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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第9章 わずかに聞こえる幸福の音色
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14. 二人きりの甘い時間

甘めです。

 ティアラローズがアクアスティードと一緒に実家へ帰省をして数週間、明日の午前中にマリンフォレストへ向けて出発することが決まった。

 当初はティアラローズの体調を考え、数ヶ月は療養の意味も込めて実家にいては……という話もあったのだが、王妃である自分が長くマリンフォレストを空けてはおけない。


 今日は実家にいる、最後の夜だ。


「ティアラ、本当に無理はしてない? 魔力の問題は解決したとはいえ、悪阻は辛いことも多いんだろう?」


 アクアスティードは手にホットミルクを持って、ソファに座っているティアラローズの横へ行く。

 ほかほか湯気が出ていて、体が温まりそうだ。


「ありがとうございます、アクア様。確かに少し辛いと思うことはありますが、動けないほどではありませんから」

「そう? でも、何かあれば遠慮なく言って。じゃないと、フィリーネも心配するよ」

「はい」


 確かに無茶をしたら、フィリーネが泣きながら怒ってきそうだなと思う。ティアラローズのことを一番に考えてくれている彼女のお説教は、申し訳なくなってしまっていつも反省するばかりだ。


 ティアラローズはホットミルクを口にして、ふうと体をリラックスさせる。


「美味しいです」

「それはよかった。ほんの少しだけ砂糖も入れてあるから、疲れにもいいと思うよ」


 明日からはまた長時間馬車に乗らなければいけないので、今のうちにゆっくり甘いものを取るのがいいだろう。

 とはいえ、フィリーネがきちんと用意しているのでティアラローズの前からスイーツが消えることはない。


 アクアスティードは自分のホットミルクを机に置いて、じっとティアラローズのお腹を見つめる。

 妊娠しているとわかってから何度も見ているし、優しく撫でたりもしているのに、毎日気になってしかたがないのだ。


 ――アクア様、可愛い。


 ティアラローズはそんなアクアスティードの姿にきゅんとして、自分とお腹の子どもがとても大事にされていることを感じる。


「早く元気な姿が見たいな」

「アクア様ったら、気が早いですよ?」

「それもそうだが……」


 気になってしまうのだから仕方がないと、アクアスティードは笑みを浮かべる。普段の凛々しい表情と違い、油断したような甘い顔。

 お腹を撫でてくるアクアスティードの手に自分手を重ねて、ティアラローズはゆっくりアクアスティードによりかかる。


 すると今度は、お腹を撫でていた手がゆっくりティアラローズ自身を撫でる。くすぐるように頬へ触れて、髪で遊び、最後は自分の方へ引き寄せるように首の後ろへ。


「あ……っ」

「――ん」


 そのまま唇を奪われて、甘いミルクの味を感じる。

 こつん、と。アクアスティードはティアラローズのおでこに自分の額を当てて、目を細めて愛おしそうに微笑む。


 そしてぽつりと、一言。


「……男がいいな」


 そう、アクアスティードが口にした。

 元気であれば、男でも女でもいいと、そう言っていたアクアスティードが明確にどちらがいいと選んだことにティアラローズは驚く。

 けれど、子どもの性別はどちらがいいなんて、夫婦の会話としてはよくあることだ。


「男の子ですか? アクア様に似て、きっと格好よくなりますね」


 けれどやっぱり、王子がほしいのだなとティアラローズは思う。マリンフォレストの国王なのだから、王太子となる王子の誕生を強く望むことは当然だ。


 ――わたくしも嫁いできた王妃として、王子を生みたいもの。


 それはティアラローズに与えられた役目と言ってもいいかもしれない。


「ティアラ、難しいことを考えてる顔になってる」

「あっ! わたくしったら、すみません……」

「謝ることはないさ。私が男がほしいと言ったから、いろいろ考えてしまったんだろう?」


 ずばり図星をさされて、ティアラローズは返す言葉もない。


「ですが、大切なことではありませんか……」

「だからって、ティアラが責任を感じるようなことでもない。別に、女の子が生まれたら女王になればいい」


 だから子どもの性別で悩む必要なんてこれっぽっちもないのだと、安心させるようにアクアスティードが言う。


 ――でも、ならどうして男の子がいいのかしら?


