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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第12章 月と太陽に星空の加護を
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4. いたれりつくせり

「それで、父が母のために最上級の蜂蜜を作るための花畑を作っちゃったんですよ」

「蜂蜜はお菓子作りに必要だから、と」

「花畑を? すごいわ」


 ルカとリオがする両親の話に、ティアラローズは目を瞬かせる。

 蜂蜜を探すのではなく、花畑から作ってしまうとは……。


 ――でも、花の種類によって蜂蜜の出来も違うというし……。


 理想の蜂蜜を手に入れるなら、一番いいのかもしれない。ただ、それには時間や費用など、いろいろなものがかかるため、そう簡単にはできないが。


 ――二人の両親って、いったい何者なのかしら……。


「きっと、とっても美味しい蜂蜜なんでしょうね。素敵」

「美味しいですよ。私はホットミルクに入れるのが好きですね」

「俺はホットケーキの方が好きだな」

「どっちも美味しそうね」


 ティアラローズは二人の答えに微笑み、自分だったら何がいいだろうと考えてみるが――クッキー、マフィン、タルト、使いたいものがありすぎて決められそうにない。



「――っと、楽しくて、ついつい話し過ぎてしまったわね」


 ルカとリオにお茶をご馳走になりながらゆっくりし、ティアラローズはそろそろ行かなければと考える。

 アクアスティードを捜すか、一度王城へ戻るか。どちらにせよ、行動を起こさなければ始まらない。


「二人とも、助けてくれて本当にありがとう。後日、お礼をさせてちょうだいね」

「気にしないでください。当然のことをしただけですから」

「そうですよ」


 ティアラローズが改めて礼を伝えるも、お礼の申し出には首を振られてしまった。


「……もう。今は急ぐから、お言葉に甘えさせてもらうわね」

「はい」

「でも、今度会ったときはちゃんとお礼をさせてちょうだい」

「そのときはぜひ」


 次に会えるかはわからないが、そのときにお礼をする約束を取り付けた。


「じゃあ――っ!」


 しかしふいに、ティアラローズのお腹が痛み出した。

 どうやら、先ほどの魔力暴走に当てられたせいで、赤ちゃんの魔力が不安定になってしまったようだ。


「うぅ、痛……っ!」

「――!?」


 お腹に手を当ててうずくまると、すぐにルカとリオが立ち上がった。すぐにティアラローズの下へやってきて、支えてくれる。


「大丈夫!? かあ――」

「リオ!」

「……っ、ごめん。すぐに医者に診てもらおう」

「ああ。何かあるといけないから、ゆっくり運ばないと……」


 ルカとリオが慌てていると、突然秘密基地のドアが開いた。やってきたのは、一人の男性で、何やら怒り心頭な様子。


「二人とも、やっぱりここにいた! 今日は午前から予定が……って、え!? ね――」

「しぃー!!」


 やってきた男性が声をあげようとすると、慌ててリオが手でその口をふさぐ。


「彼女にさわるといけないから、静かにして!! 苦しそうなんだから、大声なんて出さないで!!」

「え、あ……う、うん」


 男性が焦りながらも返事をすると、すぐにルカの声が飛んでくる。


「今はそれより、診て!」

「わかった! ルカ様、どいてください」


 男性はすぐにティアラローズの前で膝をついて、水魔法を使う。静かで優しい水がティアラローズを包み込み、診察を行っていく。

 三人ともが真剣な表情で、室内に響くのは辛そうなティアラローズの声だけだ。しかしそれも、次第に落ちついてくる。


 水魔法が収まると、男性は小さく息をついた。


「……原因は、外部から魔力の影響を受けたせいだね。そのせいで、お腹にいる赤ちゃんの魔力暴走が起きそうになってたみたいだ……」

「もう大丈夫?」

「ほかに必要な処置はない?」


 ルカとリオは心配そうに問うと、男性は微笑んだ。


「落ち着いたから、もう大丈夫だよ。でも、赤ちゃんでこんなにすごい魔力なんて初めてだ。いったい――あ……」

「……ひゅー」

「……ぴゅー」

「口笛、吹けてませんよ……」


 そう言って、男性は大きくため息をついた。



 ***



 ルカとリオは、自分たちの部屋にティアラローズを運んできた。

 体調不良のうえ妊娠しているのだから、きちんとした環境で休ませなければいけないと判断したからだ。

 ベッドで寝かせ、これで安心だと一息つく。


「しかし本当に、どういうことでしょう? ダレル、なんでかはわかりますか?」


 ルカは首を傾げて、男性――ダレルを見る。


「いや、私がわかるわけないでしょう……」


 聞きたいのはこっちですと、ダレルは肩をすくめる。

 ルカは深く息をついて、ソファへ沈み込むように座った。リオはティアラローズが心配なようで、ベッドの横に椅子を置いて座っている。


「……彼女と会う少し前、海の魔力を感じました」


 ルカは先ほど――ティアラローズと出会う少し前のことを思い出す。魔力を感じることは、どちらかといえばリオよりもルカの方が得意だ。

 それを聞き、リオも思い出す。


「暴走したような魔力は気付いたけど、あれは海だったのか」

「そうです。普段であれば、問題は起らなかったのでしょうが……今は、パール様が不在です」


 本来であれば、何かあったとしてもパールがその干渉を相殺するなりしただろう。

