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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第12章 月と太陽に星空の加護を
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1. 妖精の夏祭り

 豊かな森と大地に、色とりどりの珊瑚や魚が住む海。そしてどこまでも続いている、澄んだ空。

 妖精たちに愛されしその国の名は、マリンフォレスト。


 王城の屋上に出ると、街の賑やかな様子がよくわかる。


「あ~!」

「ふふ、楽しそうね」


 ティアラローズは娘のルチアローズを抱きながら、「あそこが広場で、向こうは――」と、街の様子を教えてあげる。

 ルチアローズは終始楽しそうにしていて、はしゃいでいる。


 季節は夏、ティアラローズがマリンフォレストに嫁いで5年が経った。


「今年のお祭りは、盛大に行うのよ。ルチアも一緒にお祭りに行きましょうね」

「あい!」


 元気のいい愛娘の返事に、ティアラローズは微笑む。



 マリンフォレストの王妃、ティアラローズ・ラピス・マリンフォレスト。

 ふわりとしたハニーピンクの髪と、水色の瞳。青色の身頃に、白色のタックスカートには身頃から裾へ向けて花の刺繍がなされている

 優しく穏やかな表情を浮かべたティアラローズ、娘を見つめる瞳は慈愛に満ちている。

 そんな聖女のような彼女だが、実はここ――乙女ゲーム『ラピスラズリの指輪』の続編の世界へ転生した悪役令嬢だ。



 楽しそうに街を見てはしゃぐのは、ルチアローズ・マリンフォレスト。

 ティアラローズとアクアスティードの第一子にあたる、第一王女。少し濃いピンク色の髪と、金色がかったハニーピンクのパッチリとした瞳。

 魔力は落ち着きをみせ、今は穏やかな日常を送っている。



 ――さて。

 マリンフォレストの夏といえば、『妖精の星祭り』が開かれる。今年はティアラローズが嫁いできて五年の節目ということもあり、三日間のお祭りは盛大に行われることとなった。

