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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第12章 月と太陽に星空の加護を
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6. 優しい腕の中

 ティアラローズがこの場所のことを聞こうとしたとき、部屋にノックの音と「お客様です」というメイドの声。


「……? 特に来客の予定はなかったはずですけど」


 ルカは不思議そうに首を傾げつつ、席を立った。


 ティアラローズは紅茶を飲み、大人しく席で待つ。ルカたちにいろいろ聞こうと思っていたけれど、よくよく考えれば二人にも予定があるわけで……忙しいかもしれない。


 ――いえ、間違いなく忙しいはずだわ。


 すぐに時間を取ってもらうのが難しければ、ひとまずアクアスティードを捜しに行って、そのあとまた戻ってこよう。

 ティアラローズがそんなことを考えていると、ふいに耳に――自分を呼ぶ愛しい声が届いた。毎日聞いていた、耳に馴染むその声。


「よかった、ティアラ。無事で……」

「――っ、アクア!」


 ティアラローズは慌ててソファから立ち上がり、アクアスティードの下へと駆け寄る。

 一緒にいたはずなのにはぐれてしまい、ずっと不安だった。

 元気そうな様子に安心して、ティアラローズは体の力が抜けたのを感じる。すると、アクアスティードが優しく抱きとめてくれた。


「あ……っ」

「っと、大丈夫?」

「……はい。アクアに会えたら、安心して気が抜けてしまったみたいです」


 恥ずかしいですねと、ティアラローズが苦笑する。けれど、アクアスティードからしてみれば、そんなのは可愛らしいだけだ。


「よかった、アクアが無事で」


 二人して、ほっと胸を撫でおろす。


「それで……これはいったいどういうこと?」

「あ……っ、そうでした。わたくしったら、みんなの前で……っ!」


 一気に羞恥心が込み上げてきて、ティアラローズは赤くなった頬を両手で隠す。


「……新しく紅茶を用意いたしますから、落ち着きましょう」


 エレーネの言葉に、ティアラローズは必死に頷いた。




「突然の訪問で申し訳ない。私はアクアスティード、ティアラローズの夫です。妻を助けていただき、ありがとうございます」

「いえ、当然のことをしたまでですから。私はルカです」

「俺は双子の弟の、リオです」

「エレーネと申します」


 全員が席に着いて、簡単に自己紹介を行った。


 次に、ティアラローズの現状をアクアスティードに伝えた。森で倒れているところを、ルカとリオに助けてもらったということだ。

 もちろん、医者に診てもらい母子ともに問題ないことも。


 次に、空に起きている異変。

 これはルカとリオも把握できていることがほとんどないので、どういった現象が起きているかをルカから説明をしてもらった。


「確かに、あんな空も、鳥も、初めて見た」


 アクアスティードもここへ来る途中で、空を見たと話してくれた。しかし、その原因はまったくわからないと首を振る。


「天候に関してなら空の妖精王に何かあったのかと思うけれど、さすがに鳥の出現は……聞いたこともない」


 お手上げ状態のようだ。

 それは、ルカたちも同じで。


「いろいろな文献を読みましたが、同じような事例はありませんでした。今も必死で調べてはいますが、なかなか……」


 ルカは力なく首を振り、襲ってくる鳥を倒すしかできないのだと告げる。

 全員がどうすべきか答えを出せずに、しばし沈黙が流れ……エレーネが申し訳なさそうに口を開いた。


「確か、ルカ様とリオ様は予定があったはずです。ティアラローズ様とアクアスティード様もお疲れでしょうし、とりあえず今はお開きにしてはいかがですか?」

「あ――そういえば、そうでしたね」


 すっかり忘れていたと、ルカは苦笑する。その横では、リオが面倒くさそうな顔をしている。


「私たちの予定はまあいいとしても、あなたはもう少し休んだ方がいいですね。エレーネ、二人にゲストルームの用意をお願いします」

「はい」


 ルカの指示に従って、エレーネが一度席を外した。


「か――ええと、ティアラローズ様はとりあえず健康第一で休んでください。何かあれば、声をかけてもらえたらすぐ行くので」

「ありがとうございます。ルカとリオには、お世話になりっぱなしね」


 ティアラローズが申し訳なさそうにすると、リオはぶんぶんと首を振る。


「全然! これくらい、大丈夫。というか、空のことでいろいろ不安にさせてしまってると思うけど……俺たちで解決してみせるから、大丈夫」

「頼もしいのね」


 ぐっと拳を握って宣言するリオに、ティアラローズは微笑む。

 アクアスティードもルカとリオを見て、「強いんだな」と笑顔を見せる。


「私で力になれることがあれば協力するから、いつでも声をかけてくれ」

「はい、ありがとうございます!」


 すると、ちょうどタイミングよくエレーネが戻って来た。

 ティアラローズとアクアスティードはゲストルームに案内をしてもらい、ルカとリオは用事があるからこの場を後にした。



 ***



 エレーネに案内してもらったゲストルームに到着すると、ティアラローズは大きく深呼吸をした。

 さすがに、いろいろなことがあって体に力が入りすぎていたようだ。


 用意してもらったゲストルームは、水色を基調とした落ち着いた部屋だった。

 可愛らしい猫足の調度品に、壁には花の絵画。大きな窓の外はバルコニーになっていて、街を一望することができる。

 続く隣の部屋は寝室になっていて、すぐ横になることもできる。


「ティアラ」

「アクア……? あっ、」


