交響詩篇エクレアセブン その5
「さて、エクレアも中途半端に記憶を取り戻したし」
「中途半端とは何さ!」
「あはは、まぁいいけどね。さ!アンナさん達が待ってるよ!早く戻ろう」
「そういえば外はどうなってるの?」
「それが大変なのよ」
「待ってください」
私達がこの場を離れようとしたところでドライが声をかけてきた。
「私達も微力ながら皆さんに力をお貸します、いえ力にならせてください」
「ドライちゃん?」
「私達はグラント様の考えもわかりますし、シドウ達の考えだって。迷惑をかけた以上は私達にできる事をしましょうよ。言うとおり素直に何かをやって別な何かを……うまくいえませんけど」
「ドライちゃん……そうねジョニーさん、私達も協り」
ボガン!
ツヴァイの言葉が終わるか終わらないかのところでドライの身体が吹き飛ばされた。
最初は何が起きたかわからなかった。
が、すぐに全身の毛が逆立つ感覚を覚える。
その私の気持ちをさかなでするかのようにどこか作りものじみた声が聞こえてくる。
「ん~駄目駄目、それは駄目。そんな今まで敵だった相手が確執が消えただけで仲間になる。加えて泣かせる話しの後に希望を持たせるような展開。これも全くもってナンセンス、そしてまたナンセンス。歴史に残る名作はリアリティこそが重要でそこに1%のファンタジーがあるもの。現実はそう甘くはないのだよ。ファンタジーにあたる部分は私とアンナのような主役格にこそ用意されるものだから」
「ドライちゃ」
「爆ぜろ!」
ボガン!
吹き飛ばされ、地面に転がるドライにツヴァイが駆け寄った瞬間に再び爆発が起こされる。
あと一歩でドライを抱きかかえられるかというところでドライはおはじきのように再び弾き飛ばされ、ツヴァイもドライと反対方向に吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
「駄目だといっている、愚直安直汎用は知性の墓場だよ? 四肢を四散し悲劇的な結末を迎える姉妹こそがこの場には相応しい。黄泉へと旅だった君の父と母のようにね、聞けば君達にゆかりのあるものはここで散りの一つも残さずに逝くという見事な最後をとげたそうじゃないか?」
「あんたジョニーをいじめた!?」
やっと状況を理解したのか、いや理解していたとしてもロサの自己陶酔しきった独白に私もエクレアも言葉を挟む余地がなかったのだが。
「いじめた? ああ、あれはただの余興だよ。演出状の都合というものでね」
「なろう、よくもやったな!」
素早くエクレアが銃を抜いてロサを撃つ。
が、さすがにアンナさんの銃撃をやすやすとかわしてしまうほどの身体能力を持ったロサにしてみれば意識するほどの攻撃でもないのだろう、楽々とかわされる。
「残念ながらその様子だと復縁したようだね。誤解からくる愛憎劇。悲劇的な戦いという物を期待していたのだが、いや残念。できれば君達の決着は君達どうしでと考えていたのだがね。これは再びリテイクの必要があるか?」
そうやって大きく手を広げるロサの背後からツヴァイがハンマーを振りぶって飛びかかり迫った。
いつの間に! と思ってしまうその奇襲。
「リテイク、やり直したまえ」
私としては完璧と思えたその一撃もロサにあっけなくかわされてしまう。
しかも空間爆破にばかり気を取られていたがロサの攻撃で破壊力が一番あるものはあきらかに触れた物を焼き尽くす攻撃。
一重にしか見てないがアンナさんの棍を一瞬のもとに火にかえたその熱量。
その熱量を持つ拳がツヴァイのボディに深く突き刺さった。
めり込んだ拳が形として背中に突きぬけるかのごとき強打、その威力でツヴァイの身体が浮きあがり。
ボゴン!
