いつか完璧な輪になるように その2
そんな中でクスクスと嬉しそうな笑い声の通信が入る。
「びっくりですよ、髪の違い以外で私達姉妹を見分けられる人って実は初めてです。さすがエクレアさんは違いますね!」
にこやかに笑うツヴァイ。
さしものエクレアも慌ててモニタに駆け寄る。
「いや、ツヴァイの怪我って動けるようなレベルじゃないじゃん」
「いえいえ~、私は頑丈ですから。それに皆さんを混乱させてしまったお詫びもしないといけませんしね」
そういってスピードをあげるサグラーダ。
目指す相手はバクテンカイザー。
「夜叉さん、怨みはないですけど……その機体、頂戴しちゃいます!」
「ん、誰だお前!? まぁ、いいや! 無敵すぎて狂っちまいそうな、このバクテンカイザーが相手になってやるぜ!」
夜叉姫の事を覚えてないのかよ!
切符のいい性格もここまでくると気持ちよすぎないか。
「行くぜ、爆! 天! 皇帝けーーーーーん!!!」
無駄に気合の入った頭の悪いポージング後に燃えるように輝く拳を突き出したカイザーがバーディクトに突っ込んでいく。
どっかで見たような技……あ、私のジョニーロジャーだ。
「あたりませーん、それじゃゲットさせてもらいます!」
バーディクトの背中からアームが伸びる。
何度か見たバーディクトの特有の装備、相手の機体を無力化して押さえ込む能力。
「うおおお! 何だこりゃ! 何故だバクテンカイザー! 何故動かーーーん!!」
早速捕まりやがった!
単純ゆえのお約束というか何というか、急いでるこっちの身としてはこれはこれでありがたいけど。
こいつに撃退された警察の方々もちょっと問題があるような。
「これは……ちょっと押えきれますかね……」
私の楽観的な考えとは裏腹に辛そうな声をあげるツヴァイ。
それはそうだ、普通なら立つなんて事ができないほどの怪我なのだ辛いに決まっている。
「私達もこんな事をしてる場合じゃないよ、ジョニー出ないと!」
「あ、そうね、エクレアの言う通りだ! BB、クロックスの操舵よろしく。ドロシー達にも出てって言って!」
「ジョニーが引っ張られるのも珍しいね、じゃあ行くよ!」
「あいよ、気いつけてな。こっちもモモを派遣しとくわ」
操作をBBにあずけて私達は立ちあがり、宇宙に目を向ける。
目指すはオデッセイ、この騒ぎの全てを終わらせるために、私達は今!
「アンダンテ!」
「ボナペティエ!」
「月凪!」
まるでぬるいシャワーを正面からあびるような感覚。
肌を指す暖かい感触が服を通りこして伝わり、強い光の前で目をつむるような眼球の奥につきささる光の刺激が視覚を奪う。
次の瞬間に訪れるのは全身を駆け巡る鋼のような金属特有の冷たさ。
私の神経は戦闘機、アンダンテと繋がった瞬間である。
目を覚ましたような感覚でいつのまにかコクピットにのっている。
「エクレア、マヤ、行くよ!」
「おぅよぅ!」
「ほいさっ!」
私達の前にさせるかといわんばかりに自動操縦の戦闘機が立ちふさがる。
だが、そんなオモチャで私達を止められるとしたら大間違い!
