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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第11章 嘆きの声と炎霊の石
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2. 精霊に関する報告

「はー、疲れた! 休憩だ!!」

「キースは探し物が下手というか……散らかしながらじゃないとできないの?」


 ぐぐっと伸びをするキースに、クレイルはやれやれとため息をつく。見ると、森の書庫の本たちはキースが読みやすいように大きく成長していた。


「でもまあ、知りたいことはだいたいわかっただろ。ティアラのところに行って、菓子でも食おうぜ」

「まったく……」



 植物の本を管理下に置く、森の妖精王キース。

 深緑色の長髪を一つにくくり、前に流している。勝気な瞳は威圧感があり、王の証である金色だ。



 アクアスティードに祝福を贈る、空の妖精王クレイル。

 空色の髪はきっちり切り揃えられ、冷静な瞳は王の証である金色。落ち着いているけれど、パールのためなら女装もしてしまう。



 二人はルチアローズのために、キースの城にある『森の書庫』で精霊に関する事柄を調べていた。

 ルチアローズは火の精霊サラマンダーの力をその身に宿し、強大な魔力を持っている。

 また、精霊に出会うと魔力が共鳴をし、増大してしまう可能性がある。成長とともに増え、魔力の扱いを覚えていけたらいいのだが、そうでない場合は――暴走してしまう可能性が高い。

 それだけは、なんとしても防がなければいけない。

 そのため、キースとクレイルは精霊に関しての調べ物をしていたのだ。


「とはいえ、さすがに精霊関係は情報も少ないな。私たち妖精は特に関わり合いになることもなかったから、仕方がないかもしれないが……」


 こんなことになるならば、関わりを持っておけばよかったとクレイルは思う。

 そんなクレイルの様子に気付いたからか、キースが「過去はどうしようもねえだろ!」と一蹴する。


「今からだって、遅くはないさ」

「キースくらい楽天的になれたらいいなと思うことがあるよ」

「お前な……」


 そう言いながら、二人は転移をして森の書庫を後にした。



 ***



 場所は変わり、マリンフォレストの王城。

 ティアラローズ、アクアスティード、フィリーネ、エリオット、タルモが集まり、精霊に関する話し合いを行っていた。

 ルチアローズは、妖精たちが面倒を見てくれている。



「どうにかして精霊の居場所をと思ったんですが……すみません、収穫はほとんどありません」


 面目ないと、エリオットが項垂れる。


「精霊の存在は、お伽噺と思われていましたからね。……ですが、ルチアローズ様のためにどうにかして見つけなければ」


 探し出すのは困難だと、フィリーネも厳しい顔を見せる。

 しかし可愛いルチアローズのために、やらねばならぬと燃えている。



 アクアスティードの側近、エリオット・コーラルシア。

 今は男爵位を授かり、王城の近くの屋敷で妻のフィリーネと暮らしている。諜報活動が得意なのだが、今回ばかりは苦戦を強いられているようだ。



 ティアラローズの侍女、フィリーネ・コーラルシア。

 黄緑の髪と、セピアの瞳。ティアラローズのことが大好きで、小さなころから仕えてくれている信頼できる人物だ。

 今はエリオットと結婚し、幸せな生活を送っている。



「いや、ご苦労だった。しかしほとんどないということは、多少はあったということだろう? エリオット」

「はい」


 アクアスティードは真剣な表情でエリオットを見て、続きを促す。


「まったくの手掛かりのない精霊は、風の精霊シルフと、土の精霊ノームです」



 精霊は、火のサラマンダー、水のウンディーネ、風のシルフ、土のノームが存在する。

 この中で、サラマンダーはサンドローズ帝国にいることがわかっている。ただ、彼女にもほかの精霊たちの居場所はわからない。

 ウンディーネは、どうやらティアラローズの義弟ダレルの師匠だと思われる。しかし、今は泡となり消え――その力の一端がダレルに受け継がれているのではと推測されている。

 サラマンダー、ウンディーネはすでにルチアローズと共鳴しているので、残る精霊はシルフとノームの二人だけ。


「ウンディーネ様はわかりませんが、サラマンダー様は砂漠の国であるサンドローズにいらっしゃいます。そのことから、それぞれの力に近しい場所にいる……と考えます」


 それをもとに調査した結果、とても風が豊かな国がすぐ近くにあることにエリオットは気付いた。

 その国は、ラピスラズリ王国の、マリンフォレストとは逆位置にある小さな国フィラルシア。

 王国には風車が並び、何をするにしても風の力が大きな恵みをもたらしている。


「フィラルシアで発掘された遺跡の中に、シルフ様に関する伝承のようなものがあるそうです」


 ただ、それがあったからといってシルフがフィラルシアにいるというわけではない。風の豊かな国が、精霊シルフを象徴しているだけかもしれない。

 しかし、現時点では一番有力候補だとエリオットは思っている。


「ですので、私の見解としては……フィラルシア王国に風の精霊がいるのでは、と」

「調べてみる価値はあるな」


 アクアスティードはエリオットの言葉に頷き、フィラルシアと連絡を取る必要があると考える。


「アクア、フィラルシアのことはわたくしに任せてくださいませ」

「ティアラ?」

「実は、フィラルシアには行ったことがあるのです。エメラルド姫とは交流がありますので、話を通しやすいかと思います」


 ティアラローズは、フィラルシアに行ったときのことを思い出す。

 フィラルシアに行ったのは、両親とフィリーネとの旅行だった。その際、王城に顔を出してあいさつをしたのだ。


 ――エメラルド姫は元気かしら?


