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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第9章 わずかに聞こえる幸福の音色
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12. 子供の魔力と守りの指輪

すみません、更新遅れてしまいました;w;

 まさかこんなことになるなんてと、アクアスティードは脳内でどうするのがいいか計算していく。

 そもそも、夜の花鳥が雛だという認識がなかった。成鳥といっても差し障りのない外見だが、普通の鳥ではないのだから不思議はない。


「見逃してもらうのは……難しそうだな」


 雛鳥が自分に懐いたので、もしかしたらという希望を抱いたが、そう上手くはいかないらしい。それどころか、こちらに対して警戒している。


 ――当たり前か。

 自分にもティアラローズとの子どもが生まれていたとしたら、きっとこの親鳥と同じような反応をするだろうと思う。


「私が前に出ますから、アクアスティード様たちは後ろへ! 可能であれば、このまま森の外へ出てください!」


 エリオットが剣を構えて叫び、アクアスティード、アカリ、ハルトナイツを庇う形で前へ一歩踏み出す。

 それにアカリが反論する。


「一人で立ち向かうなんて、そんなの危険です! ここは協力して、親を倒すというか、逃げ帰ってもらった方がいいです!」

「いやいやいや、さすがにアカリ様たちを危険に晒すわけにはいきません!」


 エリオットが声を荒らげて拒否すると、ハルトナイツも「そうだぞ!」とアカリの腕を取る。


「怪我でもしたらどうする! お前はすぐに逃げろ!」

「ハルトナイツ様……私の心配をしてくれるなんて、優しい……」

「アカリ……」


 こんな状況でもときめきを忘れないアカリに、ハルトナイツはため息をつく。


「でも大丈夫ですよ、ハルトナイツ様! 私、こう見えて結構強いんですから!」

「そういう問題ではないだろう!?」

「えー? でも、アクア様の次くらいには強いと思いますよ? 剣は使えないので、魔法だけですけど……」


 そう言ったアカリは自分の両手から、バチバチっと音をさせて雷を出して見せる。先ほどの弱々しいものではなく、威力が高いものだ。

 確かにそれを相手に向けたら、ただでは済まないだろう。

 ハルトナイツが青い顔をしているが、アクアスティードは見なかったことにする。


 自由奔放なアカリに、先に帰れと言ってもおそらく無駄。


「アクア様、私も戦っていいですよね? エリオット一人であの親鳥に立ち向かうなんて、大変じゃないですか!」

「……わかった。ただし、前に出るのは駄目だ。アカリ嬢は魔法を使うのだから、前衛は私たちに任せてくれ。ハルトナイツ王子は、アカリ嬢の側に。何かあった際、対応してくれ」


 このままここでどうすると話し合っていても親鳥は待っててくれない。ならば、全員で相手をするのが一番いいという判断だ。

 アクアスティードは剣を構え、親鳥を見る。


 ――出来ることなら、戦いは回避したい。


『ピュイッ』


 アクアスティードの腕に留まっていた夜の花鳥が鳴き、親を見る。けれど『ピュイー』と低い声で鳴いただけで、こちらへ向ける威圧に変化はない。

 親鳥は大きく翼を広げて、もう一度鳴いてアクアスティードたちへ向けて花の羽を飛ばしてくる。アクアスティードはそれを剣で叩き落とし、地面を蹴り親鳥に一太刀入れるが――羽ばたいた突風で押し返されてしまう。


