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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第9章 わずかに聞こえる幸福の音色
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13. 可愛いフィリーネ

明日、コミックの4巻が発売です~!

なので更新!です!

 ティアラローズを王城のゲストルームへ運び、アカリとフィリーネは一息つく。今はもう、ティアラローズも穏やかな寝息を立てているので安心だ。


「みんなに何事もなくてよかったー! 魔力も指輪が順調に吸い取ってくれてるし、あとは無事に赤ちゃんが生まれてくるのを待つだけね~」


 アカリはふんふんと鼻歌を口ずさみながら、椅子に座ってティアラローズの寝顔を見ている。


「男の子かな、女の子かな、ああ楽しみすぎる~~!」


 一人でどんどんテンションを上げていくアカリは、顔がにやにやするのを止められない。

 そんな彼女を横目で見つつ、フィリーネはベルを鳴らして王城のメイドを呼ぶ。ティアラローズの身の回りの世話に必要なものは準備してあるが、アカリに飲み物を用意しないわけにもいかない。


 メイドがティーセットのワゴンを持って入室したのを見て、アカリがぱっと顔を輝かせる。


「わーい、紅茶とお菓子だ~」

「……すぐにご用意いたしますね」

「ありがとう、フィリーネ!」


 アカリがベッドサイドの椅子からソファへ移ったのを見て、紅茶を入れてマドレーヌを出す。

 お腹が空いていたようで、すぐにアカリの手が伸びた。そのままぱくりと食べて、満足そうに微笑んでいる。


「美味しい~! ティアラ様も起きたら食べたいだろうし、残しておいてあげようっと」

「あの……アカリ様」

「ん? なあに、フィリーネ」


 フィリーネから呼びかけられることはとても珍しくて、アカリは声が弾む。しかしすぐ、フィリーネが深く腰を折ったことにぎょっとして目を見開く。


「ちょ、どうしちゃったの?」

「……エリオットを助けていただいて、ありがとうございました」

「ああっ! うぅん、お礼なんていいの。大好きな人を助けるなんて、当たり前だもん!」

「――っ!」


 いったい何を言われるのかと身構えてしまったアカリだったが、単なるお礼ということにほっと胸を撫でおろす。

 エリオットもこのゲームの主要キャラで、アカリが大好きな人の一人だ。というか、アカリとしてはこの世界に住むすべての人を助けたいとも考えている。


 それにアカリとしては、こうしてフィリーネと会話が出来たことも嬉しい。普段はほとんど会話したことがなかった。

 なので、アカリは浮かれてフィリーネが俯いて辛そうな表情をしていることに気付かない。


「アカリ様、そんな誤解を招く言い方は駄目ですよ」

「あ、ティアラ様!」


 アカリたちの話し声が耳に届き目を覚ましたティアラローズは、いったい何の話をしているんだ!? と、目を見開いた。


 ティアラローズはゆっくり起き上がってアカリたちの方へ行き、フィリーネの前へ行く。ゆっくりフィリーネの手を取って、「大丈夫よ」と微笑んだ。


「ティアラローズ様……わたくしはいいのです、目が覚めて安心いたしました。ご気分がすぐれないなどはございませんか?」

「フィリーネったら、わたくしのことばかりね。ありがとう、わたくしは大丈夫よ」


 そしてティアラローズはアカリを見てから、もう一度フィリーネを見る。


「それから……ごめんなさい、エリオットを危険な目に遭わせてしまって……」

「いいえ、ティアラローズ様。わたくしたちはティアラローズ様とアクアスティード陛下の側近ですから、ティアラローズ様がご無事なこと以上に嬉しいことはないのです」


 申し訳なさそうなティアラローズの言葉に、フィリーネはゆっくり首を振った。どうか謝罪するのではなく、勇敢なエリオットを褒めてやってくださいと。

 その思いに、ティアラローズは胸の奥が熱くなるのを感じる。


 ――忠誠を誓った相手に対して、確かに安易な言葉だったかもしれない。


「ありがとう、フィリーネ。エリオットはとても勇敢で、この上なく頼りになる方ね。でも、フィリーネには心配をかけてしまったと思うから……」

「いいえ。今のお言葉だけで、わたくしもエリオットも十分ですから」


 そう言って微笑んだフィリーネは、とても強い瞳をしている。つい先ほどまで、アカリの言葉で不安に揺れていたとは思えないほど。

 でも、そのことを放って置けずにベッドから出たのだからフォローしなければとティアラローズは口を開く。


「……アカリ様はこの世界の人全員が大好きなので、エリオットのことを特別好きというわけではないの」

「あ……はい」

「え? え? もしかして私ってば余計なこと言っちゃいました……よね!?」


 ティアラローズの言葉ですべてを察したらしいアカリが、ソファからがばっと立ち上がって慌ててフィリーネの前に行き、その両手をティアラローズから奪い取りぎゅっと握りしめる。

