表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワイルド・ワイルド・ガールズ  作者: 虹野サヴァ子
後編『月よりも優しい少女達』
72/123

汚れたドレスで君は笑った その4


「彼女は彼を感じたかった、ブラニーが君に嫉着しているのは知っているだろう、なぜかは聞いたかい?」

「いや、あの子にはとりつく島もなくて。知ってるなら教えてほしいんだけど」


 いろいろな憶測をした。

 いろいろ悲しい思いもした。

 私はシドウの答えを待った。


「ブラニーはブレンダとジョン・マクレーンの遺伝子情報を合わせて造られた人造人間だよ。とはいえ母体からではなく培養機の中で胎児期を過ごした事以外は成長速度から肉体の発達にかけて全て人間と同じだけどね。それでも彼女にとっては君は目の仇だろう名前も君の名をもじったもので、結果としてだけど君に父も母も奪われた事になる、これは彼女の逆恨みだし。そもそもジョンの代わりであって、君の代わりであるブラニーに親なんて存在しないのだろうし」


 淡々と語るシドウ。

 私は耳を疑う、本当は疑う余地なんてないと知りつつも。

 否定を言葉でとなえたくても言葉が出ない。

 嘘と言うのは簡単で、嘘だと証明するのは何よりも難しいと知っているから。


「それで……」


 さんざん迷って口にできた言葉はそれだけ。

 それもどうしようもなくか細い、聞き取れるかどうかもわからない大きさで。


 私としても情けない。


「それで、それをジョニーに聞かせてお前は何をしたい?」


 銃を構えたままマチコさんが続けてくれた。


「何をしたい……? 私はただ彼女の喜ぶ顔がみたいだけだよ」


「何の因果関係があるのか私には理解しかねる、タイムマシンの計画もそうなのか?」


「その通りだよ」


 何の感情もないように答えるシドウ。

 そのあまりにひょうしぬける態度に何を聞いていいのかわからなくなる。


「タイムマシンを造って何をしたいの?」


「彼女の心を取り戻す、それは私の責任でもある」


 彼の言葉は力強い。

 それは明確な意思の力を感じさせ、そしてとても暖かかった。


「それはどういう事……?」


 私は全ての答えを求めた。


「ブラニーで彼女の心のスキマは埋まらなかった、ほどなく時を越えてようという私の今の計画と同じ事を考えた。危険な研究、それも会社名義を偽った個人での研究。彼はそれを止めようとしたらしい、妻まで帯同してその場に表れたそうだよ。しかし、実験は失敗だった。歪んだ公式は間違った答えをはじきだした。ジョンとその妻ジェニーは十年後の未来へと飛ぶ事になる。そして三年と百十八日前、そんな危険な研究の証拠は残すまいとヘクターブレイン社が隠蔽に動いた。時間跳躍から戻ってくるところに待ち構えた暗殺者にジョンとジェニーは殺されたという事になっている。それがアイン、君の友達のエクレアだよ」


「そ……」


「アダナークコロニーというコロニーをしっているかい? 旧ヘクターブレイン社が使っていた工場跡地、そこが彼女のラボだった。オカルトめいた話もありサルガッソーにもなっていたし身を隠すにはもってこいだったのだろうが、そこがそのB2研究所、時間軸をいじった影響で磁場が乱れているらしい。私の話が嘘だと思うなら確かめにいってみるといい」


 アダナークコロニー……

 私の脳裏にデッドブレインシステムの事、グスタフさんの事、ルーシアさんの事が思い浮かぶ。

 あの宙域の調査、確かに磁場が乱れていた。


「そんな……」


「ジョニー、気をしっかり持て。シドウ・スティラルカ……この場でお前を拘束したいところだが……」


「それはジョニー君のためによくない、それに彼女はまだやらなければならない事が沢山ある。きっとその中には私に対する事もあるだろう。私は逃げも隠れもしない……気持ちの整理がついたらきなさい。出口を教えよう」





