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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第9章 わずかに聞こえる幸福の音色
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5. 癒しの力

 ダレルとの挨拶が終わり、ティアラローズはアクアスティードと一緒に自室へ戻ってきた。

 すぐにフィリーネが紅茶を淹れてくれたので、ソファでのんびりすることに。


「ふぅ……」


 ちょっと行儀が悪いかもしれないと思いつつ、ソファに深く腰かける。すると、隣に座っていたアクアスティードがティアラローズのことを抱きよせた。


「ティアラ、大丈夫? 道中の疲れも溜まってたのかもしれないね」

「わわ、ありがとうございます。馬車には乗り慣れていると思うんですが、長旅でしたからね」


 少し行儀は悪いかもしれないけれど、久しぶりの実家で、隣にいるアクアスティードが甘やかしてくれるのなら……と、だらっとしてしまうことにした。

 アクアスティードに寄りかかると、とても安心する。


 フィリーネも心配そうにティアラローズを見る。


「お医者様をお呼びしますか?」

「そこまではしなくて大丈夫よ、フィリーネ。少し休めばよくなると思うから」

「……わかりました。ですが、何かあればすぐにおっしゃってくださいね? わたくし、真夜中でもすぐお医者様を手配いたしますから!」


 無理をして悪化させるのは絶対に駄目だと、フィリーネに釘を刺される。


「では、わたくしは一度失礼します。何かあれば、すぐ呼んでくださいませ」

「ええ。ありがとう、フィリーネ」


 フィリーネが退室すると、アクアスティードが悪戯っぽい笑みを浮かべてティアラローズの顔を覗き込む。


「アクア様?」

「頑張りすぎるから、たまにはこうやってゆっくりするのも大切だよ。いっそ、横になってみる?」


 アクアスティードがいとも簡単に、ティアラローズを膝枕してしまう。


「あわわわっ」

「ほら、目をつぶって深呼吸してごらん。落ち着くだろう?」

「……はい」


 前髪を指ですくわれ、落ち着かせるように頭を撫でられる。こんな風にされたら、とろけさせられてしまうとティアラローズは思う。


 ――でも心地いい……。

 もっと撫でてほしいと思いながら、ゆっくり目を閉じる。


「……アクア様の手、冷たくて気持ちいいです」

「少し微熱がある……かな? ダレルとの挨拶も終わって、緊張が解けたのかもしれないね」

「そうかもしれませんね。ですが……驚きました。わたくしはてっきり、どこかの貴族から養子を取ったとばかり思っていましたから」


 父にしては少し軽率な行動だと、ティアラローズは不思議に思った。ただ、先ほど話したダレルは確かにとても穏やかでいい子であるとは感じたけれど。

 それはアクアスティードも同じだったようだ。


「後継ぎなら、親戚筋の子供をというのが一般的だからね。もしかしたら、何か他にも理由があるのかもしれない」

「そうかもしれませんね。わたくし、滞在中にもっとダレルと仲良くなれるようたくさんお話してみようと思います」


 このまま問題なく成長すれば、きっとラピスラズリの重役に就くはずだ。そのとき、マリンフォレストとの外交をスムーズに行える間柄になってほしい。

 そう考えると、今からダレルの成長が楽しみだ。


「それなら、まずは元気にならないとね。このまま体調が悪いままだと、ダレルに心配をかけてしまうから」

「はい。ただ……なんだか食欲もないですし、疲れがたまっているのかもしれません。夕食もあまり食べれないかもしれません……」


 もしかしたら、気温の変化などでバテてしまったのもあるかもしれない。


「……ハッ、夕食を食べれなかったときのために、お菓子を作っておいた方がいいのでは!?」


 それならばとりあえず食べることが出来そうだとティアラローズが言うと、アクアスティードが「こら」と苦笑する。


「……冗談です」

「主食はちゃんと食べないと駄目だよ。でも、そんなことを言う元気があるなら少しは私も安心かな」


 アクアスティードがくすりと笑ったので、ティアラローズもつられて微笑む。仕事を気にすることもなく、こうしてのんびり出来る時間は貴重だ。


 ――アクア様の仕事があると、どうしても時間を気にしてしまうもの。


 だからこうしてアクアスティードの時間を気にせずに独り占め出来ることが、実はとてもとても嬉しかったりする。

 なので、膝枕も比較的すんなり受け入れることが出来たりした。疲れているからというのもあって、ティアラローズも甘えたかったのだ。


 ――うぅ、顔がにやけてしまいそう……!


