表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第11章 嘆きの声と炎霊の石
158/225

8. 大切なお姫様

 風の精霊シルフを案内役に、アクアスティードとキースは三人でエルリィ王国へと向かった。

 ティアラローズはエリオット、タルモとともに王城へ戻り、三人の帰りを待っている。


 ティアラローズたちは

「ティアラローズ様、アクアスティード様ならきっとルチアローズ様を助けだしてくださいます」


 そう言って、エリオットは心配そうにしているティアラローズに紅茶を差し出す。


「ありがとう、エリオット。……でも、やっぱり心配してしまうわね」


 もちろんアクアスティードとキースがルチアローズを連れ帰ってくれるということは、信じている。

 けれど、心配するのはまた別だ。

 どうか無事で戻ってきてと、ティアラローズは祈った。



 ***



「あ~!」


 やっとパパ――アクアスティードに会えたルチアローズは笑顔で、小さな手でぎゅっと抱きついた。


「ああよかった、もっと顔を見せてルチア」

「う?」

「怪我も……ないみたいだね」


 アクアスティードがほっと胸を撫でおろすと、キースが「元気そうだな」とルチアローズの頭を撫でる。

 こちらも安心したようで、ふうと息をついた。


「にしても、連れ去られてここまで堂々としてるとは……さすがだな」


 なんて言って、キースは笑う。


「泣きわめているよりはいいさ」


 と、アクアスティードが返す。


 すると、「あ、あのぅ……」と声をかけられた。

 アクアスティードが視線を向けると、そこにはメイドのドワーフが二人いた。手にはガラガラを持っているので、ルチアローズの世話をしてくれていたのだろうということがわかる。


「姫様とは、どういったご関係でしょうか?」

「とっても嬉しそうにしているので、ご家族でしょうか?」


 おずおず様子を伺いながら問いかけてくるメイドに、アクアスティードは頷く。


「私はこの子――ルチアローズの父親だ。アクアスティード・マリンフォレストだ」

「お父様!」

「とても素敵!!」


 名乗ると、メイドはわっと盛り上がる。


「あら、待って……マリンフォレストって……大国ではなかったかしら?」

「そうだわ、本で読んだことがあるわ。ノーム様、そんなすごいところから姫様を連れてきてしまったの?」


 とたんに、メイド二人の顔が青くなる。


「まさかマリンフォレストの姫様だとは知らず、大変失礼いたしました!!」

「姫様には、傷一つつけておりません!!」


 メイドたちはすかさず頭を下げ、非礼を詫びる。

 しかし、謝ったから、はい許します……というわけにもいかない。どうしたものかとアクアスティードが思案していると、ルチアローズが「あー」とメイドたちに手を伸ばした。


「ルチア?」

「姫様……? あ、もしかしてこれがほしいのでしょうか?」


 メイドは手に持っていたガラガラを振って、ルチアローズに見せる。するとルチアローズが手を伸ばしたので、メイドがガラガラを渡してくれた。

 どうやら、随分と気に入っているようだ。ぎゅっと握りしめて、ルチアローズはアクアスティードに振ってみせた。


「上手だね、ルチア」

「あいっ」


 どうやらアクアスティードに見せたかったようだ。


 さらによくよく部屋の中を見回すと、たくさんのおもちゃがあることがわかる。ガラガラやぬいぐるみなど、可愛らしいものが多い。

 けれど、その中でひときわ目を引いたのが――岩で出来た獅子のおもちゃだ。


 ――ドワーフが作った、のか?

 それともノームが?