「女の子だったら、他国へ嫁ぐかもしれないだろう?」

「え……それは、そうですね。わたくしも隣国から嫁いできましたし」


 予想していなかったアクアスティードの言葉に、ティアラローズはなんと返したらいいのだろうと戸惑いつつ自分がそのパターンだったと頷く。


「ティアラの父上はすごいな。……私はもし娘が生まれても、誰かの嫁に出そうとは思えないかもしれない」

「アクア様……」


 まだ生まれてもないし、性別だってわからない。それなのに、今から子どもがお嫁に行くときのことまで考えてしまっているようだ。

 ティアラローズはふふっと声に出して笑う。


「アクア様、さすがにそれは気が早すぎですよ?」

「わかっている。だが、嫌だと思ったものはどうしようもない」

「それはそうかもしれませんが……」


 ティアラローズは自分のお腹を見つつ、娘が生まれたときのことを考えてみる。アクアスティードと一緒に可愛がって育てて、きっと素敵な令嬢になるだろう。

 父親が好きじゃない娘は多いだろうが、アクアスティードを嫌いになる女の子がいるとは思えない。


 ――あ。


 親子で暮らす様子を思い浮かべていたティアラローズは、とある結論に行きついた。


「男の子がいいですね!」

「何を考えたの? ティアラ」


 特に性別を明言していなかったティアラローズが男がいいと告げたのに、アクアスティードはいったいどうしたのかと首を傾げる。

 すぐになぜ男がいいか説明出来たらよかったのだが、その理由が少し子どもっぽいような気がしてティアラローズは口を噤む。


 ふるふる首を振って、「やっぱりナシです!」と声をあげる。


「私に言えないようなこと?」

「いえ、そういうわけではなくてですね……なんとも自分勝手な理由だったと思って、考えを改めました」

「…………ふぅん?」


 そんなことを言われたら、どうやってでもティアラローズに言わせたくなるのがアクアスティードというもの。

 こういうときのティアラローズは、間違いなく可愛いことしか言わないからだ。


 さて、どうしようかな? ――なんて。


 ティアラローズはティアラローズで、この『ふぅん?』の笑みはいけないやつだと笑顔が固まる。


「あっ、でも……っ! 娘だったら、一緒にお茶会が出来るのでとても楽しみです」

「ティアラが主催するお茶会は人気だからね。確かに娘が生まれて一緒にお茶会をすれば、普段は登城できない子どもたちも一緒に来れるだろう」


 普段のお茶会に招待するのは、社交デビューをした令嬢たちだ。けれど、娘と一緒に行えばほかの貴族の令嬢や令息を招待することが出来る。

 王族ならではの特権のようなもので、貴族が行う場合は派閥が同じか、よほど親しい間柄でなければ子ども同士の交流はない。

 そういったことを考えても、生まれてくる子どもはみんなの架け橋になるだろう。


 そしてふと、自分も幼いころに王城のお茶会に招待されて行ったことを思い出す。

 とてつもなく緊張して、けれどラピスを賜った侯爵家の令嬢としてしっかり振る舞わなければと震える自分を叱咤した。


 ――思ったよりハードルが高い思い出だったわね。


「娘でも息子でも、どこに出ても恥ずかしくないようにしないといけませんね。それが将来、この子を助けることになりますから……」

「そうだね」


 甘やかすのは大事だけれど、なんでも許していいわけではない。でなければ、社交デビュー後に困るのは本人なのだから。


「ティアラ」

「はい? アクア様――……」


 ティアラローズが名前を呼ばれて顔を向けると、すぐ眼前にアクアスティードの顔があった。あと少し動けばキスをしてしまいそうな、そんな距離だ。

 一気に心臓が跳ね、ドッドッドと速い鼓動を刻む。


「ど、どうしましたか?」


 そう言いながら、ティアラローズは後ろに少し体をずらす。けれど、それに合わせてアクアスティードも距離を詰めてくる。


「ち、近いですアクア様……」

「ティアラが可愛くてね。そろそろ寝ようか。体が冷えてもいけないから、ベッドに行こう」

「はい」


 ティアラローズが立ちあがろうとするより先に、アクアスティードに抱き上げられてしまう。どうやら、ベッドまで運んでくれるらしい。


「自分で歩けますよ?」

「わかってるよ。たんに、私が触れていたいだけ」

「…………はう」


 さらりと甘い言葉を囁かれ、真っ赤になってしまった顔を両手で隠す。いつもそうだが、今夜もアクアスティードが甘やかしてくる。

 そのまま二人でベッドに寝転がると、アクアスティードの金色の瞳と目が合う。

 キラキラ光る宝石のようなその瞳は、王である証だ。見つめられるのは嬉しいけれど、それ以上に緊張してどきどきしてしまうし、まるで食べられてしまいそうだとも思う。


 ゆっくりアクアスティードの手が伸びてきて、ティアラローズの前髪に触れる。


「ん」

「さっきの話の続きをしようか?」

「……!」


 息子がいいとティアラローズが告げた理由をまだ聞いていないと、アクアスティードがティアラローズを見ながら口にする。

 ティアラローズの髪に触れていたアクアスティードの右手は、気付くとティアラローズの首の下へ入れられ腕枕になっていて。いとも簡単に、アクアスティードの胸元へ抱き寄せられてしまう。


