失われし砂漠の遺産 その5
「こんなのまで……」
エクレアが取り出したのは白いタオル、もちろん捻って使う物なのだろう。
「で、これか……」
太鼓と組立式の一人用の神輿、神輿の脇には『名高い人』ちょっと不自由な言葉である。
なんだか凄い嫌な予感がする……。
「え~と、本を読むかぎりこの神輿に乗って太鼓を叩いて『ソイヤ』『ソイヤ』って叫べばいいらしいです」
やっぱりか……。
「いやー、たいへんだねー。ジョニー」
卑怯にもエクレアがもう他人事のように振舞っている、首はぶるんぶるん振って手をあげてゆっくりと後ずさりながら自分はフンドシを締める意思がない事を全身を使って表現している。
「まかせたよマヤ」
私だってやなので軽やかに流す。
「っていうか私もやですよ、ってかここまで私ヒドイ目にあってるのにこんな事までやらせる気ですか!」
う、確かにそれを言われると心が痛むところではあるけど、これは私だってやだ。
「こんなのがずっと伝えられてる文化ってなんだよ!」
エクレアの怒りもごもっとも。
「はやくしてくださいー!」
「なんか皆さんの様子がー!」
クレオとパトラが悲鳴をあげている、確かになんだか霊の様子がおかしい。
「公平にじゃんけん!」
もう、ヤケだ。私は勢いにまかせてこぶしを突き出す。
エクレアとマヤの目が変わった!それでもこの勝負だけは負けられない!
「受けて立ちます!」
「負けないよ!」
マヤとエクレアも拳を出す。
あー、こんなに緊張するのは久しぶり、嫌な汗がどっと噴出す!
「じゃん!」
「けん!」
「ぽんっ!」
私はグー、エクレアもグー、そしてマヤがパー……。
「いやった!」
声を飲み込むようにして小さくガッツポーズを作るマヤ。嗚呼……なんて事だ……。
「さぁさ、急いでください霊がお待ちですよ」
苦しみから開放されたからかスゴイ笑顔で言い放つマヤ、ああムカつく。
ってかマジでこんな格好せにゃならんの?
チラリと仮面や霊を見る限り駄目っぽいなぁ。
「やだなぁ……」
「これは……ちょっとねぇ……」
「見てください、生着替え用のカーテンまで入ってました、親切ですね!」
あー、マヤがムカつく!
しょうがないからしぶしぶ、生着替えカーテンを使って着替える私、着替える前にもう一度レオタードに目をやる、本当にコレをきるのか!?
「ジョ、ジョニー。なんだか舐めるような視線を感じるんだけど……」
う……やっぱりエクレアもか。気にしないようにはしてたけどこれってやっぱりアレだよなぁ。
「エ、エクレア! とっとと着替えてとっとと終わらせるよ! 虫歯だってさっさと抜いた方がかえって痛くないんだから!」
「そ、そうだね。犬に噛まれたと思って!」
もう、エジプティアの文化とか思想とかをとやかく言う気も起きない!
もう、ちゃっちゃと終わらせたい!
「準備できたよ」
「よっしゃあ!」
無理やりテンションを上げてカーテンから飛び出す!
ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
え~~~~~、何この霊達のテンション!? さっきまでの怨念じみた声はどこいっちゃったの!? みれば仮面はいつのまにか頭に白いハチマキしてるし。
金色の顔で無表情でハチマキ、何か恐い!
「ソイヤッサッ!!」
「「はい!? 何ですか!?」」
棺の後に隠れるように座っているマヤがちょっとだけ顔を出して理解不能な事をいっている。
「だから、お祭りの挨拶みたいです。ジョニーは叫んでから三三七で太鼓を叩いて、エクレアは神輿を引っ張って」
「本当にそんな事が書いてあるの!?」
「こんな時に嘘なんてついてもしょうがないじゃないですか。とにかくやってください、もちろん必死で」
「これを引っ張るのか……まぁ、できるけど」
あ~もうやけだ!
「ソイヤッサァツ!!」
「エ~ジプティア~、大漁~大漁~!」
だだだだ、と端から端まで走って再び中央でエクレアと顔を会わせる。マヤは声こそださないけど凄い勢いで笑ってる。
「えーと……ああこれかな?」
エクレアが奴隷のように神輿を引っ張り、私が太鼓を叩き。マヤがでかいうちわで私達を仰ぐ。
畜生、祭りに参加するならお前も赤褌をしめろよ!
「ソイヤッソイヤッ!」
「ソイヤッソイヤッ!」
「ソイヤッソイヤッ!」
刻むぜ太鼓のリズム!
飛び散る汗、弾ける筋肉、揺れる赤褌。
うん、死にてぇ。
それにしても、私達は祭りスタイルなのに、幽霊たちは祭りっていうかアイドルのおっかけみたいになってる。
なんか祭りをモチーフにしたアイドルのステージみたいな、いや赤褌のアイドルとかいないが。でも、そう思ってしまうと宙に浮かんだ金仮面も舞台演出の一つにも思えてくる。
それにしても冷静に考えてみると不気味な絵なんだろうなぁ……。
ちなみに今もマヤの的確な歌と踊りの支持にしたがって頑張っている。
なにかこう、人間っていくとこまでいくと冷めてしまうものなんだなぁ。もちろん死ぬほど恥ずかしい事には変わらないんだけど……。
するとバシュン! バシュン! と音を立てて天に昇る……いや……吹き飛んでいく幽霊達……。
まるでコンサートでファンが空気を入れた風船を空に飛ばすような感じで成仏していく幽霊達……ありがたみないなぁ……。
バシュン!! バシュン!!
