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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第9章 わずかに聞こえる幸福の音色
121/225

1. 実家からの手紙

更新再開です!

楽しんでいただけると嬉しいです。

 心地よい風と、それに乗って周囲に香る甘い匂い。今日はマリンフォレストの王妃であるティアラローズが主催のお茶会に、多くの令嬢たちが登城している。

 色とりどりの薔薇が咲く庭園では、これまたたくさんの種類のお菓子と紅茶が用意されている。どれも、ティアラローズ自らが選び用意したものだ。


「ティアラローズ様が考案された新作のお菓子が出るなんて……わたくし、とても幸せです」

「ええ、本当に。最近は、お菓子のラッピングも可愛いものが多くて。いつもどれを購入するか迷ってしまいます」

「食べるのはもちろんですが、お菓子は目で楽しむことも大切ですからね」


 集まってきた令嬢たちに、ティアラローズは優しい笑みを浮かべる。内心では、新作のお菓子が受け入れられてガッツポーズをしたいくらいだ。

 次はどんなお菓子を作ろう、そんなことを考えてしまう。



 そんなお菓子大好き人間なのは、ティアラローズ・ラピス・マリンフォレスト。

 ふわりとしたハニーピンクの髪と、優しげな水色の瞳。水色と白を基調としたエンパイアラインのドレスは可愛らしく、彼女をより引き立てる。

 隣国ラピスラズリから嫁いできた、この国の王妃だ。

 けれど実は、この世界――『ラピスラズリの指輪』という乙女ゲームの悪役令嬢だったりもする。断罪されて国外追放されるところを、今の夫であるアクアスティードに求婚され救われたのだ。

 スイーツを作るのも食べるのも大好きだということは、もう言わなくてもきっと理解されていることだろう。



 ということで、悪役令嬢だけれども……今はとっても幸せに暮らしているのです。

 ティアラローズが令嬢たちに新作ケーキの説明をしていると、口元に扇を当てたオリヴィアがやってきた。

 その眼元はとても楽しそうで、にやけそうになっている口元を扇で隠しているのだろうとティアラローズは苦笑する。


「ティアラローズ様、このケーキはとても美味しいですわ。ショートケーキとチーズの組み合わせもいいものですね」

「ありがとうございます、オリヴィア様。気に入っていただけてとても嬉しいです」

「こんなにも美味しいケーキを食べられるなんて、わたくし幸せですわ。しかも、悪役令嬢である先輩の手作りなんて」



 うっとりした様子で言い放ったのは、オリヴィア・アリアーデル。

 ローズレットのロングヘアにはリボンのヘアアクセサリー。お洒落な伊達眼鏡からは、透き通るようなハニーグリーンの瞳がのぞく。

 公爵家の令嬢であり、『ラピスラズリの指輪』の続編の悪役令嬢だ。

 このゲームを心から愛し、キャラクターは全推しで愛が重い。それゆえ、興奮して鼻血を出すことがしばしば……。ちなみに、趣味は聖地巡礼。



 手放しで褒めたたえるオリヴィアに、ティアラローズは「大袈裟ですよ?」といいつつも嬉しくて頬が緩む。

 ティアラローズが周囲を見回すと、たくさんあったケーキやマカロン、マドレーヌなどはもう数が少なくなっている。十分な数を用意したつもりだったが、思いのほかなくなるのが早かったようだ。

 追加するか悩むところだが、お茶会もそろそろ終わりの時間になる。


 すると、令嬢たちの小さな声が耳に届いた。


「あっ、もう新作のケーキはなくなってしまったのですね……」

「とても美味しかったから、仕方がありませんわ。ティアラローズ様のお茶会にご招待いただけただけでも、光栄なことですし」

「そうですわね」


 ちょうどティアラローズと一緒に聞いていたオリヴィアが、うんうんと頷いている。


「ティアラローズ様のケーキはとても美味しいもの」

「まだ少し時間があるので、追加を持ってきてもらいましょう。わたくしももっとお茶会を開催できたらいいのですが、最近は時間もあまり取れませんでしたから……」

「お忙しい日が続きましたものね」


 他国へ出向いたり、その後の外交だったりと、ティアラローズはここ最近は忙しかったのだ。今はちょうど一息ついたところで、こうしてゆっくりお茶会を開催することができるようになった。


 ――王妃として、もう少しお茶会の開催頻度を上げた方がいいかしら?


