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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第11章 嘆きの声と炎霊の石
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5. 手掛かりを求めて

 道中ラピスラズリ王国へ少し滞在し、フィラルシア王国へやってきた。時刻は夕方で、オレンジ色に染まった空が美しい。

 ラピスラズリの国境を抜けてフィラルシアに入ると、爽やかな風が吹き抜ける。確かに、風の精霊シルフがいそうだとティアラローズは思う。

 フィラルシアは穏やかな気候で、多くの水車を見ることが出来る。田畑が広がっていて、自給力の高さが伺える。



 フィラルシアの王城は、大きな風車が設置してある、レンガ造りの可愛らしいお城だった。

 ティアラローズたちが到着すると、すぐに歓迎を受けた。挨拶をしてくれたのは、王女のエメラルドだ。


「ようこそおいでくださいました、アクアスティード陛下。そしてティアラローズ様、またお会い出来てとても嬉しいです」

「突然の訪問にも関わらず、歓迎感謝します」

「わたくしも、エメラルド様にお会い出来るのを楽しみにしていました」


 エメラルドに、アクアスティードとティアラローズは挨拶を返す。そして、突然の訪問になってしまったことを謝罪する。

 しかし、エメラルドは「気になさらないで」と微笑んでくれた。



 フィラルシア王国の王女、エメラルド・フィラルシア。

 色素の薄い金色の髪は、ゆるいウェーブがかかり、腰ほどまで長さがある。おっとりとした、たれ目がちな黄緑色の瞳。その顔立ちから、彼女の温厚さがわかる。

 布を幾重にも折り重ねたドレスはどこか民族衣装を思わせるもので、中央で前髪をわけた額には宝石のサークレットが付けられている。



「ティアラローズ様とたくさんお話しできると嬉しいですわ。それから、そちらの方たちは初めましてですわね」

「ええ。今回の同行者です」


 アクアスティードがそう言うと、エリオットとタルモが一歩前に出る。


「お初にお目にかかります、エメラルド様。アクアスティード陛下の側近、エリオット・コーラルシアです。どうぞお見知りおきを」

「ティアラローズ様の護衛騎士、タルモです」

「お二人とも、よろしくお願いいたしますね」


 次に、ティアラローズが紹介しようとキースを見る。


 ――森の妖精王だということは、黙っていた方がいいのかしら?

 ティアラローズがどうすべきか悩んでいると、先にキースが口を開いてしまった。


「俺は森の妖精王、キースだ。ティアラとアクアには祝福を贈っているゆえ、同行している」

「――っ!」


 キースの言葉に、エメラルドは目を大きく見開いた。そしてすぐに、深々と腰を折る。


「妖精王だとは知らず、ご無礼いたしました。わたくしはエメラルド・フィラルシア。滞在中は、どうぞごゆっくりしてくださいませ」

「ああ、感謝する」



 挨拶を終えると、メイドがそれぞれの部屋へと案内をしてくれた。

 室内の窓からは気持ちのいい風が入り、ティアラローズの長い髪をくすぐる。大きく深呼吸をして、ティアラローズはソファへ腰かけた。


「ふう……。やっとフィラルシアに着きましたね」

「疲れてはいない? この後は国王陛下との晩餐だから、少し休んでいた方がいい」

「いえ、わたくしは大丈夫です!」


 すぐにでもルチアローズの手掛かりを探したいので、休んでいる時間が勿体ない。そんなティアラローズを見て、アクアスティードは苦笑する。


「気持ちはわかるんだけどね……」


 アクアスティードは用意されていた果実水を持って、ティアラローズの隣に座る。


「もう少ししたら、国王陛下が歓迎の晩餐会を開いてくれる。そのときにちゃんと話が出来るよう、今は休憩するのも大事だよ。そのあとは自由に行動できると思うから、精霊の手掛かりを探そう」

