みんなの上に雨が降る その2
「なるほど、これはこれで調整が大変かもしれないが。所詮は児戯、嗜好などの欠片もなく時間と能力を怠惰に使っているだけの事、無駄な演出ほど見るものを呆けさせる、長くは使う物ではないな」
六本の翼をはためかせ、全てを焼き尽くそうと私とマチコさんを見据えるロサ、機はここかとブラニーも再び凍の翼を広げる。
ターゲットは私……これはマジでヤバイかも……
「私もマジにならないと……いけないかな……」
剣を構える、焦ってはいけない、私の能力の全解放には時間がかかる。
それを悟られたらいけない……
「うわああああああああ!!!」
「随分と暑苦しい事だ……参った……ここまで無資格者に私の思いは渡されていたとは……裏切られた気分だよアンナ……お前は……お前だけは……アンナァーーーー!!!」
ヤバイ、早速バレやがった!オマケにいきなりキレおかしな方向にキレやがった!
「アンナ……アンナ……アンナ……ジョニー……アンナ……アンナ……」
これは……マジでヤバイ……自分がロサの気配に飲まれていく……
私の目にうつるのは壊れた鬼の形相のロサ……
そして……
「アンナ……アンナ…………・ハセガワァ……!!」
濡れたYシャツに濡れた髪、それらが先ほどの炎にやあれ黒くこげているが、足をひきずりながらもマチコさんが立ちあがり銃をかまえていた。
「今のであなたの本性がわかったわ……ジョニー、逃げなさい。あなたならこの二人が追ってこれない方法で逃げられるでしょう?」
「逃げるって?」
「私の目的はもともとあなたを逃がす事、ここであなたもやられるわけにはいかないでしょ?」
「いや、マチコさん!?」
ダン! という銃声と共に私の足元が弾けた。
「先輩の言う事は聞くものよ、それに私なら一発逆転もある。正直な話をすれば今のあなたは私にとっては足手まといなの。理解しなさい」
あ……
なんとなくこの場の状況からわかっていたけど、私も同じ世界の人に直接言われると堪える。
実際の話、マチコさんが立ちあがっただけでロサの世界には私はいなくなっている。
静かでそれでいて洗練された殺気でできた空間、殺界とでも表現すればいいのか? そしてその世界にはブラニーも入れない。
私もブラニーならば戦って勝てない事もない。
でも、ロサのワンチャンスの援護できっと私はやられてしまう。それを援護するのにマチコさんが集中力をきらすのなら……
いや! だからといって行けない! 私はどうしたらいいんだ!
バン! という銃声が再び響く。
「はやくしなさい! 六発しか撃てないのにこれでニ発目なんだぞ!」
……どうしよもない実力差が今ある。
もう認めるしかない、私が背伸びしたって状況がよくなるわけじゃないんだ。
マチコさんが一人だけのほうがここを切り抜けられるというのなら、ここは辛くても逃げるしかない!
「今度は必ず私が助けます!」
「ああ、期待して待ってるよ」
私は鞘に飛び乗ると川に向かって飛ぶ!
ここで声をあげたのはロサだった。
「何!? 何だその能力は!?」
「あれがジョニーのもう一つの能力よ、あの子は炎だけでなくて風も自由に使う事ができるのよ」
「そんな聞いてないぞ! ブラニー!?」
ブラニーは押し黙って私を見据える。
「あんたとも次は決着をつけないとね」
何も言わないブラニーに私は中指を突き立ててそう宣言すると私は水面を滑るように橋を後にした。
できるだけ後ろを振り向かないように。
そして、遠くでドン!という銃声ではない炸裂音だけが私の耳に聞こえた。
私は後ろを振り返らない。
……ところで本当に雨が強い、それにとても珍しい事にたまに暖かな雨が私の頬を流れるのだ。
「ジョニー!」
川の上を疾る私を呼びとめるような声が戦線を離脱してすぐの私の耳に届いた。
声のする方を見れば私と並走するように、マヤの運転する車が目に入る。
車がはじく水溜りの大きさが雨の強さを物語っており、道路もおそらく川のようになっているのだろう。
明るいともつかず暗いともつかない、クリーム色の空の下で私はやっと地面という地面に足をつけた。
「ひどい濡れようじゃない! 大丈夫? ってか何があったの?」
「マヤ……もしかしてそんなに時間はたってなかったのかな……アルミは?」
「うん、ダイアについてるよ。聞いてたよりもしっかりした様子だった。それで、ジョニーはどうしたの?」
「あ、うん……とりあえず皆の所に戻らないと……はやく!」
私は車に飛び乗ると道々マヤに事の顛末を話した。
最初にファルコにロサ達が乗り込んできた事、私が捕まった事、そこで聞いた話、それにマチコさんの事。
マヤはとても聞き上手だと思う。話が途切れたところでちゃんと抜けた部分を保管するように話を聞いてきてくれる。
車内に響くはワイパーの音と雨の音。
車は走る。
私はアンナさん達にマチコさんの事をどう説明したらいいのだろう……
本当に今日は雨が酷い。