交響詩篇エクレアセブン その7
「デュエルヴァルツァ……機動」
「それで、二人とも連れて来たと?」
クロックスに戻ってきた私達、ツヴァイとドライはファルコの方へと搬入された。
驚いた事にムーは医師免許を持っていたらしく、そんな特技があったのかと驚いたが。よくよく考えてみればエクレアを未確認生命体と信じきってそれを確認しようとしていたのだから知識はそもそもあるのだ。
あのキャラクターなのと基本的にファルコのメンバーは強すぎるためにそんなのを知る間もなかったわけなんだけど。
ちなみに二人とも結構な重症らしい、動けるのはこれまでの訓練のたまものだとか。
その言葉に彼女達の辿ってきた軌跡の辛さがわかる。
んで、私とエクレアは今が辛い状況にあったりする。
私は当事者としてあの場にいたから、気持ちは風化しているけれど当のマヤとしてはドタマをカチ割られ、さらに取っ組み合いまでして、事情を話せばエクレアはただの部外者でした、では納得がいってないらしい。
確かに、エクレアのなぁなぁ主義な性格でなければ勝手に身代わりに仕立て上げられてましたじゃ怒る方が普通のような気がする。
「アインっていう人の死が受け入れられないって、そんなのジョニーだって同じ境遇じゃない……あ」
怒りにまかせてマヤも口にしてしまったのだろう。
しまった、というような表情で私を見る。
私も私でちょっと前までは、そう言われただけでブチ切れていた節があるからあの二人に何も言えない部分があるし気持ちもちょっと理解できるのだ。
私は兄姉に恵まれていたから逃げ場があったという部分、もしかしたら私もあの二人のようになっていたかもしれないなんて思ったりもする。
「あー、気にしないで。今更その事であーだこーだ言う気はないから」
「ごめん……」
「あの場じゃ聞く余裕なんてなかったけど、エクレアとしてはどうなの、事の真相を思いだして、二人の話しを聞いてみて?」
「ん~、まぁ……あんまいい気はしないけど……言ってどうなるって部分もないし。二人の今後に期待で」
「相変わらずなんだから」
マヤが呆れたような顔をして肩をすくめる。
でも、私にはわかる。その表情にホッとした様子がある事を。
私と同じで、もしアインだったら、記憶が戻って今までの思い出がリセットされてしまったら、そんな事が私達が帰ってくるまでの間は胸中渦巻いていただろうから。
「思い出したっていっても、あの研究所にいた最後の場面だけだからねぇ。義務感で無理やり思い出したような気もするし」
確かに肝心のエクレアが何者なのかって部分はサッパリだったな、どっちかというと私にかかわってくるような事ばかり。
「私の事よりもさ、こっちでは何か動きがあったわけ?」
逆に話しを振りかえされてちょっと戸惑うマヤ。
「いやー! それが大変だったのよ~ケーケケケケ!」
……もちろんこの声はマヤではない。
「……だから勝手に人の船の回線を開けないでください」
この声はマヤ。
もう何回もやられてるBB得意のハッキングである。
「相変わらずセキュリティが甘いわよ?」
「それをこの前に言われてからそんなに時間がたってないですもん、そうそうホイホイできません」
「何よぅ。場が暗くなったら励ましてあげようと聞き耳を立てていた先輩の優しさじゃないケーケケケケ」
「それは盗聴っていうんじゃ……」
「ジョニーも細かい事を気にしないの!」
「それでBB、何かあったの?」
「いいわね、エクレアのそういう大雑把な所は好きよ、まずアレにバリアが完全に展開されたわ。見てみるとわかるけど薄い膜みたいなのがはってるでしょ?」
BBが送ってくれた映像を見る限りアレに確かに変な薄い膜がはってある。
「これってこっちから何もできないって事?」
「ん~、どうだろ? 必死になって守りをかためてるあたりわからないね、警察もやっと重い腰をあげたらしくて何機かパトがいったんだけどこの有様よ」
見てみれば無数という言葉では足りないほどうじゃうじゃと無人機がバリアの前にひしめいている。
でも、これくらないらなんとかなりそうな気もするんだけど。
「それでさ、この戦闘機がまた強いのよ。まさに一機当千ってやつ?」
「「「ぶっ!!?」」」
不自然なまでについたデコレーション、機能性という言葉に喧嘩をうってるようなデザイン、加えてやためだつ極彩色。
カッコイイとしか形容できないそれはまさに。
「「「バクテンカイザー!!?」」」
うん、あんな戦闘機はこの広い宇宙に一つしかない。
未だに番長がいたら、それはそれでかっこいい。しかし絶対に存在しないように。この時代錯誤バリバリの戦闘機はかっきょく、それでいて目の前に存在している。
「知り合い?」
「知り合いってか何ていうか……? ドロシー達は何かいってないの?」
「それが、ちょうどアルミは見てないし。ドロシーの目に毒サソリ、フェイフェイの目には人食いザメがいたらしくて」
あの二人、見なかった事にしやがったな。
まぁ、気持ちはわからないでもないけど。
「まぁ、私達も知らないにこした事はないんだけどね、ところでバリアがはってあるのにこんなに戦力を割くって事は」
「そう、私もそれを思ってたのよ? 何なのかしらね?あの二人が喋れるようになればいいんだけど……」
「それにはおよびません」
「あら……えーと、どっちかしら?」
髪が下りるとほんとうにどっちがどっちかわからないなこの姉妹。
BBが言葉に詰まる気持ちもわかる気がする、あの髪の縛り方が唯一の見分け方だったからな。
