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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第7章 仮面の下の素顔
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10. 久しぶりの帰省

なんと、祝・100話目です!

いったいどこまで続けられるのか……これも応援してくれている皆様のおかげですね。ありがとうございます!!

「わたくしの個人的な帰省にティアラローズ様も巻き込んでしまって、申し訳ありません……」

「いいのよ、フィリーネ。気にしないで?」

「ティアラローズ様……ありがとうございます」


 しゅんとうなだれるフィリーネに、ティアラローズは微笑む。


 今は、ラピスラズリに向かう馬車の中だ。

 ティアラローズを中心にして、左隣にフィリーネ、右にアカリが座っている。向かいの席には、アクアスティードとエリオットの二人だ。


「みんなで旅行しているみたいで、いいですね! とっても楽しいです!」


 アカリは花でも飛ばしそうな勢いではしゃいでいて、ラピスラズリに出来た美味しいスイーツのお店に案内しますねと嬉しそうだ。

 思わずそれにティアラローズが食いついてしまったのも、仕方がないだろう。


「楽しいのはわかりますけど、最初からはしゃぐと疲れますよ?」


 ティアラローズが苦笑しながら告げると、アカリは笑う。


「やだ、ティアラ様ってば。まだそんなに年じゃありませんよ~!」

「そ、それもそうね……」


 前世から換算するといい年なので忘れがちだが、ティアラローズは十九歳だ。地味に長く生きている記憶があるので、たまに年寄りめいた思考になってしまう。

 同時に、アカリはいつも元気で羨ましいなとも思うティアラローズだった。


 ***


 馬車での旅は順調に進み、何事もなくラピスラズリへ到着した。

 アカリは王城へ戻り、ティアラローズたちは実家であるクラメンティール家へ。


 屋敷へ行くと、執事が出迎えるよりも先に勢いよく父親が玄関ホールまでやってきた。


「ティアラ、会いたかったぞ~っ!!」

「お父様、お久しぶりです。お元気そうで、よかった」

「ああ。私も、母さんも元気だ。アクアスティード陛下も、お元気そうで何よりです」


 父のシュナウスは、ティアラローズを抱きしめたあと、アクアスティードに挨拶をする。

 順番が逆ではないのか? と突っ込みを入れたいところだが、いかんせんこの父親は娘であるティアラローズラブなため仕方がない。

 アクアスティードも、そんな娘思いのシュナウスを好ましく思っているのでむしろ嬉しいくらいなのだ。


「はい。クラメンティール侯爵もお元気そうで、安心しました」

「まだまだ現役ですからな。国のためにも、休んでいるわけにはいきません」

「ラピスラズリは、侯爵がいれば安泰ですね」


 たわいのない雑談を交わしていると、奥からティアラローズの母親であるイルティアーナが顔を出す。ティアラローズに似ていて、おっとりとした優しい雰囲気の女性だ。


「おかえりなさい、ティアラ。アクアスティード陛下も、遠いところ足を運んでいただきましてありがとうございます。どうぞ、ごゆっくりしていってくださいね」

「ただいまかえりました。お母様」

「お久しぶりです。短い間ですが、お世話になります」


 両親との再会は、だいたい二年ぶりくらいだろうか。

 二人が元気なことに安心し、ほっとする。

 一通り挨拶が終わったところで、フィリーネとエリオットが入って来た。使用人に馬車に積んである荷物を頼んだり、手配をしてくれていたのだ。


 シュナウスとイルティアーナは、フィリーネを見つけて嬉しそうに声をかける。幼いころからずっとティアラローズの侍女をしていたため、二人にとってフィリーネは娘と同じように大切だ。


