開いて驚いてしまった。


「見ての通り外はすごい雨なので、お菓子でもつまみながらゲームでもと思いまして」

「夕方なのでティータイムにはちょっと遅いですけど、ゆっくり過ごしてください」

「まあ……ありがとう、ルカ、リオ」


 いろいろ考えることや懸念することが多かったので、甘いものでリフレッシュできるのは正直に言ってありがたいとティアラローズは思う。

 やはりスイーツを食べた方が頑張れるし、元気が出る。


 すぐにアクアスティードがティアラローズの前へ来て、ソファまでのエスコートだと手を差し伸べてくれた。


「どうぞ」

「ありがとうございます、アクア」


 二人でソファに座ると、すぐにティータイムが始まった。




 用意してもらった花茶を飲みながら、ティアラローズは手元にあるカードとにらめっこをする。

 正式名称は『妖精の遊びカード』といい、通称『妖精カード』と呼ばれている。しかしその実態は、いわゆる『トランプ』だ。

 しかも遊びの内容は、ティアラローズもよく知っているものばかり。神経衰弱、大富豪、ババ抜き、七並べ……などなど。


 最初は神経衰弱をやったのだが、全員の記憶力がよすぎて勝負にならなかった。そのため、今は七並べをしているのだが……なかなかに全員が曲者すぎて、ティアラローズは苦戦していた。


 ――みんな強すぎるわ……。


 ルカ、リオ、エレーネは慣れているだろうからいいが、初見のはずのアクアスティードも強かった。

 前世でちょっとやったくらいのティアラローズでは、太刀打ちできそうにない。


「ああ、駄目……わたくしの負けです」


 カードを置く場所がなくなり、ティアラローズはお手上げですと降参のポーズをとる。無事に帰ることができたら、トランプを作って特訓したいところだ。

 優勝は、アクアスティードだった。


「まさか負けるとは思いませんでした……。強すぎませんか?」


 ルカはこの手のゲームが得意だったようで、肩を落とした。


「いや、運がよかっただけだよ。最初に配られるカードで、かなり左右されるだろう?」

「運も実力のうちって、言うじゃないですか」


 アクアスティードはたまたまだと首を振るが、そんなことはないとリオが褒める。ちなみに、リオは最下位から数えて二番目だった。


 ティアラローズはシュークリームを一つ食べて、ふうと息をつく。ゲームをしていたら、あっという間に時間が経ってしまった。


 ――いろいろと聞きたいことがあったはずなのに。


 どうにも、ルカとリオと過ごす時間は楽しいのだ。

 それに、ティアラローズが大好きなスイーツもこんなにたくさん用意してくれた。とても気を使ってくれているということが、わかる。

 けれど、だからこそ甘えてばかりはよくないだろう。


 今ある問題は、ティアラローズたちの現状と、空の異変の二つだ。

 薄々……というか、ここが自分の暮らすマリンフォレストとは違うということはティアラローズもわかっている。

 ただ、明確にどこであるのかはわからない。


 もしかしたら、過去かもしれないし、未来かもしれない。それとはまったく違う、並行世界という可能性もある。


 ティアラローズは静かに深呼吸をして、話をするためにルカとリオを見た。

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