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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第10章 色づいた世界と可愛い声
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11. 和解した二人

 マリンフォレスト王国の隣にあるラピスラズリ王国にあるティアラローズの実家、クラメンティール邸では優雅なお茶会が開かれていた。

 参加者は、シュナウスとアカリの二人。


「……私も、ティアラの下に残りたかった……」


 テーブルに突っ伏すように倒れ込むシュナウスは、それはそれは長い溜息をつく。


「わかりますよ、その気持ち。ルチアちゃん、すっごく可愛かったですもんね!」

「ああ。あの可愛さは、この世界の宝だ」

「本当に。大きくなったら、ラピスラズリにお嫁に来たりしないんですかね?」


 アカリの言葉に釣られてルチアローズを絶賛したシュナウスだったが、続けられた言葉に目をカッと開く。


「何を言いますか! あんな可愛いルチアを嫁に出すなんて、とんでもない。ラピスラズリに相応しい令息なんていないでしょう」

「お父様厳しい~!」


 蝶よ花よと育てるのもいいが、あまり度が過ぎると素敵な男性との縁を逃してしまうのでは……とアカリは苦笑する。

 こんなときは、話題を変えるのが一番いい。


「そういえば、お母様とダレル君はいつ頃こっちに戻ってくるんですか?」

「ああ、とりあえず首が座るまでは……ということだったから、後二ヶ月ほどだろう」

「寂しいですね……」


 実は、シュナウスだけが先にラピスラズリに帰ってきていたのだ。

 ダレルはルチアローズの魔力のことがまだ心配だからと、イルティアーナと一緒にマリンフォレストのティアラローズの下に残っているのだ。

 イルティアーナが一緒なのは、ダレルの側にはまだ保護者がいた方がいいと判断したからだ。

 本当ならばシュナウスも一緒に残りたかったのだが……ラピスラズリでの仕事が多くあるため、泣く泣く先に帰ってきた。


 それもあって、最近はアカリとティアラローズとルチアローズのことを話す機会も増えている。

 シュナウス曰く、まだ完全に許したわけではない……らしいが。


「でも、ダレル君は偉いですよね。治癒魔法のエキスパートで、お姉ちゃん思いで……さらには生まれた赤ちゃんのことまで気遣って」

「ああ! ダレルも私の自慢の息子だからなっ! まだ六歳だが、とてもしっかりしているだろう? 少し気の弱いところはあるが、芯はしっかりしていてとても頼りになる」


 今度はダレルトークになってしまった。


「どうも、一緒に暮らしていたお師匠様を亡くしたようでね。我が家に来た当初は落ち込んでいるような日もあったが、今では毎日笑顔で過ごしてくれているんだ」

「お父様はダレル君も大好きですねぇ」

「もちろんだとも!」


 シュナウスがキリッとした顔で即答すると、アカリは笑う。


「それなら、ルチアローズちゃんがダレル君のお嫁さんになったら最高ですね!」

「――っ!!」


 何気なくアカリがそう言うと、シュナウスがひゅっと息を呑む。

 その顔には、そうかその手があったのか……盲点だった!! とでも描かれているかのようだ。


「なんとなくで言っちゃいましたけど、ティアラ様とダレル君は姉弟ですよ? 駄目ですよ?」


 アカリが珍しく至極まっとうなことを言うと、シュナウスはしばし沈黙しつつも頷く。


「……わかっている」

「本当ですか? まあ、それならいいですけど。あ、なら私が男の子を生んで二人を結婚させればいいんじゃないですか!? わー、めちゃくちゃ名案じゃないですか!」


 親友同士の子どもが結婚なんて少女漫画みたい! と、アカリがテンションを上げる。

 しかしシュナウスとしては、ハルトナイツの息子とルチアローズが結婚? とんでもない!! だ。


「私はルチアの意思を尊重しますからな。本人の意思のない婚約は反対です」

「ん~~、それには私も賛成ですけど」


 しかし夢がない……と、アカリはしょんぼりする。乙女ゲームだったとしても、絶対に美味しい展開なのに。


 アカリは紅茶を飲みながら、シュナウスをいいおじいちゃんだなと思う。

 自分やティアラローズは例外だったけれど、貴族なんて政略結婚がとても多い世界だ。ルチアローズは大国マリンフォレストの第一王女なので、きっと求婚も多いだろう。


「あ、そうか……。大国だから、別に政略結婚をする必要もない?」


 よくよく思い返せば、アクアスティードは己の力があるから、聖なる光の力を持つ自分のことをいらないと言ってのけた男だ。

 てっきり自分を選んでくれると思っていたのに、ティアラローズだけを見ていた。


 アカリの言葉に、シュナウスは「そうですな」と頷く。


「アクアスティード陛下は王としての器がしっかりされていますからな。別に、政略結婚なんてする必要もないでしょう」


 マリンフォレストは豊かで、何一つ不自由なことはない。

 どちらかといえば、ルチアローズが婚約を望めば相手が否とは言えない。それが、大国マリンフォレストだ。


「はああぁ、わかってましたけど……さすがはアクア様の国ですね」

「ティアラも幸せそうですからな」


 シュナウスとしてこれほど安心出来る相手はほかにいない。


「マリンフォレストにいる優秀な医師と、今はダレルも付いている。ルチアの魔力が大きい問題も、きっと解決できるでしょう」


 少し不安はあるが、今はティアラローズやダレルを信じて待つだけだ。


