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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第9章 わずかに聞こえる幸福の音色
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10. アカリ再び

 ティアラローズが子どもの魔力に苦しむようになって数日後、再びアカリがやってきた。もっとシュナウスと仲良くなるためにティアラローズの話をするためだ。

 もちろん、ティアラローズとアクアスティードとお茶もしたいと思っている欲張りっ子でもある。


「え!? 子どもが!? きゃー! おめでとうティアラ様~っ!!」


 アカリが「やったー!」と両手を広げて喜びをみせる。


「これはお祝いを用意しないと! ティアラ様だからやっぱりスイーツがいいですかね?」

「アカリ様ったら……ありがとうございます」

「いいえ。今度持ってきますね! ……にしても、悪阻ですか? なんだか体調がよくなさそうですけど」


 疲れた様子でソファに腰かけているティアラローズを見て、アカリが心配そうに首を傾げる。


「ベッドで休みますか?」

「いえ。悪阻と言うか……子どもの魔力が大きすぎて、それがわたくしに影響してしまってるみたいなの」

「ええっ!? さすがはティアラ様とアクア様の子ども! 生まれる前から最強じゃないですか!!」


 さすがは続編のメイン攻略対象と悪役令嬢! そう言ってアカリがはしゃぐ。こちらとしてはもっと深刻なのだが、彼女がいると大丈夫かもしれないとなんだか気楽な気持ちになる。

 はしゃいで満足したらしいアカリがソファに座り、「それでそれで?」と話を続ける。


「性別とか、そういうのはわかってるんですか?」

「まだ先ですよ。妊娠が分かったのだって、つい先日なんですから。……というか、この世界で性別判定なんてできるかしら?」

「あ、確かに。日本の医療だと当たり前になってるけど……こっちは医療機器なんて全く発展してませんからねー」


 医師にも、性別は生れるまでわからないと言われている。アクアスティードの子どもであることを考えると、やはり王子がいいのだろうが……ティアラローズは元気に生まれてくれればどちらでも構わないと思っているし、アクアスティードも同じ気持ちだろう。


「でも、ティアラ様の子どもだったら……女の子はめちゃくちゃ可愛いだろうし、男の子なんてどんなイケメンになるか……! 考えただけでもたまりません。生まれたらすぐ会いにいきますね!!」


 アカリは今から楽しみで仕方がないようで、顔がにやけている。

 それはとても嬉しいし、もしアカリが子どもを産んだとしたら、子ども同士も仲良くしてくれればいいなと思う。


 そしてふと、アカリはシュナウスと交流を持つために来てくれたのだったと思い出す。

 ティアラローズの妊娠の報告で、その話題がうっかりどこかにいってしまっていた。


 ――お父様は今、アクア様とお話をしているのよね。


 どんな話をしているかは聞いていないが、間違いなく子どものことに関する話だろう。二人の邪魔をするわけにはいかないので、今日は面会をあきらめてもらおう。


「アカリ様、お父様とアクア様は忙しいので……しばらくお会いするのは難しいかもしれません」

「そうなんですか? ……まあ、二人ともお忙しいんでしょうけど」


 せっかく来たのにと、アカリが頬を膨らませる。


「すみません。……二人とも、子どものために必死に調べものをしてくれたりしてるんです」

「え?」

「魔力が多すぎて、わたくしにかかる負担が大きすぎるんです。苦しくて、意識を保ってるのが難しくなってしまって……」

「えええぇぇっ!? そんなの、一大事じゃないですか!!」


 最強の子ども最高! なんて考えていた自分を殴ってやりたいと、アカリはこぶしを握り締める。


「ゲームをプレイしてるときはよくわからなかったですけど、この世界に転移して、魔法を使うようになったから……魔力の危険はよくわかる。まだ生まれてない赤ちゃんが魔法をコントロールするなんて……」


 今はいいかもしれないが、これからどんどん難しくなってくるはずだとアカリが言う。


「でも、アクア様が解決する方法を探してるんですよね? よかった……」


 もしこのまま魔力が爆発でもしてしまったら、母体となっているティアラローズがどうなってしまうかなんて考えたくもない。


「こうしちゃいられません! 私もティアラ様を救う会に突撃してきます!」

「アカリ様!?」


 すくっとソファから立ち上がったアカリは、「大丈夫、任せてください!!」と部屋から出て行ってしまった。



 ***



 応接室で、昨日に引き続きアクアスティードはシュナウスと魔力に関する話を進めていた。しかしそれと同時に、出産場所も問題になってきた。


「貴族であれば里帰り出産をしても問題はないだろうが、ティアラはもうマリンフォレストの王族。その点を考えると、マリンフォレストで環境を整えてもらうのがいいですが――」


 しかしシュナウスとしては、そうしてしまって危険はないかと心配で仕方がない。もし、マリンフォレストへの道中で魔力が膨れ上がってしまったら?

