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ワイルド・ワイルド・ガールズ  作者: 虹野サヴァ子
後編『月よりも優しい少女達』
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交響詩篇エクレアセブン その4


「エクレア! せっかくだから思い出した事を全部ぶちまけちゃえ! そうすりゃおとなしくなるでしょ!」


 基本、ガード不能のハンマー攻撃を避けながらとにかく叫ぶ。

 幸いな事に私が攻撃をするそぶりを見せないせいか、ドライが攻撃をしてくる気配はない。

 と、いうかワンワン泣いてる。

 いーのか、ドライをほっといて?


「えーっと、確かにアインって子はここにいたんだ。ジョニーのお父さんを狙うために、いや正確にはお母さんを狙うためなんだけどね。」


 エクレアの告白が始った。

 落ちついて話したいだろうし私もゆっくり聞きたいんだけど、こののっぴきならない状況がそれをさせてくれない。


「んで、アインって子がジョニーのお母さんを狙撃しようと狙いをつけた場所がさっきのあそこで、お母さんがいたのが……そう、丁度ジョニーの今立ってるところ」


「いまいち話しがわからないんだけどー!」


「わからなくてもいいんですよー!」


 事態は緊迫しているんだけど、いちいち最後に間延びするようなツヴァイの声がそれっぽい様子じゃなくてこっちの気も抜ける。

 たまにエクレアもたどたどしく話しをまとめながら援護射撃してくれるんだけど、見事なゴルフスウィングで撃ち返しているあたりツヴァイも必死なんだろう。


「結局、アインと私は別人なのよ。アインが狙撃の場所を探しているときに私がみつけて。そう、私とアインは友達になったの」


 その言葉を聞いた途端にツヴァイの動きが止まった。

 私にとっては希望の声、ツヴァイにとっては別人という絶望の声なのだからそれも仕方ない。

 そして、その希望を失うという喪失感は私にもわかる。


「友達になって、アインの話しを聞いて。それは駄目だって話しになって。そんな計画止めようって話になって! そうだ、それで私はアインから銃の使い方を教わったんだ! それで連れてこられたジョニーのお母さんを助けに来たジョニーのお父さんと合流して……」


 堰を切ったように続くエクレアの言葉。

 最初の静かな口調はもう無い、次々と思い出すあ記憶の流れが旋律になってエクレアの口からあふれ出てくる。


 それはエクレアがエクレアとしてここにいるという事の理由であり、忘却した人生の縮図はまるで一つの物語のようである。

 いや、エクレアの表情を見る限りそうではない。

 自分自身を紡ぐための物語というよりも、私達に何かを伝えるための言葉の郡体、交響詩篇。


「そうだ、それで事故が起こった! ジョニーのお父さんとお母さんはそれに巻き込まれて、アインは私をかばって、でも、私も巻き込まれて……変な爺さんが目の前に出てきて……気がついたら!」


 そこでエクレアは私を見た。

 目をクリクリと輝かせて、それは私と初めてあった時のようないいも悪いもわからない子供のような表情で。


「そうだ、それでジョニーに会ったんだ!」


 エクレアが思い出した七つの事柄、それが全てであり、ツヴァイの落胆がそれが事実であるという事を切に物語っていた。

 ドライがそんなツヴァイに歩み寄って肩を抱く。


「姉さん、もうやめましょう」


「……ドライちゃん」


 エクレアに続くようにドライが言葉を引きついだ。


「エクレアさんは私達の姉では、アインではありません。それは初めてエクレアさんを見た時から気がついていた事なんです」


 ん、なんだか変な話になってきたぞ?

 あんだけ大騒ぎしてたのはなんだったんだろう?


「私と姉さんは目覚めてから3年グラント様にお使えして働いてきました。長くにわたったコールドスリープの中で私達は世間から隔離された生活を送り、事実グラント様意外の私達の周りの方からよく思われた事はありません。出来そこないの兵器で、それでいてグラント様に目をかけてもらっていたのですからそういう周囲の目は仕方なかったのかもしれません」


 そういえばアインをはじめとしてこの子達は理想の兵器像として五十年前産まれたのが始りなんだっけ。

 ……確かにそんな好奇と嫉妬にあてられる状況は理解できる。


「へたな事を言ってはそう言われるので私達もいっそのこと感情を殺したように接していましたが、私は特にそれが強かったせいか、ツヴァイ姉さんはそんな私のためにいつもアイン姉さんと再会できた事を楽しそうに語ってくれました。それが無理をしている事だとわかっていても何もできずにいて……そしてエクレアさんと再会した時、私も姉さんもアイン姉さんとはないと気がついたのですが……」


 思い出した。

 ツヴァイとドライが初めてあったあのダイアの屋敷での会食。

 確かに二人がエクレアを見た時におかしな間があった。

 あの時はあの空気に飲まれていた感があったけど、半信半疑なエクレアはともかくとして本来ならばツヴァイもドライも、もっと嬉々としたはずなのだ。


 いや、確かに嬉々とはした。

 あの瞬間からドライの言うとおり、機械のような印象から不自然なほどにツヴァイは180度さまがわりした。

 おかしい、という事をもっとちゃんとおかしいと思うべきだったのかもしれない。


「ツヴァイは私を無理やりに姉だと思い込ませて夢を叶えようとしたのか……」


「違うよエクレア、形は違うけどなんとなくわかる。ツヴァイはドライを少しでも安心させようとしたんだ。心は本当なのに偽りの優しさ。ドライはそれが間違っていると思っていても姉の気持ちがわかるゆえに偽りの納得」


 なんだか本当に悲しい。

 図式が違うだけで、ほとんど私達兄妹と同じ境遇。

 いや、決して同じだなんて言えない私達よりも辛い境遇だったんだろう。

 何と言っていいのかわからないけど、思わず口にしてしまったさっきの言葉。

 それがツヴァイの心に火をつける結果となってしまった。


「あなたに……あなたに……何がわかるんですか?私達姉妹が自分を守るためにやった事を笑いますか?」


「笑わないよ、ツヴァイのその優しさがあったからこそドライだってその間違いを気にやんで、その間違いを正す強さを見せたんだから。どこかで間違って、間違いっていうか偽りの優しさだったとは思うけどね。それに何か文句を言えるのなら渦中の人にされたエクレアだけだしね」


 私が話しを振ったら驚いた顔を見せるエクレア。

 ……この子、さっきまで自分がアインよばわりされてた事を素で忘れてそうで恐い。


「ん~、よくわかんないけどこれでもっと姉妹仲良くできるんだったらいいんじゃないの? もっと素直になったらいいんだよお互いさ。姉妹なんだし、私なんて何も覚えてないからジョニー達に頼りっぱなしだよ。今回も肝心な事は何一つ思い出してないし。私って本名は何ていうのかね? あんま興味もなくなっちゃったけど」


「私だってエクレアがいないと何もできないし、素直に何かやったら?根っこの性格は二人とも違ってそうだし、それで喧嘩するのもまたアリだと思うしね」


 素直な気持ちでそういうと、夜叉みたいな顔でこっちを睨んできたツヴァイの顔から怒りの色が消える。

 根は深かったけど、ほんのささいなすれ違いで、それも相手の事を思っての事。


 この二人は自分達を守ろうとしていただけで本当はこんなに優しいんだ、過去がどうだったであれこの二人ならきっとこれからなんとかやっていけるだろう。


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