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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第11章 嘆きの声と炎霊の石
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1. 甘い日常

連載再開です。

楽しんでいただけますように~!

 妖精たちに愛されている大国、マリンフォレスト。

 そしてもうすぐ、この国に生まれた王女の一歳の誕生日を迎えようとしていた。国をあげてのお祭りで、マリンフォレストはとても賑やかだ。



 王女のためにと届けられた贈り物の多さに、ティアラローズは整理するだけでも一苦労だと苦笑する。

 もちろん、娘のために贈ってくれたものなので嬉しいけれど。


「あうぅ~」

「あら、プレゼントが気に入ったの? 全部、ルチアの一歳のお誕生日をお祝いして贈ってくださったものなのよ」


 そう言って、プレゼントの箱に手をついて立ち上がろうとしている娘の手を取る。すると、とびきり可愛い嬉しそうな笑顔を見せてくれる。



 娘の手を取ったのは、ティアラローズ・ラピス・マリンフォレスト。

 隣国ラピスラズリの侯爵家からマリンフォレストに嫁いできて、現在は第一子となる王女ルチアローズの母。

 ふわりとしたハニーピンクの髪に、水色の瞳。優しい笑顔が可愛らしいが、今では母としての強い一面を見せることも多い。

 そして、ここ――乙女ゲーム世界『ラピスラズリの指輪』の悪役令嬢でもある。



 愛されすくすく育っている一人娘、ルチアローズ・マリンフォレスト。

 濃いピンク色の髪と、金色がかったハニーピンクのつぶらな瞳。王城のみんなに可愛がられ、いつも笑顔で過ごしている。

 サラマンダーの火の魔力を体内に宿していることもあり、生まれる前からその身に強大な魔力を宿していた。

 魔力を使い、ぬいぐるみを自在に操ることができる。



 ティアラローズは「上手ね~」と言いながら、自分の手に掴まり立ちをしたルチアローズのことをめいっぱい褒める。

 まだ言葉をしゃべることはできないけれど、はいはいと掴まり立ちを覚えた。

 なので、ティアラローズは心配で片時も目が離せない。目を離すとすぐに、どこへでも行ってしまうからだ。


「あーうー!」

「きゃっ、ルチアっ!」


 さっそく、ルチアが立っちをやめてはいはいモードに切り替わった。てててっとはいはいをし、どうやら目的地は扉のようだ。

 ティアラローズが後を追いかけるように立ち上がると、扉がわずかに開いていることに気づく。


 ――あら?


 どうやら、ルチアローズは開いていた扉が気になったようだ。

 ルチアローズがはいはいで扉にたどり着くと、「ただいま」という優しい声とともに扉が開いた。

 入ってきた人物はそのままルチアローズを抱き上げ、その頬にキスをする。


「ただいま、二人とも」

「おかえりなさい、アクア」

「あ~!」



 帰ってきたのは、父親であるアクアスティード・マリンフォレスト。

 ダークブルーの髪に、王の証である金色の瞳。すらりとした体型だが、鍛えておりほどよく筋肉もついている。

 ここ、マリンフォレストの国王だ。



 アクアスティードはルチアローズを抱いたままティアラローズの下へ行き、優しく唇に口づける。ルチアローズがいるので、触れるだけ。


「……甘い、ね」

「あ……」


 つい先ほどお菓子を食べてしまったことを見破られてしまい、ティアラローズは口元を抑えて照れる。

 だってまさか、味が残っているなんて思わなかったから。


「育児は疲れるというからね、甘いものは大事だ」

「アクア……」


 なん十個でも食べていいというアクアスティードに、ティアラローズはふふっと笑う。さすがに、そんなに食べたら太ってしまうし、体にもよくない。


「でも、それを言うならアクアもでしょう? お仕事、お疲れ様です。何か飲みますか?」

「そうだね……一緒に飲もうか」

「はい」


 アクアスティードはルチアローズをソファに座らせて、上着を脱ぐ。すぐにティアラローズが受け取り、ハンガーへ。


「かけておきますね」

「ありがとう」

「飲み物と……あ、美味しいナッツブラウニーがありますよ。フィリーネが、街で人気のお店だと買ってきてくれたんです」

「それはいいね」


 せっかくなのでアクアスティードと一緒に食べようと思い、まだ口をつけていない。きっと今ごろは、フィリーネも家でエリオットと一緒に食べているだろう。


 ――うぅーん、アクアのお気に入りのワイン? それとも、飲みやすいシャンパン?


 何がいいだろうかと考えて、最近はワインを飲むことが多かったのでシャンパンを用意してみた。

 ルチアローズがぐずった際はお世話をしなければいけないので、ティアラローズは少しだけ。


 ――わたくしはナッツブラウニーがあるもの!


 シャンパンもいいが、ナッツブラウニーはもっといい。

 アクアスティードと二人、まったりとした雰囲気を味わうことができれば、十分だ。



 カットしたナッツブラウニーとシャンパンを準備して戻ると、ルチアローズはアクアスティードの隣で気持ちよさそうに眠っていた。


「いつもなら寝る時間だものね」

「先に寝室へ連れて行こうか」

「はい」


 アクアスティードはルチアローズを抱いて、寝室にある花のベッドへと寝かしてあげる。

 妖精たちが作ってくれた花のベッド、ベッドの部分が植物でできていて、装飾に鳥たちの翼が使われている。そして心地よく眠れるようにと、小さな音で海のせせらぎが聞こえる。

