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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第10章 色づいた世界と可愛い声
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1. 穏やかな毎日

ここから10章です。

どうぞよろしくお願いします。

 マリンフォレストでは季節が春から夏となり、暑い日が多くなってきた。

 王城の庭園では森の妖精たちが楽しそうに植物の世話をして、噴水から顔を出した海の妖精が水をまいてくれている。空の妖精は、ベンチにいるティアラローズとフィリーネに涼し気な風を送ってくれる。


「妖精たちはみんな元気ね。暑くないのかしら?」


 自分なんて、日影がなければ溶けてしまいそうなのにと……ティアラローズは微笑む。



 妖精に好かれている、ティアラローズ・ラピス・マリンフォレスト。

 ふわりとしたハニーピンクのロングヘアに、水色の瞳。可愛らしい顔立ちで、国王である夫から溺愛されているマリンフォレストの王妃。

 今は妊娠も六ヶ月になり、お腹のふくらみがわかるようになってきている。

 幸せいっぱいに暮らしているティアラローズだが、実はこのゲーム――『ラピスラズリの指輪』の悪役令嬢だ。前世でゲームをプレイしていた記憶を持つ。

 最初こそ悪役令嬢ということを不安に思っていたが、夫のアクアスティードはそれを受け入れティアラローズを愛してくれているのだ。



「気温をあまり感じないのでしょうか?」

「それは……ちょっと羨ましいかもしれないわね」


 隣に座っていたフィリーネの言葉を聞き、ティアラローズはじっと妖精たちを見つめる。


「冬は着こめばいいですが、夏はどうしようもないですものね。ティアラローズ様、ご不便があればすぐにおっしゃってくださいませ」

「ええ。ありがとう、フィリーネ」



 ティアラローズに不便はかけないと意気込むのは、侍女のフィリーネ・サンフィスト。

 黄緑色の髪をキャップでまとめ、上品なロングの侍女服に身を包んでいる。ティアラローズが幼いころから侍女をしており、姉妹のように育った信頼出来る人物だ。



 妖精たちを見ていたフィリーネが、「そろそろ部屋に戻りませんか?」とティアラローズに声をかけた。


「もう? わたくしはまだ大丈夫だけれど……」

「あまり長時間お外にいますと、アクアスティード陛下が心配されますから。お庭を一周してもどるのはいかがですか? 果実水をご用意いたします」

「……そうね。アクア様が心配すると大変だもの」


 フィリーネの言葉に、ティアラローズはくすりと笑う。

 彼はティアラローズが妊娠してから、働こうとしたり運動しようとすると心配そうに注意をしてくる。本当に動いて大丈夫なのか? と。

 最近は、アクアスティードの口癖が「休んでいた方が……」になってしまっているような気すらするほどだ。


 とはいえ、じっとしているだけでは逆に体に悪い。

 悪阻も酷くないため、医師からも適度な散歩はした方がいいと言われている。


 ――心配してくれるのは、とても嬉しいけれど。


 ティアラローズは自分のお腹を撫でて、ベンチから立ち上がる。


「少しお散歩してお部屋に戻りましょう」


 お腹にいる赤ちゃんに、こうして話しかけることも増えた。

 最初は少し恥ずかしかったけれど、今ではあまり気にならない。というか、フィリーネをはじめ、アクアスティードやオリヴィア、妖精たちも声をかけてくれる。


 この子は愛されている――そんなことを考えていると、「ティアラ」と自分を呼ぶ優しい声が耳に届く。

 手入れされた薔薇の道を歩いてこちらにくる、優しい旦那様が視界に入った。


「アクア様!」

「少し休憩しようと思ってね。ティアラ、体調はどう?」

「問題ありません。わたくしも赤ちゃんも、とっても元気です」


 ティアラローズの返事を聞くと、アクアスティードは嬉しそうに微笑む。



 ティアラローズをエスコートするのは、アクアスティード・マリンフォレスト。

 ここマリンフォレストの国王であり、ティアラローズの大切な旦那様だ。

 ダークブルーの髪に、王の証である金色の瞳。整った顔立ちは美しく、いつもティアラローズに優しい笑みを向けている。



「フィリーネと散歩をしていたの?」

「はい。妖精たちがみんなで植物のお世話をしていたので、休憩しながら見ていたんです」


 だからそれほど歩いてはいないのだと、ティアラローズは苦笑する。


「最近は妖精たちが王城に来る機会が増えたね。やっぱり、この子に祝福を贈ってくれたからかな?」