 お父さん、お母さん、エクレア、アイン、ブラニー、ブレンダ、タイムマシン、シドウ、グラント頭の中がごちゃごちゃとうずまいていた。

 どこを走ってるんだかわからず、とにかくマチコさんに手を引かれて走った。


「よし、ここか。ジョニー気持ちはわかるが呆けるのはここまでだ。どうやらこのダクトが外への出口らしい」


「ふぇ?」


「ふぇ? じゃない!何だそのリアクション、クッソ可愛いな!! いや、そんな事を言ってる場合ではない、何をするにしても落ちついて、そしてよく考えて行動するんだ。そんな頭で何が考えられる、深呼吸してみろ」


 言われた通り私は深呼吸する。

 大きく息を吐き出すと同時にマチコさんは私の髪をそっとなでながら顔を近づけてきて目をのぞここんできた。


「ジョニー、自分の今の状況をいってみろ」


「……つかまって、逃げ出すところ」


「では、これからすべき事は?」


「ここから出る事」


「ここに連れてこられる前の皆の状況を言ってみろ」


「アルミの妹がフェイフェイにやられて……その後にシドウ達が来た」


「では、ここからでて最初にすべき事は?」


「……皆の状況の確認、出来事を整理したあとに考えて行動」


「よし、たいしたもんだ。では、先に降りろ」


 優しくマチコさんは笑うとダクトの格子を外して、私をうながした。


「うひゃーーーっ!」


 廃棄ダクトはお金を取れるんじゃないかというほどのスリル満点のスベリ台のようになっていた。

 しかも、出口は一メートルくらいの高さのところにあって、私は出ると同時にしたたかに尻を打った。おまけにシドウの言うとおり雨が降っていて一瞬でズブ濡れになる。


 そう、一瞬でズブ濡れになった。

 足元は増水してちょっと氾濫した川なのだ、尻を打っただけですんだ水があったおかげだ。これは雨が降ってるなんてレベルじゃない気がする。どっちかっつーと嵐。


 私を追ってすぐにマチコさんが滑り降りてきた、シュタッと見事な着地を決めて一瞬で濡れた髪を優雅にサッとかきあげる。

 悔しいかな美人は何をやってもサマになる、というか美人だからこそ隙がないのだろうか……


 ……本当にそうか?


「マチコさん、私で状況のテストしてません?」


「何の事かな?」


 ……まぁ、いいとしよう。

 周囲を見渡してみる。

 あたりは夜、いや闇と形容したほうがいいかもしれない。

 顔を打ちつける雨が、クーロンの街の明りをボカしている。まるで手の届かない月のようにぼんやりと。


「記録的な雨、とはいっていたがこれは酷いな。別な表現を使ってほしかった」


「マチコさんもそう思います?」


 私の言葉にマチコさんは一拍おいて答えた。

 その目は再び厳しいものになっている。


「ああ、それにこんな雨の中で傘もささずに待っていた酔狂な……いや、もとから狂っていたか。これは失礼」


 マチコさんがそう言って再び銃を構えた。

「うかつだぞジョニー、ここは一応は敵の真っ只中だ」

 私はハッとして闇に目をやる。

 まるで猫の目が闇の中で不気味に光るように。ぼぅ、と赤い影が立っている。

 あんな毒々しい赤い服を着るような女、忘れろと言われても忘れるもんか。


「雨の中で傘をささずに踊る人がいてもいい、自由とはそういうものだ。などと誰かが言っていたな。なあ、ハセガワ?」


「……あなたからそんな教養を感じさせる台詞を聞けるとはね。まぁ、同意はするよ。自由というのはそういうものだ。でも、盲目的な自由を求めるあなたと同じ雨に打たれるというのは私としては面白くない演出だわ」


「それはこちらの心情としても同じだよ、君ではなくアンナだったら最高のラストシーンだったというのに、お互いがお互いの宿願を果たす。偽りの自由に溺れる宿敵を倒し、自由を夢見る者がその手の己の解放を掴む、リバーーーティーーーー! 栄光の瞬間とは! えてして! そういう痛々しい状況で手にするものだとは思わないか!」


 またロサのオーバーアクションが加速していく、リバーティーっていきなり絶叫したあたりから。

 へたくそな人形劇のようにガクガクと動くロサ、自分でいってる雨の演出のおかげで赤い人影がガクガクとうごくその様子はかなりのホラーでエクレアがみたら絶対に泣く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