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ワイルド・ワイルド・ガールズ  作者: 虹野サヴァ子
後編『月よりも優しい少女達』
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テニスのメイド様 その5


「緊急の放送をお知らせします。これは訓練ではありません。当会場があるブロックの方に廃材貨物船が衝突する危険があります。当ブロックにいる全ての人は係員の指示にしたがい避難をお願いします。繰り返します……」


「「「「「って何じゃそりゃ!!!!(だっちゃ!)」」」」」


 アルミ以外は一同に声をあげた、そりゃあげるさ!


「何でまたこんな絶妙なタイミングでこんな事になるのかね……」


「まるで漫画の無理やりな展開です……」


 思わず愚痴をこぼす私とドロシー。

 でも、マヤはそれが起きたという事よりももっと別の事で驚いているかのように呆けた声をあげる。


「あれ……これってテニスの覇王様にも似たようなシーンがあったな……」


「マヤ……改めて聞くのもあれなんだけど。ソレって本当にテニスの漫画なの……?」


「フェイフェイ思うんだけど、そんな話しをのん気にしてる場合じゃないと思うよ」


「ちょっ、ジョニー!? 夜叉姫見て!!」


 フェイフェイのマトモな意見をうっちゃるかのようにエクレアの慌てた声が会話を遮った。

 言われて夜叉姫の方を見てみれば、なんだか夜叉姫の体から変なオーラが出てる。

 ……かのように見える。

 まぁ、それだけ彼女の雰囲気がなんか変になってるって事なんだけど。

 夜叉姫は強く握った拳をぷるぷるさせると、やがて背中を丸めてさらにぷるぷる。お腹でも痛いのかと思えるんだけど、変なオーラが出てるから間違いなくそういうわけではない。


 何が起こるのかと私達が静観していると、とたんに大きくからだを反りかえらせながら、すごく素敵な爽やかな笑顔で言い放った。


「こんな窮地を待っていたッ!!!!!」


 なんだかものすご~く不謹慎な言葉に私には聞こえるんだけど、夜叉姫はもう自分の世界にどっぷりと浸かって帰って来る様子は絶無。


「うおおおっ、ピンチがアタイを呼んでいた! This is my 正義! このコロニーはアタイが守るッ!!!」


 ビシッと頭の悪いポーズを決めて、夜叉姫が虫のように壁をよじのぼって高いところへとあがっていく。

 ごきぶりか彼女は、それにこころなしか順番が違う気がするが、彼女に突っ込むのは危険な気がするのでやめておこう……

 高いところに昇ったところでまたビシッとポーズを決める夜叉姫。


「王から皇帝へ! 真の力を解き放て!」


 懐からゴーグルを取りだし指さきでくるくる回してバシッと装着する。

 一連の行動に意味があるとは思えない……


「爆裂機動!レッツゴーーーーーゥ! バクテンカイザーーーーーーーッ!!!!」


 夜叉姫の体が輝き、光となりてコロニーの外へ飛んでいく。


「さて……どうするジョニー……」


「どうするっても……どうするよ……」


 エクレアが困った顔で私を見るけど、私に意見を求められても……


「まぁ、ここでボーっとしててもしょうがないです」


「そうだね、KANATAも外に出てっちゃったし。考えによってはチャンスだよ」


「それじゃあ……追いましょうか……」


「お、アルミにしてはずいぶんやる気だね。ところでフーも来るんでしょ?」


「うえ!? フェイフェイさん。正直は私は関係ないので避難したいんですが……」


 フェイフェイに急に話しをふられてコッソリとフェードアウトしようとしていたフーがビクリと反応する。


「っても、戦闘機が無いとどうする事もできないんじゃないの?」


「フーは割といい戦闘機に乗ってるよ、フェイフェイ知ってるし」


「何で僕の戦闘機の事を知っているんですか……。こういうのはこういう仕事を生業にする人に任せませんとそういう仕事の人が困るじゃないですか。だからいいんですよ僕達が手を出さなくたって」


「OK、じゃあ手伝って!」


「ぜんぜん話しを聞いてないじゃないですか!」


「出ておいで! サルバトーレ!」


 フーとどういう関係なのか知らないけれどあのフーを手玉にとってる。


「……今回だけですからね……起動……ザビアッタ」


「ジョニー、私達も! カモン! ボナペティエ!」


「あいよう、おいで! アンダンテ!


「KANATAさんまってて! 起動、月凪!」


「「ロンドニア! ヴァンピール」」



「なんで私達だけ個別じゃなくて一緒で呼び出しだっちゃ!」


「そうよ、ちょっと寂しかったわ……」


 ドロシーとアルミには悪いけど、二人の愚痴が耳に入るよりも目の前の光景のほうにどうしても意識がいってしまう。

 まず驚いたのは夜叉姫のバクテンオー。


 いや、今はバクテンカイザーなのか? おそらく改造、というよりもむしろカラーチェンジとデコレーションしたのだろうけど全く見た目が変わってる。それももはや原型がないくらいに。


