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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第10章 色づいた世界と可愛い声
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2. 国をあげてのお祭り

 すーはー、すーはーと、ティアラローズは自分を落ち着かせるように何度か深呼吸を繰り返す。

 それを見て、アクアスティードがくすくす笑う。


「大丈夫だよ、ティアラ。そんなに緊張しないで」

「無理です、緊張してしまいます。とてもどきどきしています……!」


 頬に手を当てたティアラローズは、フィリーネに支度をしてもらいゆったりとしたドレスに身を包んだ。


 今日、これからティアラローズの妊娠の公表と、国民へのお披露目があるのだ。そのため、いつも以上に緊張している……というわけだ。


 ――この子が、次期国王になるのかもしれない。


 そう考えると、緊張するなと言う方が無理だ。


「温かい飲み物をご用意いたしますね。そうすれば落ち着くと思いますから」

「ありがとう、フィリーネ」


 一度フィリーネが退室したのを見て、ティアラローズはそっと窓の外を確認する。今日の発表の内容を聞かされていない国民たちが集まっていて、広場がとても賑やかだった。

 いったいどんな嬉しいことがあるのだろうかと、そわそわしているようだ。


 しかもすでにお祭り気分のようで、屋台がある。


「なんだか楽しそうですね」


 思わずティアラローズから笑みがこぼれると、隣に来たアクアスティードもそうだねと微笑む。


「悪い知らせがあるとは、誰も考えないだろうからね」

「マリンフォレストは豊かで平和な国ですから。それがよくわかって、嬉しくなりますね」

「そうだね。それも、ティアラがずっと私のことを支えてくれていたからだ」

「――!」


 ともにいてくれてありがとうと、アクアスティードが触れるだけのキスをしてきた。


「わたくしこそ……ずっとアクア様に支えていただきましたもの。ですが、わたくしがちゃんと支えになれていたのであれば……嬉しいです」

「うん」


 アクアスティードは優しくティアラローズの手を取り、ソファまでエスコートする。すると、ちょうどハーブティーを用意したフィリーネがエリオットとともにやってきた。


「お待たせいたしました、ティアラローズ様」

「公表の準備が整いましたので、もう進められるとのことです」


 エリオットは公表の準備が整ったことを教えに来てくれたようだ。

 このまま国としてティアラローズの懐妊が発表され、その後、ティアラローズがアクアスティードとともにテラスから顔を見せる……という流れになっている。

 なので、ティアラローズの出番は本当に最後だけだ。


「報告ありがとう。問題はないから、進めてくれ」

「はい」


 アクアスティードの返事を聞き、すぐにエリオットが退室した。


 それからハーブティーを飲んでゆっくりしていると、外からわああああという大歓声が聞こえてきた。


「ティアラローズ様の妊娠が発表されたようですね! すごい歓声です」


 フィリーネが自分のことのように嬉しそうで、ティアラローズは照れてしまう。


「……この子が歓迎されて、とても嬉しいわ」

「ええ。わたくしも、ティアラローズ様の侍女としてとても誇らしいです」


 気付けばフィリーネは歓喜のあまり涙ぐんでいて、ティアラローズが慌ててその眼元をハンカチで拭う。


「もう、フィリーネが泣いてどうするの」

「すみませんんんっ、わたくし、嬉しくて……」


 フィリーネは、ティアラローズのこととなると途端に涙腺が緩む。


「わたくしまで涙ぐんできちゃったじゃない」

「ティアラローズ様……っ!」


 二人でうるうるしているところに、ちょうどエリオットが戻ってきた。


「わ、どうしたんですか!?」

「感極まってしまったみたいだね」


 エリオットの問いかけにアクアスティードが答え、二人を見た。

 優しくティアラローズを抱き寄せ、その眼元をそっとハンカチで押さえて、「私の奥さんは可愛いね」と安心させるように額にキスをする。


 それを見て、「さすがにあれは無理ですが……」と、エリオットもフィリーネにハンカチを差し出した。


「今日は嬉しい日ですからね。フィリーネの気持ちも、よくわかります」

「エリオット……ありがとうございます」


 ハンカチを受け取ったフィリーネは、笑顔を見せる。


「どうにも、ティアラローズ様のこととなると……自分のこと以上に嬉しくなってしまって。これからティアラローズ様がお姿をお見せする番なのですから、わたくしがしっかりしなければいけないのに……」


