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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第10章 色づいた世界と可愛い声
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5. 赤ちゃんのぬいぐるみ遊び

 窓辺に置いてあるロッキングチェアに座り、膝にはブランケット。のんびり椅子に揺られながら、ティアラローズは絵本を読む。

 椅子の周りには赤ちゃんが動かしているぬいぐるみたちがいて、ちょっとした読み聞かせ会になっている。


「……こうして、その女の子は妖精たちと幸せに暮らしました」


 ティアラローズが読み終わると、ぬいぐるみたちがパチパチパチと拍手を送ってくれる。


 ――可愛い!


 これなら、いくらでも読んであげられるとティアラローズは頬を緩める。まさか、ぬいぐるみが観客になってくれるなんて。


「楽しんでもらえたならよかったわ」


 そう言って、優しくお腹を撫でる。

 午後のお茶の時間になるところなので、赤ちゃんもお腹の中でお休みタイムかもしれないなとティアラローズは思う。


 自分もこのまま一緒に寝てしまおうか、そんなことを考えていると――ぱっと部屋の中心が輝いて妖精王の三人が転移してきた。


「よお、ティアラ! 調子はどうだ?」

「お土産にお菓子を持ってきたよ」

「わらわはタピオカ苺ミルクティーを持ってきたぞ! これが絶品なのじゃ」


 突然のことに一瞬フリーズするも、ティアラローズは微笑んでお礼を告げる。


「ありがとうございます、みな様。テーブルの用意をいたしますね」



 実はティアラローズの体調が気になってしかたない、森の妖精王キース。

 腰まで長い深緑の髪を一つにくくって前にながし、王の証である金色の鋭い瞳は威圧と存在感がある。

 俺様で好き勝手な性格だが、根は優しく面倒見もよかったりする。



 さり気なくパールのエスコートをしているのは、空の妖精王クレイル。

 空色の髪は綺麗に切りそろえられていて、キースと同じように王の証である金色の瞳を持つ。

 淡々とし冷静なクレイルだが、男嫌いなパールを安心させるために女装をするといった一面も持っている。



 絶賛タピオカにはまり中なのは、海の妖精王パール。

 綺麗に揃えられた白銀の髪と、金色の瞳。いくえにも重なる着物風のドレスは美しく、鮮やかにパールのことを彩っている。

 以前は周囲をあまり寄せつけていなかったパールだが、今はティアラローズとも仲良くやっている。



 ベルを鳴らしてメイドを呼び、テーブルのセッティングをお願いする。フィリーネは結婚式の打ち合わせをしているため、今は不在だ。

 用意している最中、妖精王たちは感心するように動くぬいぐるみを見る。

 キースはひょいっとねこのぬいぐるみを抱き上げて、腕を動かしたりして遊ぶ。それにぬいぐるみも反応を返すので、楽しいのだろう。


「器用なもんだな」

「本当にね。いったいどれほどすごい子が生まれてくるのか……」


 クレイルもキースの持つぬいぐるみをみて、楽しみだと言う。


「まあ、マリンフォレストは安泰そうでよかったよ」

「そうじゃの。まだ生まれてはおらぬが、妖精たちも赤子が好きで仕方がないみたいだからの」


 パールはクレイルの言葉に頷きつつ、ティアラローズのお腹を見る。そこに新しい命が宿っていることが、いざ見てみると不思議に思ったのかもしれない。


 ティアラローズはパールの視線に気付いたのか、自分のお腹に触れる。


「触ってみますか? パール様」

「……! よいのか?」

「はい」


 やはり気になっていたらしいパールは、ティアラローズの提案にぱっと表情を明るくした。


 二人でソファに並んで座り、ティアラローズは「どうぞ」と微笑む。

 パールはおそるおそるといった感じに、ゆっくりティアラローズのお腹に触れる。もうだいぶ大きくなっているので、触ると赤ちゃんを感じることができる。

 キースとクレイルも、興味深そうにパールの様子を見ている。


「わ、動いておる!」

「赤ちゃんがお腹を蹴ったりするんですよ。最初はびっくりしたんですけど、慣れると嬉しいものです」

「なるほどの……」


 思いのほか強く動く赤ちゃんに驚きつつも、パールは優しい笑みを浮かべてお腹を撫でる。


「はやく元気に生まれてくるのじゃぞ。そしたら、わらわがとびきりの祝福を贈ってやろう」

「パール様……」


 いくら自分たちに祝福を与えているとはいえ、彼女は妖精王だ。そう簡単に祝福を与えるとは思っていなかったので、ティアラローズは目を見開く。

 すると、ぽんと頭の上にキースの手が置かれた。


「お前な、俺たちがそこまで薄情に見えるのか? ティアラの子なんだから、祝福くらいいつでも贈ってやる」

「私が祝福しているアクアスティードの子どもだし、この国の王位継承者だからね」

「二人まで……」


 当然のように言う二人に、ティアラローズはじんわりとしたものが込み上げる。