「アクアスティード様、下がってください!」


 今度はエリオットが剣を振り上げ、親鳥へ一撃入れる。アクアスティードの後ろから隙をついたかたちだったので、綺麗に決まった。

 低い声で鳴いた親鳥が空へ大きく飛び、こちらへ急降下してくる。どうやら足から着地して、押しつぶす攻撃をしようとしているらしい。


 すると、アクアスティードの後ろから、「ふっふー!」とアカリが笑いをもらす。


「今度は私の見せ場ですね! 夜の花鳥なんて、親はないですけど……ゲームで何回だって倒してるんですから。雷で一撃で――危ないっ!!」

『ピュイリー』


 アカリが雷魔法を放とうとした瞬間、夜の花鳥がアカリと親鳥の間に割って入った。

 このままでは雷が夜の花鳥に当たってしまうと考えて、どうにか踏ん張り魔法の軌道を意地で修正する。


「……くぅっ、方向転換!!」

「アカリ!」


 力の制御の反動で倒れそうになったアカリをハルトナイツが後ろから支え、無事でよかったとほっと息をつく。

 アカリが逸らした雷の魔法は大きな木を数本なぎ倒しており、もし親鳥に直撃していたら一瞬で息絶えていただろう。


「……アカリ嬢は手加減という言葉を知らないのか?」

「ま、まあ、親鳥は今の衝撃で逃げ帰ったみたいですから……よしとしましょう」

「雛鳥もいなくなっているな」


 夜の雛鳥がいなくなり、なぎ倒された数本の木だけが残る。


「はー! びっくりした! でも、誰にも怪我がなくて、夜の花鳥も逃げ帰ってくれてよかったですね。素材もゲット出来ましたし、私たちはさっそく指輪を作りましょう」


 今しがたの大騒動なんてなかったかのような明るさのアカリに、アクアスティードたちはどっと疲れた気がした――。




 ***




 アクアスティードたちの活躍により、赤ちゃんの魔力問題を解決する指輪作りが始まった。

 作成はラピスラズリの王城で、アカリとハルトナイツが同席して行う。発案者がアカリということと、材料がラピスラズリに生息する貴重な鳥から採取できるからだ。


 ティアラローズはアクアスティードと一緒に、フィリーネ、エリオットを連れて登城した。用意されたのはゲストルームで、素材や必要な材料がすでに一式揃えられている。


「ティアラローズ様、体調は問題ありませんか?」


 フィリーネが全員にハーブティーを用意し、ティアラローズの体調を気遣う。ダレルに治癒魔法をかけてもらって落ち着いてはいるが、子どもの魔力は日々増えていっているので、苦しさを完全に拭うことは出来ない。

 ティアラローズはフィリーネを安心させるように微笑み、大丈夫だと頷く。


「わたくしは指輪作りの見学だから、無理はしないもの。本当は一緒に作りたかったのだけれど、アクア様に許していただけなくて……」

「ティアラ、お願いだから大人しくしていて」

「当たり前ですティアラローズ様!!」


 本当は一緒に指輪を作りたいと言ったティアラローズに、アクアスティードとフィリーネの心配する声が重なる。

 いったいどうして自分で作れると思ったのかと、全員がため息をつきたくなるほどだ。


 けれどそんな中で一人、アカリだけがうんうんと頷いている。


「わかります、わかりますよティアラ様! ゲームアイテムを作ってみたくなる気持ち! でも、今のティアラ様だと何があるかわからないので……大人しく見ていてくださいね?」