昨日のテレビ、あれはおもしろかったな……。
バシュン!! バシュン!!
あー、ばんごはんは何を食べよう……。
バシュン!!バシュン!!
笑顔を作ってるけどエクレアも辛そうだな……。
「「ソイヤッ! ソイヤッ! ソイヤッサァッッッ!」」
デデドンと太鼓を締める。
終わったぜ、ちくしょう。
『ありがとう……もはや悔いはない……新しい未来へ……エジプティアよ永遠なれ……』
最後に仮面がそう言い残すとガタガタと震えだし、こいつだけのRPGのラスボスよろしくサラサラと分解しては消えていく。
普通に見れば感動するシーンなのかもしれないけど、今の私達には舞い散る紙ふぶきとかにしか見えない。
最後まではた迷惑な成仏のし方だ……。
「終わったわね……」
「やすらかにお眠りください……」
歌い始めてからはあんまり気にしなかったけどクレオとパトラはどうしてたんだろう……。
「「私達感動しました!」」
「へ?」
「何ですって?」
クレオとパトラの声に私とエクレアは素っ頓狂な声をあげる。
「先人から受け継いだものは引き継がなくてはならない……」
「それが文化、私達も頑張ります!」
「「「は、はぁ……」」」
やっぱり私達はエジプティア人の文化、というか感覚がよくわからない……。
「おやびん! 終わったみたいですよ!」
「おう、さっきまでは変な壁みたいなのがあったからな」
「これといった罠もなかったしあとはあの女達を始末すればお宝は俺達のものですぜ」
なんだこの人達?
「おい、お前ら! 大人しくしてれば痛い目にはあわせねぇ!! そのかわりこのピラミッドの財宝の事をあらいざらい喋ってもらうぜ!」
そういって危機一髪黒ヒゲみたいなおっちゃんが怒鳴り散らしてる。
なんなんだこの人達?
「まさか墓荒らし!?」
「そうか、ご先祖様の霊が実体化したから結界の力が弱まって!?」
墓荒らし……?
ああ、そういえばそんな事いってたな。だからクレオとパトラがいるんだった、ってチョット待てーーーい!!
「え~と、いつからそこにいたんですか?」
私も、エクレアも気になるであろう事をマヤが黒ヒゲに問いただす。
「ん、アンタ達が褌しめて太鼓を叩きだしてから」
「おやびん、パンツが落ちてましたぜ!」
ピキッ!
私の頭とエクレアの頭から変な音が聞こえた気がした。
顔は真っ赤で、恥ずかしさと怒りが込み上げてくる。
「……行くよジョニー!!」
「おうさっ!!」
速攻でエクレアが銃を手に取り構える、エクレアに言われなくても私はすでに剣をとっていた。
「「おまえらぁ~~~~!!!!」」
ドカーン! モモーン!!
そんな音が部屋にこだまして墓荒らしのオッチャン達は吹き飛んでいった。
そこからの事は私とエクレアはよく覚えていない。
気がついた時にはなぜかマヤもクレオとパトラもボロボロだった。
文句に近い彼女達の話しを聞くと、どうやら気恥ずかしさから暴れ出した私達にまきこまれたらしいんだけど、考えてみれば私達のあんな恥ずかしい姿の見物料だと思えば、こっちとしてはまだまだもらい足りないっつーの。
とにかく私とエクレアは着替えて棺ごと遺跡から持ち出して第二エジプティアのアヴドゥールさんに渡して無事に依頼達成。
ホントにある意味、仕事の内容として考えると報酬はよかったけど。ある意味として考えるとぜんぜん物足りない……。
ちなみに墓荒らし達は安かったものの賞金がついてたらしく、そこからの収入もあった。
報酬の二重取りといつもならば大喜びなんだけど私もエクレアもセンチメンタルな気分はしばらく抜けなかった。
後日談になるが、あの祭具はしっかりとクレオとパトラが着用し、歌って踊って祭りは大成功を収めたらしい。
さらにはその祭りに偶然きていたスペイベックスという音楽会社の社長の目にとまり今度お祭り系ふんどしアイドルデビューを果たすそうである。
世の中は何が流行るかわからない、パッと見いかがわしいイメージビデオにしか見えないのだが。
本人達は「エジプティア文化と伝統を広めるために頑張ります!」とかなり乗り気、私個人としてはあまりエジプティア文化も伝統もひろめんでほしい、むしろそんな物は捨ててしまえと言いたいのだ。
世の中、本当に何がはやるかわかんない。
とにかく言える事は、しばらくは彼女達の太鼓の音を聞くたびに私とエクレアは苦い思いでを思い出すという事である。
トホホホ。
Bey Bey Space Girls.
See You Next Pranet!