燃えろ、いい女!! その4
『アシハッポ、水槽清掃のために公開停止中』
そんなガッカリなコメントが書かれた看板が私達の目の前にかかげられ大きな水槽にはモップをもったオッサン数人がゴシゴシしてるだけ。
「がっかりだね」
「エクレア、実際のとこそんなにガッカリしてないでしょ?」
「わかる?」
「わたしはガッカリ……」
「「マヤはたまによくわからんよね」」
そうですか、と小首をかしげるマヤだけど私とエクレアもうんうんとうなずく。
私もエクレアもきっとドロシ-達もだけど夜叉姫を面白いやつだと思っても、アレのファンになれるのかというとびみょーだ。
当のマヤはちゃっかりサインもらって大切に額にいれてかざってたけ、私の宝物ですなんていってたけどやっぱりおかしいと思う。
「アシハポッポ以外にみるものはないのか?」
「う~ん、あとは普通の水族館みたいですね。これといって珍しいものはなさそうですね!」
「話が違うっちゃ、あとは魚介類のいけすだっちゃ」
まぁ、水族館に期待をしすぎてもいけないんだろうけどね。
とはいえメインイベントがなしでは拍子抜けしちゃうのもまた事実。
「……プールがあるわ」
「ああ、そういやフェイフェイ思い出したんだけどプールもあったよね?」
あ、そういえばパンフレットにもあるな。
そういえば泳ぐのなんてずいぶんとひさし……
……熱い視線を感じる。
「ジョニー! プールか!? プールに行くのか!!?」
兄ちゃんが性犯罪者予備軍みたいな表情でハーハー言ってる。誰か警察を呼んでください。
もっとも兄ちゃんが警察なのだけど。
「モモ……お前は泳いだ事があるのか?」
「およぐってなんだたべられるのか? うまいもんならくうぞ!」
「美味しくはないけど楽しいです! ね、エクレアさん!!」
「何で私に振るのさ!」
「フェイフェイ泳ぐのなんて久しぶり!」
「……私も」
え、ちょっと待って!
何で泳ぎに行く流れになってんの!?
「私はいかないよ」
「私も泳ぐのは遠慮するっちゃ」
「私もかなぁ」
私とエクレアとドロシーは乗り気じゃないムードを出して誤魔化す。
「え、意外! ドロシーが泳げないのは知ってたけどジョニーもエクレアも泳げないの?」
「「え、そうなの!?」」
「フェイフェイ、いきなりバラすなっちゃ!!」
ドロシーは泳げなかったのか、というかまた変な流れになってきた。
このままじゃ、私達まで不名誉なレッテルをつけられてしまう。
「私は泳げないわけじゃないけど、あんま好きじゃないの」
「私は泳ぐのが嫌いなわけじゃないけど、今はちょっと……察してよ」
あからさまに嫌な顔をして兄ちゃんを見て合図を送るけどフェイフェイはいまいち理解してないようだった。
「そうですか、わかりました! では行きましょう!!」
「いやムー、人の話聞けよ!」
「素晴らしいプールじゃないか! なぁ、ジョニー!! その上着はやく脱げよ!!!」
「やだ」
まぁ、泳ぐのもひさしぶりで結局のところ周りに流されてずるずるとプールへ。
泳ぐのはかまわないんだけど、やっぱりこの変態兄貴のなめるような視線が気になる。
「大変、アルミが流れるプールに流されてるよ!」
「フェイフェイ、流れるプールなんだから当たり前だっちゃ……」
横目ですでに水と戯れはじめているドロシー達。順応がはやい。
カンザキさんはその流れるプールの流れに逆らって泳いで、ムーは潜水で遊んでいる。二人とも何が楽しいんだろう。
「なー、ジョニー。みずにうかばないんだけどどうしたらいい?」
「え? あー、頑張って浮くしか……というかモモをほっといてあの二人何やってんだ……」
「ジョニーもそろそろ諦めたら? エクレアはもう準備体操終わってるよ?」
「マヤもエクレアもまぁ……しゃあない……ドロシーもおいで、ついでに泳ぎ方を教えるから」
私が上着に手をかけると、ハァハァという荒い息遣いが力を増す。
興奮という感情をそのまま声にするとこうなるという見本のようなソレは異常者の特有のものだ。
どこに出しても恥ずかしくない変質者。
今の兄ちゃんは恥ずかしいながらそのレベルに達している。
「ほんとに、ジョニーの兄ちゃん……ちょっと間違えたら犯罪だね」
「いや、私としてはもう犯罪のような……」
変質者であってかろうじて犯罪者でない兄ちゃんに対して、エクレアとマヤが同情の声をくれる。
まぁ、もう言ってもしょうがないけどね。
覚悟を決めて上着を脱ぐと、ブバッという変な音があがる。
「ちょっと……ジョニー……兄ちゃん鼻血が……」
「さー、練習するよー」
「無視か!?」
文句の声をあげつつも片手で鼻血をふき、結局のところ拭ききれずに血まみれになりつつもカシャカシャと写真を撮るのに余念のない兄ちゃん。
「まさか放置プレイ!? 兄ちゃんはそういう心にくるのはちょっと……できれば叩い」
何か言ってるようだけど私の耳には届かない。
とっとと警察の仕事に戻れよ。
「ほら、ドロシーもこっちきな」
「いや、エクレア……私は泳げなくてもいいっちゃ。とくに困らないっちゃ」
「上着きてたら泳げないよ」
「ああっ、マヤ! よすっちゃ!」
……
よかれて思って上着をマヤが脱がせると、なんとも立派なたわわに実ったパイオツが!!