 今は着々と準備が始められており、お祭りは明日から開催される。


「今年はたくさんのスイーツ屋台が出店されるみたいだから、楽しみね。ルチアは何が好きかしら」

「ん~くっき!」

「そうね、クッキーも食べましょうね」

「あいっ」


 お菓子が大好きすぎるティアラローズと、少しずつ言葉を覚えてきたルチアローズ。最近は、こうしていろいろお話をするのが毎日の楽しみだ。


 ティアラローズはルチアローズを下して、手を繋ぐ。


「そろそろ部屋に戻りましょう。このまま外にいたら、暑くて溶けてしまうわ」

「あい」


 明日の本番を楽しみに、ティアラローズとルチアローズは部屋へ戻った。



 ***



 そして、翌日。


「わあぁ、すごいわ。街中、すごく活気があるわね」


 ティアラローズは王城のバルコニーから街を見下ろして、感動している。

 お祭りは多くのスイーツ屋台が出店しており、ティアラローズは目を輝かせた。許されるならば、すべての屋台のスイーツを堪能したい。

 そんなティアラローズを見て、アクアスティードがくすりと笑う。


「じゃあ、急いで全部買ってこようか」


 そのまま王城に持ち帰れば、ティアラローズ、アクアスティード、ルチアローズ、家族三人で食べることができる。

 きっと、とても楽しい家族団らんになるだろう。


「とっても素敵ですけど……さすがに全部はお腹に入りません」

「残念」



 楽しそうにティアラローズをからかうのは、アクアスティード・マリンフォレスト。

 ティアラローズの夫であり、マリンフォレストの国王だ。

 ダークブルーの髪に、王であることを示す金色の瞳。今は向かいに座る妻と娘を見ているため、目じりが下がりっぱなしだ。

 続編のメイン攻略対象だが、ティアラローズを選んでくれた。



 ティアラローズはアクアスティードの言葉に微笑み、自分が大食いだったらどんなによかったか――なんて考える。

 けれど、全部のスイーツを手に入れて王城へ戻るより、もっともっと楽しいことがある。


 ティアラローズはルチアローズの頭にリボンを結ぶ。そしてスイーツ屋台ではなく、祭り全体に目を向ける。


「あいとー!」

「可愛くなったわね、ルチア。……わたくしは、ルチアにたくさんお祭りを楽しんでほしいですから」


 王城でお菓子を食べるのもいいけれど、今は家族三人で外に出たいのだとティアラローズは微笑む。


「そうだね。ルチアには、いろいろなことを経験してほしい」

「はい」




 出かける準備が整ったので王城の玄関ホールへ行くと、テンションの高い声が聞こえてきた。


「ティアラ様~! お祭りに招待ありがとうございます! 飛んできちゃいましたよ~~!」

「アカリ様、いらっしゃいませ」


 今回、特別な星祭りということもあって、ティアラローズはアカリとハルトナイツ、ダレルに招待状を送っていた。アカリはかなり楽しみにしてくれていたようで、にこにこだ。

 しかし、なぜかハルトナイツとダレルの姿が見えない。


「ええと……アカリ様、お一人ですか?」


 ティアラローズが首を傾げると、アカリは「え?」と後ろを振り返る。もちろん、誰もいない。


「いけない、置いて来ちゃったみたい!」

「…………」


 相変わらずのアカリに、ティアラローズは苦笑するしかない。



 てへぺろと舌を出す、アカリ・ラピスラズリ・ラクトムート。

 腰まである艶やかな黒髪と、黒の瞳。このゲームのヒロインで、ラピスラズリ王国の第一王子、ハルトナイツと結婚し幸せに暮らしている。

 可愛い桃色のドレスは星柄のレースがあしらわれており、今回のお祭りのために用意したのだとすぐにわかる。



 アカリはあははと笑いながら、一人の理由を口にした。


「私だけ、途中から馬で駆けてきたんですよね……。まあ、大丈夫ですよ。ハルトナイツ様とダレル君なら、すぐに来ますから!」

「……まったく」


 王位継承権が剝奪されているとはいえ、第一王子の妃なのだからもう少しお淑やかに……とティアラローズは思ったが、アカリなので言っても無理だろうとその言葉を飲み込んだ。


 アカリは次にアクアスティードとルチアローズに向かい挨拶をした。


「お久しぶりです、アクア様! ルチアちゃん!」

「アカリ嬢は相変わらずだな。遠いところ、よくきてくれた」

「おねー、ちゃっ!」


 アクアスティードは軽く礼をし、ルチアローズは一生懸命アカリのことを呼んだ。以前、一緒につみき遊びをしたことなどを覚えていたのだろう。アカリに会えて、にこにこだ。

 アカリは自分のことをお姉ちゃんと呼んでくれるルチアローズに、めろめろだ。


「はあぁっ! ルチアちゃんは一段と美人で可愛くなって……っ! お土産を持ってきたんだけど、馬車の中だから……また夜にでもあげるね」

「あいっ! あいあとー!」

「お礼までちゃんと言えるなんて、いい子の中のいい子!! よーし、お祭りに行こう! お姉ちゃんがなんでもほしいもの買ってあげるから!!」


 ルチアローズに貢ぐ気満々のアカリは、「早く行きましょう!」と外を指さす。

 ハルトナイツとダレルを待った方がいいのでは……とティアラローズは思ったが、アカリのことだから大分先行してきている可能性もある。

 ティアラローズはやれやれと肩をすくめ、頷いた。


「では、わたくしたちは先にお祭りに行きましょうか」



 ***



 ルチアローズはちょこちょこ歩けるようになったので、ティアラローズとアクアスティードの真ん中で手を繋いで歩く。


「ルチア、ゆっくり歩いてね」

「あい!」


 元気に返事をしたルチアローズだけれど、お祭りの様子が気になって仕方がないらしい。見るものすべてが新鮮で、ちょっとでも手を離したら駆けて行ってしまいそうだ。

 それはアカリも同様で、あっちこっちに寄り道をしながら歩いている。


「どの屋台も美味しそう! とりあえずタピオカドリンクを飲んで……ん~、射的とかしたいんですけど、ないっぽい? ティアラ様、射的かスーパーボールすくいありませんか~!?」