 ばっと両手で顔を隠すと、すかさずアクアスティードから「ティアラ」とむすっとした声が降ってくる。


「こら、それじゃあ顔が見えない」

「さらっと恥ずかしいことを言わないでくださいませ……」


 溶けてしまう。そう思ったところで、部屋にコンコンコンとノックの音が響き来客を知らせた。


「あら?」

「私が対応しようか。ティアラは座ったままで」

「……すみません。ありがとうございます、アクア様」


 アクアスティードがドアへ向かうのを見て、ティアラローズはソファにしゃんと座り直す。フィリーネならばだらっとしていてもいいが、両親やほかの使用人……という可能性もある。


 ――もし膝枕を見られたら、恥ずかしくて顔を合わせられないわ……!


 アクアスティードの話し声が聞こえて、部屋の中に戻ってきた。見ると、訪ねてきてくれたのはダレルだった。


「突然お邪魔してしまって、すみません……」


 ダレルは落ち着かないようで、そわそわしている。アクアスティードがソファを進めようとしたが、それより先に言葉を続けた。


「……ティアラお姉様、お腹……大丈夫ですか?」

「え?」


 ふいに気遣われた内容に、ティアラローズとアクアスティードの二人が声をあげる。確かに疲れて微熱はあるけれど、別にお腹の具合が悪いというわけではない。


 ――ダレルはわたくしを心配して様子を見に来てくれたのね。


 その優しさに、心が温かくなる。


「ありがとう、ダレル。そんなに体調が悪いわけではないから、わたくしは大丈夫よ。心配をかけてしまうなんて、お姉様失格ね」


 本当は頼りになる姉になるつもりだったのだが、出だしから心配をかけてしまった。これは元気になったらスイーツで挽回するしかない。


「……そうですか」


 ダレルはほっと息をついて、微笑んだ。


「すぐに紅茶を用意しましょう。ダレル、ソファへどうぞ」

「はい」


 ダレルがソファに座ると、アクアスティードが自ら紅茶の用意をしてくれた。


「アクア様、それはわたくしが……」

「駄目だよ。ティアラはもう少しゆっくりして。……まあ、ティアラの淹れる紅茶にはどうしても劣ってしまうけどね」


 その点に関しては申し訳ないと、アクアスティードが笑う。


「そんなことありません、アクア様。とっても嬉しいです」

「そう? 喜んでもらえて何よりだ」


 アクアスティードはダレルの前に紅茶を置いて、ティアラローズの横へ座り直した。


「わたくし、滞在中はたくさんダレルとお話がしたかったんです。ここでの生活にはなれましたか? 大変なこともたくさんあるでしょうけど、お父様はダレルのことをきちんと考えてくれていますから、何かあればすぐに相談してくださいね」