あれ? ドロシーってこんなに乳でかかったっけ?
「泳ぐとか以前に恥ずかしいっちゃ……」
「いや、ってかドロシーってスタイルよかったんですね……」
「うん、服で体のラインが隠れる人だったんだね。乳とか私とマヤと同じくらいかと思ってたのに」
「ジョニー……自分が気にしてないからって言うのはショックです……」
なんだかマヤが衝撃を受けてるな。
「アンナとBBにくらべたらまだまだだけどな、アンナとBBはばーん! どかーん! だからな」
「まぁ、あの二人はねぇ」
「エクレアはそこそこだから……ぶつぶつ……」
なんだかヘコみはじめるマヤ。
マヤに気をとられてる間にカシャカシャと音がしている事に気がつく。
「いいね……これでヤマダさんにいいお土産ができる!」
この出歯亀兄貴は……
「よし、まずは水の中で目をあけるとこからはじめようか」
洗面器に水を汲んで、顔をつけて目をあける練習。
初歩である水になれるっていうとこから。
「モモちゃんに先にやらせてあげるっちゃ」
優しさというオボラートに包んだドロシーのやりたくないから後回し。
こうも露骨だと逆に笑えるが、当のモモは気がくようすもない。
「よし、モモにまかせろ!」
ばしゃ。
何の恐怖もないかのように水に顔をつけるモモちゃん。
「ぷはぁ、あけたぞ! もうおよいでいいのか!」
「あ、コラ!」
できたのかできてなかったのか、とにかく一瞬だけ顔を洗面器につけるとモモちゃんはプールに向かって一直線。
ドボンと飛び込むと、何事もなかったかのようにカンザキさんと並走して泳ぎ出す。
「モモ、泳げるようになったのか?」
「おー、まかせろー!」
産卵するシャケのように流れに逆らって泳ぐ二人。
ってかモモは本当に泳げなかったんだろうか……
「さぁ、次はドロシーだね」
「ほ、ほんとにやるっちゃ……」
エクレアを恨めしそうにみるドロシー、本当に水が嫌いなんだな。
ぬきあしさしあしで洗面器に近づくドロシー、洗面器に手をかけてゆうくりと水面に顔を近づけていく。
「こ……こ……こんなの顔を洗うと思えばいいっちゃ……たかが水に顔つけて目をあけるだけだっちゃ」
そういいつつも水面ギリギリで顔が止まるドロシー。
「ほらほら、どうしたのさ」
「頑張って!」
「エクレアもマヤもうるせぇっちゃ、タイミングが大事だっちゃ!」
しかし、顔と水の間に板があるかのように水面との距離は縮まらない。
そのかわりに洗面器を持つてはプルプルと震えている。
「お、お、おおお~!!」
なんとか顔を近づけようと努力するドロシー。
でも、顔をつけようと力めども洗面器との距離は一向に縮まらず。
無理やりつけようという健気が努力から体を前に乗り出すも成果は実らず、行き場を失った力はやがてドロシーの体をもちあげはじめた。
「「「おお~~~!!!」」」
ゆっくりと持ちあがっていくドロシーの体、気がつけば洗面器の水面を睨みながらドロシーは体操の鞍馬をするかのように地面と水平に持ち上げていた。
「頑張れドロシー! 手を放せばとりあえず重力で水に顔ははいるぞ!」
「じゃあ、頑張るなじゃないのかな?」
「とにかく顔がついても目をあけるのをはすれないでね!」
水に顔をつけるというだけの作業とは思えない応援が飛び交う中、ドロシーの体力についに洗面器の強度が負けて壊れた。
ぐしゃつ!
私達の足元にはこぼれた水が広がり。
綺麗な直線を描いたまま、ドロシーは顔面から地面に激突した。
気を失ったドロシー、そして洗面器から溢れる水にはドロシーの鼻血が混ざっていた。