 思わずフィリーネの体がびくっと震える。


「ごめんなさい、フィリーネ! 私ったら安易にエリオットへの好意を口にしちゃって……大丈夫、私が一番大好きなのはハルトナイツ様だから!! っていうかフィリーネ、もういい年齢だもんね、そろそろエリオットと結婚……! そうよ結婚! 盛大にお祝いしないと!!」

「へ……っ!?」

「落ち着いてください、アカリ様……」

「ティアラ様の妊娠に、エリオットとフィリーネの結婚、嬉しいことだらけね!」


 ふふふんと笑うアカリに、ティアラローズは「そう簡単ではないの」と告げる。


「え?」

「エリオットは貴族ではありませんから」

「ああ、そういう……」


 なるほど~と、アカリが腕を組んで悩んでしまう。


「エリオットはそれでいいかもしれないですけど、フィリーネは女の子なんですよ? 時間だって、無限じゃないんですから……あ、でもそれなら近いうちに結婚できそうですね」

「アカリ様?」


 一人で何かを納得した様子のアカリに、ティアラローズとフィリーネは首を傾げる。


「だって、貴族位ならすぐ手に入れられると思って」

「え? ――あ、そうか。確かに……」

「ま、待ってくださいティアラローズ様、アカリ様、どういうことですか?」


 ティアラローズとアカリが理解しているのに、自分だけわかっていないことにフィリーネが焦る。エリオットのことを考えてあわあわしている様子が、恋をしている女の子そのもので実に可愛らしい。


「…………」


 ティアラローズとアカリは顔を見合わせて、くすりと笑う。


「フィリーネが心配することは何もないから、大丈夫よ」

「そうです。女は王子様が迎えに来てくれるのをどーんと待ってればいいんですよ!」


 楽しそうなティアラローズとアカリを見て、きっといい方向に何かが動いているんだとわかったフィリーネだが……逆に落ち着かなくなってしまった。



 ***



 王城で休んだ後、ティアラローズは屋敷へと帰った。

 魔力が暴走して倒れたことには心配されたが、すでに指輪を完成させてはめているから問題はないと家族に説明する。


「ティアラお姉様、ご無事でよかったです……」

「ダレル、心配をかけてしまってごめんなさいね。わたくしと赤ちゃんは元気よ」

「はい」


 ダレルが嬉しそうに微笑んでくれたので、ティアラローズは優しく頭を撫でる。


「あ、でもちゃんとお休みした方がいいですよ」

「ええ。ゆっくり部屋で休むわね」


 部屋に行くようにと、ダレルに急かされてしまう。しかも、後ろにいた両親にも全力で頷かれ、アクアスティードにいたってはエスコートするために手を差し伸べてきた。


 ――わたくし、すごく甘やかされてる。

 もちろん嬉しいのだけれど、こんなに幸せでいいのだろうかと思う。

 マリンフォレストの王妃なのだから、もうすこし毅然としたいところもあるが……妊娠が発覚した今ではそれも難しいだろう。だって、アクアスティードもシュナウスも、ティアラローズを甘やかしたくて仕方ないのだから。


「それじゃあ、部屋で休みますね。おやすみなさい、お父様、お母様、ダレル」

「ああ、ゆっくりしなさい」

「おやすみなさい、ティアラ」




 部屋に戻り、ティアラローズは入浴などを済ませてしまう。食事は王城で食べてきたので、もうこのまま寝てしまってもいい。


「とはいえ、昼間に寝てしまったから……」


 そんなに眠くはない。

 部屋でのんびりと読書をしたり、ごろごろしてみるのもいいかもしれない。そんなことを考えながら部屋に戻ると、アクアスティードの姿がない。


「あら……?」


 いったいどこにいったのだろうと、ティアラローズは首を傾げる。アクアスティードがこの屋敷で行く場所は、そう多くない。

 食堂や図書室などは自由に出入りしているが、特に今は行く用事もないはずだ。


「アクア様に相談して、エリオットの時間をもらおうと思ったのだけど……」


 自分の魔力が暴走したとき、咄嗟にエリオットが助けに入ってくれたことは覚えている。けれど、ティアラローズはそのまま気絶してしまったので、その後エリオットに会っていないのだ。