 隣国から嫁いできた、しかも悪役令嬢の自分をこんなにも温かく迎えてもらえているなんて――と。

 ゲームにばかりとらわれず、みんなと接してきてよかったと心から思う。


 パールはそんなティアラローズを見て、くすりと笑う。


「そのために、まずは自分の体を一番に考えるのじゃぞ。そなたに何かあれば、アクアスティードも何をしでかすかわからぬしの」

「十分気を付けます」


 すると、噂をしていたからか……アクアスティードがやってきた。


「王が三人揃ってるとは、何かありましたか?」

「別に何もねえよ。ティアラの様子を見に来ただけだからな!」

「……そうか。ありがとう」


 思わず身構えてしまったアクアスティードも、理由を聞くと頬を緩める。ティアラローズのことを見に来てくれたのが、嬉しかったのだろう。


 アクアスティードも来たので、全員でゆっくりお茶をすることにした。


 テーブルに並べられているのは、キースの持ってきた花の紅茶に、クレイルの焼き菓子。それからパールのタピオカ苺ミルクティーと、タピオカ入りパンナコッタだ。

 とても華やかなテーブルに、ティアラローズはうっとりする。


 今日は珍しい席順で、ティアラローズとパールが並んでソファに座り、その向かいにキースとクレイル。アクアスティードは一人掛けのソファに腰を落ち着かせた。

 いつもは必ず隣にアクアスティードがいるので、少し不思議な感じがする。けれど、パールと仲良くなれるのは嬉しい。


 その代わりなのか、ねこのぬいぐるみが動き出してアクアスティードの膝の上に座った。


「これは……一緒にお茶を楽しみたいのかな」


 赤ちゃんの取った行動に場が和む。

 もちろん、単に一緒に遊んでいるつもりなのかもしれない。しかしどちらにせよ、この場にいる大人たちを和ませるには十分だ。


「生まれたら、わらわのとっておきのタピオカをプレゼントしてやろう」

「まあ、ありがとうございます。楽しみですね」

「んむ」


 自分がいる時点でそうなのだが、これは間違いなくスイーツ好きな子どもになるな……と、ティアラローズは思う。

 男の子でも女の子でも、一緒にお茶会をするのが今から楽しみだ。


 ――そのときは、今日と同じように出来たらいいわね。


 ティアラローズがタピオカ入りのパンナコッタを手に取ると、パールが「おすすめじゃ!」と胸を張る。


「しかし珍しいの。おぬしは真っ先にケーキを食べるかと思ったが……」

「ああ……。実は、少し悪阻が出てしまうことがあるんです。落ち着いているときはいいのですが、わたくしと赤ちゃんの気分が盛り上がっていると……どうにも駄目なようで」

「……難儀じゃの。まあ、それも生まれるまでの辛抱か」


 ゼリー系統は問題ないことを伝えると、それならとパールがたくさんのパンナコッタをティアラローズの前に並べる。


「そんなに食べれませんよ!?」

「何、おぬしなら問題ないじゃろ」

「問題あります……」


 スイーツならいくらでも食べると思っているんじゃないだろうか……。

 ティアラローズとパールがそんなやり取りをしていると、キースがくつくつ笑う。


「それなら、俺も今度ゼリーを持ってきてやるよ」

「……ありがとうございます」


 この、素直に喜べない感じはなぜだろうか。


 ――絶対、大量のゼリーをもってくるつもりだわ……。


 からかわれているのがわかるので、ティアラローズは無表情で礼を述べる。すると、キースのツボに入ったのかさらに笑われてしまった。


 しばらく雑談を楽しんでいると、きゃらきゃら楽しそうに妖精たちがやってきた。


『遊びに来ちゃった~!』

『あ! 王様たちもいる!』

『パール様~!』


 やってきたのは、森、空、海の妖精たちだ。海の妖精は足が人魚になっていて飛べないので、森と空の妖精が抱えている。


 海の妖精を見たパールは、すぐお皿に水を入れた。


『ありがとうございますー!』

『さすがパール様!』


 水の張られたお皿に移った海の妖精たちは、拍手をしてパールを褒める。


 空の妖精たちは空いているソファにお行儀よく座り、小さなティーカップを取り出して自分たちもお茶を飲みだした。


 森の妖精たちは、楽しそうに飛び回っている。


 ――性格差かしら?


 いつも森の妖精たちばかりと一緒にいるので、空と海の妖精の行動がとても新鮮に映る。

 森の妖精たちは自由で、ねこのぬいぐるみとじゃれ始めた。どうやら、こちらは子守をしてくれているみたいだ。


 ――みんな可愛い。


 そう思ったのはティアラローズだけではなかったようで、部屋にあったほかのぬいぐるみたちも動き出した。

 くるくる回り、ダンスも踊りだす。


『わー! すごいー!!』

『一緒に踊っちゃおう~』

『じゃあ私は歌う~ららら~♪』


 楽しそうに遊び始めたぬいぐるみと妖精たちに、ティアラローズはテンションがあがる。すると、ケーキの匂いで少しだけ気持ちがわるくなってしまう。


 ――ああっ、あまりにも可愛すぎるから……!


