汚れたドレスで君は笑った その5
「わかりかねるね……その思考」
話に飽きたといわんばかりにマチコさんが銃をロサに狙いをつけた。
「慌てるなよハセガワ、こういうシーンは引きが大切だ。伏線の回収はハイライトシーンに入る前に全て終わらせるものだよ」
そう言ってニヤリとロサが笑う。
ロサの後ろから現れるもう一人の影。
たなびく銀髪が薄明かりのこの中でも、雨に濡れて宝石がちりばめられているかのようにキラキラと輝く。
「ブラニー……」
「ジョニー……」
私とブラニーの目線が合った。
さっきの話、ロサが言っていた私に用があるっていってたのはブラニーで間違いないだろう。
あの話の後だとなんだか複雑な気持ちになる……
……
……
そんな中、不謹慎というか緊張感を消し去ってしまう自分の頭にガッカリというか。
もしかしてブラニーってけなげにこの雨の中、ロサの話が終わるまでずっと私達から見えないような距離でこっそりとスタンバってたんだろうか……
健気な子だなぁ。
いやいや、そんなくだらない事を考えている場合ではない!
「あなたの話は全部聞いたよ」
私の言葉にブラニーはピクリと眉をしかめる。
「失礼ながら……だからといって私はあなたと話す事なんてありません」
「そう? 私は話してみたいと思ったけど」
ブラニーは再び眉をしかめると、今度は敵意を私に向けてきた。
カミソリのようなするどい視線。
それは圧迫感だったけど、以前のように急にキレて襲いかかってこられるよりはマシ。
だから無理して話しているような丁寧語に違和感を感じるけど、ブラニーの今の雰囲気を考えるとこっちが本来の姿なのだと思う。
「話す事などありません、それでは死んでいただけますか?」
口調は丁寧なままだけど、会話にはならないのは相変わらず。
わめかないだけマシとはいっても、以前から私にいってくる言葉は変わらない、困った。
「えーと……あなたの好きな食べ物なに?」
って、私ってば何を聞いてるんだろう?
他に言う事とか聞かなきゃいけない事があるのに。
でも、とにかくこの子がどんな子あのか知らなすぎる、だから今は本題を切り出せない。
とはいえ間抜けな質問だ……
「……は?」
「だから好きな食べ物だよ!」
ブラニーも当然のリアクション。うん、しょうがないと思う。
でも、ここで引いたら会話できなさそうだから私も引くわけにはいかない。
たとえアホでも会話は続ける!
「牛丼が好物ですが……それが何か?」
「あ、あー! 私も好きだよ! お金がないときとか腹にたまっていいよね!」
……
……止まってどうする。
頑張って会話しろよ私!
「ジョニー……あなたに一つ質問があります。あなたの名前の由来は何ですか?」
「へ?」
ブラニーからの普通の質問に私も驚いた声をあげる。
「……父さんと母さんが気に入った名前って事しか聞いてない、本当はセカンドネームはないはずなんだけど兄ちゃんの場合は父さんがジャックで母さんがジャンってつけたかったらしくて、それでじゃあどっちもつけようかって事でジャック・ジャンってついたって。姉ちゃんのジュリア・ジュディーも同じ理由。だからジョニーってつけようって合致してせっかくだから二回言うかみたいなもんだと思うけど……まぁ、なんで男の子の名前がついたのかは聞いてみたいけど……」
「そう……私も名前の由来はわかりません。でも予想はできます、あなたの名前をもじっただけっていう事。私は母にとってジョンの代わりであなたの代わりなんです、でも母の様子を知っているでしょう。私はそれにすらなれない。何と言われてもかまわない、私はあなたを殺してやっと私になるのです」
「そう」
「……今度はものわかりがよいのですね?」
「勘違いしないで、私はだからといって逆恨みにわざわざ同情して黙って殺されてあげるほど優しい人間じゃないの」
私も剣を抜く。
「そうですか」
雨が強く私の身体を打ちつけ、体温を奪っていくのは肌で感じていた。
しかし、今私の身体を包む寒気と怖気はそれが影響しているわけではない。ブラニーの刀から冷気が漂ってきている。
やっと確信した。
私とこの子は戦い方も話し方も髪の色から目の色にいたるまで正反対で、それでいてどこか根が深いところはすごく似ている。
なんとなくわかるのだ、私には兄ちゃんがいて姉ちゃんがいて突っ張らなくても誰かが私をわかってくれていた。でも、兄と姉、そして私の周りに今いてくれる人がもしもいなかったら。
断言してもいいけど、心のよりどころにするのはきっと父さんと母さん。そして出会った時に誉めてもらうためにきっと必要以上に気をはって生きている。
たかだか昔話を聞いただけでこう思うのはおかしいと思うけど、まるで別の道を辿った自分をみているような気がする。
そんな難しい事を考えなくても、言葉だけなら同属嫌悪みたいなものも感じでいいと思う。
だからこそこの子を嫌いになりきれない。
それにだからわかる、この子はきっと……
「話は終わったかね? しかし、ジョニー君。君は運が悪い、生憎の雨だ、これでは君の能力も半減だろう?」
「それはあなたも同じじゃん」
我慢できなくなったロサが私を挑発してくる。
「力を使いこなしてない君と一緒にしないでくれたまえ。その点、このブラニー君は優秀だよ、少しのアドバイスで武器そのものの能力を私と同じように使いこなせるようになった」
ビキビキと空気が凝固していく音が聞こえる。
「これは……なんとも驚いたな」
マチコさんが思わず声をあげた。
私も目を疑っている。
私の炎の翼のように、ブラニーもまるで翼竜の骨のような氷の翼を広げているのだ。
それも一瞬のうちに!
「やぁ、見事だよねハセガワ」
バン!
ロサの言葉と同時に銃声が聞こえる。
「古式銃を使うのは君のポリシーだったかな?」
ロサは当然のようにマチコさんの銃撃を避けていた、マチコさんにしてみればただの威嚇なのだろうが。
「爆ぜろ!」
ゴバッ!
続いて聞こえるのは爆発音!
アンナさんの時のように小規模な爆発がマチコさんの目の前で起き、マチコさんの身体が吹き飛ばされる。
確かにこの能力では雨でも関係ない。
そんな攻防に気を取られていると足に、ビッと痛みが走り慌ててその場から飛びのいた。
見てみれば、足首まで増水した水の表面がブラニーから伸びて凍っている。
確かに地の利はブラニーに傾いている。
そう思った瞬間にブラニーがその場でアッパースウィングしてその水を弾き上げる。
そのしぶきが一瞬にして降り行く雨を凍らせ地面からのびる氷柱を作りあげ、それらは大きく円を描くように私のほうへと向かってくる。
「うあっ!」
それも避けるとさらに間髪をいれずにブラニーの背中の羽から氷の刃が飛んでくる。
ギイィン!
私はそれを剣で叩き落とすと今度こそブラニーに殺意を向ける。
ブラニーもそれを感じ取ったのか改めてキッと私をみすえる。
「今度こそあなたを殺します」
冷静にそう言いきるブラニー。
感情のままに叫んでいた時とは違い、確かな威圧感を感じる。
「上等……そもそもあんたにはこっちからも喧嘩売ってんのよ!」
Bey Bey Space Girls.
See You Next Pranet!