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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第12章 月と太陽に星空の加護を
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2. 長い想い

 ティアラローズたちがお祭りを満喫して王城に戻ると、ハルトナイツとダレルが待っていた。その手には出店で買った食べ物やお土産があり、二人ともお祭りに行っていたようだ。


 ハルトナイツはアカリを見つけるやいなや、ずんずん歩いてきた。その手には、フライドポテトを持っている。


「アカリ、お前はまた勝手に暴走して……!」

「ハルトナイツ様も楽しんでるじゃないですか~!」

「先に行ったからだろうが!」


 どうしてもうちょっと待てないんだと、ハルトナイツが怒る。

 その様子にティアラローズは苦笑し、アクアスティードはルチアローズを抱き上げ「見ちゃいけないよ」と目に手を当てた。


 すると、すぐにフィリーネとエリオットがやってきた。


「おかえりなさいませ、ティアラローズ様、アクアスティード陛下」

「楽しまれたようですね」

「ただいま」

「ああ。フィリーネ、ルチアを頼んでもいいか?」


 アクアスティードはフィリーネが頷いたのを見て、ルチアローズを預ける。


「もうおねむみたいですね」

「お祭りではたくさんはしゃいだからね」



 うとうとする姿を慈しむのは、フィリーネ・コーラルシア。

 ティアラローズの侍女をしており、エリオットの妻でもある。夫婦二人、ティアラローズとアクアスティードを支えている。



 同じようにルチアローズをあやす、エリオット・コーラルシア。

 アクアスティードの従者をしており、功績により男爵位を授かった。ところどころ抜けているところもあるが、剣や諜報活動も得意で、頼りになる一面も多い。



 アクアスティードたちのやり取りを見て、ハルトナイツが慌てて頭を下げる。


「……っ、す、すまない。取り乱した……」

「いや。無事についてなによりだ」


 次にダレルがティアラローズとアクアスティードの下へやってきて、「お久しぶりです」と頭を下げた。


「ティアラお姉様と、アクアお兄様にお会いできるのを楽しみにしていました!」

「元気そうでよかったわ、ダレル。もしかして、また背が伸びたかしら」


 ティアラローズがダレルの頭の上あたりに手をやって、「すぐに抜かされてしまいそうね」と微笑む。


「早く大きくなりたいです! そうしたら、私もいろいろなものを守ることができますから」

「あら……もうすっかり大人の男性みた――ダレル?」


 ふと、ダレルが話を遮るようにティアラローズのお腹を見た。真剣な様子に、ティアラローズは何かあったろうかと焦る。


「あ……ごめんなさい、ティアラお姉様。不躾でした」

「いいえ、大丈夫よ。でも、わたくしがどうかしたかしら?」


 衣服に汚れか何かついていただろうか? ティアラローズはそう思い首を傾げるが、アクアスティードが「もしかして」とダレルを見た。


「あ……はい。お兄様が思ってる通りで、えっと」

「ダレル?」


 ティアラローズは訳が分からず、アクアスティードとダレルを交互に見やる。

 ダレルは話していいかわからなかったようで、こっそりアクアスティードに耳打ちをした。


「え? え? え? どういうことですか、アクア」


 今度は、アクアスティードがその唇をティアラローズの耳元へ寄せる。


「あ、あくあ!?」

「大丈夫だから、いい子で聞いて」

「……っ!」

「実は――」


 ここにはみんなもいるのに、いったい何!? そう身構え、アクアスティードの言葉に――世界が色を変えたような感覚に陥った。


「――お腹に赤ちゃんがいる、って」

「え、えええぇっ!? わたくし、二人目……っ!?」


 言葉を失って、ティアラローズは手で口元を覆う。

 心臓がどきどきして、無意識のうちに手がお腹へ触れる。ここに新しい命が宿っていると思うと、じわりと目頭が熱くなる。


 ――嬉しい。

 たった一言だけれど、ティアラローズのたくさんの想いが詰まっている。自分たちの下へ来てくれてありがとう、と。


 ティアラローズの言葉と動作で、アカリとハルトナイツもぴんときた。アカリなんて、すぐにティアラローズの下へダッシュで駆け寄って来た。


「おめでとうございます~~! ティアラ様~~~~!」

「あ、ありがとうございます。まだ、実感はないですが……」


 ティアラローズは照れながら告げ、父たちにも報告しなければと思う。きっと、ルチアローズのときのように大喜びし、溺愛してくれるだろう。

 容易に想像できて、思わず笑ってしまう。


 けれど、ダレルは心配げな瞳でティアラローズを見た。


「ルチアちゃんのときと同じ……すごい魔力を感じます。なのでちょっと心配ですが、外部から干渉してくる魔力はないので……経過をきちんと見ておけば大丈夫だと思います」

「この子も魔力が……」


 ダレルの言葉に、ティアラローズはやはりと苦笑する。


 ――アクアの子だもの。

 容姿端麗で、優秀な子が生まれてくるのだろうなと思う。


 ダレルの話によると、ルチアローズのときと同様、すごい魔力を感じるようだ。しかし、今回は精霊の力は影響していないため、変な事態になることはないだろう……とのこと。

 それにはほっと胸を撫でおろした。



 ***



 お祭りを満喫した妖精王三人組は解散し、キースとクレイルだけが王城の屋上から街を眺めていた。


