掻き鳴らせユニゾン・チョーキング その3
カンザキさんは腕を組んだままで臨戦態勢を整える。
「BB、モモ、ムー、ジョニー達も私達の後ろに下がっとるんや」
二人よりもさらに険しい表情で指示をだしてくるアンナさん、その表情に今は説明している余裕はない、という切迫した緊張感が見てとれ、私達はとにかくそれに従うしかなかった。
バシュンという、空気が抜けるようなモーター音。
閉じていたはずのファルコのドアがあけられる音だ、当然ロックはかかっていたはず。
つまり相手は、最初から正面からどうどうと不法侵入する気だったという事。
それどころか、消音処理がほどこされているにもかかわらず、わざわざとコツコツと靴の音をたなびかせながら私達に迫ってくる。
悪寒が走り、なにか知ったような感覚が溢れる。
剣が震える。
額から汗が流れる。
正直、恐い。
「やぁやぁアンナ! 久しぶりだね、元気してたぁ?」
そしてその存在が姿を現した。
部屋のドアが開くなり入ってきたのは、暖かいのに赤いコートを着て、赤いサングラスをかけた、赤い髪の女性。
歳はアンナさん達と同じくらいか。
私達はTシャツやら着ててもカーディガンやらなのに、そんな中でコートとはどんなに寒がりでも異質。
というよりも、歳のわりにケバイ。
小陽気に手をあげて親しげにアンナさんに挨拶してるけど、アンナさんはとっても迷惑そうな顔をしている。
「誰やったっけ?」
明らかに知ってそうだったけど、アンナさんはわざと挑発するように知らないと答える。
とたん、赤い姉ちゃんは笑顔を維持するのが精一杯というような感じでピクピクと引きつらせる。別な意味で恐い。
「私、昔からその手の冗談が嫌いって知ってるでしょ?」
アンナさんはハァとため息をつくと、めんどくさそうに赤い女を見た。
「ロサ・ペディエンヌ。星空に求道を。が、合言葉やったお偉いさんが一体、こんななんでも屋の下働きの女に何の用やねん?」
「そんなの決まってるじゃないかアンナ! 全てはあなたに会うためよ、いろいろと私達の事を調べまわってるようだけど、それだけで敵対するほど私の心は狭くないわ、それに古い仲じゃない。むしろあなた達をスカウトに来たのよ?」
ナルシスト的な芝居がかった手の動きで、芝居がかった喋り方で話すロサ。
「今は脆弱な私達。可愛そうな私達、でももうすぐその脆弱な殻を破り美しき世界へと旅立てる、資金、力、人力、それが全てもうすぐ揃う。その時にあなたのような人が私と敵対しているなんて考えられない! それとも私の好意は迷惑かしら?」
「言っとる意味がよくわかれへん」
「がっかりさせないでくれよアンナ・パキン、燃えるように焦がれあった、情熱的なあの! あの! あの夜を忘れたのかい!?」
え、それってまさか!?
アンナさん!?
まさか、という顔を私達全員がしているのを見て、アンナさんもさすがに顔を赤くしかめて言い返す。
「……誤解を招く言い方すんなや。無駄話をするために来たんやったら帰ってほしいんやけど、アンタは不法侵入者なんやから殺されても文句いえんねんで?」
「ハッ! ハッ! これは恐い、しかし不作法を言い出すのならそこの少年の透視の方が先じゃないかしら?」
ロサは嘲笑しながらムーを見据える。
「え、僕の千里眼がバレちゃってたんですか!?」
空気がいまいち読めてないムーは普通にバラすはリアクションするわ。
とりあえずエクレアが頭をひっぱたいてムーを昏倒させる。
いつものようにピクピクしながら活動を停止するムー、ちょっと思ったんだけどこうもパンパンひっぱたいて気絶させて脳に何か異常とか大丈夫なんだろうか?
ある意味もう手遅れだけど……
「コホン、ムーの目に気がついたのがアンタやってんなら、アンタの評価を変えざるをえないかもしれへんな」
気を取り直すように、意地悪な笑いを返すアンナさん。
その声にむっとした表情を見せるとアンナさんは続けた。
「こっちにも事情があんねん、今回のクーロンのマフィア連中のおかしな行動、それにカイバーベルト社のゼネコンにあんたも関わってんやろ?」
「いかにもそうよ」
否定する様子もなく、しれっと答えるロサ。
「資金面は技術面はカイバーベルト社暗部、人材と行動はあなたって事か。あなたは自分の組織の強化、カイバーベルト社は聞いた話ならタイムマシンの設計か、この星の事情に関しては関せずってところか、するとまだあの夢物語みたいな事を考えてるのかお前は?」
話しを整理し、確認するように問うマチコさんに、嫌悪の視線を送るロサ。
「安く評価しないでくれたまえよハセガワ、それに君には興味がない。だが、まあいいだろう。おおむね君の予想通りだ、今のカイバーベルト社の社長は狂っていてね。十年の時を越えるといきまいていたよ、たかだか十年という時間を戻ってどうしたいといのか? まぁ、あのシドウの考えに興味はない。私は手駒を利用させてもらっているのに過ぎないからな、フハハ! 言ってて自分でうけてしまったよ! フハハハ! 利用するというのなら私も利用されているのだろうからなフハハ! シドウも私の高尚な考えを理解した。アンナ、お前もわかるだろう抑圧された日々、自分の存在の証明できない生活、これは決起だよアンナ自分達が何でもできるという事を証明するのだ、フハハ!」
「私にはわかれへんな……」
「なーーーずぇーーーーだーーーー!」
凄いスピードで否定されて、凄いスピードでリアクションを返すロサ。
オペラ歌手のように手を広げぐるぐると回りながらアピールする、こいつももしかして馬鹿か。
でも熱く語ったぶんだけ、つまらなそうに答えたアンナさんの反応に反比例して頭をかかえてブリッジする勢いでのけぞるロサ。
「私達はもう自由や、それだけで何でもできる。それでええやないか?」
「フハハ! 嬉しいよあい変わらずだ君は! それでこそフハハ! 笑いが止まらないフハハ! 君の持つイークレプスと私のイークレプスが激しく惹かれ! 火照る想いが! 私達を再び一つにするのだ! 感じるだろうアンナ! この! この! この共振を! フハハ!」
「あー、あの火の出る石ならその子にやったで?」
「ぬぁーーーんーーーーですってーーーーー!!!」
あの石って……もしかしてこの剣を作るのにくれたのって……
さっきから剣が震えてたのって、この人のイーなんとかとの共振か、やだなぁ。
うわっ、すっげぇおっかねぇ顔でロサがこっち見てる……
これはリアクションしないといけないのかな……
「えっと……この剣を作るのに……」
やっとサングラスをはずしてくわっ、と私の剣を覗見る。
くわっ、と見開いた目が恐い。
「フハハ! フハハ! いや、これは参った! これは予想外! 君はいつも私の思考の外から不意に攻撃してくるな! フハハ! まさか、大切なイークレプスをフハハ! 笑いが止まらない! フハハ!」
とてもじゃないけどこの人、正気とは思えない。
「お前、名は?」
「じょ……ジョニー・ジョニー・マクレーン」
「フハハ! ジョニー! お前がか! フハハ! フハハ!」
……コワイよこのフハハハおばさん。