 どちらにしろ、かなり精密に作られているなとアクアスティードは思う。かなりの腕がなければ、この完成度には届かないだろう。


「あ、あーっ」


 アクアスティードが見ていたからか、ルチアローズは岩の獅子へ手を伸ばす。どうやら、獅子で遊びたいみたいだ。


「駄目だよ、ルチア。ママが待っているから、今は一緒に帰ろう。ね?」

「うー……あう」


 言い聞かせるアクアスティードの言葉に、ルチアローズは素直に頷いてくれた。ママという単語を聞き取ることが出来たのだろう。


「わかるのか、偉いな」

「あー!」


 キースはそう言いながら、じっとルチアローズのことを見つめる。その瞳はとても真剣で、アクアスティードは「どうした?」と問う。


「……ルチアの魔力が、かなり増えてるな。おそらく、ノームと接触したのが原因だろう」

「なら、一刻も早くここから離れた方がいい」


 アクアスティードがすぐに踵を返すと、『キース様~!』というシルフの声。


「あ、馬鹿! こっちに来るな!」

『え?』


 キースの声を聞き、シルフはピタリと足を止める。


「んで、共鳴しないように魔力を抑えろ!」

『は、はいっ!』


 シルフはキースに言われた通り、自分の魔力を抑えた。これで、何かに影響を与えるようなことはないのだが……いったいどうして? と、首を傾げる。

 そしてルチアローズを見つめ……ハッと目を見開いた。


『その子、サラマンダー様の魔力がある!? まさか、こんな赤ちゃんに……。だから私に、魔力を抑えろって言ったのね』


 なるほどなるほどと、シルフは頷く。

 そしてルチアローズをまじまじと見て、その魔力の大きさに驚いた。


『すごい魔力。まだコントロールがちゃんと出来ていないのね。しかも、かなりギリギリのラインっぽい……私が魔力を抑えてなかったら、きっと暴走してたわね』


 暴走したら、鉱石の城ごと爆発してしまうだろう。怪我人も多く出るだろうし、最悪、空部分まで崩れてエルリィ王国が埋まってしまったかもしれない。

 そう考えると、ぞっとする。


「あう?」

「ああ、大丈夫だよルチア。大きな声でびっくりしてしまったね」


 目をぱちぱち瞬かせているルチアローズを撫でて、アクアスティードは「行こう」とキースとシルフに声をかける。


「そうだな、ティアラが心配してる」


 キースが同意するも、シルフが『待って』と声をかけた。


『もちろん帰るんだけど……でも、ノームの姿が見えないわね……ねえ、あなたたちノームを知らない?』


 シルフは、姿の見えないノームのことが気になったようだ。

 もちろんアクアスティードとキースも気がかりではあったけれど、それよりもルチアローズを連れて帰る方が重要だった。

 どちらにしろ、後でまた来ればいい――と。


 問われたメイドは、目を泳がせて顔を見合わせる。

 しかし、シルフに隠し事は出来ないと思ったのだろう。素直に口を開いた。


「その……ノーム様は、炎霊を見に行っています」

「その後は……少し出かけてくる、と」

『出かける? 引きこもりのノームが?』


 いったいどこに? とシルフが問うも、メイドは「知りません」と首を振る。


「つまり、ルチアを攫った張本人は不在っていうわけか」

『……そういうことになるわね。炎霊のところにいけば、もしかしたらいるかもしれないけど』

「あれは後回しでいい。ティアラのところに帰るぞ」

『わかったわ』


 ノームには会わなければいけないが、優先順位はルチアローズの方が高い。

 アクアスティードは顔を見合わせ、鉱石の城を後にした。



 ***



「あ~!」

「……ルチアっ!!」


 アクアスティードたちがフィラルシアの王城へ戻ると、ルチアローズを見たティアラローズの瞳から大粒の涙が零れた。

 とめどなくあふれるそれは、止められそうにない。


「ああ、ルチア……アクア、キース、それからシルフ様。ありがとうございます」

「ただいま、ティアラ」

「ノームはいなかったが、後できつく懲らしめてやるよ」

『ただいま戻りました』

