パラダイス銀河 その2
「待っとったで、ジョニーなんかわかったか?」
私達はアンナさんと合流するまで事情を話せなかった。
そう、話せなかったのである。
有線の通信回線ならなんとかなったらしいのだが、それを知ったのは今この場に戻ってきてからである。
クーロンのその一帯に強烈な電波妨害がほどこされたらしい、時期的にあの巨大な何かが出現した時かららしいのだからほぼ間違いなくあの何かのせいだと思う。
「わからない、というか謎は深まるばかりです」
「そもそもあのデカイ奴は何者です?」
ドロシーが少し不機嫌に答えると空気を読めてないムーが満面の笑顔で答えた。
「あれはアンナさんやジョニーさん達が潜入した川の建造物です」
「あれが……ジョニーの掴まってたところずいぶんとまぁ……」
「私もビックリしたよ、とはいえもしかしてって思ってたけどね」
「水が濁ってたとはいえあんな大きかったとはなぁ……そら把握機も役にはたたんわ」
確かに、私が見たのは氷山の一角だったんだろう。
つまり私達は上のチョロっとした部分しかみておらず、そこにはあの巨大な部分が眠っていたのだ。
ただですら大きいと思っていた物に、さらに輪をかけて大きいものだとだなんて思うわけがない。
「今のところは街は落ちついてるみたいだね、フェイフェイ安心したよ」
「まぁ、あんな物が出てきて水をさされれば仕方ないですよ!僕の占いでも予見できませんでしたし」
内戦はほぼ沈静化しているのでそこの騒ぎはならなかったけど、シドウがテレビ経由で自分達を狙ったテロ騒ぎなどと口走っているためにメディアはあの巨大な何かを追って中継までしてる。
「……とはいえ、テロの事実はないわけだ」
「せやね、唯一そう思われるような事をしたのは私なわけだし。ケーケケケ的外れな事よね」
「ほんなら何でそんな事を言う必要があったんや?確かにあの時は場が混乱しとったけど?」
「わかんないわよ、大体ねあの質量の物が単独で大気圏を突破するのがそもそも非常識なの」
その非常識な物の仲に消えていったグラント達、テロを受けたというシドウ、心を閉ざしたブレンダ、その心を取り戻そうとしているシドウとブラニー。
こう考えてみても思えばグラントとシドウ達の繋がりというのは希薄だよな?
あるとしたら会社の創始者と2代目社長って事ぐらい?
「ねぇ、モモちゃん。マテリアは何かいってなかった?」
「んー、モモは気がついたらここにもどってたからなー!」
あ、そうか。丈太郎になってたから覚えてないのか。
思えばマテリアはシドウに協力はしてるけど本意ってわけではなさそうだったんだよな……
「ちょっとジョニー! アレを見るです!」
画面に映し出されているのは有線放送の少し前の宇宙の様子、あの巨大な物体は重力下から離れると同時に加速度を増し、クーロンから遠く離れた。
そしてその巨大な何かの回りを何かが飛んでいる。
規模から考えれば日との回りを旋回する蚊よりも小さなそれはなぜクローズアップされたのかと言えば、まるで線を引くように何かの周囲を飛んでいるからだ。
引かれている線は二つ、その線は扇状に広がってはある程度の太さに達すると広がるのをやめる。
微々たる物ではあるが、それは何かとしか言い様のない物にしてみれば特筆せざるをえないもので。カメラがその線を引く二つを写した。
戦闘機。
二つの小さな影は戦闘機だった、一機はわからないがもう一機の方は私もよく知っている影。
「ニルギルス!」
片方の戦闘機の正体はニルギルス、そして引かれている線の正体はバタフライエフェクトの燐粉のような光。
「あれ? あの光の羽って何て言ったです?」
「バタフライエフェクトって言ってたような気がしたけど」
ドロシーのド忘れにマヤがフォローをいれると、途端にBBが声をあげた。
「バタフライエフェクト……ってあら?」
