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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第9章 わずかに聞こえる幸福の音色
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8. ダレルとの交流

 夜、ゆっくりバスタブにつかりながらティアラローズはいろいろなことを考える。

 まず、お腹にいる赤ちゃんのこと。まさか生まれる前から魔力を扱うなんて、思ってもみなかった。そして、それを簡単に見抜いてしまったダレルのことも。


 ――一度、ダレルとちゃんと話をした方がいいかもしれない。


 別にダレルを信じていないわけではないが、弟のことをちゃんと知っておきたい。それに、子どもの魔法のことだって何か話を聞けるかもしれない。


「……明日、ダレルをお茶に誘ってみましょう!」


 子どもにしては無口で感情の起伏はあまりないけれど、話をしたらきっといろいろなことがわかるはずだ。


「そうと決まれば、さっそくフィリーネに相談しましょう!」


 お菓子も、ダレルが食べたことのないものを用意……いや、自分で作るのがいいとティアラローズは一人頷いた。



 ***



「ティアラ、準備はこれでいい?」

「はい! 手伝っていただいてありがとうございます、アクア様」


 ダレルを招いてのお茶会をするために、ティアラローズはアクアスティードと一緒に自室で準備をしていた。

 テーブルのセッティングは終わったので、あとは開始の時間になるのを待つだけだ。


「時間までまだ少しあるから、ティアラは座っていようか」


 そう言われて、ティアラローズはアクアスティードにソファまでエスコートされてしまう。妊娠が発覚してから、本当にいつも以上に心配性になっている。


「これくらいでしたら大丈夫ですよ?」

「それは……もちろんわかってはいるんだが、どうにも私が落ち着かなくてね」


 アクアスティードもティアラローズの隣に座って、「私のためだと思って」と甘えられてしまう。


「……はい」

「ありがとう」


 にこりとアクアスティードが微笑み、ゆっくりお腹に手を当てた。真剣な表情に見えるので、おそらく子供の魔力について考えているのだろう。

 今までこういった前例を聞いたことはないし、乙女ゲームもエンディング後に子どもが生まれたというようなエピソードもなかった。

 なので、まったくの未知数――。


「……極まれに、胎内にいるうちから魔力を持つ子どもがいるという話を聞く」

「本当ですか? わたくしはまったく聞いたことがなくて……」

「いった通り、かなり珍しいケースだからね。話が浸透しないのは、やっぱり力のある王族に現れる傾向が強いからだ」


 だから庶民はもちろん、貴族にさえその情報が出回るということはほとんどないのだという。


「ただ、魔力を感じられる程度というのがほとんどで、今回のように中から外に何かを及ぼす……という話は聞いたことがないんだ」

「外へ及ぼすほどの魔力……。この子にとってそれが負担ではなければいいのですが……」

「そうだね。何かあったら、私が全力で守るから」


 だからあまり不安そうな顔はしなくていいと、アクアスティードに優しく抱きよせられる。


「こんなに安心出来る場所は、ほかにないですね」


 ティアラローズもアクアスティードに擦りより、甘えてみる。するとこめかみにキスが降ってきて、そのまま鼻、頬、最後は唇へ触れる。


「可愛い、ティアラ」

「あ、アクア様……」


 もう一度キスを――そう思った瞬間、コンコンコンと部屋にノックが響く。そして同時に、「ダレルです」という声も。


「ああ、もうそんな時間か……残念、タイムオーバーだ。続きはまた後で……」


 そう言ったアクアスティードはティアラローズのこめかみに優しいキスをして、ソファから立ち上がる。


「アクア様、わたくしが……」

「大丈夫だから座っていて。これくらいのことは、私がしてもいいだろう?」


 扉を開けると、緊張した面持ちのダレルが直立不動していた。そしてばっと勢いよく頭を下げてお辞儀をした。


「お招きありがとうございます、ティアラお姉様、アクアスティード陛下」

「いらっしゃい、ダレル」

「そんなに緊張することはないし、私のこともそんなに堅苦しく呼ぶ必要はない。さあ、おいで」


 アクアスティードが優しくダレルの背中に触れて、部屋の中へ入るように促す。


「あ、ありがとうございます。ええと……その、陛下でなければ、なんて呼べばいいでしょう?」