「フィリーネも元気そうでよかった」

「おかえりなさい、フィリーネ」

「旦那様、奥様、ご無沙汰しております。お会いできるのを楽しみにしておりました」


 フィリーネが微笑みながら、挨拶を交わす。

 イルティアーナはフィリーネのそばまで行って、「大丈夫?」と少し心配そうに顔を覗き込む。今回、フィリーネの実家に行くということは理由と一緒に伝えてある。


「奥様、お気遣いいただきありがとうございます。ティアラローズ様にも同じように心配していただいて……わたくしは幸せですね」

「わたくしもティアラローズも、もちろんシュナウスも、フィリーネの味方だもの。何か困るようなことがあれば、いつでも相談してちょうだいね」

「はい」


 イルティアーナの言葉を聞いて、フィリーネは目に涙を浮かべる。こんなにも大切に思ってもらえることが、とても嬉しいのだ。


 続いて、エリオットもアクアスティードの側近として改めて挨拶をする。シュナウスとは何度か顔を合わせて会話もしたことはあるが、イルティアーナとは話したことがない。


「彼はとても真面目な青年だよ。アクアスティード陛下はよい部下をお持ちで、羨ましい限りですな」

「ティアラローズの母、イルティアーナです。どうぞゆっくりしていってくださいね」

「ありがとうございます。アクアスティード様の側近を務めております、エリオットです」


 玄関で全員の挨拶が終わってしまい、ティアラローズは笑う。

 普通は、応接室かどこかで行うのだけれど、今回ばかりは仕方がない。シュナウスがティアラローズに会いたくて会いたくて会いたくて仕方がなかったから、大人しく応接室で待っていられなかったのだ。

 前回ラピスラズリに来たときは、実家へ来る予定だったのだが無理になってしまったので、シュナウスはさらに待ち切れなかった。


 イルティアーナははしゃいでいるシュナウスを微笑ましく思いながらも、ティアラローズたちに部屋へ行って少しゆっくりするよう促す。


「楽しい話は、夕食のときに聞かせてちょうだい。持ってきた荷物の整理や支度もあるでしょうから、部屋へ案内させましょう」

「はい、そうさせてもらいますね。わたくしは、自室を使っていいですか」

「もちろんよ。ティアラローズの部屋はいつでも使えるようにしてあるから、自由にしてちょうだい」


 荷物だけはメイドに運んでもらうことにして、ティアラローズはアクアスティードを連れて部屋へ向かう。フィリーネとエリオットには、それぞれゲストルームが用意されているので各自しばらく休憩だ。



 久しぶりの自室に入り、ティアラローズはきょろきょろと中を見回す。


「どうしたの、ティアラ」

「なんだか懐かしくて。あ、お人形もそのまま飾ってある……!」


 チェストの上にあるうさぎのぬいぐるみを見て、ティアラローズは目を細める。小さなころ、父親にもらった誕生日のプレゼントだ。赤いチェックのリボンが巻かれていて、可愛らしい。

 まだお人形を飾っているのかと思うと、少し恥ずかしいけれど。


「可愛くていいね。帰ったら、私もティアラに人形をプレゼントしようかな?」

「あっもう、そんな子供じゃないんですから……」

「そう? ベッドに置いておいたら、抱きしめて寝てそうで可愛いけど」


 くすくす笑いながら告げるアクアスティードに、ティアラローズは顔を赤くする。

 しかしすぐに、アクアスティードが「でも」と話をきった。


「それだと、私が抱きしめて寝れないからダメだ」

「あ、アクア様! もう……」


 神妙な顔で何を言うのかと思えば……と、ティアラローズは呆れる。けれど同時に嬉しくて、なんと反論したらいいかわからない。いや、この場合は出来ないというのが適切だろう。