「……はい。よくしてもらっているのは、すごくわかります」


 ダレルは頷いて、ティアラローズをじっと見る。


「ティアラお姉様は、隣国マリンフォレストの王妃だと教えてもらいました。だからあまり会えなくて寂しいと」

「お父様ったら……」


 教育に自分の娘恋しさが混ざっているぞと、ティアラローズとアクアスティードは苦笑する。寂しそうにしているシュナウスの姿が、すぐ目に浮かぶ。


「私たちもあまり国を留守にするわけにはいかないから、頻繁に帰省するのは難しくてね」

「はい。それはお父様も言っていました」


 アクアスティードとしてももっと自由に出来たら……とは思うが、国も違って距離があるためそう頻繁に会う機会を作ってあげることは出来ない。

 とはいえ、十分に対応してくれているとティアラローズは感謝している。


「今はまだ難しいだろうけど、ダレルも大きくなったらマリンフォレストへ一度来てみるといい。ラピスラズリとは違ったものもあるし、見聞を広められる」

「はい。そのときは、お父様も一緒に連れていきますね」

「それはいい」


 ダレルは娘ラブなシュナウスのこともちゃんと考えて、いい息子をしているようだ。

 まだまだぎこちない親子関係だと思っていたけれど、思いのほか上手くいくかもしれないとアクアスティードは思う。


「…………はふ」

「ティアラ?」

「ティアラお姉様?」


 アクアスティードとダレルが話をしていると、ティアラローズから辛そうな吐息がもれた。見ると、先ほどよりも少し頬が赤くなっている。


「もしかしたら、熱が上がったのかもしれないな……」


 ティアラローズの額に触れて、アクアスティードがその熱を測る。


「……さっきよりも熱いね。フィリーネに言って、すぐ医者を手配させよう。ダレル、少し席を外すからティアラについていて――ダレル?」


 ダレルはアクアスティードの声が聞こえているのかいないのか、ソファから立ち上がってティアラローズの前へやってきた。


「ダレル、わたくしは大丈夫ですから」


 もし風邪だったらうつしてしまうかもしれないと、ティアラローズは離れるようダレルにお願いをする。けれど、ダレルは首を横に振った。


「やっぱり、苦しそう……」


 さっきの大丈夫は無理して言ったものでしょう? と、ダレルは寂しそうな顔をする。けれど、先ほどは本当にここまで辛くはなかったのだ。

 ダレルはティアラローズの手を取ると、目を閉じた。


「ダレル?」

「いったい何を……」


 ティアラローズが名前を呼び、アクアスティードがどうしようか考えたところで、ダレルの体が淡く光った。優しい、水色の光だ。


「これは……」


 ダレルが使ったのは、シュナウスが話していた癒しの力だった。

 優しい光がダレルを通じてティアラローズに通じ、体が温かくなっていく。辛かった呼吸はあっという間に落ち着いてしまい、体も軽くなっている。

 思っていた以上に自分は体調が悪かったようだと、ティアラローズは驚いた。


「これがダレルの力なのね……すごいわ。具合の悪さが嘘みたいになくなってしまったもの。ありがとう、ダレル」


 ティアラローズが礼を述べると、ダレルは小さく頷いた。


「先ほど侯爵に聞いてはいたが、すごい力だな……。ティアラを助けてくれてありがとう、ダレル」

「……はい」


 アクアスティードも同じように礼を述べると、ダレルも嬉しそうに笑う。


「ティアラお姉様が元気になったからって、その子も喜んでる」

「その子?」


 ふいをつくようなダレルの言葉に、ティアラローズとアクアスティードは首を傾げる。

 この部屋にいるのは、ティアラローズとアクアスティードだけだ。念のため後ろを見てみるが、ほかには誰もいない。


 するとダレルが、「ここだよ」とティアラローズのお腹を指さした。


「自分の具合が悪くて、ティアラお姉様の具合も悪くなっちゃったことを心配してたから……」

「え、ここって……」


 ティアラローズは自分のお腹を見て、そっと手を添える。

 もしダレルの言うことが本当ならば、アクアスティードとの子どもを妊娠しているということになる。


 落ち着くように深呼吸をして、けれど確かに月のものが遅れているなとは思っていたことを思い出す。


 ――忙しさと馬車の長旅のせいだとばかり思っていたのに。


 どきどきと、鼓動が早くなる。

 すぐ隣にいるアクアスティードを見ると、口元を押さえていた。息を呑み、嬉しそうに眉が揺れているのがわかった。


「アクア様、わたくし……」

「すぐ、すぐに医者を呼んでくる! ティアラはじっとしていること。いいね?」

「は、はい……っ!」


 アクアスティードが部屋を出ていくのを見送って、ティアラローズは改めてダレルにお礼を言った。

いつも誤字脱字報告ありがとうございます~

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