 それとも、お茶会や夜会に積極的に参加する方がいいだろうか。王妃としてやらなければいけないことが多くて、目が回ってしまいそうだ。

 その様子に気付いたらしいオリヴィアが、口を開く。


「でしたら、今度は我が家でお茶会を開きますわ」

「ありがとうございます、オリヴィア様」

「それなら少しは気も抜けますでしょう?」

「……そうですね」


 オリヴィアの扇に隠れるように小声で話して、二人でくすりと笑った。



 ***



 お茶会が終わり、ティアラローズは「さすがに疲れたわ……」と自室のソファでぐったりする。


「うぅ……最近なんだか疲れやすい気がするわ。もしかして、体力が落ちたかしら?」


 まだまだ若いつもりだったけれど、日ごろから運動をしているわけではない。散歩する時間を増やそうかな……なんて考えていると、ノックの音が響いた。

 入室をうながすと、入ってきたのはアクアスティードだ。


「お茶会お疲れ様、ティアラ。先ほど帰り際のオリヴィア嬢に会ってね、ティアラが疲れてるみたいだったからうんと甘やかすように言われてしまったよ」

「オリヴィア様がそんなことを!?」


 恥ずかしい! と、ティアラローズはソファにしゃきっと座り直しつつ赤くなった頬を両手で押さえる。


 甘やかそうとしているのは、アクアスティード・マリンフォレスト。

 ダークブルーの髪に、凛々しい金色の瞳。とても幸せそうにティアラローズを見つめているアクアスティードは、彼女の夫でありこの国の国王だ。

 そしてゲーム続編のメイン攻略対象でもある。


 ティアラローズの横へ腰かけて、アクアスティードは優しくその髪へ触れる。

 そのまま「お疲れ様、頑張ったね」と頭を撫でられる。その顔はとても楽しそうで、これではどちらにとってもご褒美のようなものだ。


「……ありがとうございます、アクア様」

「うん」


 ぽすんと、ティアラローズはアクアスティードへ寄りかかる。

 すると途端に疲れも吹き飛んでしまう。


 ――アクア様は回復薬かしら……。


 なんてことも、考えてしまう。


「それにしても、今回はいつもに増してお茶会の招待客が多かったみたいだね」

「はい。招待した方は全員が出席してくださったので、とても賑やかでした。ただ、全員と長くお話できなかったのが残念ですが……」


 今度はもう少し規模を小さくして、何回かに分けてまた招待するのだとティアラローズは話す。


「ティアラのお茶会は人気だからね」

「嬉しいです。みな様、お菓子をとても気に入ってくださって……もっとスイーツが広がってくれそうです」


 貴族の令嬢に受け入れられたら、それはどんどん街へ浸透していく。彼女たちの家に雇われている料理人もお菓子作りがきっと上手くなるだろう。

 目指せ、どの国にも負けないスイーツ大国! だ。……なんていうのは冗談だけれど、国の特産物になったらいいなとは思っていたりする。


「まったく、ティアラのお菓子に対する原動力はすごいな。私もすっかりお菓子好きにされてしまったよ」


 そう言ってアクアスティードがくすりと笑う。


「……でも」

「アクア様?」


 少し考える素振りを見せるアクアスティードに、ティアラローズは首を傾げる。もしかして、好きではないお菓子でもあっただろうか――と。

 もちろん、そんなことは杞憂に終わるのだけれど。


「私にとって一番甘いのは、ティアラかな」

「……っ!」


 細められたアクアスティードの瞳が近づいてくるのを見て、ティアラローズはきゅっと目をつぶる。そして唇に触れる、優しい感触。


「……ほら、甘い」


 ぺろりと唇を舐められて、ティアラローズは耳まで赤い。


「そんな言い方、ずるいです」


