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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第11章 嘆きの声と炎霊の石
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6. シルフの国とノームの国

『私に用……?』

「ああ」


 キースの言葉に、シルフは訝しむような眼を向けてくる。――が、キースはそんなことを気にするような男ではない。

 ティアラローズたちがフィラルシアに来た目的は、シルフに会い、精霊たち――特にノームの情報を得ること。そしてそれは、ルチアローズの救出にも関わってくる。


「ルチアの魔力がこの国にあるっていうのは、もう確認済みなんだよ」

『……?』


 エメラルドに声をかけられるまでのわずかな時間で、キースはしっかりとルチアローズの魔力を見つけていた。

 明確な位置まではわからなかったが、この国の地下だということまではわかった。


『いったいなんの話を――』

「お前、ノームの居場所を教えろ」

『な……っ』


 高圧的なキースの物言いに、シルフは絶句する。そしてすぐに、『嫌よ!』と声をあげる。どうして自分が見ず知らずの男に、と。


「居場所を知ってるみたいだな」

「知っているの!?」


 キースの言葉に続き、ティアラローズがシルフを見つめる。

 つい先ほどの、キースがルチアローズの魔力にたどり着いたということだけでも嬉しいというのに、ノームの場所へ行く希望が一気に広がった。


 ティアラローズは一歩前に出て、シルフに向かって頭を下げる。


「シルフ様、どうかノーム様の居場所を教えてくださいませ」

『な、なによ……っ』


 シルフは真摯なティアラローズに戸惑い、エメラルドの後ろへと逃げてしまう。


「いったいどういうことですの? ティアラローズ様、理由をお話ししてくださいますか?」


 おそらく今、一番混乱しているのはエメラルドだろう。

 ティアラローズたちがシルフの存在を知っているだけでも驚いたのに、さらにはノームの居場所を教えろと詰め寄っているのだから。


 エメラルドから見たら、こちらが悪役かもしれない。

 ここは正直に理由を話し、協力をお願いした方がいいだろう。心優しいエメラルドなら、きっと力になってくれるはずだ。

 そう思い、ティアラローズが口を開こうとしたのだが――『嫌よ!』とシルフがべーっと舌を出した。


『エメラルド、こんな奴らを相手にする必要なんてないわよ!』

「シルフ、そんなことを言ってはいけないわ。きっと、何か理由があるのだから……」

『嫌よっ!』


 エメラルドが嫌がるシルフを説得しようとするが、風の力を使いその場から姿を消してしまった。


「シルフ様……っ!」


 ティアラローズがとっさに手を伸ばして引き留めようとしたが、その手は宙を掴んだだけだった。


「ごめんなさい。シルフはああ見えて、人見知りのところがあるの。シルフが失礼な態度をとってしまったわね、謝りますわ」

「……いいえ。こちらこそ、突然すみません」


 あまりにも急展開過ぎて、物事の順序を忘れてしまっていた。ティアラローズは頭を下げ、エメラルドに謝罪する。


「わたくしは気にしていません。とても大変な事情があるということは、わかりますもの」

「エメラルド姫、事情は私からお話しさせてください」

「アクアスティード陛下……ええ、お願いしますわ。ここではなんですから、わたくしの部屋へ行きましょう」


 ティアラローズたちは屋上からエメラルドの部屋に場所を移して、アクアスティードがことの事情を説明した。




 エメラルドは深刻な表情で手を組み、深く息をはく。

 最初に用意された紅茶は、もうすっかり冷めてしまった。


「まさか、そのようなことが起っていたなんて……」


 事情を聞いたエメラルドは、頭がくらりとした。だってまさか、ノームが大国の姫を誘拐したなんて……信じられなかったからだ。

 しかしそれが事実であれば、国際問題になることは必至。ノームの国が認められていないとはいえ、フィラルシアに接点があることはすでにアクアスティードの知るところ。


 ティアラローズは用意してもらった紅茶を飲み、心を落ち着かせる。先ほどよりは、ずいぶん落ち着いた。

 それでも、早くルチアローズを助けに行きたいという気持ちはかわらない。


 エメラルドはティアラローズを見て、心配そうに眉を下げる。


「ルチアローズ様が攫われたとあっては、心配で夜も眠れませんわね。……土の精霊ノーム様は、わが国と交流があります」

「本当ですか!?」

「はい。ノーム様に直接お会いしたことはないのですが、食料の取引をしているんです。ですが、その取次ぎをしているのはシルフなんです」


 なので、エメラルドではノームのいる地に案内することはできない。どうにかして、シルフを説得するほかないのだ。

 エメラルドは、自分が知る数少ない情報だけれどと前置きしてノームの国のことを話してくれた。


「ノーム様の治める地は、ここフィラルシアにあります。……正確には、地下への入り口がある、と言った方がいいでしょうか」


 そのため、正確な国の広さはわからないのだとエメラルド言う。


「エルリィ王国という、ノーム様が頂点に立つドワーフたちの国です」

「ドワーフ!?」