「そうだな……。ティアラの弟なんだから、同じように兄と呼んでくれて構わないよ」


 もちろん名前に様付けでもいい。アクアスティードがそう言うと、ダレルは視線をさ迷わせて、どうしたらいいか考える。


「お兄様……」

「ああ、それでいい」

「はい。ありがとうございます」


 アクアスティードが頷いたのを見て、ダレルはほっとする。


「二人とも、本当の兄弟みたい」

「本当ですか? ティアラお姉様。……嬉しいです」


 緊張していたためか無表情だったダレルだが、ふわりと表情が柔らかくなる。


「さあ、お茶にしましょう。ダレルもどうぞ座って」

「はい」


 ダレルが自分の向かいに座ったのを見て、ティアラローズは「緊張しなくて大丈夫よ」と微笑む。

 アクアスティードも隣に腰かけたのを確認して、お茶を淹れる。ダレルはじっとティアラローズの手元を見ていて、膝の上に載せた手は固く拳を握っている。


 ――すごく緊張しているみたい。


 ダレルが話しやすいように話題を振ろうと、ティアラローズは口を開く。


「今日は、昨日より少し小さめのシュークリームを用意してみたの。中のクリームは、昨日のものとチョコレートの二種類を用意してあるの」


 遠慮せずに食べてと、まずはお菓子で攻めてみることにしたティアラローズ。

 ダレルは目を瞬かせるも、「美味しそうです」と感想を言う。そのまま手を伸ばして、昨日はなかったチョコレートのシュークリームを口に含む。


「……! これ、美味しい……」

「気に入ってもらえてよかったわ」


 プレーンに続いて、チョコレートも気に入ってもらえたことにティアラローズは嬉しくなる。

 笑顔になったダレルを見て、普段からこれくらい距離が近かったらいいなと思う。


「ありがとうございます、ティアラお姉様」

「どういたしまして、ダレル。緊張してるとは思うけれど……もっと気楽にしてくれていいのよ?」


 すぐにというのは難しいけれど、もっと笑顔を見せてもらって、たくさん話をしたい。それを素直に伝えて見ると、ダレルはちょっと困った顔をした。


 ――言いすぎてしまったかしら!?


 ティアラローズは慌てて、「無理にとは言わないのよ」と首を振る。姉の言いつけだからと、ダレルが嫌だと思ったことを強要するつもりは毛頭ないのだ。

 しかしダレルは黙ってしまい、ティアラローズはもっと交流を持ってからにすればよかったと後悔する。


 弟が出来たことが嬉しくて、自分に癒しを与えてくれたことや、子どもが魔法を使っていることだって教えてくれた。

 ティアラローズがどうフォローしようか考えていると、アクアスティードがダレルに声をかけてくれた。


「会ったばかりだから、まだ話しにくいのも仕方ない、でも、よければダレルのことを教えてくれないか? 私もティアラも、もっとダレルと仲良くなれたら嬉しいからね」

「お兄様……ありがとうございます。ええと、僕は……あまり言葉を知らなくて、勉強中なんです。だから、二人に迷惑をかけてしまうかもと思って……」


 ダレルは、まだ知らないことが多く、字もまだスムーズに読むことができないのだと言う。


「そうだったのね。ダレル、迷惑なんて思わないわ。たくさん話をしましょう? ダレルの勉強にもなるし、わたくしも嬉しいもの」

「そうだね。もし間違った言葉があれば、教えてあげることも出来る」

「あ、ありがとう! 嬉しい」


 ティアラローズとアクアスティードの言葉に、ダレルは年相応の笑顔を見せてくれる。今までとは違って、安心して微笑むことが出来たのだろう。


「ふふ。ダレルはわたくしたちの弟ですもの。ねえ、もしも嫌じゃなかったら……ダレルが今までどう過ごしていたか教えてほしいわ」

「あ……それは……」


 笑顔だったダレルの表情が曇り、ティアラローズはしまったと自分を責める。シュナウスやイルティアーナもしらないことを、出会ってまだ数日しか経っていないティアラローズに教えるわけがないのだ。

 しかしそんなティアラローズの様子を見て、今度はダレルが焦る。自分のせいで、優しい姉を困らせてしまった、と。


「違うんです、ティアラお姉様! その……師匠のことをどうしても思い出してしまって」

「師匠……?」

「僕に治癒系の魔法を教え、育ててくれた人です。いつも師匠と呼んでいたので……」


 初めて、ダレルの口から治癒魔法を教えてもらっていたと教えてもらえた。そして同時に、シュナウスの予想が当たっていた。

 ダレルの雰囲気を見る限りでは、師匠に対しては好意を持っているように見える。


 ――でも、今は師匠から離れて我が家の養子になったのよね?