「そうかもしれませんね。みんな、お腹の赤ちゃんに話しかけてくれますから」


 マリンフォレストには、森、空、海の妖精とその王がいる。

 気に入った相手に祝福を与え、その力の一端を授けてくれるのだ。


「私たちの子どもは愛されすぎて逆に心配になる」

「誰も取ったりはしませんよ?」


 アクアスティードは生まれた子どもが自分より妖精たちに懐いたら……という不安があったようだ。公務が忙しく、日中はなかなか時間をとることも難しい。

 ただ、誰よりも愛情を注ぐ自信はあるけれど。


 のんびり庭園を歩いていると、偶然シリウスに出会った。


「あ、ティアラ姉様!」

「シリウス王子。こんなところで会うなんて、奇遇ですね」


 嬉しそうにティアラローズの名を呼んだのは、シリウス・ラピスラズリ・ラクトムート。

 ティアラローズの祖国であるラピスラズリ王国の第二王子で、今はマリンフォレストへ留学に来ている。

 ティアラローズとは幼いころから知っていて、姉のように慕ってくれている。


「最近、庭園に妖精たちがよく顔を出しますからね。実は仲良くなりたくて、ちょこちょこ通っているんですよ」

「そうだったの……。妖精たちは気まぐれだけれど、シリウス王子ならきっと仲良くなれると思うわ」

「ティアラ姉様にそう言っていただけると、なんだか上手くいくような気がします」


 シリウスはティアラローズの言葉を聞いて、とびきりの笑顔を見せてくれる。

 アクアスティードも、「きっと出来るだろう」と頷く。


「妖精が他国の者に祝福を与えることは滅多にないが、前例がないわけではない。今は王城に多く妖精がいるから、ゆっくり話しかけてみるといい」

「はい、ありがとうございます!」


 国王に太鼓判を押されたこともあり、シリウスは先ほどより気合が入っているようだ。


「あ、そうでした。ティアラ姉様」

「はい?」

「発表前ですから、大っぴらには言えませんが……ご懐妊、おめでとうございます」

「――!」


 シリウスにはまだ伝えていなかったので、ティアラローズは驚いて口元に手を当てる。

 確かにお腹は膨らんできたけれど、ドレスを工夫してもらっているのではたから見てもわからないようになっているのに。


 ティアラローズの懐妊に関してはまだ公表前だが、一部の人間は知っている。侍女や護衛騎士をはじめ、医師や料理長や一部のメイドなどだ。


「ありがとうございます、シリウス王子。ですが、よく気付きましたね」

「ティアラ姉様のことですから、わかります。それに、周囲の者もいつも以上に気を使っているのは見てわかります」


 やはりわかる人には一瞬でばれてしまうものだなと、ティアラローズは苦笑する。

 アクアスティードも驚いたようだが、すぐに微笑んでシリウスに声をかけた。


「時期は調整しているが、もう少ししたら公表する予定だ。それまでは内密にお願いします、シリウス王子」

「もちろんです。きっと、国を挙げてのお祭りになりますね」


 今から楽しみですと、シリウスが嬉しそうにしている。

 嬉しいけれど、やっぱり恥ずかしいと……そう思うティアラローズだった。




 シリウスと別れて部屋に戻ると、フィリーネが果実水を用意してくれた。


「はぁ……生き返りますね」

「外は暑いからね。でも、体の冷やしすぎにも気を付けるんだよ?」

「はい」


 ティアラローズとアクアスティードは並んでソファに座り、のんびりとした時間を過ごす。こうして二人でいる時間が、心地いい。


 アクアスティードはティアラローズがグラスをテーブルに置いたのを見て、優しく頬へ手を伸ばす。


「アクア様?」

「いや……子どもが生まれたら、なかなか落ち着く暇もなくなるのかと思って」

「確かに、お世話は大変だといいますものね」


 いい子にお昼寝をしてくれたらいいけれど、泣いてぐずってしまうかもしれない。

 この世界では乳母という立場はなく、王妃であっても母親が子どもを育てる。そのため、生まれた子どもにつきっきりになるのは必然だ。


 ティアラローズは自分の頬に触れる手に擦り寄り、上目遣いでアクアスティードを見つめる。


「アクア様と……アクアとのんびりする時間も大好きです。ですから、子どもが生まれてもわたくしのことも忘れないでくださいね?」

「ティアラ……」


 もし女の子が生まれたら、アクアスティードはめろめろになってしまうのでは……と、思ってしまうこともある。

 とはいえ、それが嫌というわけではない。ただ、寂しく思ってしまう自分に嫌悪してしまいそうだ……とは思うけれど。

 だからこそ、勇気を出して――恥ずかしくてなかなか呼べない、敬称なしでアクアスティードの名前を呼んだ。アクア、と。