 キースは一息つき、なんとなしに言葉を零す。


「マリンフォレストは、いい国だな」

「そうだね。フェレスとリリアが懸命に建国したのだから、これくらいになってもらわないと困る」

「……まあな」


 妖精王たちは、マリンフォレストを見守ってきた。

 途中でいろいろあって災害が起こりそうになったこともあったけれど、なんだかんだ少しずつ成長してきた。


 今はアクアスティードもいるし、マリンフォレストはしばらく平和だろう。となると、キースは思うところが一つ。

 ここ最近、クレイルとパールはいい雰囲気だ。


「なあ、クレイル。せっかくの祭りなんだから、パールに告白でもしたらどうだ?」

「……そうだな」


 なんて、冗談――とキースが言うよりも早く、予想外にもクレイルから肯定の返事が。


「え、まじか……。本気か? あんなに臆病で奥手なクレイルが? 本当に告白なんてできるのか?」


 もしや自分はからかわれているのか? と、キースは目を瞬かせた。


「……キースが言ったんだろう、告白をしたらどうだと。まあ、私から告白をされても、パールは迷惑かもしれないけど」


 クレイルの言葉に、キースはそんなことはないだろうとため息をつく。自分のことになると、どうにも消極的なようだ。


「……ここ最近、ティアラとアクアも幸せそうだからな。羨ましいか?」

「それを言うなら、キースこそ。ティアラローズにあれだけちょっかいをかけておいて……」

「ははっ」


 そういえばそうだったなと、キースは笑う。

 自分のものになればいいと考えたときもあったけれど、最近はアクアスティードの横で笑っているからいいのだろうと思う。


「――そうか」

「ああ」


 頷いたクレイルに、キースは静かに笑った。



 ***



 星祭り最終日の、三日目。


 満点の星空が見える山は空気が澄んでおり、気持ちが落ち着く。クレイルの神殿から近いこの場所は、マリンフォレストで一番気に入っている場所だ。

 星祭りはクライマックスを迎えていて、星が降りそそいでいる。


 クレイルは、そこにパールを呼び出した。


「ここから見える星は、格別じゃの」

「うん。いつかパールと見れたらと思ってたんだ」

「そうなのかえ? ならば、誘えばよかったじゃろうて」


 星祭りは今までもあったのだから、機会も十分あったはずだとパールは頬を膨らめる。けれど、クレイルにはそう簡単なことではなかった。


「断られたらと、そう思ったらどうにも怖くてね」

「クレイル……」


 パールは目を見開いて、クレイルを見た。しかしその顔は下を向いていて、表情を読むことはできない。

 二人の間に、しばし沈黙が流れる。


「…………」


 パールはずっと、気付かないでいたかった。

 誰かを愛することは幸せで、胸が満たされる。けれど同時に、愛した分、一人になったときの寂しさは何倍もの重さとなってのしかかってくる。

 昔、パールの名を与えたパールラントの男に裏切られてから――いったい幾年が過ぎたというのか。


 クレイルがそんな男ではないということなんて、わかっている。けれどこの感情は、理屈ではなくて――それでも。


 ずっと、ずっとずっと、クレイルは……。


「わらわを愛してくれてありがとう、クレイル」

「――――」


 告げて、パールはクレイルに抱きついた。

 ずっと好きでいてくれてありがとう。


 きっとこんなにも長い間、パールのことを想ってくれていたのはクレイルだけだろう。


「ああもう、パールに全部持っていかれてしまった」


 クレイルはくすりと笑い、パールを見る。


「好きだよ、パール。今までも、これからもずっと」

「…………」


 囁くような低いクレイルの言葉に、パールは顔を赤くする。改めて言われると、こんなにも恥ずかしいのか、と。


 クレイルは隣に立つパールの手に、自分の指先を絡める。いつもより甘い声で「パール」とその名を呼んで、微笑む。


「やっと、堂々とパールの隣に立っていられる」

「……っ! み、耳元でしゃべるでない!!」

「ああ、ごめん」


 初々しいパールの反応が可愛くて、クレイルはそれだけで心が満たされる。今まで見ることのできなかったパールが、自分の腕の中にいる。

 その事実だけでもう、今まで苦労したアプローチなんてどうでもよくなってしまう。


「まったく! クレイル、おぬしはもっと積極的になっていいのじゃ!」

「パール……。そんなこと言われたら、調子に乗るよ?」

「乗ったらいいのじゃ」


 普段は自信満々のくせいに、ことパールのことに関してはどうにも弱気なクレイルだ。けれど、パールにいい返事をもらえた今――もう少し、調子に乗ってもいいようだ。


「……頭を撫でてもいい?」

「それくらい、好きにせい」

「じゃあ……」


 パールの許可を得たクレイルは、そっとパールの頭に触れる。さらさらの髪が手のひらに触れて、なんとも言えない心地だ。


「……幸せだね」

「まったく、安い幸せじゃな」


 パールはそう言って笑い、自分もと背伸びをしてクレイルの頭に手をのばそうとし――


「やっとくっついたのか」


 ――という、キースの声。


「…………っ!?」


 思いがけない相手の出現に、パールは固まる。


「よかったなぁ」


 なんてのんきにキースが言うけれど、いちゃいちゃしているところを見られてしまったパールはそれどころではない。


「おぬし、……っ!!」


 恥ずかしさのあまり、パールの魔力が暴走してしまった――!!

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