 普通にキスするだけでは飽き足らないのか、甘い言葉がセットになっている。こんなの、恥ずかしくないという方がおかしい。

 アクアスティードとしては、ティアラローズのそういった反応が可愛くて仕方ないのだけれど……。


 恥ずかしさから顔を見せたくないティアラローズがアクアスティードに抱き着くと、よしよしと頭を撫でられる。


 ――うぅ、とても甘やかされているわ。

 もうすでに元気は満タンまで回復してしまった。


 このままゆっくり――そう思った矢先、部屋にノックの音が響いた。


「ティアラローズ様、フィリーネです。旦那様からお手紙がきています」

「お父さまから?」


 入室を許可すると、手紙を持ったフィリーネがやって来た。



 ティアラローズの侍女、フィリーネ・サンフィスト。

 黄緑色の髪をメイドキャップで整え、ロングスカートの清楚な侍女服を着こなしている。

 ずっとティアラローズの侍女として勤め、姉のような存在でもあり、心強い味方だ。



 フィリーネが持ってきた手紙は、ラピスラズリにいるティアラローズの父親からの手紙だった。

 とはいえ珍しいものではなく、娘ラブの父親からは定期的に手紙がきている。


「ありがとう、フィリーネ」


 ティアラローズが手紙を見てみると、ここ最近の報告と――


「え? 養子をとった?」

「養子を?」


 ティアラローズの声に、アクアスティードとフィリーネも驚きの声をあげる。

 手紙に書かれていたのは、後継ぎにするため男子を一人養子として迎え入れたというものだった。ついては、一度顔を見せにきてほしい……というもの。


 ――驚いたけど、確かにうちは後継ぎがいないのよね。


「クラメンティール家は子供がわたくししかいませんでしたから、後継ぎ問題はずっと心配していたんです」


 だからちょっと安心しましたと、言葉を続ける。


「そうだね。ティアラは私がもらってしまったから、子供を作るか養子を迎えるしか相続させることができないから」

「はい。これでクラメンティール家も安泰ですね」

「顔を見せに行くなら、私も一緒に行けるように調整するよ。少し時間をくれるかい?」

「もちろんです」


 後で手紙の返事を書いて、落ち着いたころにアクアスティードと一緒に帰省することを報告しよう。


「わたくしに義弟ができるということよね? 仲良くしてもらえるかしら」


 初めての姉弟に、ちょっぴり緊張してしまう。

 それを見て、フィリーネが「大丈夫ですわ!」と太鼓判を押す。


「お優しいティアラローズ様ですもの。それに、ティアラローズ様のスイーツにかかったら子供はいちころですもの!」

「フィリーネったら、もう……」


 ――確かに、スイーツ作戦はいいかもしれないわね!

 なんて、ティアラローズも思う。


「それで、養子になったのは誰なんだい?」


 貴族の子息であるならば、もしかしたら知っているかもしれないと、アクアスティードが問いかける。

 直接子供を知っていなかったとしても、ティアラローズならラピスラズリの貴族を全員覚えているのでだいたいのことはわかるはずだ。


 なのだけれど……


「それが、いったい誰を養子にしたか手紙に書いていないんです……」


 どういうことだろうと困惑するティアラローズに、アクアスティードとフィリーネも不思議そうに首を傾げた。

9章は、日曜日19時に更新します。

書籍の発売日にも更新したりするかもしれません。

10月15日に8巻が発売予定ですので、どうぞよろしくお願いします!長らくお待たせしてしまってすみません~;

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