燃えろ、いい女!! その3
「……ときにマヤ」
「なんです、カンザキさん?」
マヤが小首をかしげたところでバッと懐からメイド服を取り出すカンザキさん。
「約束だ……この格好をしてもらおうか」
ピキッとマヤの顔が凍りつく。
そういえばテニスを教える条件がそうだったような……
「マヤ……自覚していなだろうがお前には素質がある……まず目につくのが現在は希少種とされるその黒髪。ナスカの地上絵よりも神秘的な黒のブラウスに添えられる事によってマリア像よりも神々しい存在へと昇華される。従順でありながら真の通った性格、そこはとにじみ出る脆さと儚さもポイントが高い! もういちど言おう! マヤ、お前には素質がある!! なぜだ、なぜそれが理解できない!!?」
目を血走らせマヤに詰め寄るカンザキさん。
脅えるマヤを尻目に、そういう顔もまた良しと言わんばかりに、
あふん
と、顔をほころばせているマヤパパ。マヤはよくグレないと思う。
「あの、カンザキさん……」
「ジョニー……お前もだ……」
「は?」
カンザキさんの肩がふるふると震えだし、マヤを見て……いや睨みつけていたその目線が私に向けられる。
「いいかジョニー、お前もお前だ。強気な活動的な性格でいて言葉使いが乱れているわけではない、それだけで強力な武器だ。さらに周囲を落ちついて見られる観察眼にどたんばで発揮される冷静さ。明るいがやり手! 金髪はありきたりではあるが、ハネッ毛はメイド界では希少種だ!! その点もいい……」
「さ、さいですか……」
「次にドロシー!!!!」
「ひっ!?」
「ボリュームのあるロングヘアの後ろ髪に、若干ではあるが縦ロール!不遇な境遇といい、メイドの王道! ワンタオ!! キングロード!!! 語尾の特徴もいい感じだ……」
「さ……さりげにひどい事を間にはさんでなかったっちゃ?」
「続いてフェイフェイ!」
「ほいよう」
「その歳不相応な低い身長! そして未成熟な肉体!! それだけで一つの超個性!!! 加えて外見のイメージは口癖で払拭しつつ、ジョニーに並ぶ思慮深さ! そのギャップもまた素晴らしい……」
「フェイフェイ思うんだけど、もう止まらないねカンザキさん」
「さらにアルミ!」
「……なにかしら?」
「そのうすらぼんやりとした態度! 基本的に役に立たない存在!! 規律が旨とされるメイドにおいて、そのルールに喧嘩をうるかのような寝癖頭にずぼらな着こなし!!! メイド界に震撼をもたらす可能性を感じる……」
「……とっても素敵ね」
「最後にエクレア!」
「はいはい、どんとこい」
「仕事はできるが向上心のない性格! ノリがいいんだかドライなんだかわからない態度!! つまりそれこそメイドの本質である永遠の2番手ルイージの位置!!! これぞワールドスタンダード……」
「つまりは主人を立てる位置って事なんだろうけど、そう考えるとカンザキさんって目立ちすぎじゃ……」
確かに個性の塊みたいなカンザキさんじゃ主人を立てるっていう事にはならんな。
でもカンザキさんはメイドが女の人の職業っていう認識がない時点でズレまくってるからな。
そういう意味ではあの集団こそがたしかにカンザキさんの居るべき場所なのかもしれない、なんだか適材適所という事葉が私の頭によぎった。
「マヤ!!」
一通りまわったところで血走った視線がマヤへと戻る。
怪しい方向にスイッチが入ってしまったカンザキさんにマヤは完全に引いてる。
「話がそれてしまったが本題に戻そう……さぁ、これを着るんだ」
「えっと……その……ジョニー達もっていう話しで約束したんで」
「「「「「うぇ!?」」」」」
ぬるっ、と爬虫類が振り向くかのような軌道で首をまわしてこちらを見るカンザキさん。
コワイ……というかマヤめ巻き込みやがった……。
「お、ジョニーったらメイドさんの格好をするのか? 素晴らしい事じゃないか」
「急に話に入ってくんな!」
後ずさりする私達五人を尻目に嬉々とした表情をする兄ちゃん、これだから変態共は……
「カンザキなにやってんだ?」
ふよふよと浮かぶちっちゃい影がやってきたと思ったらモモだった。
背中に泥棒みたいな風呂敷しょってるけど何だあれは?