 興奮が止められなかったと、ティアラローズは恥ずかしくて両手でにやけ気味の口元を隠す。


「少し窓をあけて換気いたしますね」


 体も少し暑くなってしまったし、と。

 ティアラローズがソファから立つと、ずっと座っていたからかくらりとした立ち眩みに襲われる。


 あ――いけない。


 そう思ったときには、体がぐらりと揺れて、倒れそうになってしまう。すぐにアクアスティードたちも気付いたが、ソファに座っていたためどうしてもティアラローズが倒れる方が先だ。


 衝撃に備えてティアラローズはぎゅっと目をつぶったが――ふわりと受け止められた。


「え……?」


 目を開けてみると、視界に移るのは天井。そして駆けつけてくれたアクアスティードとキースだ。

 クレイルとパールは、心配そうにソファから立ち上がってこちらを見ている。


「ティアラ、大丈夫?」

「はい……でも、わたくしどうして? ――あ」


 アクアスティードに抱き起されてすぐ、自分のことを支えてくれていたたくさんのぬいぐるみに気付く。


 ――赤ちゃんが、わたくしを助けてくれたの?


「ありがとう」


 ティアラローズはお腹にお礼を言って、ぬいぐるみも撫でる。


「わたくしが守ってあげないといけないのに、逆に守られてしまうなんて……」


 母親失格かしら。そう言おうとしたら、アクアスティードに「そんなことはない」と先手を打たれてしまう。


「みんなティアラのことが大好きだから、助けたいんだ。この子もね」

「アクア様……」


 だから気にすることはないと、そう言ってくれる。


「でも、立ち眩みは怖いからね……。次からはゆっくり立ち上がろうか」

「はい」


 ティアラローズが頷くと、パールが換気のために窓を開けてくれた。


「今はわらわたちが全員いるのじゃから、もっと頼ってよいのだぞ? おぬし一人を運ぶくらい、容易いからの」

「パール様……ありがとうございます」


 妖精王に何かをお願いするなんて恐れ多いと思っていたが、そう言ってくれるなら次は素直に甘えようとティアラローズは思う。


「なんなら、生まれるまで俺の城に来るか? 快適だぞ」

「ティアラの隣には私がいるからそれは不要だ」

「ったく、冗談だっつの」

「どうだか」


 キースの誘いには、アクアスティードがすぐさま却下する。若干火花が飛んでいるような気がしなくもないが、これでいて二人はなかなか気の合う部分もあるのだ。


「それにしても、倒れたティアラローズを支えるとは……すごいぬいぐるみ――いや、魔力か」


 クレイルはティアラローズのお腹を見て、出産も大変そうだなと思う。


「今日は楽しくて、はしゃぎすぎてしまったからだと思います。次は気を付けますね」

「ああ。ティアラローズに何かあったら、アクアスティードが暴れるからね」


 だから気を付けてと、クレイルが言う。


「これ以上はティアラローズの負担になるかもしれないから、私たちはここでお暇しようか」

「それがいいな。にしても、生まれてくる子どもが末恐ろしいな。きっと、いい王になりそうだ」


 楽しみだと、キースがくつくつ笑う。

 そこにはクレイルとパールも同意のようで、頷いた。


「それじゃあ、私たちはこれで帰るよ。またね、アクアスティード」

「……同性の方が何かあったとき相談しやすいじゃろうから、困ったことがあればいつでもわらわを呼ぶとよい」

「城にいるのが疲れたら、いつでも俺のところに来い」


 クレイル、パール、キースの三人は転移で帰っていった。


「それじゃあ……ティアラは少し寝ていようか」


 妖精王たちを見送ると、ティアラローズはアクアスティードにベッドまで運ばれてしまった。そのままブランケットをかけられて、頭を撫でられる。

 確かに少し疲れたので、素直に頷いた。見ると、ぬいぐるみたちも動かなくなっているので、お腹の赤ちゃんもお昼寝を始めたのかもしれない。


 ティアラローズはアクアスティードの袖口を掴んで、「お仕事ですか?」と問いかける。


「うん。まだ書類が残っているからね」

「……アクア様も、あまり無理をなさらないでくださいね?」


 今はティアラローズがほとんど仕事をしていないので、アクアスティードの負担も以前より少し増えた。

 そのことが心配なのだが、アクアスティードはまったく問題ないと言う。


「ティアラのためなら、どんなことでも出来そうだ。だから、少しだけ補充」

「あ……んっ」


 そう言ったアクアスティードに優しく口づけをされるけれど、補充しているのはティアラローズも一緒だ。

 しばしの間、二人きりの時間を堪能した。

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