「よかった、みんな無事で」


 ティアラローズは、ルチアローズを抱いているアクアスティードごと抱きしめる。大好きな二人の温もりに、心の底からほっとする。

 ルチアローズもティアラローズを見たらほっとしたようで、アクアスティードに抱っこされて笑顔だったのに、表情がゆがむ。


「ふええぇ、あぁんっ」

「ああ、ルチア。もう大丈夫よ、ママもパパもいるわ」

「えぇぇんっ」

「ティアラに会えて、安心したんだろうね」


 二人がぼろぼろ泣くので、アクアスティードは優しくティアラローズを抱き寄せる。まるで、小さな子どもが二人いるみたいだ。


「ごめんなさい、わたくし涙が止まらなくて……っ」

「思いっきり泣いていいよ。止まるまで、ずっと抱きしめていてあげるから」

「アクア……」

「ふえぇ」



 家族水入らずとなってしまった三人を見て、キースはやれやれと肩をすくめる。


「今は三人にしといてやるか」

『そうですね。なら私たちは――デートでもしませんかっ? キース様!』

「ひとまずクレイルにでも連絡するかな……」

『あぁ素っ気ない……』


 キースはシルフの言葉は聞かなかったことにして、部屋を後にした。



「はー、思ったより早く解決してよかったぜ」


 屋上へとやってきたキースは、ぐぐっと伸びをして眼前にそびえる山々を見る。

 ゆっくり昇ってくる朝日に目を細めながら、こんな精霊がいる地はとっとと退散したいものだと思う。


「ルチアにどんな影響があるかわからないからな」


 ああでも。


「ノームの野郎に借りは返さないと気がすまないけどな」


 人間同士の問題であれば、アクアスティードにすべて任せようと思っていた。しかし、土の精霊ノームとエルリィ王国では話が別だ。

 エルリィ王国なんて誰も知らないし、人間の法が及ぶ場所ではない。


 まったくやっかいなものだと、キースは笑う。


「まあ、その分――俺が許さないけどな」

『また物騒なことを口にしているな』

「――! クレイルか」


 一陣の風が、クレイルの声を届けた。

 クレイルの使う風の魔法で、遠くの相手と会話をすることが可能。風が吹くところであれば、どこまででも声を届けることが出来る。


『そっちはどうなったの?』

「ルチアは無事だ」

『それはよかった。ノームの目的はわかったの?』


 クレイルの問いに、キースはエルリィ王国のドワーフたちが話していたことを伝える。

 鍛冶を行うために使われている炎霊が消えかかっていて、その火を強めるためにルチアローズのサラマンダーの魔力を必要としたのだろうということ。


「あと、嫌な報告も一つ」

『……共鳴か』

「正解」


再会したルチアローズは、以前よりも魔力が増えていた。それは間違いなく、ノームが近づいたことによって起こったことだ。

 まだ魔力制御が上手く出来ない子どもなので、かなり危ない状態だと言っていいだろう。


 キースはため息をつく。


「今はまだ指輪が魔力を吸い取ってるが、いつ壊れるかわからないぞ?」

『だろうね。だから言ったんだよ。キースは、ルチアローズに祝福をするな……と』

「……ああ、そんなことも言ってたな」


 森の書庫で、クレイルがキースに言った言葉だ。


『キースの祝福は――』

「ルチアがどうしようもなくなったとき、助けるために最善のものを贈れ……だろ。わかってるさ、それくらい」


 言われなくてもそうするつもりだと、キースがくつくつ笑う。

 もう駄目だとルチアローズが絶望の淵に立ったとしても、自分の祝福で助けるのだと――キースは心に決めている。


 しかしふいに、キースの顔から表情が消える。


『キース?』


 何かを察したクレイルは、キースを呼ぶ。しばしの沈黙の後、キースの口からもれたのはため息だ。


「明日にでも帰る予定だったが……ちょっと面倒なことになりそうだな」


 舌打ちしながら頭をかいて、キースはクレイルに「また連絡する」と言って屋上を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