 しかし今は不在で、それができなかった。だから干渉をもろに受けてしまい、歪ができてしまったのだろうとルカは推測した。


「……すぐ、父様と母様に手紙を出しましょう」

「でも、旅行の目的地はかなり遠くだったから……すぐには戻ってこれなさそうだな」

「ですね」


 そう言いつつも、ルカは魔法で手紙を飛ばす。


「忙しいところ申し訳ないけど、ダレルはもう少しこの人を見ててくれる? もしかしたら、また苦しくなったりするかもしれない」

「もちろんです」


 心配するルカの言葉に、ダレルは頷いた。



 ***



 意識が浮上し、ぼんやりと知らない天井が視界に入る。数度瞬きを繰り返し、アクアスティードは大きく目を見開いた。


「……? ここは――っ、ティアラ!?」


 ばっと体を起こし、周囲を見回す。森にいたはずだというのに、どこかの部屋の一室のようだ。

 青を基調に調えられた部屋と、高価な調度品。大きな窓からは太陽の光が差し込んでおり、かなり意識を失っていたとわかる。


 ――城では、ない。


「すぐにティアラを捜しにいかないと……」


 アクアスティードが慌てて体を起こすと、部屋にノックの音。そしてすぐに、執事服を着た中年の男性が入って来た。

 その手には、ティーセットを持っている。


「ああ、起きましたか」

「――……!」


 初めて見る顔だが、この男性を知っているような……そんな錯覚を受ける。いや、雰囲気だけ見れば、頭に浮かぶ人物と同じだろう。


 ――でも、あの執事は私より少し上くらいだったはずだ。

 間違っても、こんなに年上ではなかった。


 彼はそんなアクアスティードの考えを知ってか知らずか、優雅に紅茶を淹れて「とりあえず落ち着かれては?」とアクアスティードに差し出した。


「あ、ああ。……ありがとう」


 アクアスティードは紅茶を一口飲み、体の力を抜く。そして、いったい何があってこうなったのか考える。


 ――確かあのとき、魔力の揺らぎのようなものを感じた。


 アクアスティードも祝福をいただいている、海の――パールの魔力。

 自分はきっと、それに当てられて気を失ってしまったのだろう。ティアラローズも一緒だったというのに、なんとも情けない。

 急いで紅茶を飲み干し、執事に声をかける。


「すみません、妻を待たせているので私はもう帰らなくては。後日お礼をしたいので、名前を伺っても?」

「お気を使わないでください。ですが、どうしましょうか……奥様と再会したとして、無事に帰れるかどうか……」

「……?」


 男性の言葉に、アクアスティードは眉をひそめる。

 帰れない、なんて。そんなこと、あるわけがない。なぜなら、窓の外から王城が見えているからだ。


 屋敷を出られれば、すぐにでも帰ることができるだろう。

 しかし男性は、困ったように笑った。



 ***



「うぅ……ん……ん~!」


 体が落ち着いたためか、しっかり休息をとることができたからか、ティアラローズは比較的気分よく目覚めることができた。

 無意識にぐぐっと伸びをして、固まった体をほぐす。

 しかしすぐ、自分の置かれた状況に目を見開いた。


「えっと、ここは……?」


 森の秘密基地にいたはずなのに、寝ているのは豪華な天蓋ベッド。ベッドサイドには、軽食と飲み物も用意されている。

 ティアラローズが着ていたドレスは、ゆったりした夜着に代わっている。どうやら、誰かが着替えさせたようだ。


 場所は――マリンフォレストの王城の一室……に見えるけれど、こんな部屋をティアラローズは知らない。


 戸惑いつつも体を起こすと、「お気づきになられましたか?」と女性の声が聞こえてきた。視線を向けると、ドレスを着た十代半ばほどの女性が立っていた。


「わたくしはエレーネ。ルカ様とリオ様から、あなたを見ているように、と。二人とも、とても心配していたんですよ」

「二人から……? あ、わたくしはティアラローズ、です」

「ティアラローズ様ですね。失礼ながら、お着替えをさせていただきました」


 エレーネはてきぱきと洗面用のお湯や着替えなどを用意してくれた。そして漂ってくるのは、紅茶のいい香り。


「具合はどうですか?」

「ええと、気分は落ち着いているわ」

「それはよかったです。どうぞ、ベッドに腰かけたままで構いませんので、お顔を洗ってください」


 用意してもらったお湯で顔を洗い、ティアラローズはほっと息をついた。

 お腹に手を当て、ゆっくり深呼吸を繰り返す。ひとまず、自分でわかる範囲では体調に問題はなさそうだ。


 エレーネはティアラローズの体調が良好だとわかり、ほっとしている。


「医師を呼びますので、その間はゆっくりなさってください」

「……ありがとう。でも、ここはいったいどこなのかしら? わたくし、誰にも何も告げていないから……きっと心配しているわ」


 早く帰りたいと、そう伝えると……エレーネはどこか困ったように微笑んだ。


「ティアラローズ様のお気持ちは、よくわかります。今、ルカ様とリオ様が調べていますので、少しだけお待ちいただけますか?」


 エレーネは紅茶を淹れて、その横にミルクと可愛い小瓶に入った蜂蜜を用意してくれた。


「この蜂蜜は、ルカ様とリオ様のお父様が作られたものなんですよ。美味しいので、ぜひ召し上がってください」

「話していた蜂蜜ね。ありがとう」


 しかしティアラローズが蜂蜜を手にした瞬間、窓の外から大きな爆発音がした。

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