「あ、モモちゃんです! たすけてですモモちゃん!」
「おー、どうしたドロシー? あーまたカンザキのほっさがでなすったか」
言った瞬間に手から衝撃波を発射してカンザキさんをふっとばすモモちゃん。
メイド服をたなびかせながらワイヤーアクションのようにきりもみ状に吹っ飛んでいく。
「嬉しいけど……フェイフェイ思うんだけど助けすぎじゃないかな……」
「……助けすぎじゃないかな」
「きにすんな、いつものことだ」
いつもこんな事やってんのか……。
「そうです、いつもの事ですから」
「あ、ムーが復活した」
「やー、フェイフェイさんのツッコミもキツイですね。僕ちょっと死んじゃうかと思いましたよ、ところでモモがいるって事は商品もらえたんですか?」
「おー、まかせろ。むこうさいていとかなんとかいってたけど。そんなむつかしいこといってごまかそうたってそうはいかないっていったらいっぱいもらえたぞ」
そういって背負った風呂敷をを広げるモモちゃん。
トロフィーはいちおうあるけど、風呂敷につまっていた物の大半はおかしだ。
「ウメトロ三姉妹だって、なつかしー!」
「こっちはうめー棒です、私の好きなヤキソバ味もあるです!」
「……ドロシーはマニアックね」
「そのドラエモノのチョコレートはモモのだぞ!」
今までの流れが無かった事のようにお菓子に夢中になるみんな。
ほんと場をまとめられる人がいない。
「あれ、これ何だ?」
「どうしたのエクレア?」
お菓子の中にまぎれてゴージャスな封筒が落ちている。
「賞金? ……なわけないか。何が入ってるんだろう?」
お金がはいってるにしては薄いし、小切手って事もないだろう。
みょーに薄い、その封筒。
開けてはじめて思ったけど、これ私達のじゃないんだよね。止めないけど。
「えーっと、シャラポア水族館無料入場券……」
「奇跡の水生生物アシハポーンがあなたをお出迎え、プールセンター完備であなたも水の世界へ……」
ようはプールの入場券か。
そういえばスポーツコロニーなんだよな、なのになんで水族館があるのかがよくわからん。メンタル面での調整とかにやくだつのかな?
「ちゅうちゅうたこかいなちゅうちゅうたこかいな、十枚あるね」
「ジョニーってその数え方好きだよね、まぁいいけど」
人のものだとは知ってるけど、さも自分達のものように扱う私達。
「アシハッポって何だろう、マヤ知ってる?」
「さぁ……深海魚か何かじゃないかしら。そんな感じの語感だし、フェイフェイは知ってる?」
「フェイフェイも知らないよ」
「……ちょっと見てみたいわ」
「どうせ微妙な生き物だよ」
「エクレアは夢がないです、せっかくだから見に行くです」
「あ、皆さん。そのチケットは僕達のです!」
ちっ! ムーめ目ざとく覚えてやがった。
まぁ、行きたいかと言われれば私達全員がビミョーと言いそうだけど、こんだけ運動させられて何もなかったじゃみんなチョット悔しいのがあったからなぁ。
「いいじゃん、ちょっとちょうだいよ」
「はい! 差し上げます!」
下の根乾かぬうちに快活に私達にチケットをくれるムー、ツッコミをいれて来た意味ねぇ!
この子場合はエクレアじゃなくて私がお願いしてもくれそうなあたり何を考えてるのかわからん。
「……私達六人とあと四人……ひとりあまるわ」
兄ちゃんにマヤパパ、カンザキさんにムーにモモちゃん。確かに一人あまる。
「ああ、それなら私が遠慮するよ」
「パパ?」
「仕事も途中だし、何よりマヤ達の覚悟がわかったんだ。ここで油を売っているわけにはいかないよ」
「パパ……」
「ジャック君、マヤのベストシヨットを期待しているよ!」
「まかせてください!」
さわやかにビッと親指を立てるマヤパパにカメラをかまえながら同じようにビッと親指を立てて返す兄ちゃん。
感動的なシーンが台無しだ。
次の瞬間にはシュツと姿を消すマヤパパ。もうわけわからん。
「それじゃ、いこうかジョニー達!」
「何で兄ちゃんが仕切りだすのよ!」