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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第10章 色づいた世界と可愛い声
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10. サラマンダーの力

 ティアラローズとアクアスティードの朝は、ルチアローズの泣き声で始まることが多くなった。


「ふええっ」

「ん……朝?」


 ティアラローズはのそのそベッドから起きて、花のゆりかごの中で泣いているルチアローズを抱き上げる。


「よしよし、今日も早起きね。おはよう、ルチア」


 いい子いい子とあやしながら頬にキスをすると、ルチアローズはすぐに花のような笑顔を見せてくれる。


「あー」


 にこにこの笑顔は、見ていてとても癒される。


「お姫様は今日もご機嫌のようだね」

「アクア様、起こしてしまいましたか? まだ寝ていてくださいませ」


 仕事で忙しいのだから、せめて睡眠は……と、アクアスティードをベッドに戻そうとする。けれど首を振って、「駄目だよ」とティアラローズのこめかみにキスを落とす。


「私だって、ルチアの父親なんだから。一緒にいさせて。一人でベッドに寝かせられるなんて、寂しいだろう?」

「アクア様ったら……」


 アクアスティードにエスコートされて、ティアラローズはソファへ座る。


「ハーブティーを入れるから、少し待っていて」

「ありがとうございます」

「あふぅー」


 ソファに座ってルチアローズをあやすと、とても楽しそうにしてくれる。夜中に泣くこともたまにあるが、回数はそう多くない。

 順調にすくすくと育っている。……とはいえ、まだ生まれて数日だけれど。


「ルチアも成長してレディになったら、一緒にお茶会をしましょうね」


 家族三人、薔薇の庭園でお茶をするのもいいかもしれないとティアラローズは思う。まだ生まれたばかりだというのに、これから楽しみなことがたくさんあって困ってしまう。


 ルチアローズと遊んでいると、ハーブティーを入れたアクアスティードが戻ってきた。


「おまたせ」

「ありがとうございます、アクア様」


 隣に座ったアクアスティードの肩に寄り添って、ティアラローズはルチアローズの顔を見せる。

 笑顔かな……と思ったら、疲れたのかすやすや眠ってしまっている。


「あら……」

「赤ん坊は寝るのが仕事というし、仕方ないね」


 今度はアクアスティードがルチアローズを抱き上げて、花のゆりかごへと寝かす。気持ちよさそうにしている姿は、いつまでも見ていたいと思ってしまうほどだ。


「大丈夫ですか?」

「うん。起きないで、そのまま寝てくれてるよ。いい子だ」


 アクアスティードはティアラローズの隣に戻って来て、ハーブティーを口に含んだ。少し眠たかったが、目が覚めてくる。

 そういえば、一つきちんと話し合っておかなければならないことがあったと思い出す。


「ティアラ、ルチアのことだけど……」

「はい?」

「いや、火の魔力が強いだろう? なぜ火なんだろうと思って」


 確かに、これといった理由が思いつかないなとティアラローズも考える。

 ティアラローズもアクアスティードも、別に火の魔法に高い適性があるというわけではない。それどころか、ティアラローズは元々魔力がそんなに高くはなかった。


 それじゃあ、両親、もしくはそれより前……先祖に火の適性の高い人物がいたのだろうか。けれど、思い当たるような人物はいない。


「わかりません……どうしてでしょう?」

「いや、私が気にし過ぎただけか。別に魔力の質などは、絶対に遺伝されるというものでもないし」

「アクア様の子どもですから、すごい力を秘めていてもわたくしは驚きませんよ?」


 ゲームのメイン攻略対象の子どもなのだから、とんでもない力を隠し持っているかもしれない。そう思ったが、すでにその大きな魔力は隠されていなかった。


「ただ、これから魔力がどんどん増えて……制御できなくなったらと、そう考えると少し不安ではあります」

「そうならないよう、しっかり守ろう。魔力は毎日確認して、何か異常があればすぐ対応できるようにしておくよ」

「はい。ありがとうございます、アクア様」