 急いで涙を拭うフィリーネに、エリオットは「大丈夫ですよ」と告げる。


「そんなフィリーネだからこそ、ティアラローズ様も大好きなんです。もちろん、私やアクアスティード様だって」

「……はい」


 エリオットの言葉に頷き、フィリーネは立ち上がる。


「ティアラローズ様、少しだけ目元のお直しをいたしますね」

「ありがとう、フィリーネ。お願いするわ」


 急いで崩れてしまった化粧を整えて、フィリーネは準備を終わらせる。これで、いつ出番が来ても問題ないだろう。

 透き通るような白い肌が美しく、ティアラローズは綺麗なお人形のようだ。その出来栄えに、フィリーネは胸を張る。


「ティアラローズ様が世界で一番お綺麗です」

「大袈裟よ、フィリーネったら」


 太鼓判を押す自分の侍女に苦笑しつつも、ティアラローズは礼を述べる。

 二人のやり取りが終わったのを見て、アクアスティードが「そろそろかな」と立ち上がる。


「それじゃあテラスに行こうか、ティアラ」

「はい」



 アクアスティードのエスコートでテラスに出ると、瞬間、わっと大地が揺れたかと思うほどの声が届いた。


「おめでとうございます! ティアラローズ様! アクアスティード陛下!!」

「マリンフォレストの未来も安泰だ!」

「おめでとうございます!!」


 たくさんのお祝いの言葉が、ティアラローズの耳へと届く。それがとても嬉しくて、うるっとしてしまう。

 けれど今は、笑顔を向けてこのお祝いに応えるのが先だけど。


 ティアラローズは手を振り、集まってくれた人たちを見る。


「ありがとうございます。わたくしも、お腹の子も、元気です。こうしてお祝いいただけて、とても嬉しいです」


 何度もありがとうと口にして、ティアラローズは満面の笑みを見せる。その横では、アクアスティードが優しくティアラローズのことを支えてくれている。

 国民たちは喜びを隠せないようで、誰かが「祭りだー!」と声を上げた。


「すごいね、祭りを開いてくれるみたいだ」


 くすくす笑うアクアスティードに、ティアラローズは焦る。


「さ、さすがにそれは大袈裟ではないですか!?」

「それだけティアラが愛されてるんだよ、国民たちに。笑って受け入れたらいい」

「アクア様……。そうですね、みんなの気持ちがとても嬉しいです」


 悪役令嬢である自分がこんな未来を迎えることができて、とても幸せだなと思う。


 ――だからわたくしも、この国を支えられるようになろう。


 集まり嬉しそうにしてくれる人たちを見て、ティアラローズはそんな気持ちが強くなった。



 ***



 国民たちがお祭りモードになったのはいいが、同時に王城内も大騒ぎになってしまった。

 多くの人がティアラローズとアクアスティードにお祝いの言葉を告げに来てくれるのは嬉しいし、ありがたい。

 けれど、「すぐに御子が王子か姫か占いを……!」なんてことまで。


 数日が経つと、国内の貴族だけではなく他国の王侯貴族からもたくさんの贈り物が届くようになった。

 ティアラローズの私室では入りきらないので、専用の部屋を一室設けたほどだ。

 その確認に追われるフィリーネは、大変ながらも自分の主人への祝いなのでとても嬉しそうに作業を行っている。


「フィリーネ、大丈夫……? 仕事量がとても増えてしまったでしょう?」


 ティアラローズがお茶を飲んでいるときに言うと、フィリーネは「大丈夫ですよ」と笑顔を見せる。


「王城のメイドたちも仕分けを手伝ってくれていますから、そんなに大変ではありません。ティアラローズ様への贈り物は、リストを作りますね」

「ありがとう、フィリーネ」


 そこへノックが響き、疲れた様子のアクアスティードがやってきた。その手には一通の手紙があり、何か厄介ごとでもあっただろうかと、ティアラローズとフィリーネは顔を見合わせる。


