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ワイルド・ワイルド・ガールズ  作者: 虹野サヴァ子
後編『月よりも優しい少女達』
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掻き鳴らせユニゾン・チョーキング その2

 縁がなさそうと思った矢先にこれか。

 でも、そう言われても皆目見当がつかない。

 BBがシドウとは取引をしてなく商売がたきとかか?でもそれじゃこのクーロンに腰を落ち着けてるのがわからない。


「う~ん、説明するとなるとめんどくさいんやけど……」


 アンナさんが眉をしかめて、どう説明しようか、そんな事を考えているんだと一目でわかる顔をする。

 ビリリリリ。

 けたたましくファルコに響く音。

 アンナさんが何かを思いついたわけではもちろんない。


「きんきゅーかいせんだー」


 モモが緊張感のない声で音をとめに行く。

 子供にしてみればバスを止める押しボタンを押したいようなものなのだろう。

 そんな子供の好奇心とは裏腹に、それがなる意味を知るアンナさん達は神妙な顔つきになる。


「失礼いたします」


 とても落ちついた遠慮がちの老人の声、そして垂れた頬。

 どうみても執事顔で格好も執事のような服。

 執事にとして生まれるために存在したキャラクターを地で行くその人はダイアの執事のその人だった。


「……セバスチャン!」


 さすがに私達よりも反応がはやかったアルミ。

 思えばこんな事も初めてだ。


「「「「「「だれ?」」」」」」


 かと思えばアンダーソン商会の面々はおかしな顔をしている。

 これでは事情が飲み込めない。


「アンダーソン商会の皆様、初めまして。私、そちらのアルミ様の妹、ダイア様の下でヨシュリア家で働かせていただいてる執事のセバスチャンと申します。ぶしつけに失礼を申し上げたのはアルミ様に連絡がとれませんでした故、ご容赦ください」


「それはええねんけど」


 言われてアルミは自分の個人端末に目をやる。


「あら、いつのまにか電池が切れていたわ」


 予想通りとはいえ、あまりにも予想通りの返事だったのでこっちもため息しかでない。

 とにかく、緊急という用はわかったものの。アルミに話をまかせていては進まないだろう。

 出すぎたまねかもしれないけど、セバスチャンさんのためにも私達が話を進めるしかない。


「それで、セバスチャンさん。どうしたんですか?」


 セバスチャンさんは私をチラリと流し見すると、ふぅと呼吸を落ちつけて話を切り出す。


「そうですね、どこから説明したらよろしいのかわかりませんが。執事として伝えなければならない事から話ますと、ダイア様が襲われました。今は入院されています」


「何ですって!?」


 アルミが身を乗り出した。

 私達も驚いたが、アルミのそれはもう見てられないほどで、いつものアルミからには想像できないほどの剣幕だった。


「誰に!?」


 画面に映るセバスチャンに掴みかからんとするほどの勢いのアルミ。

 ドロシーとマヤがその体をおさえつけるものの、落ちつく様子はない。


「それが……ウォン・シャオロン様です」


 遠慮がちにフェイフェイを見た後に、セバスチャンはその名前を告げた。

 話を聞いた瞬間に本能が反応したかのようなアルミとは対照的に、その名前を聞かされてなおフェイフェイは椅子から立つこともなく呆けたままだった。


 船内の全員がフェイフェイの顔を覗き込んだあとに、フェイフェイはやっと反応をした。


「シャオロンってフェイフェイの知ってるシャオロン?」


 それ以外に何があるというのか。

 フェイフェイは間の抜けた顔のままで間の抜けた声をあげた。

 フェイフェイの思考が追いつかないままに、セバスチャンさんの説明は続いた。


「いつものように商談の会議の席で、時間としては六時間ほど前になります。商談はダイア様がお一人でされるのですが、その席で。左腕と左の鎖骨、さらに肋骨を6本。頭部と内蔵に損傷はなく意識も今ははっきりしているのですが、大事にも至る傷でした」