 熱くなった頬を手で扇ぎながら、ティアラローズは窓を開ける。すると、アクアスティードが「懐かしいな」とティアラローズを見た。


 今ティアラローズが開けた窓は、バルコニーが付いている。

 以前、まだ二人が婚約する前。アクアスティードが、ティアラローズに会うためこの窓から接触を図ったことがあるのだ。

 アクアスティードの力で妖精の星祭りを見せてもらい、バルコニーでお茶をした。今思い出すと、とても懐かしい。


「アクア様、せっかくなので一緒にお茶をしませんか? もちろん、バルコニーで」

「それはいいね」


 ティアラローズはティーポットを用意して、窓からバルコニーに出てちょうど角を曲がった先。外からも死角になる場所に、ローテーブルとソファが設置してある。

 ここはティアラローズが読書をしたりお菓子を食べたり、ゆっくりくつろぐことの出来るお気に入りの場所だ。


 二人でソファに並んで座ろうとするも、冷えた風が頬を撫でる。

 雪こそ降ってはいないけれど、季節は冬。外でお茶をするのは無謀だったかもしれないと、ティアラローズはアクアスティードを見る。


「思ったより、外は冷えますね」


 とはいえ、せっかくなのでソファへ座る。

 アクアスティードも、ティアラローズが座ったので一先ず横へ腰かける。しかし、寒さでティアラローズが風邪を引いてしまわないかが心配だ。

 冬用のドレスなので多少は防寒面も考えられてはいるだろうけれど、外はコートがなければ辛いだろう。

 はく息が、白い。


 アクアスティードはティアラローズの手を取り、その冷たさに顔をしかめる。


「まだ外に出てすぐなのに、こんなに冷えて……」

「アクア様の手は温かいですね」

「体温が高いからかな? あまり手足が冷えることはないね」


 それを聞き、純粋に羨ましいとティアラローズは思う。

 足先などは特に冷えやすいため、冬だといつも冷たくなってしまうのだ。俗にいう冷え性なのだろうが、いつも温かい飲み物などでカバーしている。


 なので、冬はここぞとばかりにアクアスティードの手に触れる言い訳にしてしまう。


「温かいので、ずっと触っていたいです」


 ふふっと笑いながらティアラローズが触れていると、アクアスティードもくすりと笑う。指同士を絡めるようにして、アクアスティードがむにむにとティアラローズの手で遊ぶ。


「冷たくなくなったら、触ってくれないの?」

「え……っ」

「私はそんなの関係なしに、ずっとティアラに触れていたいけどな」

「~~~~っ!!」


 アクアスティードの容赦ない甘い台詞に、恥ずかしくなって縮こまる。

 もちろんティアラローズだって、理由なく、毎日いつでも、アクアスティードに触れていたいし、触れられていたら嬉しいと思う。


「私だって、そうです! えいっ!!」

「!」


 ティアラローズはアクアスティードの言葉を肯定して、その腕の中にぽすんと飛び込む。ぎゅうう~っと抱き着いて、アクアスティードの温もりにほっとする。


 ――アクア様、ぬくぬくだ。


 これは一度味わったら離れられないなと思ってしまう。


 ――あ、そうか。外ではあんまり抱きしめられたりしないからだ。


 普段は温かい部屋の中にいるので、外でイチャイチャすることはほとんどないのだ。したとしても、手を繋ぐくらいだろう。


「……アクア様が温かくて、離したくないです」

「ティアラ、……っそうか」


 ティアラローズの言葉を聞いて、アクアスティードは思わず吹き出しそうになる。それをぐっと耐え、自分にしがみつくように抱き着いてくるティアラローズを、包み込むように抱きしめ返す。

 そして確かにこれは温かくていいなと、そう思う。


 アクアスティードは自分に抱きついてきているティアラローズを見て、そのままひょいっと抱き上げるようにして自分の膝の上に座らせる。


「きゃっ! アクア様、いきなり持ち上げないでくださ――」

「――ん」


 反論しようとティアラローズが口を開いたけれど、それはすべて言い終わる前にアクアスティードによって塞がれてしまった。

 ちゅっと優しく口づけをされて、何度もついばむようにキスをされる。小さなリップ音にティアラローズの肩が揺れ、少し離れて、互いに視線が合う。

 嬉しそうな金色が、ティアラローズを見ている。

 ティアラローズが恥ずかし気に瞳を閉じると、再び唇が重なった。外の空気は寒いのに、互いの吐息はひどく熱い。


 しばらくの間キスをして、ティアラローズは酸素を求めるように息を吸う。


「はぁ……はふ……。アクア様、ここ……外です」

「ティアラだって、もっとって……強請(ねだ)ったろう?」

「そ、それは……!!」


 いきなり外でキスは駄目ですと言いたかったけれど、ティアラローズの言葉にはまったく説得力がないとアクアスティードは微笑むのだった。

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