ところですっげぇファンシーなパジャマなんだけど誰が着て寝てるんだろう、サイズからしてモモちゃんじゃないし、まさかアン……
いや、想像するのはやめておこう。
「私の怪我は大した事ありませんでしたので、それよりも今、ここでお話をしておきませんと」
「話し方でわかる分まだマシね。大丈夫?あなたも重症には変わらないのよ?」
「そうだよ、どっちもかなりくらってたじゃん」
エクレアも思わず声をかけている、確かに空間爆破でも二発食らえば身体中が悲鳴をあげてしかりのはずだ。
「私の知っている事で、どこから話せばいいのか……」
確かに話しがこんがらがっている、昔と今との時後系列からしてよくわかっていないし。
「とりあえずグラントが何を考えているかわかれば、そこからかな?」
「そうね、一番古い話から聞くのが定石かしら?」
「私は二人にまかせるよ」
「同じく、よくわかんねし」
手を上げて聞きにまわる事をアピールするエクレアとマヤ。
全員があれもこれも聞いて半病人を困らせるわけにもいかないからね。
「グラント様はその昔空間力学の権威だった事はご存知でしょうか?」
そういえば前にBBが科学者っていってたけどそういう物が専門だったのか、空間力学っていうとワープとかあれか。
「専行はしらなかったけど、まぁ一応はね」
「彼が五十年前、戦時中に研究していた物がワープ航法の一つで、その研究の過程で時間を超越する理論が見つかったんです」
「殺虫剤の研究で毒ガスを作っちゃうって話しの凄いばんってところかしら?」
「その例えが正しいかはわかりませんが……どちらの研究も半ば成功していたのですが、当時ではそれを達成する技術力、科学の進歩が共にたりませんでした。そこで経済力がついた時点で半ば伝説とかしていた頭脳にグラント様は目をつけました」
「それがブレンダ?」
「はい、カイバーベルト社がヘクターブレイン社を買収したのと同時期になります」
「ん? するってぇと、カイバーベルト社ってもともとは兵器商じゃないの?」
「はい、事前業務は空間研究とそこからくる利権関係が主な業務でした。現在の主用業務はヘクターブレイン社の物です。当時のヘクターブレイン社の会長ハゴン氏が買収と同時に副会長に就任し、シドウ様はそのハゴン氏のご子息です。グラント様の引退後にシドウ様が現在の役職に落ちつかれました」
話しがまとまるかと思えばまたこんがらがってきた気がする。
つまり、兵器会社の買収かと思えば全然違うところからの搾取だったのか。
そういえば確かにグラントのじっちゃんはそれらしい事はいってなかった、今回のタイムマシンを巡る話だとするならば確かに最初に作ったグラントが黒幕って事になるけど。
「BB、そこらの情報はなかったの?」
「調べてもそういう情報はなかったわね、意図して消してた感があるわ。足がつかないようにってならあのジジイも随分とタヌキだわ」
「んでも、ついてもいいような足だと思うんだけど。悪い事をしてなかったわけなんだから何か情報があったとして問題かな?」
「別の空間にせよタイムスリップにせよ個人や一企業の手に余るものだし、そこらは消すんじゃない?」
う~ん、理屈はわかるけどそれならそれで危ない橋とわかっててもも研究を進めるものかな?
あ、そうか!
「原因はグラントになるとして、今の研究を続けているのはシドウって事か!」
「ふむ、よくわからないけどそうなのか?」
これで話しが見えてきた。
「グラントの研究に一助したブレンダ、その時にうちのお父さんに見初めて狂気に走ったんだ。時間を飛び越えて結婚しようと思ったくらいなんだし、それでそのサイコ女に陶酔しきってるシドウ。阿呆な計画の大筋の骨はこうでしょ?」
「はい、私の知ってる限りの事とジョニーさんのは同じです。そしてシドウ様が中心の下、ブレンダ様の恋の成就のためにB2研究所に10数年前にジョニーさんの父と母が呼び出され、知っての事故が起こりました」
「ん? そうなるとお父さんを殺すってのに矛盾がしょうじるんじゃ? シドウはブレンダが幸せになればそれでいいんでしょ?」
「いえ、あの事故後にシドウ様は現在のお考えに達したようです。結果機動実験の失敗によってジョン、ジェニー両氏とアイン姉さんは消滅。その光景を目の当たりにしてからブレンダ様はあの状態になられたそうですから」
すっごい大スケールな恋模様だったんだな私が産まれた当時は……
しかし、タイムマシンなんてとんでもない大発明をしておいてやりたい事が横恋慕ってのも何だかショボイなぁ……
「あら? でもそれなら物凄い物騒な四角関係のもつれってだけでタイムマシン関係ないんじゃないの?」
ああ、確かにBBの言う通りだ。
銃でおどしてっていう状況を話し合いというのかわからないけど、とにかくタイムマシンを動かす必要はなかったわけだ。
「その辺りの事情はよくわかりません、私もそこまでしか聞いてませんし」
「「ただ一つだけ言える事は」」
私とドライの声が被った。
「どうしたのジョニー?」
「何か気がついたの?」
初めてエクレアとマヤが口を挟んできた。
話しをまとめて、さらに今の話しから判断するにこれしか予想だつかない。
「気がついたというよりも確信したって言ったほうがいいかな」
私はモニターに映るバリアに守られた巨大飛行物を指差す。
「あれがタイムマシンその物って事よ!」
Bey Bey Space Girls.
See You Next Pranet!