何か気にかかる事でもあるのか、何かひっかかるって感じで口元に手をあてるBB。
「うん、フェイフェイも覚えてる。電気信号を伝える空間を作るとか肥大を減少させるとかいってたよ」
「よく覚えてたねフェイフェイ、そういえば影響がどうとかこうとかいってたね」
「……そういえばダイアも何か知ってたようだったけど聞いてみればよかったかしら?」
そういえばあの時はダイアがブラニーを止めたんだっけ、私もしじぶ早く頭が動いていればもう少し答えに辿りついていたかもしれないな、でもこんなの戦闘機の一機能だと思ったしなぁ。
「そもそもバタフライエフェクトって何なんです?」
「あら、知らなかったの? グラントが随分と昔に提唱した理論の事よ。簡単に言うと質量や熱量が増幅か収束しつづけるとプラズマになるんだけど、そのプラズマが大きくなりすぎるとブラックホールになってしまうのよ。そこまではOK?」
「うん、まぁ大雑把にはね。それで?」
「まぁ、そういう理屈を応用して超空間倉庫やらワープやらを私達は使ってるわけなんだけど。その先には人はいけないわけじゃない?ブラックホールに入って出てきた人はいないんだし、それを実現させるための技術だったはずよ」
「よくわからんですけど、アレを使うとブラックホールを越えられるですか?」
ドロシーの頭から煙が出てきてる……
まぁ、正直な話し私もよくわからないけど。
「重力にとらわれない空間を作為的に作るわけだから応用すればいくらでもできるわよ。四次元の中に人が行く事だって、それこそ時の流れに逆らう事だって。そもそもバタフライエフェクトって意味は『飛び立つ』って意味以外にも『くり返す』って意味もあるしね、あともう一つ意味があったんだけどなんだかしら……?」
「やっぱりワケがわからんです……」
「……ドロシー、気にしたら負けよ」
なんかドロシーとアルミが慰めあってる、私も加わりたい気もしないでもない。
反重力とかそういうSF的なものでもないみたいだしなぁ……
「よーわかれへんけど、結局のとこあれはなんやねん?」
「さぁ、それがわかれば苦労はしないわよ。結論だけから出せば私達はあそこにグラントがいる以上は追わないといけないってだけであって」
「そうですね! それじゃあ早く追いましょう!」
「いや、ムー。相手が何するかわからいないし。アレが何だかわからない以上はヘタに追うのも危ないでしょ?それにあれだけの未登録の飛行物がこんだけ注目をあびてればどこにも着地できないし、警察機構も黙ってないしね。タイムマシンがどこにあるにせよ着地かどこかの宙域に停止してからでいいわよ、変に首を突っ込んでいらない迷惑を受ける事もないしケッケッケ」
そこまでBBが笑いながら言った。
確かにかえって目立つし、ハッキリ言って意味のない行動。
でも、あの切れ者のグラントがこういう事をやるっていう事が私にははっきりとした違和感に感じられる。
直接会った私だから感じる違和感。
……!
「ねぇ、BB。正直なところ私もよくわからなかったんだけど、あの光があればとんでもない事ができるっていうわけだよね?」
「う~ん、成功すればね。ただ、成功するっていう事はありえないんだけどね」
「ありえないの? フェイフェイわかんないんだけど」
「だってそのエネルギーは、いやエネルギーという表現を使っていいのかもわかんないけど。その全ての流れを超越するっていうのは過去に一度だけ、ビッグバンが起きて宇宙が想像された時のエネルギーって事だよ?」
「……それは無理ね」
「あれ! それじゃ僕思ったんですけど、失敗したら大惨事になるんじゃないですか!?」
「ええ、起こす質量の規模にもよるけど星雲の一つか二つは消滅するかも?」
「「「「「「「「へー」」」」」」」」
ムーの質問にさらりと答えるBB、なるほどね。
……?
あれ?
「「「「「「「え~~~~~~~~!!!!!!」」」」」」