 今はすくすく成長してくれたらそれでいいと、ティアラローズとアクアスティードはルチアローズを見て微笑んだ。



 ***



 ルチアローズが生まれて一ヶ月ほど経ったころ、サンドローズから一通の手紙が届いた。


「…………」

「アクア様、お顔が……」


 面倒くさそうな顔で手紙を見るアクアスティードに、ティアラローズは苦笑する。

 もしかしたら、正式にルチアローズへ婚約の申し入れがきたと警戒しているのかもしれない。


 アクアスティードがペーパーナイフで封筒を開けて、中身を読んだ。


「……サラヴィア陛下とサラマンダー様が、ルチアローズのお祝いに近々来るそうだ」

「まあ」


 頭を抱えてため息をついているアクアスティードに、ティアラローズは苦笑する。

 これはまた賑やかなことになりそうだ。




 そして手紙から一ヶ月後、サンドローズからサラヴィアたちがやって来た。

 応接室にいるサラヴィアの下に、アクアスティードが顔を出す。すると、ソファでくつろいでいたサラヴィアが手を振った。


「久しぶりだな、アクア、子猫ちゃん。道中は可愛い子がいっぱいいて、楽しかったぞ」

『この国は本当に妖精がたくさんいるわね』



 以前よりチャラさが増した気がするのは、サラヴィア・サンドローズ。

 金色の髪と、褐色の肌。赤の瞳はまるでルビーのようで、王としての威厳もある。

 一夫多妻制を誇る、サンドローズ帝国の若き皇帝だ。



 一緒にいるのは、火の精霊サラマンダー。

 高い位置で結ばれた赤色の髪と、同じ色の瞳。露出度の高い砂漠のドレスからは、褐色の肌がちらりと覗いている。

 本来であれば眠りについている彼女だが、今は魔力が足りないため起きている。




「そんで、将来私の娘になる子猫ちゃんはどこかな?」

「エリオット、サラヴィア陛下はお帰りだ」

「嘘うそ、冗談だって! そんなつれないこと言うなよアクア!!」


 ルチアローズを嫁にもらう気満々のサラヴィアにすぐお帰り願おうとしたアクアスティードだったが、断固拒否されてしまう。


「今回は純粋にお祝いだって!」

『われも選んだから、どれも一級品よ』


 そう言って、サラヴィアは応接室に運び込んでおいた祝いの品をアクアスティードに見せる。

 砂漠の薔薇のお守りや、サンドローズで採れる宝石や小さな砂漠のドレスなど、様々なものが用意されていた。どれも目を見張るほど素晴らしい品だ。


「ありがとうございます、サラヴィア陛下。サラマンダー様」

「アクアと子猫ちゃんには、世話になったからな。これくらいはさせてくれ」


 急にサラヴィアが声のトーンを落とし、「感謝してるんだ」と改めて礼を述べた。


「そのことでしたら、もう済んだことです」

「……サンキュ」


 アクアスティードがサラヴィアの向かいのソファに腰かけると、ちょうどノックの音が響いた。


「お、子猫ちゃんかな?」


 エスコートのために立ちあがろうとするサラヴィアを制して、アクアスティードが立ちあがる。


「いい加減、私の妻を子猫と呼ぶのを止めていただけませんか?」

「わお、怖い」

『相変わらずイイ男ね!』


 サンドローズの二人を睨みつつ、アクアスティードは扉を開ける。そこにいるのは、もちろんティアラローズだ。

 腕にルチアローズを抱き、後ろにはフィリーネとタルモが控えている。


「タルモは室内での護衛を頼む」

「はい」


 アクアスティードは指示を出し、ティアラローズがサラヴィアたちに挨拶出来るようルチアローズを預かった。


「お久しぶりでございます。サラヴィア陛下、サラマンダー様」

「ああ、久しいな。子猫ちゃん――と呼びたいところだが、アクアに睨まれてしまってね。ティアラ様、とでも呼ばせていただこうか」

『久しぶりね、元気そうで何よりだわ』


 軽く挨拶をすませると、さっそくサラヴィアがルチアローズに興味を示す。


「名前は?」

「ルチアローズです」

「可愛いね、いいね。ぜひうちの国に嫁に――」


 ティアラローズに名前を聞いてはしゃぐサラヴィアだったが、余計なことを言ったためアクアスティードに睨まれ口を噤む。


「今からこれじゃあ、先が思いやられるぞ?」

「……あはは」


 将来、サラヴィアのようにチャラチャラした男を連れてきたらアクアスティードに斬り捨てられそうだな……とは、ときどき思う。