「……はい」


 優しいアクアスティードの手に頭を撫でられて、ティアラローズは頷く。

 そしてどうかシルフの情報を得られますようにと、そう思いながら目を閉じる。すると、どっと眠気が襲ってきた。


「あ……」

「うん?」

「……いえ。一気に眠気が襲ってきたので、驚いてしまって」

「あれだけ馬を飛ばしていたんだから、当然だよ」


 別に不思議なことではないと、アクアスティードが微笑む。


「食事の時間まで、私の膝を貸してあげるよ」

「それでは、アクアが眠れないじゃないですか……」

「私は馬も慣れているからね、大丈夫だよ。それより、こうしてティアラに触れている方が休まる」


 だからこのままでいいと、アクアスティードがティアラローズを自分の膝へと引き寄せた。


「あったかい」

「休まりそう?」

「……はい。すごく元気になれそうです」


 アクアスティードの問いかけにくすくす笑い、ティアラローズはもう一度目を閉じる。すると、すぐに眠りへと落ちてしまった。



 ***




 一時間ほどして、歓迎の晩餐会となった。

 フィリーネがまだ到着していないので、王城のメイドに支度を手伝ってもらい準備を終えた。

 レースを使った水色のドレスに、マリンフォレスト特産の珊瑚の装飾品を身に着ける。髪型はアップスタイルで、いつもと違う雰囲気に仕上がった。



「ようこそ、フィラルシアへ。アクアスティード陛下、ティアラローズ様。お会い出来て嬉しいです」

「突然の訪問でしたが、このような席まで設けていただき、ありがとうございます」

「ありがとうございます。お会い出来て、とても嬉しいです」



 晩餐の席で迎えてくれたのは、国王のエドモン・フィラルシア。

 栗色の髪と、長い顎鬚。瞳はエメラルドと同じ黄緑色で、同じく少したれ目がちだ。やせ型体系で、年齢は五十代。

 エメラルドは遅くに出来た一人娘で、とても可愛がっている。



 挨拶を終えると、なごやかに晩餐が始まった。

 他愛のない話を行いつつ、エドモンが今回の訪問に関することを聞いてくる。


「魔法に関することと、文化の交流……ということでしたね。フィラルシアはどうにも田舎でしてね、今日をとても楽しみにしていたんですよ」


 そう言って、エドモンは笑う。

 今の通り、フィラルシアには魔法と文化の交流をしませんか、ということで訪問を行っている。

 この二つであれば、歴史や風関連の魔法の話題を出しても自然だからだ。


 アクアスティードは微笑み、「田舎だなんて……」と首を振る。


「フィラルシアは風が気持ちよく、風車の回っている街の風景は美しいと思います。この風は、昔から?」

「ええ。風はフィラルシアの自慢でして、今では生活に欠かせない大事なものになっていますよ。高い山や深い谷が多くある地形でして、風が吹くんです」

「なるほど……」


 確かに、その地形であれば風も吹きやすいだろう。

 アクアスティードは思案しつつ、歴史の話題をエドモンに振る。もしかしたら、シルフの話題が出るかもしれない。


「マリンフォレストには古くから妖精がいることもあって、遺跡など、そういった文化財はほとんどないのですよ。フィラルシアは、そういったものは……?」

「遺跡でしたら、いくつか……」


 エドモンは笑顔で、アクアスティードの質問に答えてくれる。

 それからしばらく話を続けたが、残念ながら有益な情報を得ることはできずに晩餐会は終わってしまった。


 しかしどうも、エドモンはシルフのことを知らないようだった。



 ***



 ティアラローズたちは部屋に戻り、着替えてからため息を一つ。


「なんの情報も得られませんでしたね……」

「うん……。エドモン陛下は、本当に何も知らない様子だったね」

「シルフ様はこの国にいないのかしら。もしかしたら、ノーム様の居場所を知っているかもしれないのに」


 手掛かりがないのだとしたら、すぐに次の手を考えなければいけない。

 しかし今は、この周辺にルチアローズの魔力がないか確認するのが先だ。ティアラローズは、アクアスティードとキースの三人で屋上へと上がった。



「キース、お願いできる?」

「ああ。アクア、お前も一緒にやれ」

「わかった」


 今から、この国にルチアローズの魔力があるか気配を探ってもらう。明確な位置はわからないかもしれないが、何か手掛かりをつかめるかもしれない。


 キースが集中すると、周囲に淡い緑の魔力の光が浮かび上がった。アクアスティードも同じようにすると、金色の光が浮かび上がる。

 その光景に、ティアラローズは思わず目を奪われてしまう。


 ――すごい。


 しかしそう思ったのもつかの間で、第三者の「すごいですわ!」という声が響く。


「これは魔力の光? とっても綺麗」

「エメラルド姫!?」


 エメラルドはのんびりした様子だが、ティアラローズたちは焦る。

 屋上で魔法を使い何かをしていたら、怪しまれても仕方がないからだ。もしかしたら、国に何か害のあることをしようとしたと思われたかもしれない。


「ああくそ、ルチアを捜すのに集中してたせいか気づかなかった」

「エメラルド姫は、どうにも気配が薄いな……」


 キースとアクアスティードが小声で呟き、いったん行動をやめる。

 なんて言い訳をすればいい? しかしその結論が出るよりも先に、王女に驚かされてしまった。


「わたくしもできるわ。ねえシルフ、少し力を貸して」


 エメラルドがそう言うと、彼女の体を淡い光が包み込んだ。黄緑色の、風を思わせる、優しいけれど力強い光。

 とても美しく幻想的な絵になるのだが――それをのんびり見ているわけにはいかない。エメラルドが、聞き逃せない一言を発したからだ。


「風の精霊――!?」


 ティアラローズたち三人の声が重なった。

 すると、エメラルドはぱちぱちと目を瞬かせる。


「え、やだ、シルフのことを知っていたの? でも、そうよね……マリンフォレストには妖精がいるのだから、精霊の存在を知っていてもおかしくありませんわね」


 エメラルドは苦笑しながらも、何もない空間に手を伸ばす。


「いらっしゃいな、シルフ」

『――なあに、エメラルド』


 小さな突風のあと、風の精霊シルフがエメラルドの手を取り顕現した。


「魔法だと勘違いしてくれると思って、シルフの力を借りたのよ。ばれてしまうなんて、思わなかったわ」

『……誰? この人たち。一人は、人間じゃないみたいね』



 風の精霊、シルフ。

 黄緑色の髪をポニーテールにしている、勝気な緑色の瞳の女の子。外見年齢は、十代の後半といったところだろうか。

 肌の露出が高い衣装に身を包み、こちらを値踏みするかのように見てきている。



 ティアラローズはあまりよい印象は持ってもらえていなさそうだと焦るが、隣にいたキースが笑った。


「ちょうどいい、俺たちはシルフに用があってきたんだ」

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