 もしかしてアカリがティアラローズに一緒に作ろうと言うのではとハラハラしたが、さすがにそれはなかったようだ。

 ティアラローズは苦笑しつつも、素直に「はい」と頷いた。


「それじゃあ、さっそく指輪を作りましょう!」

「いつも思うが、アカリはいろいろなことを知っているな……」


 夜の花鳥の素材を手にしたアカリを、ハルトナイツが感心したように見る。貴重な材料を使った指輪の作り方なんて、古い文献を見たとしても載っていないだろう。

 アカリは得意げに笑みを見せて、「この世界を愛してますから」とだけ口にした。


「ティアラ様に送る指輪ですから、作業はアクア様にお願いしますね」

「わかった。教授をよろしく頼む、アカリ嬢」

「はい! 任せてください!」



 乙女ゲーム『ラピスラズリの指輪』では、特定のアイテムを作ることが出来る。

 必要なのは材料と魔力の二つ。

 こう聞くと簡単に思えるかもしれないが、材料のドロップ率は低く、必要魔力も多くほいほいアイテムを作ることは出来ないのだ。

 なので、ゲーム初期でヒロインの魔力が少ないときはアイテムがあると助かるがなかなか作ることが出来なかったりする。



「指輪の土台はこっちで用意したので、これを使ってくださいね」

「土台は既存のものでいいのか」

「そうです。この材料を魔力で加工すると宝石みたいになるので、それが効果を発揮するんですよ」

「なるほど……」


 アカリが得意げに説明していくが、もしここで指輪である理由を問われたら……ゲームコンセプトなのでという曖昧な回答しか出来ないだろう。

 ティアラローズは作業を進めて行く様子をフィリーネと見ながら、くすりと笑う。


「アクア様が作ってくださるなんて、赤ちゃんの魔力を吸収するためですが……嬉しいわ」

「ティアラローズ様はあまり物をねだったりしませんものね。普通、姫君はもっとおねだりをすると思いますが……そんなところもティアラローズ様の可愛いところですものね」


 だからティアラローズに何か頼まれたりしたときは全力で応えるのだと、フィリーネが満面の笑みを見せる。

 それはアクアスティードも同様で、隙あらばティアラローズを甘やかそうとしたり、ほしがっていそうなものを贈ったりする。

 その最たる例が、気付いたら豪華に使いやすくなっていくティアラローズ専用のキッチンかもしれない……。


 アクアスティードが指輪の土台を手に取って、そこに夜の花鳥の尾羽である葉を乗せる。まず作るのは、『守りの指輪』だ。


「ティアラの守りはいくつあっても足りないからね」

「アクア様……」


 自分に向けられた言葉に赤面してしまう。


「わたくしはパール様から守りをいただいているので、不意打ちを受けても怪我一つしませんよ? むしろ、守りの指輪はアクア様に持っていてほしいくらいです」

「駄目だよ。これからは子どもだっているんだから、まだ足りないくらいだ」

「これだけあってもまだ……」


 ――さすがに過保護すぎです、アクア様!


 そしてふと、にやにやした顔のアカリに見られていることに気付く。今のやり取りを思い返して、ティアラローズの顔は一瞬で火が噴出したのではと思うほどに赤くなる。


 ――ああ恥ずかしい!


 しかし嬉しいとも思ってしまっているし、アクアスティードの気遣いもあるので、強く止めてくれとも言えない。

 両手で顔を隠し、ティアラローズはソファで縮こまることしか出来ない。


「ま、恋バナはおいおい聞くとして……今は指輪です! アクア様、土台に葉を載せたら魔力を流して、『アイテム作成』と唱えてください」

「そんな呪文があるのか……」


 アクアスティードは半信半疑になりつつも、失敗して材料を無駄に出来ないので素直に頷く。

 ゆっくり空のように澄んだ魔力を流しながら、指輪を見つめる。


「――【アイテム作成】」


 アクアスティードの言葉に呼応するかのように、材料がピカっと強い光を発した。そして次の瞬間には、指輪の台座と葉の部分が一つになり、新緑の葉で装飾された美しい指輪が出来上がっていた。