「それで、ダイアは今はどこにいるの!?」


「シャオロン様の母星、クーロンの……」


「え、ここ!?」


 今度はフェイフェイが声をあげた。

 シャオロンがこの星にいるのは当たり前なのに、やっぱり動揺の色は隠せないようだ。

 今のでフェイフェイはシャオロンが本当にそういう行為をしたという事を認識したかのようである。

 目に焦点がわず、取り乱すシャオロンとは対照的に魂が抜けたように脱力するフェイフェイ。


 いまにも壊れてしまいそうなフェイフェイの肩を私とエクレアが抱いた。

 セバスチャンさんの説明は不安がまじっていたが、それでもとても落ち着いていて、一度話を聞けば理解できる内容だった。

 運ばれた病院はこの近くで、車を出せばすぐに着ける距離。


「BB! 車かして!!」


「は、はい!」


 アルミの快活な声にBBはちょっと恐がったように声をあげて、車のキーを投げた。


「誰か運転をお願い!」


 私達は盛大にずっこけた。

 アルミって車の運転はできないのね。


「でも、私の車は二人乗りよ?」


 そういうBBの声だったけどアルミはあんまり気にしてないようで、いつもの眠そうな目をキッとさせて運転できる人を目でうったえて探している。


「それじゃ、私が出すよ」


 根負けしたわけでもないのだろうけど、出されたマヤの手に鍵を渡す。

 車庫を指差すBBのにおじぎをするとマヤは歩きながら目がねをかける、ほどなく二人はやたら目立つエンジン音をあげる速度にのみ特化した改造のほどこされた車を出して行った。


「あんたらは行かへんの?」


 私達は顔を見合わせてどうしたものかと考える。


「まぁ、命に別状はないようだし」


「フェイフェイもこんなのだしね」


 そんな冷たい言葉を口にする。

 正直、そうでも言わないとこっちもこの空気に押し負けてしまいそうだった。

 私とエクレアは比較的冷静だったけど、当事者のフェイフェイと、さらに長くから知り合いのドロシーは動揺を隠せないままだったからだ。


「ふむ、状況の整理はついたが。BBどう思う?」


「どう思うって、さすがの私も笑えない。最悪の状況ね。何が原因かは知らないけどこっちの段取りはメチャクチャになったわ」


 話が見えない私達は商会の面々から話を聞くしかなかった。


「守秘義務ってもんもあるけど、ジョニー達になら言ってもかめへんやろ?」


 アンナさんが商会の面々に視線を投げる。

 おそらく最初からあまり話を理解していないモモを除いて全員が神妙な顔つきになり、黙って頷く。

 その様子を見守る時になにげなく、天窓から外が見えた。


 天気は鉛色の陰鬱な曇り空。

 自分でも余計なものを見てしまったと後悔する、余裕の塊みたいなアンダーソン商会から余裕の色が消えたからだ。

 それは、事の重大さを物語っている。

 そして同時に理解した、イレギュラーとはいえ私達もその問題の末端に首を突っ込んでしまっていて、そしてそれから逃れられない状況なのだと。


「危ない話や、私としては聞かんほうがええと言っとく。どうすんねや?」


 そう言われても私達の返答は決まっている。

 現在の進行、連帯感、その他もろもろの感情が、断りたくても断るという選択肢を与えない。


「一度で説明が終わるからアルミとマヤがいればよかったのにね」


 しれっ、とエクレアが声をあげる。

 アンナさんはふぅとため息で返事を返すと、口を開いた。


「私達の受けた仕事は二つ、ってもその一人の依頼主から二つってわけちゃうねん」


 最初、何をいってるかわからなかったが。

 用はダブルブッキングで仕事を受けたという事なんだろう。


「ヘクターブレイン社って知っとる?」


「はい、確かカイバーベルト社の前身のですよね?」


「ジョニー達から聞いただけだけどです。いろいろよからぬ事をしてたっていうです?」


 そう、グスタフさん達んの事件。

 思い出すだけで吐き気がするような実験、それ以外にもいろいろやってたんだろう。


「それなら話が早いわね」


 苦い顔をするアンナさんに代わってマチコさんが話を進める。


「まぁ、だいたい五十年前に潰れた組織。正しくは潰されたかな?何をやってたにせよ、それを商売にしないといけないわけで買う相手がいたってわけだ。今回の私達の相手はそんときの商売相手。組織で動いてるんだが、組織の尻尾を見せなくてね。誰が動いてるのかは見当がついてるんだが、それで私達は考えた、組織で動いてるんじゃなくて組し」


 言いかけて、マチコさんの丹精な顔がゆがんだ。

 眉をひそめて、腰にかけられた銃に手をかけると「噂をすれば」とだけ呟いた。


「……お客様だ」

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