空間爆破の二倍にも三倍にも見える爆発力、吹き抜ける熱風が私達の頬まで焼くかのよう。
鼓膜を振るわせるこの音の振動は致死量の衝撃であったのだと容易に想像させ頭をよぎらせる、そして浮かぶは最悪な状況。
死。
「折角だがこれ以上は戯れるわけにはいかなくてね、強めに行かせてもらったよ。胴は繋がっているままだね、結構。凄惨すぎるシーンは芸術性を損なうからね。あくまで形が残ってこその舞台なのだから。フハハ、フハハハハハハハハハハハアハハハハハハハ!」
狂っている。
怒りとか、そんなものよりもまず最初にそう思った。
そして、これからという姉妹にこの仕打ちはないだろうという私の心情、思えばエクレアの姉妹かもと思っていた時から、そのせいかこの二人には悪い気持ちはもちあわせてなかった。
だからこそ強く思う。
こいつに一矢報いてやりたい、そして勝ちたい。
私はマチコさんの借りもまだ返してないんだ。
「姉さん!!」
私が静かに怒りにもえている最中。
ドライも傷ついた身体を這わせて生死もさだかでないツヴァイのもとへと近づく。
「ハハハ、フーハハハハハ。理想、まさに理想的だよ。伸ばしあう手、されど届かず。偽りの仮面を被り続けた不自然な愛の形の純粋に求め合う悲劇的結末。文句のない出来映えじゃないか!!」
「……それはどうでしょうねぇ」
高笑いを続けるロサをさらに笑いで返すかのように楽しそうに笑顔で立ちあがるツヴァイ。
倒れたままのドライをかばうように腹部が焼け落ち、服以上にボロボロになったからだを大の字に精一杯伸ばしロサに再び啖呵を切る。
「こんな痛み、今まで耐えてきた感情に比べればへいきでさらにへっちゃらですよ。だから安心してねドライちゃん」
笑顔でドライを見るツヴァイ。その笑顔にほだたせれてかツヴァイも立ちあがる。
「いいえ姉さん……いつもそうやって姉さんは私のために無理して笑う。その優しさが痛くて……だから何も言えなかったけど……今は姉さんと一緒に……それに比べればこんな痛み……」
庇うように立つツヴァイの手をゆっくりとドライは下ろすとロサを睨みつけドライ。
その様子に少しだけ驚いた顔を見せると、ツヴァイはドライに再び笑いかけ、そして同じようにロサを睨みつける。
それを見たロサの顔は苦虫を噛み潰したような顔。
絶対的に優位にもかかわらず、それはまるで。
「滑稽だ滑稽だ滑稽だ滑稽だ滑稽だ、虚言を続ける事しかできない姉とそれを受け入れる事しかできない妹、よくできたピエロのままでいいのにこれ以上私の舞台を荒らすのをやめてもらおうか!! ジョニー、エクレア君達もそうだ彩りを添える脇役と伏線としてだけでいいのにお前達がでしゃばるから段取りがメチャクチャになるんだ責任を取ってくれ責任をとってくれ責任をとってくれ責任をとってくれセキニンヲトッテクレ」
言っている事がメチャクチャなロサ。
そこで何か違和感を感じる。
確かに狂っている。
しかし、何かこの狂い方というか何かよくわからない違和感がロサにはある。
でも、知った事じゃない。ここまで言われて私達も黙ったままではいられない。
「そんな事を言い出したら、私の話しにあんたが入る余地なんてないのに。だいたいどうしてここにいるのよ!」
「キーーキキキキキ、キニいらないキニいらないユうじョウ、アイジょう、きズナトいうキズながキニイラない、テニはいらなイ、コンナにもモトメてコガレて、ともニスゴすコとよウシょウより、トもにショくシ、ねムり、マナび、イカし、コロシ、トモにイキるとしんジてやまナイ。だカラこそキニいらなイ」
だ、駄目だ挑発にも乗らない。
完全にイカレちゃったよこの女!
「エクレア!」
「カッ飛べジョニー!」
ならば、もはや腹をくくるしかない!
私が炎の翼をまといてロサに飛びかかる。
まるでサングラスの隙間かた見えるロサの目は、まるで吸血鬼のように目をちばしらせ私を睨みつけていた。