 なんとも至れり尽くせりなベッドだ。


「んにゅ~」


 ルチアローズはベッドへ寝かすと、へにゃりと笑った。


「ルチアは今日も楽しかったみたいだね」


 アクアスティードがルチアローズの寝顔を見ながら笑うと、ティアラローズは「そうなんです」と少し疲れた顔で答える。


「はいはいをしているときなんて、絶対に目が離せませんからね。今日は机の脚にぶつかりそうになってしまって……フィリーネが大慌てしていたんですよ」

「それは大変だったね」


 ルチアローズの額を撫でて、アクアスティードは「お転婆なお姫様だ」と笑う。

 しかし、それだけではないのだとティアラローズが言葉を続ける。


「しかも、あのぬいぐるみ……」

「あの?」


 ティアラローズが言う『あの』ぬいぐるみとは、ベッドの横に置いてある大きなライオンのぬいぐるみだ。

 見るからに、ルチアローズが乗れてしまいそうなほど。


 しかし、あのぬいぐるみは朝方にはなかったはずだとアクアスティードは首を傾げる。


「実はこれ、アカリ様から届いたルチアへの誕生日プレゼントなんです」

「アカリ嬢から? お礼を言わないといけないね」

「はい」


 ライオンのぬいぐるみは首元に装飾品が組み込まれており、とてもアカリの気合が入っているということがわかる。


「でも、このぬいぐるみがどうかしたの?」


 ちょっと豪華な、普通のぬいぐるみだ。

 しかし、アクアスティードの言葉にティアラローズは首を振る。


「ルチアがこのぬいぐるみに掴まって立ち上がったまではよかったんですが、背中に乗って歩き出してしまったんです……」

「ああ……」


 なるほどと、アクアスティードは苦笑しながらライオンを見る。


「……なんと言うか、アカリ嬢がその意図をもってぬいぐるみを選んだ気がしてならないよ」

「わたくしもです」


 なので、ぬいぐるみは寝室に置いて日中は動かせないようにしてみた。

 もちろん、ティアラローズに余力があるときはライオンともども一緒に遊んでも問題はないけれど。

 ただ、はしゃぎすぎてうっかり怪我をしないかだけが心配だ。



「んんっ、美味しい!」


 部屋に戻り、さっそくナッツブラウニーとシャンパンで夜のゆったりとした時間を満喫する。

 さすがフィリーネの選んだものだけあって、とても美味しい。

 ティアラローズがにこにこしながらナッツブラウニーを食べていると、アクアスティードがじっと見つめてきた。

 アクアスティードが手に持っているナッツブラウニーは、まだ手が付けられていない。


「食べないんですか? アクア」

「……いや、ティアラの食べる姿を見ているのが楽しくて」

「~~っ!?」


 まさかそんな返しをされるとは思っていなくて、ティアラローズの手が止まる。


「私のことは気にせず食べていいよ?」

「気にしますっ!」

「いつも見ているのに」


 意識すると途端に照れてしまうティアラローズが可愛くて、アクアスティードはどうしようかなと考える。

 幸せそうに食べているところも、照れて食べられなくなっているところも、どちらも愛おしくて仕方がない。


「……アクアも食べてください。今度は、わたくしが食べているアクアを見ています!」

「それはまた……」


 ティアラローズの提案に、アクアスティードはくすりと笑う。食べるのは別に問題ないけれど……どっちみち、結果は同じになりそうだと思う。


「じゃあ、ちゃんと見ていて」

「え……」


 思いのほか乗ってきたアクアスティードに、ティアラローズはどきりとする。

 こういうときは、絶対に何かを企んでいると――長年の経験からわかってしまった。しかしもう、手遅れだ。

 アクアスティードがナッツブラウニーを口に含み、目線をティアラローズへ向けてきた。


「……っ!」

「美味しいね」


 ぺろりと唇を舐めて、ナッツを嚙み砕く。たったそれだけの仕草を見ただけで、心臓がものすごい速さで脈を打つ。

 ナッツブラウニーを食べているだけなのに、どうしてこんなに色っぽいのだろうと……逆にティアラローズが照れてしまう。


 そんなティアラローズを見ながら、アクアスティードはもう一口分を手に取る。


「ああでも」


 アクアスティードはそう言って、ティアラローズの頬に手を添える。


「二人で食べたらもっと美味しいかもしれない」

「あ、あくあっ」


 ナッツブラウニーを口に含んだ、にやりと笑った綺麗な顔が、どんどん近づいてくる。

 どうにか逃げようとしたティアラローズだったが、思いのほか強い力でアクアスティードに押さえつけられていて動くことができない。

 あっという間に、唇を奪われてしまった。


「ん……っ!」


 しっとりしたブラウニーの触感とブランデーの香りが口の中に広がり、動けなくなる。

 ビターチョコレートのほろ苦いブラウニーのはずなのに、キスのせいでとても甘い。くらくらしてしまいそうだと、ティアラローズは思う。


 ティアラローズはアクアスティードの衣服にしがみついて、ふるふる震える。こうでもしていないと、とろけてソファに倒れこんでしまいそうだ。


「アク、んっ」


 耐え切れなくなってティアラローズがナッツブラウニーを飲み込むと、アクアスティードが唇を離す。


「……二人で食べたら、甘いね」

「~~っ!」


 しっとりほろ苦い大人の味のナッツブラウニーだったのに、アクアスティードと食べただけで信じられないほどに甘い。


 ――むやみに食べている姿を見たいなんて、今後は言わないようにしなきゃ……。


 そんなことを考えるけれど、別にティアラローズだって嫌だったわけではない。ただただ、恥ずかしかっただけで。


「ごめんね、ティアラを補充したくて」


 アクアスティードが触れるような優しいキスをすると、ティアラローズは目を瞬かせて……微笑む。


「それじゃあ、仕方がないですね」


 どうぞ補給してくださいと、アクアスティードに抱きついた。

毎週土曜日、19時に更新の予定です。

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