「ね、ティアラ。理由を話すか――無理なら、ティアラからのキスがほしいな」

「わたくしから、ですか……?」


 にっこり微笑むアクアスティードに、ティアラローズは顔を赤くする。

 自分からキスをしたことがないわけではないので、駄目とか、そういうわけではない。いつもよりどきどきしてしまうだけで。


 理由を話すかキスをするか、どちらがいいだろうとティアラローズは思案する。しかしその結果、話をするのは嫌だなという気恥ずかしい気持ちが脳裏に浮かぶ。


 ――そ、それに、わたくしだってキスしたいもの!


 ティアラローズがおずおずアクアスティードの背中に腕を回すと、アクアスティードが擦り寄ってきた。嬉しいということが、その行動でわかってしまう。


 ――アクア様、可愛い……好き。


 ゆっくり瞳を閉じて、ティアラローズはそのままアクアスティードの唇に触れる。すぐに離すと、「まだ駄目」と腕枕で引き寄せられてしまう。

 素直にもう一度キスをして、すぐに離れて……けれど次はティアラローズからもう一度、アクアスティードの唇に触れる。今度はすぐに離れずに、上唇をはむりとしてみた。


「…………」


 ――自分からしてみたけど、恥ずかしい!!


 これは駄目だと唇を離して目を開けると、アクアスティードの金色の視線がティアラローズに向けられていた。


「ふぁ……っ!? あ、アクア様、も、も、もしかしてずっと見て……?」

「可愛くてつい、ね?」

「つ、ついでそんな恥ずかしいことをしないでください~!」


 まさか自分からキスしている間、ずっと見られていたなんて思ってもみなかった。恥ずかしくて後ずさろうとするも、腕枕されているのでそれもできなくて。


「私としてはもう少し頑張ってもらってもよかったんだけど……」


 そう言って、今度は目を開けたままアクアスティードからキスをしてきた。ティアラローズも突然で、目を閉じるのを忘れて――というか、一瞬の隙をつかれて反応できなかったと言った方がいいだろうか。


「ん……っ」


 二度目のキスで目を閉じると、アクアスティードから「ティアラ」と名前を呼ばれる。


「せっかくだから、ティアラの可愛い顔をみたいんだけどな?」

「っ!! 駄目です無理です、恥ずかしいです!! それなら息子がいいと言った理由を話した方がいいです……っ」

「そう?」


 さすがにずっとキスしているところを見られているなんて、無理だ。ティアラローズは観念して、先ほど思ったことを口にする。


「その……娘だと、アクア様を…………とられてしまうのでは、と……」

「私を?」


 きょとんとするアクアスティードに、ティアラローズは頷く。


「ほ、ほら……女の子は、『パパと結婚する』なんてよくあるじゃないですか」

「…………」


 しかもアクアスティードは続編のメイン攻略対象で、とてつもなく格好いいキラキラの王子様だ。

 娘すらときめかされてしまうに違いない――と、思わずにはいられない。


「だからその、男の子ならそんな心配はいらないかな? と、思ってしまったわけでして……」

「ティアラってば、やきもち? ああもう本当に、こんな可愛い理由だったなんて」


 アクアスティードはぎゅっとティアラローズを抱きしめて、「大丈夫だよ」と優しく背中を撫でる。


「確かにティアラに似た娘だったら溺愛してしまいそうだけど、それでも私にはティアラローズだけということは変わらない。一番じゃなくて、ティアラ以外ほしいとは思わないんだ」


 もちろん子どもが生まれたら可愛いし、愛おしく思うけれどとアクアスティードは続ける。


「だからティアラが心配するようなことは何一つないよ」

「アクア様……」

「それに……もし息子が生まれて、ティアラと結婚するなんて言われたとしても絶対に譲らないからね」


 たとえ自分の息子だろうと、容赦はしないとアクアスティードが笑う。


「でも、こうやってティアラに妬いてもらえるのもいいね。愛してる、ティアラ。もちろん、お腹の子どもも」

「……はい」


 今度は二人で見つめ合いながら瞳を閉じて、もう一度キスをした。

本日、コミック4巻が発売!ということで更新です。

せっかくなのでこの勢いのまま夜の7時にも更新しようと思います。


あとで活動報告も書かなければ…!

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