「邪魔!」
刀を繋ぎ合わせ、両刃の薙刀とかした愛刀スタッグカットラリを振るい、二機三機と撃退していく。
「よっしゃ捕まえた! 全弾掃射!」
ボナペティエの背中から伸びた無数のビームがまるで手をゆっくりと握るような軌道で敵を一掃する。
「エクレア、飛ばしてるね」
「まぁ、もう知らない仲じゃないしね。ここまできたらやっちゃうさ!」
私達が会話している最中、間を縫うように黒い機体が切り開かれた敵中を高速突破する。
「ツヴァイ、無茶しちゃ駄目でしょ!」
「あらあら、かえってご心配かけちゃいましたかね。ごめんなさい、こういう時ってどう行動すればいいのかわからなくって」
「困ってるっていうなら言う! 頼れる人がいるなら頼る! 自分だけと抱えられた方がかえって迷惑! 少なくても私はあの二人からそう教わったから。大丈夫、私達をもっと頼って」
「なんともはや、随分とお人よしさんですね」
「飛び出してる時点でお前も随分とお人よし、これもあの二人に言われた事さ」
「……マヤさんも苦労なさったんですねぇ。でも大丈夫、バクテンカイザーがこのバリアよりこっちに来れたって事はこの機体がバリアを無効化する何らかのようそを持ってるって事ですから」
「何ぃ!? お前が何でそんな事を知ってるんだ! ってかお前誰だ?」
言わなくてもいいのに白状してるあたり、なんとも夜叉姫イズムを感じざるをえない。
それなら!
「このまま私が夜叉姫ごと突っ込んで穴をあけます! その間で皆さんで中へ!」
「あなたも時間に何かを奪われたの?」
耳慣れない声が私達の回線に入ってくる。
何か寂しげで、それでいて確固たる意思の強さを感じられる声。
どこか、発音しきれていなような口調は大人のものではない。
視界には猛スピードで迫ってくる、バリアを張った2機の片方。
ニルギルスではない正体不明のもう1機。
「誰?」
近いところでマヤが反応する。
「私はマテリア……この時のために産まれ……この時のために生きる存在……」
マテリア?
あ、あの時にシドウと一緒にいたあの女の子。
そういえばモモちゃと交戦しててそれ以来は何が何だか、そもそもこの子はいったい何なのだろう?
今回の関係者はいるか不明なグラント以外は全員ここに揃っているはずなんだけど。
そんな事を考えていると、マテリアの機体はバリアがなかったかのように突っ切り、バーディクトに肉薄する。
「させないよ!」
月凪が変形すると同時にマテリアの機体をバーディクトの下へと行かせまいと立ちはだかる。
「行くよ……メメントモリ」
ニルギルスのようにマテリアの機体メメントモリの背中からふわりと翼が広がる。ニルギルスのトンボの羽を思わせるものではなく、金色に輝くそれはまさに天使。
と、同時にメメントモリが今まででも出しすぎだったスピードよりもさらに速いスピードを出して月凪を弾き飛ばす。
「そんな変形機構もなしでそんなスピード! かかるGは!?」
マヤが驚愕の声をあげるや否や月凪の右足が膝から切断された。
「ああっ!?」
「「マヤ!」」
スピードの都合でまだ追いつけそうもない私達はただ見守る事もなくその光景を見守るしかない。
いや、それでもボナペティエなら!
「当るかわかんないけど、これでも食らえ!!」
エクレアの射撃がへたなわけではない。
専用の飛行形態でもないのに、それよりもはるかに速いスピードで動くメメントモリに対して狙って当てられる技術を持った戦闘機のりがいるとすれば、それはもはやそういう物を専門とした訓練を受けた特殊な人だろう。
戦闘機がこちらの肉眼で補足しているかのように調節してくれている高速度カメラをもってしてもメメントモリの速度は高速道路を全力で飛ばすsスポーツカーを見るかのようだ。
さっき無人機を射落とした時よりも多い数のビームを照射するボナペティエ。
そして、その青い光線の合間を縫ってこちらへと迫る黄金色の光。
「うわあああ!」
私はエクレアの前へと飛び出すとスタッグカットラリを盾のように振りまわし、メメントモリの高速の一撃を必死の思いで受けとめる。
その威力はそれでも凄まじく、弾き飛ばされたアンダンテはかばったボナペティエに押えられ。それでも後ろへと身体を流される。
無傷なのが奇跡だ。