 フィラルシアの第一王女エメラルドはティアラローズと同じ年なので、わずかな滞在期間だったけれどとても仲良くなった。

 また会う機会ができたことは、素直に嬉しく思う。


「なら、この件はティアラに任せる」

「はい」


 アクアスティードの言葉に頷いて、ティアラローズはふと考える。


「フィラルシアに行くとなると……」


 ――アカリ様が関わってきそうね。


 そう考えて、苦笑する。

 フィラルシアに行くには、ラピスラズリを通って行くのが一番速い。これは、事前に連絡をしておいた方がよさそうだ。


 考え込んでしまったティアラローズを見て、アクアスティードが「何か懸念事項があった?」と心配してくれた。

 それにゆっくり首を振り、ティアラローズは苦笑する。


「アカリ様が一緒に行くと言いそうだなぁ……と」

「ああ……」


 ティアラローズの言葉に、全員の言葉が重なった。アカリに対する認識は、みんな同じようだ。

 しかし、聖なる祈りの使い手であり、この乙女ゲームのヒロインポジションにいるアカリは何かと頼りになる。


 とりあえず相談しよう。

 ティアラローズがそう思っていると、室内に一陣の風が吹いてキースとクレイルが姿を現した。


「よう、ティアラの菓子を食べに来たぞ」

「精霊の話し合い、お疲れ」

「キース、クレイル様!」


 二人が空いているソファに腰掛けると、フィリーネがすぐに紅茶とお菓子の準備をする。キースの要望通り、ティアラローズが焼いたクッキーだ。

 さっそく食べるキースを横目で見つつ、クレイルは精霊に関しての話を始めた。


「さっきまでの話は聞いていたよ。確かに、フィラルシアはシルフにとって心地いい環境だろうね」

「クレイルがそう言うなら、可能性はかなり高そうだ。……だが、ノームの情報がまったくない」


 アクアスティードはそう返しながら、ノームが好む土地を考えてみるが……こればかりは、特定が難しい。

 宝石や鉱石が豊富……ということかもしれないが、それが公になっているかと問われれば、否。隠し鉱山などもあるので、調べるのは容易ではないだろう。


 ため息をつきそうなアクアスティードを見て、クレイルはくすりと笑う。


「ノームの居場所はわからないけれど……彼らは地下にいるようだ」

「地下に?」


 クレイルの言葉に、ティアラローズたちは驚く。だってまさか、そんなところに住んでいるなんて思わなかった。


「ただ、その場所まではわからなかった」

「いや……それでも助かる、ありがとうクレイル」


 アクアスティードが礼を告げると、クッキーを食べ終えたキースが口を開く。


「ノームはほとんど他者と交流をしないらしいから、そうそう会うこともないだろう」

「そうなのね。ルチアと接触しないのであれば、いきなり魔力が増えて暴走してしまうこともないものね」


 キースの言葉に、ティアラローズはほっと胸を撫でおろす。

 ルチアローズが成長し、魔力の操作を覚えてしまえばきっと大丈夫だろう。それまでは、自分がしっかり守らなければとティアラローズは気を引きしめる。


「しっかし、精霊の情報は本当に少ないな。俺たちもずっとマリンフォレストにいたから、知らないことが多い」

「こればかりは、仕方がないです。でも、キースはどこでノームの情報を?」

「俺の城の書庫だ。いろいろと記録してはあるが、すべての知識があるわけじゃないからな」


 ――キースのお城に書庫があったのね。


 ティアラローズが驚くと、キースが「なんだ?」とこちらを見た。


「キースと本があまり結びつかなくて」

「お前な……俺だって読み物くらいするさ」

「そうよね、ごめんなさい。書庫で精霊のことを調べてくれてありがとう、キース」

「ああ」


 妖精王が味方というだけで、なんとも心強い。

 しかし本来、妖精王は人間のことに関わるようなことはない。人間のことは人間が解決するというのが、昔からのスタンスだ。

 ただ、どうにもティアラローズには肩入れをしてしまうけれど。


「まあ、ひとまず俺たちから教えられる情報はこれくらいか。あとはフィラルシアとの関係ってことだが……ティアラなら上手く出来るだろ」

「頑張るわ」


 キースは最後の一口を食べて、ティアラローズに応援の言葉をおくる。


「とりあえず伝えたし、帰ろうか」

「そうだな。また菓子でも食べにくる」


 クレイルとキースはそう言うと、あっという間に転移で姿を消してしまった。


 残ったメンバーは、互いに顔を見合わせる。

 やるべきことは、フィラルシアへの連絡。エリオットは、鉱山などの関係と、地下に関する情報を調べる。

 ひとまず進む先が決まり、ほっとした。


「大変でしょうけど、ルチアのために力を貸してちょうだい」

「何かあれば、私も直接動こう」

「はい!」


 ティアラローズとアクアスティードの言葉に、全員が息の合った返事をした。

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