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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第12章 月と太陽に星空の加護を
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5. 空の異変

 ティアラローズとエレーネは顔を見合わせ、窓から外を見る。

 爆発があったのは、どうやら敷地内のようだ。


「いったい何があったの!?」

「わたくし、すぐに確認してまいります!」

「待って、わたくしも行くわ!」


 エレーネが部屋から出ていこうとするのを引き留めると、「危険かもしれません!」と首を振られてしまう。


「ティアラローズ様、どうぞ部屋でお待ちください。すぐに確認してまいりますので……」

「…………」


 確かに、妊娠もしているし、部屋で大人しく待っているのがいいのだろう。でも、なんだか行かなければいけないような、そんな胸騒ぎがしてしまうのだ。

 ティアラローズが窓から外を見ると、風が吹いて爆風が晴れてきたところだった。


 そこには、見知った青年が二人。


「ルカとリオ!?」

「え、ルカ様とリオ様が!? あの二人は、また……っ!」


 エレーネは窓の外を見ると大きくため息をつき、すぐに外へ行ってしまった。おそらく、ルカとリオのところへ行ったのだろう。


「ええと……わたくしはどうしようかしら」


 一人になってしまった。

 室内を見ると、ティアラローズが元々着ていたドレスはどこにもない。代わりに、ダークブルーのスカートが綺麗なドレスが用意してあった。おそらく、ティアラローズの着替えだろう。


「とりあえず、着替えて追いかけましょう……!」




「ルカ様、リオ様、また魔法を使ったんですか……!」


 ティアラローズが着替えてから現場に到着すると、頬を膨らませているエレーネと、そのエレーネに怒られているルカとリオがいた。


「今度は上手くいくと思ったんですけどね」

「まだまだ制御が甘いか」


 エレーネの言葉に、ルカとリオは笑う。が、エレーネは顔を真っ赤にして怒っているので、ティアラローズはどうしたらいいか戸惑ってしまう。

 とりあえず、柱の後ろに隠れて様子を伺ってみる。


 ――また、っていうことは……日常茶飯事なのかしら。

 なんとも無茶をする二人だと、ティアラローズは苦笑する。


 わかったことは、今の爆発がルカとリオの魔法だった……ということだろうか。


「鍛錬場ですから周囲への被害はないとはいえ、急な爆発はみなが驚きます!」

「うん、気をつける……あ」


 ティアラローズが少し離れているところから見ていると、ルカと目が合ってしまった。気づかれたようだ。

 ルカは驚いたように目を開いたが、すぐにエレーネを見て苦笑した。


「部屋でゆっくりしていていただきたかったんですが……事件を起こしたのが私たちなので、何も言えませんね」

「ごめんなさい、二人が見えたから気になってしまって……怪我はないの?」


 ルカとリオは顔にちょっと煤がつき、服も汚れが目立つ。血が滲んでいるようなことはないが、爆発したのだから心配だ。


「ええ、怪我はありません」

「怪我は全く! 大丈夫ですよ」

「よかった」


 ひとまず二人が無事であることを確認し、ティアラローズはほっとする。しかしその横で、エレーネが口元を手で押さえて顔を青くしている。


「わたくし、ティアラローズ様をお部屋に置いて来てしまって……申し訳ございません!!」

「やだ、大丈夫よエレーネ。わたくしはもう元気だもの」

「ティアラローズ様……」


 涙ぐむエレーネに、ティアラローズは微笑む。少しの距離を歩いただけなので、そこまで大事になるようなことはない。

 あてられた魔力も、お腹も、今は落ち着いている。

 ルチアローズの妊娠の時も同じようなことがあったため、赤ちゃんの魔力に関しては多少の慣れもある。


「……とりあえず、部屋へ行きましょう。体調が落ち着いているとはいえ、また崩してしまったら大変ですから」

「ありがとう」


 そう言って、ルカが部屋までティアラローズをエスコートしてくれた。




 部屋に戻ると、エレーネが紅茶を淹れてくれた。それから、簡単につまめるようにと、一口サイズのスコーン。

 紅茶を飲んで一息つくと、ルカとリオが爆発の理由を話してくれた。


「実は今、ちょっとした異変が起きているんですよ」

「異変……?」


 ティアラローズが眉を顰めると、ルカが頷く。


「始まりは、三日前です。空が、色を変えたんです」


 この国の空は――美しい。

 空はどこまでも澄み渡り、夜になると満天の星を見ることができる。体いっぱいに空気を吸い込むと、心が落ち着く。


 窓の外へちらりと視線を向け――特に、異変なんてないようにティアラローズは思う。


「こんなに美しいのに……?」

「ええ。今は落ち着いているので、いつもの美しい空です」


 けれど、ルカの話によると、小さな雷雨の発生から始まり、凶暴な鳥の魔物が襲撃してきたり……と、よくないことが多発しているのだという。

 今まで見たことのなかった鳥への対処は大変で、騎士たち総出で当たっている。


「異変は起きてますけど、大きな被害は出ていません。騎士に、何人か怪我が出たくらいですかね」


 リオが騎士たちの状況を説明し、それにルカが頷く。


「私たちは今、それの対処に追われてるんです。――ああほらきた、あの鳥です」

「え……?」


 ルカの言葉に空を見上げると、一羽の鳥が『キュイ――』と鳴いた。


 それは赤い色をし、風切り羽の先が黒く、尾羽が長い白色の鳥だった。それが複数羽、空の青を遮っている。

 思わず、背筋にぞっとしたものが走った。


「あんな鳥、見たことないわ……」

「はい。私たちも、ここ数日まで知りませんでした」


 困ったものですねと、ルカがソファから立ち上がる。


「さすがに放っておくわけにはいきませんから、ちょっと失礼します」

「え?」


 いったい何をするつもりなのかと、ティアラローズは戸惑う。ルカは、壁に掛けられていた弓へ手をのばした。


 ――まさか、ここからあの鳥を射るの?


