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ワイルド・ワイルド・ガールズ  作者: 虹野サヴァ子
後編『月よりも優しい少女達』
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掻き鳴らせユニゾン・チョーキング その1


「おはよう!」


 透き通った、力強い声が部屋中に響く。

 確固たる強い意思を感じさせるその声はその当事者に向けられたものではなく、その保護者に向けられたものだった。


「目覚めてからどれくらいなのかしら、そろそろ行動に移したいところなのだけど? ギャランティは私が先にもらはない事には契約が成立しないのだけど?」


 形容するなら赤。

 そうとしか言いようの無い彼女が告げる。

 相手は乱れた髪のさえない顔の男、そのかたわらには赤の女がはじめに挨拶をした少女。


 少女は反応する様子もなく、赤の女は少しだけ眉をしかめると気に入らなさそうに腕を組む。


「ぶっつけ本番で舞台にあがるというのは他の俳優にしてみれば迷惑なのだがね、君の手腕を信用してないわけではないがね」


 男は申し訳なさそうに顔をそむけると、赤い女を見つめて答えた。


「たてこんでしまってね、君には迷惑をかけるよ」


「まぁ、いい。あの娘は動いた。私達も行動に移すとしよう、ブラニーもすべき事をするためにオデッセイの最後の仕上げにかかったのだろう? あとは最終リハーサルといこう。ここで君達が倒れるいう事は前提としていないのだからね」


「お互いの宿願のために」


「さぁ、幕をあげるとしましょう……ラストダンスに足りえる幕を、己の舞台を彩るに最高のエッセンスは過去を乗り越える事、待っていて、待っていて、私の……フハハ! フハハ!」


 赤が笑う。

 足取りは軽く、期待に満ちて。

 赤が嘲う。

 その歩みはまるで―― 




 

 偶然

 必然

 宗教の中には起こり得る事が

 生を受けるときにきまっており

 出会う魂は

 前世にゆかりがあったものだという

 受け入れられるならそれでもかまわないが

 その言葉で全てを片付けるのは

 あまりに寂しい

 全てが決まっているにしても

 

 それに思うは人の心なのだから




「話は聞いとるで、あれから随分と大変だったみたいやん」


 ドアを開けて船内に足を踏み入れると、いつも通りの変わった喋り方のアンナさんが迎えてくれた。

 あれから私達はカンザキさん達と惑星クーロンへと向かった。


 都合がよかった事に、というかシャラポアについた時にも思った事だったんだけどクーロンがわりと目と鼻の先にあったから移動には苦労しなかったのは幸いだった。


 ちょっと驚いたのはカンザキさんのタケミカヅチは単機で大気圏を突破できるっていう事、使いこなせてないけどアンナさん達はいい戦闘機に乗ってる。


「……せっかくだからもう少しはやく来てくれればよかったのに」


 カンザキさん達の根城であり、事務所兼宇宙船であるファルコに私達が乗り込むなり、挨拶も待たずに眼鏡をかけた男装の麗人はエクレアに文句を投げてくる。


「マチコさん、私に何をさせたかったんです……」


 エクレアがとっても微妙な顔をする、まぁ何をさせるのかはおおよその検討がつくけど。

 マチコさんは切りそろえられていて、正面からでは首に隠れて見えない長い三つ網を優雅にかきあげると、『別にぃー』とエクレアの察している事を察し返して不満をさらに投げた。


 優雅で見惚れるたたずまいだけど、その理由の元である趣味を考えるとマチコさんはいまいちかっこよくない。


「ケッケッケッケ、エクレアもわかりやすい顔をするよね。そいで、私に聞きたい事があるんでしょ?」


 奇奇怪怪な笑い声が話に加わる。

 このアンダーソン商会に普通の挨拶は存在しないのだと私は思った。

 相変わらず、不必要なまでに色香を出しまくった服は純朴な中学生野球部なら一撃の下にノックアウトだろうに。


「あ、BBえっとね」


 私は事の顛末を話した、私の事エクレアの事、アルミ達姉妹の事。そしてグラントのじっちゃんの事。

 だいたいの事は前もって話てはおいたんだけど、ぜひに詳しく話を聞きたいとの事だったのであらためて説明をした。


 アンナさんもマチコさんもBBもしっかりと話を聞き、わからなかったところは補足を求めて話をつなげる。


「ほんなら……ブラニーいうんはジョニーの父ちゃんの不倫の子供、っていうとブレンダを解放していけない関係になって痴情のもつれで父ちゃんと母ちゃんが事故にまきこまれたっていう事なん? そうなると一応はそんなところにジョニーの母ちゃんがいたっていう説明にもなるやん。色恋沙汰はよくわかれへんけど、企業として考えたら、そんなタイムマシンなんてたいそうなもの作るいうなら、アインというかエクレアを使うてでも水泡にしたいっていうのもわかるやんな。タイムマシンの設計の主導者がグラントなら黒幕いうんもわかるし」


「何にせよ憶測や推論で話を進めるのはやめよう、ジョニーとエクレアを動揺させるだけだ」


 アンナさんがまとめてマチコさんがフォローを入れる。

 とんでもないイメージがあるけど考える力や発想の瞬発力も凄いんだよな、気遣いも忘れてないし。


「んで、そのグラントなんだけどねー。皆が知ってるかわかんないけど引退してるよ?」


「あ、そういえばそんな事をいってたような……」


「うん。確かに設立はグラントさんなんだけど、今のカイバーベルト社の社長はシドウ・スティラルカって人。確かまだ若かったよ。もともと従業員だったけど内部から株を買い集めて社長になったっていう。経済誌とかで読んだ記憶だけどね、グラントさんもそこそこに歳だから会社としても前進になるー、なんて」


「また新しい名前が出てきたです」


「……シドウ、シドウ!」


 急にマヤが大声をあげた。

 ちょっと意外なところだったのでアンナさん達も驚いた声をあげる。


「お父さんが言ってたけど、ブレンダに直接接触できなかったのはシドウの私兵が問題だったって」


 そういえば、あのパパが直接にブレンダと会話ができなかったってのもおかしな話だったんだ。

 ただの社長秘書にしてはブラニーが強いのもおかしな話だったんだ。


 うん、社長秘書?


 ツヴァイとドライもよく考えれば凄い位置にいるんだよな。

 なんだろう、どんどん話が大きくなってきてる。

 それにしてもあのパパが油断できない私兵って何者だ?


「それにしてもジョニー、ずいぶんと面白い人に命を狙われとるな!」


「そうね、役職としたら一企業の社長秘書に命を狙われてるんだもんねケーッケッケッケ!」


 素晴らしい頭の回転を使ってどうでもいい事に気がつく二人。

 そこ笑うとこじゃないような……


「まぁ、プラス思考しとこ。こっちとしても関係あれへんわけやないしな」


「そうですね! というか話がややこしくなってません?」


 ムーは元気よく返事をした後に珍しく腕を組んで悩み始めた。

 関係ないわけではない。

 私達は私達の事情で話をもちかえているのだから、アンナさん達には関係がないと思うのだけど。


「そういえばアンナさん達はどんな仕事を受けてるですか?」


 マヤが切り出した。

 思えばアンナさん達の仕事の内容をまだ聞いてなかった。

 あまり私達に縁の無さそうな大きな仕事を受けてるんだろうけど、この前みたいに手伝える事があるなら手伝いたいところなんだけど。


「あー、いっとらんかったな。これがあんた等に縁もゆかりもありまくりなのよ!!」


「まぁ、思いがけないところで前進しそうではあるな」

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