「この世界に射的はありません!」


 そもそも銃がないのに、射的なんてあるわけがないのだ。アカリは「ちぇ」と頬を膨らませてタピオカミルクティーを飲んだ。


「ん~、美味しい! ルチアちゃんは……まだ早いですかね?」

「喉に詰まったら危ないですから、フルーツジュースがいいですね」

「フルーツ……あ、屋台を発見! ルチアちゃんのために、アカリお姉ちゃんがすぐ買ってくるからね!!」


 アカリがダッシュで屋台に駆けていくのをみて、ティアラローズはアクアスティードと顔を見合わせて苦笑する。


「アカリ嬢はあんなにはしゃいで疲れ……はしないんだろうな」

「アクアったら……。ですが、今回のお祭りは規模が大きいですから、はしゃぎたくなる気持ちもわかります」


 普段王城にいることもあり、あまり遊ぶことも多くはない。

 実はティアラローズも、先ほどからきょろきょろ視線を動かしている。見た目の可愛いスイーツがたくさんあって、こっそりチェックしているのだ。


「ティアラ、あっちにあるフルーツの水あめはどう?」

「わあぁ、美味しそうですね! しかも見た目が可愛い」


 小さな苺が水あめに包まれていて、一口で食べやすく作られている。苺はマリンフォレストの特産なので、使っている屋台が多い。

 ほかにも、クレープやパウンドケーキなどを販売している屋台もある。


「目移りしてしまいますね」

「そうだね」


 ティアラローズがどれにしようか悩んでいると、「買ってきました~!」と元気いっぱいにアカリが戻って来た。

 その手には、苺ジュースが四つ。どうやら、ルチアローズの分だけではなく、全員に買ってきてくれたようだ。

 ちなみにアカリはとっくにタピオカドリンクを飲み干していた。


「ありがとうございます、アカリ様」

「いえいえ! ルチアちゃんもどうぞ~!」

「あいとー!」


 ルチアローズは苺がたくさん入ったジュースを満面の笑みで受け取り、一口飲む。すると、美味しさのあまりぴょんぴょん跳ねた。


「おいちっ!」

「気に入ってくれた? よかった~! 美味しいねぇ」

「ね~」


 アカリも満面の笑みだ。

 ティアラローズとアクアスティードも苺ジュースを飲み、確かに美味しいと頬が緩む。次は、ティアラローズが何か食べ物を買おう――と思っていたら、前からお祭りを楽しんでる三人組が歩いてきた。


「お、ティアラじゃねぇか」

「キース……! それに、クレイル様にパール様も」

「おぬしたちも来ていたのかえ」

「お祭りもなかなか楽しいね」


 三人組とは、この国に住む妖精の王たちだ。

 普段よりもラフな服装に身を包み、お祭りを楽しんでいるようだ。頭にお面をつけ、食べ物やドリンクを持っている。


 ――思いっきり楽しんでる……!!


 妖精王が人間のお祭りにここまで興味を持つとはと驚きつつ、ティアラローズは淑女の礼で挨拶をする。


「あーそんな堅苦しくするな。お前が礼なんてしたら、目立つだろ」

「キース……。ですが、もうとっくに目立ってます」

「ん?」


 見目麗しい妖精王が三人もいたら、人々の視線が向けられないわけがない。女性がキースとクレイルに熱い視線を向け、男性はパールをチラチラ見ている。

 その視線に気づいたクレイルは、自分がかけていた上着をパールにはおらせる。ついでにフードも被せてしまう。


「何をするのじゃ、クレイル!」

「パールはもう少し自分の美しさを自覚して」

「……ふん。わらわを好むようなもの好きは、おぬしくらいじゃ」


 ぷんと顔を背けるも、パールはクレイルの上着をぎゅっとにぎり嬉しそうだ。



 クマのお面をつけている、森の妖精王キース。

 深緑の髪と、金色の瞳。黒のタンクトップに、ラフな薄緑の上着。腰には緩やかなリボンと、いつも持っている扇がさされている。

 手にはフランクフルトを持って、お祭りを満喫しているようだ。



 魚のお面をつけている、空の妖精王クレイル。

 空色の髪と、金色の瞳。淡い水色のシャツと、黒のパンツ。パールに上着を貸したため、線の細さがよくわかる。

 手にはティアラローズたちと同じ、苺ジュースを持っている。



 鳥のお面をつけている、海の妖精王パール。

 白銀の髪と、金色の瞳。今はクレイルの上着とフードをかぶっているが、和デザインのワンピースは華やかで、パールの存在を引き立てている。

 大好きなタピオカドリンクを持っている。



「まさか、街で会うとは思いませんでした」

「たまにはいいだろ」


 キースはにっと笑い、いろいろ食べ歩いたのだと言う。どうやら、思いのほか人間の食べ物が気に入ったようだ。


「楽しんでいるようで、何よりです」


 ティアラローズが微笑むと、キースは「まあな」と返事をする。


「それに、こうでもしねーとあの二人は出かけないからな」

「ああ……」


 クレイルとパールを見て、ティアラローズは苦笑する。キースは以前放っておけばいいと言っていたが、二人のことを気にかけてくれているようだ。


 すると、キースが「そういえば」と向こうを指さす。


「あっちに魔法シュートがあったぞ。アクア、勝負だ」

「魔法シュート?」

「おう」


 行ってみると、射的のような屋台があった。並べてある景品を、魔法を使って撃ち落とすというゲームのようだ。


「へぇ、こんなゲームがあったのか……」

「ティアラの菓子を賭けて勝負だ」


 感心するアクアスティードと、勝手にティアラローズのお菓子を賭けるキース。

 日ごろからお菓子を作っているので、あまり賭けの商品には向かないのではと思いつつも、ティアラローズは了承する。


「ぱぱ、がんやって~!」

「ルチアにぬいぐるみを取ってくるよ」

「ばっか、俺の方がでかいぬいぐるみを取ってやる!」


 そんなこんなで、ティアラローズたちは存分にお祭りを楽しんだ。

新章!

どうぞよろしくお願いします。

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