「ルチアちゃん、ティアラ様とアクア様の娘ですからね! 絶対に大丈夫ですよ。何かあれば、私もかけつけますから!」


 どーんと任せてくださいとアカリが胸を張ると、シュナウスは目を見開きつつ笑う。


「……まったく。アカリ様は不思議なお人ですね。ティアラに対して敵対的だとばかり思っていたのに」

「昨日の敵は今日から親友って言うじゃないですか」


 そう言って、アカリがバチンとウインクをしてみせる。が、シュナウスは冷静に「言わないだろう」とツッコミを返してくる。


「もー、お父様ってば! 言うんですよー!」

「…………」

「お父様?」


 突然黙ってしまったシュナウスに、アカリは首を傾げる。いったいどうしたのだろう? と。


「……いや。アカリ様は、今は本当にティアラのことを思ってくれているのだな……と」


 改めてそう思ったのだと、シュナウスが笑顔を見せる。


「こうしてティアラやダレルの話をして、ルチアのことも可愛いと言ってくれて……私はとても嬉しいよ。ティアラを傷つけたことを完全に許せるか? と問われたら難しいかもしれないが」

「お父様……」

「今のアカリ様であれば、こうしてお茶を飲みながら話をすることも出来る」


 つまり何が言いたいのかというと――



「もう、アカリ様に対しての怒りは少ない。これからも、ティアラの親友として仲良くしてやってくれ」

「……っ、お父様~~!!」


 シュナウスの言葉を聞き、アカリは感極まって飛びついたのだった。すぐに「こらー!」と怒られたのは、言わずもがな。



 ***



『らんらら~ららら~♪』


 花のゆりかごでうとうとしているルチアローズに、森の妖精たちが歌を披露している。どうやら、子守をしてくれているようだ。


 ティアラローズの部屋には、ルチアローズとダレルとフィリーネがいる。

 これからルチアローズがお昼寝なので、ティアラローズたちはのんびりティータイムをしようとしていた。


「ルチアちゃん、可愛いですね」


 ダレルは飽きることなくルチアローズの寝顔を見て、その小ささから自分が守らなければとも思ってくれているようだ。

 起きているときは積極的に遊んでくれて、魔力が大きくなってしまったときは魔法で落ち着かせてくれている。


 ルチアローズに夢中なのは、フィリーネも一緒だ。


「赤ちゃんの成長は本当に早いですからね。きっとすぐに首も座って、ハイハイをして、歩けるようになりますわ」

「わあ……そうしたら、一緒にお散歩がしたいです」

「とても素敵ですね」


 ダレルとルチアローズが仲良く手を繋いで散歩をしていたら、とても可愛いだろう。歩けるようになったら、花畑に遊びにいきたいとティアラローズとフィリーネは思った。


『おさんぽ! 一緒に行く~!』

『楽しそう!』


 うたい終わった妖精たちが、きゃらきゃらとはしゃぐ。


「そのときは、みんなで行きましょう」

「はいっ! 楽しみにしています、ティアラお姉様」

『わーい!』


 ティアラローズが頷くと、ダレルも妖精たちも嬉しそうに頷いた。

 ただ、ルチアローズがしっかりと歩けるようになるまでは、まだ一年はかかってしまうだろうけれど。


「ええ、そのときはダレルもきっといいお兄様になっていますね」

「お兄様……! はい。ルチアちゃんを守れるように、頑張ります!」

「とても頼もしいわ」


 嬉しそうに笑うダレルを見て、ティアラローズも微笑む。


「ルチアローズ様もお眠りになりましたからソファに行きましょう、ダレル様。すぐにケーキをご用意いたします」

「ありがとうございます」


 ダレルがソファに戻ろうとしたタイミングで、部屋の中――正確にはティアラローズの目の前が強く光った。


「何っ!?」


 驚いて身をすくませるが、光はすぐに消えて、一通の手紙が姿を見せた。


「あ、アカリ様の手紙ね」


 いつもながら突然だと苦笑しながら、ティアラローズはその手紙を手に取る。

 驚かせてしまっただろうと思いダレルの方を見ると、ルチアローズの眠る花のゆりかごを覆いかぶさるようにして守ってくれていた。

 小さな騎士のように。


「ダレル、もう大丈夫よ」

「ティアラお姉様?」

「驚かせてしまってごめんなさい。アカリ様が魔法で手紙を送っていらしたの」


 ティアラローズが割と分厚い封筒を見せると、ダレルはほっと安堵の息をついた。


「アカリ様はいつも突然ですね」

「本当に」


 呆れた様子のフィリーネに、ティアラローズは苦笑するしかない。

 ペーパーナイフで封を切り、手紙を読んでティアラローズは「あら」と目を見開いた。


 ダレルが向かいのソファに座りながら、「何かありましたか?」とティアラローズを見る。


「お父様から、ダレルとお母様宛ての手紙も入っていました。これがダレルの分です」

「! ありがとうございます、ティアラお姉様!」


 ダレルは嬉しそうに手紙を受け取り、さっそく読み始めた。


 フィリーネは紅茶を用意しながら、不思議そうに手紙を見ている。


「アカリ様の手紙に、旦那様の手紙も入っていたんですか?」

「ええ。どうやら、二人は和解したみたいね」

「まあ」


 少しずつ歩み寄りは見せていたけれど、ルチアローズが生まれたことによりさらに共通に愛でる対象が増えたのもよかったのだろう。


「ダレルとお母様がこちらにいるので、アカリ様とゆっくりお話しする時間も取れたのでしょう」


 二人が盛り上がりながらお茶をするところが想像できて、思わず笑ってしまうティアラローズだった。

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