 まあ、口や態度ではそう言っているが、アクアスティードはルチアローズのことを第一に考えてくれるから、自分の欲だけで何かをすることはないだろう。


 サラマンダーも興味津々のようで、じいっとルチアローズのことを見つめている。そして一言、とんでもないことを口にした。


『ルチアローズったら、われの魔力を秘めているじゃない』

「――え?」


 まったく予想していなかった言葉に、ティアラローズとアクアスティードがぽかんと口を開く。

 確かにルチアローズは火の魔力が強かったけれど、それがサラマンダーに由来するものだなんて考えてもいなかった。


「いったいどういうことですか、サラマンダー様」


 真剣な表情になったアクアスティードが、サラマンダーにその事実を問う。ルチアローズに、サラマンダーの魔力が宿るような要素はなかったはずだ。

 もちろん、ティアラローズにも。


 アクアスティードの言葉に、サラマンダーの方が逆に困惑した表情を見せる。


『どういうことも何も、われの魔力をティアラローズに与えたじゃない』

「えっ!? わたくしにですか?」


 そんな記憶はまったくなかったので、ティアラローズは衝撃の事実に愕然とする。いったいいつ、どのようにしてサラマンダーの力をもらってしまったというのか。

 ティアラローズが焦っていると、サラマンダーが『あのときよ』と教えてくれる。


『貴女がティアラローズの花を用意してくれた礼に、われの魔力を与えたじゃない。笑顔で頷いていたでしょう?』

「あのときの……お礼……? あれって、ただの握手じゃなかったんですか?」

『お礼が握手って……そんなに図々しいことはしないわよ!』


 サラマンダーの言い分に、確かにそうだとティアラローズは項垂れる。


 ――てっきり握手がお礼だとばかり思ってしまったわ。


 しかしサラマンダーに認められ、握手をする。それが礼と言われても、人間であるティアラローズはすんなり納得してしまう。


「大変失礼いたしました、サラマンダー様。では、ルチアローズの火の魔力が異常に高いのは、サラマンダー様のお力のおかげということなんですね」

『そうなるわね。まさかお腹の子どもに移るとは思わなかったけれど……』


 サラマンダーは『面白いわね』と言いながらルチアローズの小さな手に触れる。


『火の魔力が大きくなるけれど、別に害のあるものじゃないから心配することはないわ』


 さらりと言ってのけるサラマンダーに、ティアラローズとアクアスティードは顔を見合わせる。

 確かに火の魔力に害はないかもしれないが、その量が問題なのだ。大きすぎて、何度も危険な目に遭ってきた。


 それを伝えると、今度はサラマンダーがきょとんとした。


『本気で言っているの? 貴方の娘なのだから、魔力が大きくて当然じゃない』


 そう告げて、サラマンダーはアクアスティードのことを指さした。


 ――ですよね!!


 ティアラローズはアクアスティードがメイン攻略対象者であることと、星空の王になったこと。その二つだけで、十分考えられることだと頷く。


 火の魔力の適性が高かったのは、サラマンダーに力を分け与えられていたから。

 魔力量が多かったのは、アクアスティードの子どもだったから。ここ最近不思議に思い悩んでいたことが、一気に解決してしまった。


『でも、確かに火の魔力が思ったより高いわね。……もしかして、ほかの精霊に会ったりした?』

「ほかの精霊、ですか」

『ええ。われは火でしょう? ほかに水のウンディーネ、風のシルフ、土のノームがいるもの。その内の誰かに接触したとすれば、魔力が引っ張られて予想以上に成長したことも頷けるわ』


 精霊同士が魔力に影響を与えるというのは、初めて知った。

 けれど、ティアラローズはほかのどの精霊にも会ったことはないし、所在すら知らない。

 サラマンダーのことだって、実際に見るまではお伽噺だとばかり思っていたくらいだ。


 心当たりはないと首を振ると、サラマンダーも『そうよね』と頷いた。


『われだって、居場所を把握していないもの。会おうとしても、そう簡単に会える相手じゃないのよね』


 だからルチアローズの魔力が高いのはアクアスティードの娘であることと、本人の資質であろうということでこの話は終わった。

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