「これが守りの指輪――か」

「はい! 上手く出来てよかったです。はめると魔力を吸われちゃうんですけど、どうですか?」


 アカリの言葉を聞いて、アクアスティードは指輪を自分の指にはめた。


「……確かに、魔力を吸い取っていくな。量はそんなに多くないが、子どもの発する魔力に対応するなら十分だろう」

「これでティアラ様も赤ちゃんも無事ですね! ふふ、早く付けてあげてください」

「もちろん」


 アクアスティードが指輪を外し、ソファに座るティアラローズの下へ行く。そのまま片膝をついて、優しく微笑む。


「アクア様……」

「よかった。これでティアラと子どもを守ることが出来そうだ」

「ありがとうございます」


 宝石を扱うようにティアラローズの右手を取り、アクアスティードは守りの指輪を小指にはめようとして――その瞬間、ティアラローズが苦しそうな声で呻いた。


「テイアラ!?」

「ティアラローズ様!?」


 アクアスティードがすぐ声をあげ、フィリーネとエリオットが心配してすぐ近くまでやってくる。


 ――落ち着いているとばかり思っていたのに、まさかこのタイミングで魔力が一気に膨れ上がるなんて。


 体中が熱くなり、腹部が熱い。まるで焼かれているのではと錯覚してしまうほどで、大きく息を吸う。


「はっ、はぁ……っだめ、みんな離れて――!」

「……っ!?」


 ティアラローズが叫ぶような声をあげたのと同時に、室内の温度が一気に上がる。そして全員の視線がティアラローズの目の前に現れた炎の渦へそそがれた。


「こ、これは……」


 アクアスティードが思わず目を見開いた瞬間、炎が揺らいだ。そしてすぐ――ガッと衝撃が走る。すぐ横にいたエリオットが、アクアスティードへ向かって動いた炎に反応して突き飛ばしたのだ。


「ぐ……っ、あああぁぁっ!」


 膨れ上がった魔力の暴走によって生み出された炎の渦が、アクアスティードを庇ったエリオットに直撃して悲痛な叫びをあげる。


「エリオット、いやああぁぁっ!」


 フィリーネが悲鳴を上げて、何度も彼の名前を呼ぶ。


「どいて! 水よ、エリオットの炎を打ち消しなさい!!」

「あ、エリオット……ああぁっ」


 泣き崩れるフィリーネを横目に、アカリはアクアスティードの名前を呼ぶ。


「ティアラ様に指輪を! 早く!!」

「わかっている……!」


 アクアスティードは熱を持ったティアラローズの体に触れようとしているのだが、ティアラローズ本人から発せられた炎が襲いかかってきていた。

 それはまるで結界のようで、触れるなと言われているかのようだ。しかしそれを放置していたら、ティアラローズが死んでしまう。


「ティアラ、大丈夫だ……」


 アクアスティードがティアラローズの手を取り、その体を自分へ引き寄せる。すぐに右手を取り、その小指に守りの指輪をはめる。

 すると、淡い光が発せられ、指輪がティアラローズの小指のサイズになった。炎の魔力を吸い取り、ティアラローズの体から熱が消えていく。

 ティアラローズ本人は今の衝撃で意識が飛んでしまったらしく、気を失っている。けれど呼吸は正常で、命に別状はなさそうだ。

 そのことに、アクアスティードは安堵の息をつく。


「はぁ、はっ……よかった……」


 けれど安心するには早い。

 自分を庇ったエリオットはすぐ医者に診せなければ危険な状態のはずだ。錯乱するようなフィリーネの声が聞こえたので、かなり状況はよくないと判断する。


「エリオットは――」

「私ならもう大丈夫です、アクアスティード様」

「――! 怪我は、問題ないのか……?」


 見ると、エリオットは服こそ燃えてところどころ肌が露出しているが、火傷や怪我のあとなど一つもない。

 すぐに結論を導き出す。


 ――アカリ嬢の治癒魔法か。


「アクア様も火傷をしてるので、治しますね。じゃないと、ティアラ様が気にしちゃいますから」

「ありがとう、アカリ嬢。心から感謝する」

「当然です。エリオットも、アクア様も、ティアラ様も、みんな大切ですから。私に出来ることなら、なんだって協力しちゃいますよ!」


 そう言ったアカリは、アクアスティードの火傷に治癒魔法をかけて綺麗に治してくれた。


「さ、男子はお風呂に入って着替えて、私たち女子はティアラ様を看病しましょう。フィリーネ、手伝ってくれる?」

「はい。ありがとうございます、アカリ様……」


 フィリーネは涙をぬぐい、アカリの言葉に頷く。エリオットが死んでしまったのではないかと思い、涙が止まらなかったのだ。

 けれど今はもう、エリオット本人がすっかり元気になっていて……正直涙の行き場を失った。


 アカリはエリオットをまじまじと見て、いい笑顔を見せる。


「エリオットって普段は目立たないけど、いい体してますね!」


 ぐっと親指を立てて突然そんなことを言うアカリに、フィリーネの「何を言っているのですか~!」という叫び声が王城内にこだましたのだった。

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