 エメラルドの言葉に、ティアラローズは驚く。


「驚くのも無理はありませんね。ドワーフは、空想上の生き物だと思われていましたから」

「はい……。まさか存在しているなんて、思ってもみませんでした」


 ――この世界は、知らないことがまだまだ多すぎる。


 妖精まではゲームでも出てくる設定だったけれど、精霊やドワーフはまったくの予想外だ。このままでは、ドラゴンなんかも出てきてしまうのではないだろうか。


「彼らは、鍛冶をして生きています」

「鍛冶、ですか」

「はい」


 鍛冶といえば、剣などの武器。


 ――確かに、ドワーフが鍛冶職人の漫画やゲームは多かったわね。


 ティアラローズはそんなことを考えていたが、隣にいるアクアスティードは深刻な表情でエメラルドを見た。


「食料の取引をしていると、言いましたね。それは、彼らの作った武器と……ということでしょうか?」

「――っ!」


 アクアスティードの言葉を聞いて、ティアラローズはハッとする。


 ――そうか、ドワーフの武器がすべてフィラルシアに流れているとしたら……。

 平和な小国ではなく、驚異的な武器を持つ国という判定をしなければいけなくなる。それは近隣諸国への脅威にもなりえる。


 しかし、アクアスティードの心配は杞憂に終わった。


「確かに武器もありますが、それはごく少数です。取引している主なものは、道具類です」


 エメラルドの言葉に、ほっと胸を撫でおろす。


「この国は、戦に手を染めたりはしません。ドワーフたちが作ってくれるのは、風車の部品や、農具。それからフライパンなどの調理器具と、お菓子などを作るときに使う型などですね」

「お菓子の道具をドワーフたちが……!?」


 素敵なワードが出てきて、思わず反応してしまった。

 ティアラローズは口元に手を当てて、「続けてください」と微笑む。


「わたくしが知っているのは、これくらいです。ただ、ドワーフたちは……気難しいところもありますが、優しい種族です」


 自ら進んで争いに行くタイプではないと、エメラルドは言う。


「ノーム様はなぜルチアローズ様を連れ去ったりしたのでしょう。シルフから話を聞いたことはありますが、ノーム様は引きこもって地下から出ず、人間と交流を持つような方ではないそうです」


 ノームの性格が多少見えたような気もするが、まだまだ情報は少ない。

 やはりシルフに取り次いでもらう以外はないと、今度はアクアスティードが口を開く。


「それは直接聞いてみるしかありませんね。エメラルド姫、もう一度シルフ様と話をすることは可能ですか?」

「わたくしからも、シルフにお願いしてみますわ」

「ありがとうございます」


 エメラルドは空へ手を差し伸べて、先ほどと同じようにシルフを呼んだ。


『……なによ。私は、そいつらなんて知らないのに』


 シルフは再び現れたものの、ぷいっと顔を背けてしまった。そしてまた、エメラルドの後ろに隠れてしまう。

 しかしエメラルドが呼んだら来てくれたので、根はいい子なのかもしれない。


「そんなに隠れるものではないわ、シルフ。ティアラローズ様たちが困っているから、協力してほしいのよ」

『どうして私が、そんなことを……』


 絶対に嫌――と、シルフはそう続けようとしたのだろう。しかしそれは、キースの睨みによって続かなかった。


「お前、いい加減にしろ。こっちは急いでるんだ」


 キースはそう言って椅子から立ち上がると、シルフの方へとずかずか歩いていく。

 しかしシルフも、後ずさってキースから距離をとる。


『な、なによ! 私は風の精霊シルフよ! そんな風に脅していいと思ってるの!?』

「はっ、精霊がそんなに偉いのか?」

『……っ!?』


 シルフが部屋の隅まで下がって退路が塞がると、キースが拳を壁にぶつける。


『きゃっ!』


 戸惑い涙目になるシルフを見て、ティアラローズが慌てて立ち上がる。確かに急いではいたが、ここまで強硬手段に出てしまうなんて。


「キース、乱暴は――」


 すぐに止めようとすると、キースが左手でティアラローズの言葉を制止する。


「わかってるよ、俺だって本気じゃない。――が、お前はまだ若い精霊だろう? さすがに俺くらい生きていれば、その程度はわかる」

『えっ、えっ、え……っ?』

「なんだ、俺が人間じゃないことはわかっても、正体まではわからなかったのか」


 シルフの反応を見て、キースはくつくつ笑う。


「俺は森の妖精王だ。若い精霊ごときが、勝てると思うな」

『~~っ!』


 だから駄々をこねて、こちらを困らせるんじゃない。キースがそう言うと、シルフは口を噤んで涙目になってしまった。


 その様子を見ていたエメラルドは、「まあ……」と頬を緩める。

 今まで、シルフは風の精霊として常に上位に立っていた。この国ではエメラルドとしか交流はないが、常に自分が上であるという自覚があった。


 しかし、そんなシルフの前に初めて――自分よりも、格上の存在が現れた。逆らってはいけない相手が、いたのだ。


『私は、私は……』

「なんだ、まだ教えないっていうのか?」


 キースがもうひと睨みすると、シルフはぶんぶん首を振った。


『私、キース様のためならなんでもしちゃいます!』

「……は?」


 今度はキースの目が点になった。

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