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ワイルド・ワイルド・ガールズ  作者: 虹野サヴァ子
後編『月よりも優しい少女達』
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掻き鳴らせユニゾン・チョーキング その4

「ところで用件は何やねん、こっちが調べてる裏をワザワザ教えてくれたのは嬉しいんやけど。そもそも私達にやられるいうのは考えへんのか?」


 あまりのロサのやかましさにアンナさんが半ギレで問いただす。

 しかし、ロサは相変わらず別世界の人のようにオーバーアクションで答える。


「今の私は止められないさ、正確には止めてはいけない、それに用はまだすんでいないんだ! もっとも用件は二つに増えてしまったがね!」


 額に手をあてて高笑いしながら反りかえるロサ。

 ナルシズム溢れるイナバウアーを極めるとこうなるんだろう。

 途端!

 サングラス越しに殺意が私を貫いた。

 全身の毛穴から汗が噴き出す。


「思考を変えよう! 脚本の手直しはよくある事だ! リテイク! リテイク! さらにリテイク! 愛憎劇は艶やかに、華やかに、儚げに、彩られ! 強烈な個性と意外な展開が物語りを血液のように流動する! 私が纏う炎の色は赤、胸を焦がす情念の色は赤、散り逝く命の色も赤! 楽しみが増えて先が愉しみになってしまったよ! アンナ、君はその剣にて命を奪うと約束してさしあげましょう!!」


 じょじょにテンションを上げる機関銃のような無駄口、あがったテンションと共に私に向けられる強烈な敵意もじょじょに溢れていく。

 私の剣が震えていく。

 そして最後の言葉が終わると同時にそれが弾けた。


「この変態は!」


 私との間にアンナさんが割って入り、ロサの拳をトンファーで受けとめる。

 共振とかなんとか言っていたあたり、ロサの能力も炎を使うのだろうけど今はその様子はない。


「一対八で勝てる思うんか?」


 アンナさんが叫ぶと同時に信じられない事態が起こる。

 マチコさんが舌打ちする。


「そこだ!」


 ダンという乾いた銃撃音。

 ふと振り向くとそこには黒いコートを着た少女が立っていた。。

 本当に信じられない。

 透明になれる能力とかそんなもんじゃない。

 絶対にそこにはいなかったのだ。

 いなかったはずの、幽霊のようにその場に現れた少女、歳はモモよりも上くらいだろうか?


 ぴっちりとした全身タイツの上から羽織ったコートをひらりと翻し、そのコートで銃弾を受けとめた。


「金属繊維……ステルス迷彩のコートか」


 硝煙の匂いの中、無駄に球を打つ事無く様子をうかがうマチコさん。

 エクレアも銃を取りだし、ドロシーとフェイフェイも構え、モモはBBとぶったおれたままのムーをかばうように立ちふさがる。

 アンナさんはトンファーをくるくると手の中で回し、ロサとにらみ合う。


 ギィン!


 さらに船内に響く鈍い音。

 と、同時になぜそこにいるのが気がつかなかったのかという長身の男が立っていた。

 カンザキさんと同じくらいの背が高さ。

 しかし、人がよさそうでありながらも青白いくやつれた顔と整えられていないボサボサに伸ばされた髪が不気味で。


 全身タイツで強調された細すぎる、やつれたといってもいい肉体がその雰囲気を駄目押ししていた。

 そして、少女と同じ黒いコート。


「これは……驚いた……狙っていたロサだけじゃなくて、シドウ・スティラルカまでお目見えとは……」


 いつも笑顔のBBから笑顔が消えた、それだけでも異常事態。

 って、え! この浮浪者みたいな奴がシドウ!?

 どう考えてもお金持ちというよりは浮浪者みたいな……やっぱり人間顔じゃないな……


 黙ったままのシドウ。

 しかし、その表情は「はい」といってるようなもんだった。


「マテリア、わかっているね?」


 シドウはそれだけボソリと答えると、同じ格好をした少女が動いた。

 速い!

 まさか、動きのキレだけならアンナさん達に切迫するものがある。


「はい」


 フェイフェイに殴りかかると同時にマテリアは返事をした。


「こんな、ちょっと、まずいってー!」


 マテリアの拳を防御するフェイフェイ。

 次の瞬間、マテリアを包むコートのすそが生き物のようにうねりフェイフェイの顎を弾き飛ばす。


 くるりと宙返りするマテリアの足をドロシーが掴むと、そのまま壁に叩き付けようとドロシーが振りかぶる。その様子にいたいけな少女を叩きつけるという事に対する躊躇はまったくない。


 それでも、その掴んだ手にコートがまとわりついてその攻撃は成立しない。

 同じように手にまとわりついたコートの裾がぞうきんをしぼるようにドロシーの腕にからまり、それがほどける反動でドロシーを逆に投げ飛ばす。


 一瞬だけの出来事だった、それだけで圧倒的なプレッシャーが私達を包む。

 マテリアとシドウのコートの能力は一緒だろう、手足のように自由に動くという事なのだろうけど、正確な能力がわからない以上は対策のとりようがない。

 でも、それは私達はの話。


「……まがい物の力で、真の実力者を相手にしようとはな」


「言いたい事はわかるが、これが無いと戦えなくてね」


 カンザキさんが跳ねる。

 カンザキさんの刀をシドウはコートの袖で受けとめる。


「反応はなかなか……」


 ダン!

 カンザキさんが跳ねると同時にマチコさんの銃撃がシドウに、いやマテリアにも同時に撃ってる。


「ちょいやー!」


「いぬきち! たかさん!」


 フェイフェイがマテリアに向かって蹴りをいれる、体の小ささをいかして宙返りし死角から上段から蹴りをいれて、それを皮切りに忍天道のクンフーを連続で叩き込む。

 さらにドロシーが犬と鷹を呼び出して四方八方から攻めてたる。

 マチコさんが間を縫ってさらに銃で援護する。

 それでもマテリアの鉄壁のコートは崩せない。


「カンザキ、そっちはなんとかならないか!」


「……まだ難しい」


「カンザキさん、援護します!」


 エクレアがカンザキさんの援護に入るも、それでも状況は好転しそうにない。


「たいしたオモチャね……ロサ、あなたは使わないの?」


「高い予算をかけた大仕掛けには興味がないの、評価されるはその者の実力じゃなくて?」


「同感だ!」


 アンナさんが跳ねる。

 トンファーを振り上げ、

 そして急停止した。

 もはやタイトスカートくらいしかない長さのスカートから三節棍を取り出すとそれでロサを突く!


 そのフェイントもロサは見越して棍を掴むと一瞬で棍その物を燃えあがらせる。

 今、どっから炎を出したんだ!? 武器という武器はもってないはず……

 まさか、このロサの武器もコート!? 炎を纏う服?


「フレアボール!」


 検証してみるしかない!

 火球を盾にしてロサに斬りかかる、私と能力が同じ、とはいっても私よりも実力は上だろうけど。

 でも、それならば避けるまでもないはず。


「来るがいい、小さき炎の弱き者よ」


 袖をたなびかせ、炎の壁で火球をなぎ払う。やはり、コートその物が武器、イーなんとかを砕いて繊維として編みこんでいたんだ!

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