 王城でアクアスティードに確認したときは、用事などがあるから席を外している……ということだったけれど。


「あ、もしかしたらアクア様はエリオットと一緒にいるのかもしれないわね」


 となると、エリオットの部屋か、ほかのゲストルームにいるかもしれない。ティアラローズはベルを鳴らして、フィリーネを呼ぶ。

 すぐにドアがノックされて、「どうしましたか?」とフィリーネが顔を出した。


「少し屋敷の中を歩きたいから、何か上着を用意してもらってもいいかしら」

「それは構いませんが……お体は大丈夫ですか?」

「ええ。お腹から出てる余分な魔力は指輪が吸い取ってくれてるから、とても調子がいいの」

「……わかりました。ですが、あまりご無理はなさらないでくださいね?」


 そう言って、フィリーネは丈がひざ下まであるロングの室内着を用意してくれた。髪の毛はゆるく一つにまとめ、横に流す。

 フィリーネは「可愛いです」と満足げに微笑み、ドアを開ける。


「どちらへ行くんですか?」

「アクア様がいらっしゃらないから、もしかしたらエリオットのところかもしれないと思って。わたくし、エリオットに助けてもらったのにまだ顔を合わせていなくて……」

「ああ、そういうことでしたか。でしたら、ゲストルームでアクアスティード陛下とお話すると言っていましたよ」


 丁度よくフィリーネがアクアスティードたちの所在を知っていたので、連れて行ってもらうことにした。



 アクアスティードとエリオットが使用しているゲストルームに着き、フィリーネがノックをしようとすると中から「私がですか!?」とエリオットの驚いたような声が聞こえてきた。

 もしかしたらタイミングが悪かったかもしれないと、フィリーネは後ろにいるティアラローズを見る。


「エリオットがあんなに大きな声を出すなんて、珍しいわね」

「そういえばそうですね……。いったい何の話をしているのでしょう?」


 二人で首を傾げ、時間をおいてまた来ようかと考えていると――今度はアクアスティードの声が聞こえてきた。


「ああ。ティアラと、そのお腹の子ども――マリンフォレストの王位継承権第一位となる子の命を守ったんだ。エリオットに貴族位が与えられることは、なんら不思議じゃない」


 その言葉に、フィリーネがひゅっと息を呑んだ。

 まさかこんなタイミングで、エリオットが貴族位を得ることを知るなんて思ってもみなかったからだ。

 というか、自分が知ってしまってよかったのだろうかと頭をぐるぐるさせている。


 そんな可愛く混乱するフィリーネに、ティアラローズはくすくす笑う。


 ――アクア様、わざと聞かせてくれたみたい。


 本来のアクアスティードの声は、あそこまで大きくない。おそらく、ティアラローズとフィリーネがドアの外にいることを知ってあえて伝えるように声を張ってくれたのだろう。

 貴族位を受け取ることに関して、本来であれば叙爵まで他人に知らせることは出来ない。エリオットも、こうしてアクアスティードから話は聞いたが、フィリーネに伝えていい許可は下りないはずだ。


 だから、アクアスティードはフィリーネが安心出来るようにこういう方法で伝えてくれたのだろう。

 後のフォローは、ティアラローズの役目だ。他言無用だと伝えようとフィリーネを見ると、そのぱっちりと大きな瞳から大粒の涙が零れ落ちていた。


「あ……申し訳ございません、ティアラローズ様……わたくし、その、なんと言っていいのか……」


 ぼろぼろと涙がこぼれて止まらないフィリーネを、ティアラローズはぎゅっと抱きしめる。


「おめでとう、フィリーネ」

「あ、ありがとうございます……。あ! ティアラローズ様とアカリ様が昼間言っていたことって、このことですか?」

「ええ。わたくしとこの子を守ったのだもの。エリオットはきっと爵位を賜ると思ったのよ」


 ティアラローズがお腹を撫でてそう言うと、フィリーネは「嬉しいです」と泣く。


「とりあえず、部屋に戻りましょう?」

「……はい」


 涙が止まらないフィリーネの手を取り、ティアラローズは幸せな気持ちで部屋へと戻るのだった。

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