 呼ばれたアクアスティードはといえば、嬉しそうに頬を赤くした。普段なかなか呼んでもらえないので、実は不意打ちをされると弱い。


「ああもう、ティアラはどこまで私を虜にすれば気がすむの?」


 そう言って、アクアスティードはティアラローズに口づける。


「ん……」


 ティアラローズはゆっくり瞳を閉じて受け入れ、アクアスティードに身を任せる。優しく甘いキスは、夏の暑さも相まってとろけさせられてしまいそうだ。

 そっと唇が離れると、今度はティアラローズがアクアスティードの頬に触れる。


「わたくしだって、その……アクアに虜にされっぱなし、ですよ?」


 だからお相子ですねと、いたずらっぽい笑みを浮かべる。


「まったく。ティアラには敵いそうにない」

「それはわたくしの台詞です。アクアに甘やかされて、どうにかなってしまいそうです」

「私としては、もっとどうにかなってもらってもいいけどね……?」

「……っ! アクアったら」


 これ以上はもう心臓が持ちませんと、ティアラローズがこの話題を止める。

 そして、実家から手紙が来ていたことを思い出す。ちょうど散歩に出るところだったので、後で確認しようと思っていたのだ。


「少し手紙の確認をしてもいいですか?」

「もちろん。何かあった?」

「実家からなので、マリンフォレストへの滞在に関することかもしれません。アクア様にも知っておいていただいた方がいいですから」


 ティアラローズは机の上に置いておいた手紙を取り、ペーパーナイフで封を開けて席に戻る。

 そこには、父親であるシュナウスからの手紙と、養子となった義弟のダレルからの手紙が入っていた。


「わ、ダレルからの手紙が入っています! 嬉しい」

「よかったね、ティアラ」

「はいっ!」


 ティアラローズは当初、養子になったダレルと仲良くできるかとても心配していた。そのため、手紙をもらえたことがとても嬉しかったのだ。

 たどたどしい字で一生懸命書かれており、ダレルの頑張りが一目でわかる。


「ダレルはなんて?」

「……わたくしの体を心配してくれているようです。できれば、出産前にはマリンフォレストへ来たいと」


 ダレルは治癒魔法が得意で、ティアラローズの妊娠を最初に言い当てた。体調が悪くなったときも、とても心配してくれたのを覚えている。


 本来であれば、マリンフォレストの医師がいれば問題はない。

 けれど、お腹の赤ちゃんが膨大な魔力を持っていることがわかり、何か予想していないことが起こる可能性もある。

 実はそれもあって、ダレルには出産する際に別室で待機してもらおうという話もアクアスティードとシュナウスの間で進んでいた。


「姉思いの優しい弟だね。ダレルが来てくれるなら、こちらとしては歓迎するよ。もう一通の手紙にも、そのことが?」

「あ、お父様の手紙ですね」


 ティアラローズはもう一通の手紙を手に取り、その内容を読む。


「ええと、『ティアラ! 元気にしているか? こちらは家のリフォームがほとんど終わった。いつでも遊びに来なさい。子どものために頼んだ特注のぬいぐるみも、もうすぐ完成』……すみませんアクア様、滞在の予定などではなく、いつものお父様の手紙でした」

「本当に、ティアラは愛されているね」


 いかにも娘ラブなシュナウスらしい手紙に、アクアスティードは笑う。


「なら、ダレルたちの滞在の日程などは私が詰めておくよ。構わない?」

「はい。どうぞよろしくお願いします」


 治癒魔法の得意なダレルもいて、王城の医師もいて、不安なんてすべて吹き飛んでしまいそうだとティアラローズは思う。


 ――早くこの子に会いたい。


 そう思いながら、ティアラローズはアクアスティードの肩に寄り添うのだった。

祝・コミック5巻発売!

  &

シリーズ累計100万部突破!!


これも応援してくださったみなさんのおかげです。

ありがとうございます……!


また週一を目安に更新していきたいと思いますので、お付き合いいただけますと嬉しいです。

コミック5巻は本日発売、小説9巻は3月15日発売です。


頑張って書いたので……面白かった、続きが楽しみ!など思っていただけたら、

ブックマークや、このまま下にいくとあるポイント評価から評価していただけると嬉しいです~!

更新の励みになります!


そして『最強チートテイマーですが、冒険よりも異世界で『もふもふカフェ』を開店したいです。』というもふもふの新作を始めました。

こちらも楽しんでいただけますと嬉しいですー!

※下記の方にリンクを貼っていますので、そこからどうぞ。

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