「すぐに紅茶をお持ちいたしますね」

「ああ、ありがとう」


 フィリーネが紅茶を用意するために下がると、アクアスティードはティアラローズの横へ腰かけた。


「お疲れ様です、アクア様。何かありましたか?」

「……そうだね」


 ティアラローズが問いかけると、アクアスティードはすんなりとそれを肯定する。いつもであれば、ほとんどのことをアクアスティードが解決してしまうのに。

 自分にそうだと伝えてもらえたことが珍しくて、なんだかちょっと嬉しいと思ってしまった。


「その手紙ですか?」

「ああ。サラヴィアからだ」

「サラヴィア陛下から……ですか?」


 妊娠した自分への祝いの言葉だろうか? そう思いつつティアラローズが手紙を開くと、それはこれから生まれる赤ちゃんへの婚約の申し入れだった。

 二人の子どもに関する内容だったので、アクアスティードはティアラローズの耳にもきちんと入れてくれたようだ。


「婚約……って、まだ王子か姫かもわかっていないのに」


 せっかちすぎると、ティアラローズは苦笑する。しかし、それだけマリンフォレストと縁を結びたいのだということもわかる。


「ですが、サラヴィア陛下にはお子はいなかったと思うのですが」


 ティアラローズの疑問も当然だ。

 そもそも、サラヴィアは複数いた奥方全員と離婚をしていたはずだ……と、ティアラローズは思い出す。

 それなのに婚約とは、いったいどういうことなのか。


 その疑問には、ため息をつきつつアクアスティードが答えてくれた。


「私たちがサンドローズから帰ったあと、復縁したようだよ。今では二人の奥方が妊娠しているということだから、生まれた子どもと婚約を……ということだろうね」

「まあ……」


 驚きに声をあげるしかない。

 こちらも相手も性別がわからないというのに。全員男だったらどうするつもりなのか。


 ――姫が生まれるまで待つのかしら。


 けれどサンドローズは一夫多妻制なので、またすぐに子どもには恵まれそうだなとティアラローズは思う。


「それで、その……アクア様はどうされるおつもりなんですか?」


 王族ということを考えると、政略結婚という問題は着いて回る。ティアラローズだって、最初はハルトナイツと婚約をしていたのだ。

 王侯貴族に生まれたのだから、それはある種の義務だと理解はしている。

 なので、ティアラローズはアクアスティードが決めたことであればそれに従う心づもりだ。


 しかし、それを是とするアクアスティードではなかった。


「却下だ。そもそも、私は本人が望まない婚姻を結ばせるつもりはない」


 きっぱり言い放ったアクアスティードに、ティアラローズは思わずきゅんとする。


「アクア様……」


 国益を考えれば、政略結婚はするべきだ。でも、子どもにも自分のように好きな人と結ばれてほしい。

 けれど、アクアスティードが子どものために道を残してくれたことが嬉しかった。


「でなければ、私はティアラと結婚できなかったからね」


 きっと、今頃はマリンフォレストの令嬢と結婚していただろう。それこそ、公爵家の令嬢であるアイシラあたりと。


「もちろん、今後……もしかしたら何か大きな出来事がおきて、政略結婚をしなければいけない場面が出てくるかもしれない。けれど、そうでないのであれば……私は、子どもが望む相手と将来を共にしてほしいと思っているよ」


 そう言いながら、アクアスティードは優しくお腹に触れる。


「ああでも、とんでもない相手を連れてきたときは……どうするかな」

「アクア様ったら」


 それこそサラヴィアのようにチャラチャラした相手だったらふざけるなと声を荒らげてしまうかもしれない。

 そんなことを言って、アクアスティードが笑う。


「大丈夫ですよ。だって、わたくしたちの子どもですもの。いい人を見つけてくれます」

「そうだね。……でも、そんな先の話はもう終わり。今はまだ、私にティアラローズごと甘やかさせて」

「……はい」


 二人で顔を見合い笑って、ティアラローズは甘えるようにキスをねだった。

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