 ティアラローズがはらはらしていると、リオが「大丈夫ですよ」とルカを見た。


「空にいる相手なら、騎士たちに任せるより早いですから」


 リオがそう告げるのと同時に、ルカが美しい動作で弓を引き、放った。

 そして矢は山なりに飛んでいき、いとも簡単に鳥を射た。


 あまりに一瞬のできごとで、ティアラローズは驚きを隠せない。こんなにすごい名手は、見たことがない。

 しかし、ルカ本人は何とも思っていないようだ。


「これでよし、と。すみません、話の続きをしましょうか」

「あ、はい……」


 にこりと微笑むルカに、随分肝が据わっているようだとティアラローズはあっけにとられつつ頷いた。

 そして話は先ほどの続きに戻る。

 ルカが射落とした鳥は、騎士たちが集まり対処してくれているようだ。 


「爆発したのは……私とリオの魔力量が、とてつもなく多いからです」


 詳しく話を聞くと、ルカとリオは普段魔法を使うことはほとんどないのだという。先ほどのように、魔力が爆発してしまうからだ。

 リオは見やすいように袖をまくって、腕輪を見せてくれた。


「普段は、これで自分たちの魔力を抑えてるんです。なかなかコントロールが上手くいかなくて、つけてないと暴走してしまって……」

「成長とともに、まだ魔力が増えてるんですよね」


 とどまるところを知らないようですと、ルカが笑う。


「ただ、つけていると……私たちの本来の力も使うことができないんです。これまではあまり気にしてはいなかったのですが、今の状況では、そうも言っていられませんから」


 守るために必要なのだと、そう言ってルカとリオは微笑んだ。


 二人の話を聞き、ティアラローズはルチアローズのことを思い出す。自分の娘も、魔力がとても多くて苦労したから。

 今は落ち着いているけれど、もう大丈夫だと楽観視ばかりではいられない。


「何か力になってあげられたらよかったのだけれど、わたくしもそういった方法は知らないの。色々調べはしていたのだけれど……」


 あまりいい方法はない。

 指輪のアイテムを作って魔力を吸わせたこともあるが、きっとルカとリオの魔力に指輪は耐えることができないだろう。


 というか。


「その腕輪、すごいわね」


 魔力を抑える腕輪なんて、ティアラローズは聞いたことがない。

 リオの腕輪をまじまじと見ていると、ルカが自分の腕輪を見せながら説明をしてくれた。


「私が作ったんですよ」

「え、ルカが!? まだ若いのに、すごいわ……」

「若いと言っても、もう19ですよ?」


 十分大人で、もう結婚をしていたっておかしくはない年だ。とはいえ、今のところそういった相手はいませんけれど、と笑う。


「私は魔法の研究が好きで、こういったものをよく作るんですよ」

「寝るのも忘れて研究してることなんてしょっちゅうで、よく怒られてますよ」

「リオ、それは言う必要ないだろう?」


 笑いながら一言付けたしたリオに、ルカが笑顔で怒る。「ごめんごめん」と謝っているが、隣ではエレーネが頷いているのでみんなから夜更かしを怒られているのだろう。


 「ま、そんな話は置いておいて……」


 ルカがジェスチャーで何かをリオの膝に置いて、窓の外を見た。


「――というのが、現状です。どうやら気候も不安定になりがちなので、妊娠していると体調を崩しやすくなったりするかもしれません。一応、ここへ戻る際に医師に診ていただきましたが、赤ちゃんも問題はないとのことでしたよ」


 だからひとまず安心してくださいねと、ルカが微笑んだ。


「そうだったのね、ありがとう。お腹の子が元気であることが、一番大切だもの。よかったわ」


 ティアラローズがそう言ってふわりと微笑むと、「それは違う」とルカとリオの声が重なった。


「あなたの体だって、同じくらい大切です」

「そうですよ。一番自分を大切にしてください」

「……そうね、ごめんなさい二人とも。まずは自分ね」


 自分より年下だというのに、とてもしっかりした二人だ。ティアラローズは自分の言葉を反省し、自分のことを大切にすると頷く。


 ――そうよね、みんなで一緒にいるからいいのだもの。


「そのためには、アクアと合流しないと……。ねえ、ルカ、リオ、エレーネ。ここのことを教えてほしいの。マリンフォレストの王城かと思ったけれど……わたくしの記憶と少し違っていて……」


 なんだか、不思議な世界に迷い込んでしまったような気分だ。

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