 マリンフォレストにだって優秀な治癒魔法の使い手だっているだろう。けれど、その人物が百パーセントティアラローズの容態を診られるかはわからない。

 それならいっそ、ダレルもいる実家に残って出産を行ったほうがいいのではないかと考えた。


 もちろん、アクアスティードもそれは一つの選択肢として考えている。

 けれど、そうするとアクアスティードだけがマリンフォレストへ戻り、ティアラローズにはしばらくの間会えない日々が続いてしまう。

 王妃が療養するからといって、国王のアクアスティードまでもが仕事を放り出してしまっては国が回らなくなってしまう。


 ――ティアラのことは、私の手で守りたい。


 だからどうにかして、子どもの魔力を押さえる方法を見つけるのに躍起になっている。しかし今のところ、いい方法は一つもない。

 マリンフォレストにいる優秀な治癒魔法の使い手を集めてはいるが、それで解決できるとも言い難い。


 アクアスティードはまだ考えがまとまらないまま、シュナウスを見る。


「王族だからということを理由にし、ティアラに最善の選択をしないということはありません。ティアラにとって一番いい方法であれば、私がそれを押し通しますから」

「さすが……心強いですな」

「ティアラの無事が一番で――」


 すから、と続けようとしたところで、部屋の扉が勢いよくバンっと開いた。何事だとアクアスティードとシュナウスが扉を見ると、そこにいたのは仁王立ちをしたアカリだ。


「……何をしているんだ、アカリ嬢」


 真っ先に我に返ったのはアクアスティードで、さすがにマナーが悪いのでは? と冷たい視線を向ける。

 しかし、そんなことに怯むアカリではない。


「ティアラ様がピンチだって言うじゃないですか! 親友の私も作戦会議に入れてもらわないといけないと思って、走ってきたんです」


 アカリはずんずん部屋に入ってきて、ぴたりと足を止める。

 向かい合わせになっているソファそれぞれに、アクアスティードとシュナウスが座っている。さすがに二人のどちらかに座る……というのは駄目だと思ったのだろう。机に備え付けられた椅子を持ってきて、お誕生日のポジションに置いて席に着いた。


「さっ! 赤ちゃんの魔力をどうにかする作戦を考えましょう!」


 時間はありませんから! と、アカリがこちらを見た。

 アクアスティードは問題ないが、シュナウスはまだアカリのことを快くは思っていない。ティアラローズのためとはいえ、受け入れるだろうか?

 そんな心配事が、アクアスティードの脳裏をよぎる。


 シュナウスは苦虫を噛み殺したような顔をするも、アカリの言葉に頷いた。


「本当であれば却下したいところだが、今一番大切なのは私の気持ちではなくティアラと子どもの未来だ」

「そうですよ、今はティアラ様のことが一番大事です! お父様、絶対にティアラ様と赤ちゃんを助けましょうね!」

「あ、ああ……っ」


 若干アカリの気迫に押されつつも、シュナウスがアカリに同意した。今は以前の問題よりも、今後のことが大事だからと。


 ――さすがはティアラの父親だ。


 正直に言えば、アカリの力を借りられるのはとても大きいとアクアスティードは考えている。彼女は『聖なる祈り』の使い手であるし、このゲームをプレイしていたという話もティアラローズから聞いている。

 もしかしたら、何かいい方法を知っているかもしれない。


 まずはこの数日の出来事を、アクアスティードが説明する。


「なるほど、魔力のコントロール……。でも、まだ自我だってないかもしれないのにそんなことが出来るんですか?」

「……わからない。だが、コントロールしてもらわなければティアラが危険になるだけだ」

「それは……」


 さすがのアカリでも、生まれてすらない子どもに魔力のコントロールをさせる方法はわからないかと肩を落とす。


「うぅぅ~駄目、絶対にティアラ様も赤ちゃんも助けるの! 何か、何か方法があるはずなんだから!!」


 乙女ゲームなんだからハッピーエンドにならなくちゃ! そう言いたいが、ティアラローズは悪役令嬢。


「悪役令嬢だから死んでもいいなんて、そんなのヒロイン()が許さないんだから」


 ティアラローズを助けることに燃え上がるアカリを見て、アクアスティードとシュナウスも絶対に助けなければと気合を入れる。


 シュナウスも顎に手を当てながら、どうしたらいいか思いつく方法を上げていく。


「魔力をコントロールさせる、いっそ魔力が増えないような措置を行う? しかしそんなことは前例がないから、難しいだろうな……」

「それであれば、いっそ魔力を吸い取ってしまえたらいいが……」

「――それです!」


 アクアスティードが言った言葉に、アカリがぱっと顔を上げて「ナイスです!」と言う。


「魔力を吸い取るのがいいと、アカリ嬢はそう言うのか?」

「そうです。お父様が言うように、魔力を増やさない……と言うのも手ではあるかもしれませんけど、それじゃあ子どもの力の成長を阻むことになってしまって可哀相です」


 そう考えるならば、魔力を増やしつつも、それを吸い取ってしまえばいいのだとアカリはアクアスティードの意見に賛同する。

 しかし、アクアスティードもシュナウスも、理屈では魔力を吸い取ってしまえばいいと思っているがその方法が全く分からない。


「アカリ嬢は、何かいい方法があるというのか?」

「はい! 魔力を吸い取る装備アイテムがあるので、それを作ってしまえばいいんです!」

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