 離れ離れになるパターンはいろいろあるけれど、こんなに優しいダレルが師匠に愛想を尽かされるというのもなんだか想像が出来ない。

 可能性としては、月謝を支払っていて、けれどそれが不可能になった。ダレルが何かミスをするなりして、破門になったか。


 ――ダレルはこんなにすごい治癒魔法を使えるのに。


 どうして一緒にいられないのだろうと考えたところで、ティアラローズの思考が一つの可能性に辿り着く。

 慌てて話題を変えようとするが、もう遅い。


「師匠は雨が降った日に、この世からいなくなりました。それから僕は一人で……どうしたらいいかわからなくて悩んでいたとき、お父様たちに出会ったんです」

「ごめんなさい、ダレル。わたくし、あなたに辛いことを思い出させてしまったのね。育ててくれた師匠が亡くなってしまったなんて、とても寂しいもの」


 ティアラローズが今にも泣きそうになると、ダレルは「お姉様は優しいですね」と驚いた。


「でも……そうか、この感情は『寂しい』と言うんですね」


 ダレルは今まで、その感情を表す言葉を知らなかった。師匠が教えてくれなかったことは、ダレルは知らない。

 だからダレルの口数は無口だった師匠と同じで少ないし、狭い世界で生きていたため魔法のこと以外は知らないことが多い。


 アクアスティードも驚いて、慰めの言葉をかける。


「話してくれてありがとう、ダレル。もしまた辛いことがあれば、遠慮なく言ってくれたらいい」

「ええ、アクア様の言う通りです。寂しかったら、わたくしと一緒にたくさんお喋りをしましょう。お母様も、ダレルともっと話をしたいはずですから」

「お姉様、お兄様……ありがとうございます。少し、寂しいのが減った気がします」


 そう言ったダレルは、少しだけ自分のことと師匠の思い出を話してくれた。


「僕はずっと師匠と二人、森の中で暮らしていたんです。年に何回か街に行ったことはあるんですが、それくらいで。だから、お菓子を初めて食べたときはびっくりしました」


 ダレルが知っていた甘いものといえば、森で採れた蜂蜜くらいだったし、純粋に単品で甘いものといえば木の実だろうか。

 おもちゃなんてなく、毎日が魔法漬けの日々だった。

 だからダレルは魔法以外何もないのが当たり前で、今の環境にまだまだ慣れないのだと苦笑した。


「でも、優しくしてくれるお父様やお母様のために早く慣れたいです。もう一人でいるのは、嫌だから……」

「ダレル……」


 ダレルは嫌われないように気をつけて、必死に勉強していたのだ。師匠と離れ離れになってから見つけた、この大切な場所を失わないように。


 簡単にだがダレルの話を聞き終えたティアラローズは、涙が溢れるのを止められない。だってまさか、こんなに幼い子どもがそんな辛い経験をしていたなんて。

 亡くなったという話だけでも辛かったのに、この場所を大切に思い、失いたくないと頑張ってくれている。


「ダレル、何があってもわたくしが守りますからね!」

「僕も、ティアラお姉様のことを守ります! 治癒魔法以外は得意じゃないけど……」


 だから何かあったら、ティアラローズに頼ってとダレルがやる気を見せる。それが可愛くて、ティアラローズは「わたくしの弟がとっても健気です!」とさらに守ってあげたくなる。


「なら、私は二人丸ごと守らないとね」

「アクア様がいれば怖いものなしですね」

「はい!」


 ティアラローズとアクアスティードが微笑むと、ダレルも嬉しそうに笑いながら元気に返事をしてくれた。

明日発売!ということで、頑張って更新しました〜!

どうぞよろしくお願いします!

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