 名前を呼ばれると、振り向きざまにぎゅっと抱きしめられた。


「さすがに、さっきは人が多かったからね」

「アクアったら……。でも、わたくしも……」


 ティアラローズもアクアスティードの背中に手を回して、ぎゅっと抱きつく。会えなかったのはちょっとの間だけだったのに、こんなにも安心する。

 アクアスティードの胸にぐりぐり顔をこすりつけ、ティアラローズは何度も「よかった」と口にする。


「二人で夏祭りの星を見ていただけだったのに、突然離れ離れになってしまって……どうなることかと思いました」


 無事に会えてよかったと、ティアラローズは微笑む。


「さすがに、私も驚いたよ。目が覚めたらティアラがいなくて……気絶した自分の不甲斐なさがどうしようもない。ちゃんと助けてあげられなくて、ごめん……」

「そんな……。あれは、どうしようもありませんでした。それに、アクアはわたくしを捜してここへきてくださいましたし」


 とても驚いたのだと、ティアラローズは苦笑する。


「わたくしもあのとき、アクアを捜しに行こうとしていたんです」

「ティアラが? それは嬉しいけど……できれば待っていて。そうしたら、どこにいても必ず私が見つけ出すから」

「――!」


 アクアスティードの言葉に、ティアラローズは頬を染める。

 まるで、王子様に助けてもらうお姫様みたいだ――と。


 ――って、アクアは本当に王子様だものね。


 けれど、ティアラローズだってアクアスティードのことが心配なのだ。捜しに行くくらい、いいのではないか……と、思ってしまう。

 ティアラローズが顔を上げてちらりとアクアスティードを見ると、「ん?」ととびきり優しい顔で微笑まれる。


 こんなの、嫌ですなんて言えるわけがない。


「……どこにいても、アクアのことを信じて待っています」

「うん」


 ティアラローズの言葉を聞き、アクアスティードは目を細める。そのまま頭を撫でられて、頬に触れられる。

 アクアスティードの手の温もりが心地よくて、ティアラローズも自然と目を細めて……そのままアクアスティードの口づけを受け止める。


「ん……」


 軽く触れるだけの優しいキスだけれど、体中が満たされる。けれど、もっとほしくなってしまって……。ティアラローズは、「アクア」と名前を呼ぶ。

 すると、いたずらっ子のような笑顔が返ってきた。


「どうしたの、ティアラ?」

「う……アクア、それはずるいです。……わかっているくせに」

「そうだね、ごめん」


 アクアスティードは簡単な謝罪の言葉を口にして、もう一度ティアラローズに口づける。今度はその唇を堪能するように、もっと深く。

 ティアラローズから甘い吐息がこぼれるのを合図に、アクアスティードはその体を横抱きにする。


「――! っ、アクア?」

「母子ともに健康とは言われたけど、疲れは溜まっているだろうからね。お言葉に甘えて、少し休ませてもらおう?」

「あ……」


 アクアスティードの足が寝室に向けられたのを見て、ティアラローズは頷く。確かに、ずっと気を張っていたこともあり、今は少しだけ眠くもある。


「ティアラが寝ている間、ずっと抱きしめててあげる」


 だから安心していいと、鼻先にキスをされた。



 二人でベッドに寝転ろぶと、ティアラローズからアクアスティードにぎゅっと抱きついた。


「落ち着く?」

「……はい。その、ずっと……というか今もですが、ここがどこだかわからなくて……。どうにも、落ち着かなかったんです」


 今も不思議な感じはあるままだけれど、アクアスティードが傍にいてくれるだけでだいぶ違うものだ。


 すぐに睡魔がくることもなかったので、ティアラローズは思ったことを口にする。


「ここ……わたくしたちが暮らしている王城……だと思うのですが、何かがおかしいんです」


 自分が見知った建物と、風景、けれど拭えない違和感がある。それから、生活している人々がティアラローズの知らない人ばかり。

 ティアラローズの言葉に、アクアスティードは苦笑する。実は、ここがどういう場所か薄々気づいているからだ。


「そうだね……。私はここじゃない場所で目が覚めたけれど、やっぱりティアラと同じように思ったよ」

「アクアも?」

「うん。この場所についてはもちろんだけど、それより空の異変が気になるね」

「……はい。クレイル様なら、何か知っているでしょうか?」


 空の異変で真っ先に思い浮かべるのは、空の妖精王クレイルだ。

 けれど、ティアラローズはクレイルから祝福をもらっていないため、彼とコンタクトを取ることが難しい。

 アクアスティードであればクレイルの祝福を得ているので、確認することができるだろう。そうすれば、解決に近づけるかもしれない。


 ティアラローズの言葉に、アクアスティードは「そうだね」と頷いた。


「ただ……どうにも、クレイルはこの周囲にいないみたいだ」

「え、クレイル様が……?」

「その辺も、何か関係しているのかもしれないね」


 なかなか難しい問題が山積みだと、アクアスティードは苦笑する。


「ひとまず、私たちに危険はない。ティアラは森の中で倒れていたところを、ルカとリオに助けてもらったんだろう? もう少し、ゆっくり休んで」


 お腹の赤ちゃんにもよくないから、と。


「……はい」


 アクアスティードに頭を撫でられて、ティアラローズは体から力を抜く。話をしていて目がさえてしまったかと思ったけれど、そんなことはなかったようだ。

 ティアラローズが素直に瞳を閉じると、アクアスティードが頭を撫でてくれた。そして聞こえてくるのは、落ち着いたテノールボイスの子守歌。


 ――アクアの、子守歌だ。


 気づくと、アクアスティードの腕の中でぐっすり眠ってしまった。

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