「くそーーーーっ! どうしたらいいんだ!!」


 で、こんな様子だ。

 考え無しに飛び出したはいいもののさすがに自分の機体との大きさの差がありすぎるためにどうしたらいいのか手をあぐねているようだった。


「手を貸そうか夜叉姫?」


「おおっ! お前は……誰だ!!」


 私は思わず、ずっこけた。


「ジョニーだ! 夜叉姫、あんたってもしかして私達の事を何も知らないのか?」


「悪ぃ、わかんねぇ! でもアタイのピンチに駆けつけたって事はあれだろ? 仲間だ!」


「そういう事だね、ほらマヤもなんとか言ったら?」


「え、え、エクレア!? いきなり何を!? ふ、ふつつかものですがよろしくお願いします!」


「まるで嫁入りです……まぁ、よろしく頼むです」


「……よろしくね」


「フェイフェイもいるよ、今回は協力して何とかしよー!」


「おおっ、お前はいつぞやの! 見てくれよこのバクテンカイザーを!今度は前のようにはいかねぇぞ!」


「夜叉姫さん、こんな時に喧嘩を売ってどうするんですか。まずはこの貨物船を止める事を考えましょう」


「……ん? フーか? 珍しいなこういう所に出てくるなんて?」


「まぁ、成り行きで仕方なく。はっきり言って僕としては不本意なんですが、これも円滑な人間関係を築く上で必要かなと」


「そうそうこういうことがないとはなしがすすまないんだから」


「まぁ、たしかにです、無理にでも話しを進めるにはビッグなイベントが必要です」


「そうね、ドロシーの言う通り……って」


「「「「「「「「誰!?」」」」」」」」


 思わず全員が声をあげた。

 後ろを振り向けば巨大な異形の戦闘機。


「モモだぞ、すっごいひまだからでてきた。せっかくいるのにでばんがほとんどないしな」


「何だこの大型機は敵か!?」


「味方ですKANATAさん」


「でも、お前……これはどう考えても敵っぽいぜ?」


「でも味方です!」


「そんな話しよりも貨物船を止める事を考えなさいってば!」


「おお、そうだった! ジョニーの言う通りだ! で、どうするよこれ?」


 さて、大きさとしては百五十~二百メートル級ってところかな?

 壊すわけにはいかんし、止めるとなると馬力が絶対的に足りない。

 この際、機動を変えるとしてどうやってやればいいんだか。この際はどうしたってキズがつくんだから攻撃でもして機動を変えるしか……


「よっしゃあ! じゃあみんなアタイのサポートしてくれ!アタイが正面から受け止める!!」


 いきなり私達の目の前に立ちふさがるバクテンカイザー。

 どういう機構を使っているのかわからないけど肘、膝、腰、肩から蒸気が噴き出し。そして船首部分をガシッと掴む。

 これはいったい何の冗談なんだ。


「えっ……まさか……そのまま押し返すの……?」


「あたりまえだろうが! 他にどんな方法があるんだ!!」


 エクレアが不安そうに聞くも、快活に返事を返す夜叉姫にため息を吐く。

 そんなエクレアの様子に気にする事もなく、正面から止めようとガッツリとくっつくバクテンカイザー。


「よっしゃあ! きにいったぜー、モモもやるー!」


「まぁ、夜叉姫さんは言い出したらキりがありませんし……」


「じゃあ、フェイフェイもやるー!」


 え、そんなノリなの!?


「いつも通りには難しいけど私のオブセッションシステムなら……」


「こうなりゃヤケです! なんとか届くですか……行くです!ゴシックス!」


 アルミのオブセッションシステムが動きを遅くし、ゴシックスのレーザーが以前の敵を捕獲する技術の応用で地引網のように作って貨物船を押さえ込む。

 さすがに規模が大きすぎるので効果は薄いが、それでも少しだけ速度が緩む。


「うおお! きたきたー! もっとだ! もっとパワーがいる!!」


「どうするジョニー……? なんかおかしな事に……」


「どうするって……あのフーまでやってんだし。ここまできたらバカになったもん勝ちよ!」


「じゃあ、いきますか」


 私達の三機も夜叉姫に並ぶように貨物船にへばりつく。うおお、すごいGだ!


「お前達!? 昨日の強敵(とも)は今日の戦友(とも)! 吼えろ! 答えろ! 私の……カイザーーーッ!!!」


 夜叉姫の声に答えるようにバクテンカイザーの体が光はじめる。

 と、同時の私達の機体の出力が上昇する。


「なんだこれ! どういう事なのよジョニー?」


「私に聞かれても……」


「とにかくKANATAのカイザーに反応するかのように……」


「そう、これが夜叉姫さんのRツェッペ……いや、もうバクテンカイザーですね。この機体の能力はシンクロ率による機体と搭乗者の固着上昇度によって左右するんです」


「どういう事? フェイフェイにもわかるように教えてよ」


「つまりは自分のシンクロ率を夜叉姫さんが味方だと思っている人にも左右させる能力ってやつですか?最低でも今の夜叉姫さんとバクテンカイザーのシンクロ率は400%を超えてるんじゃないですか?」


「400%って……単純計算で四倍です!? そんなの可能なんですか!?」


「まぁ、不可能なんですけど……夜叉姫さんだからというか夜叉姫さんの機体だからこそ不可能を可能にするというか……細かいっ子とはどうでもいいというか……とにかく夜叉姫さんが燃えれば機体も強くなる。早い話がバカになればなるほど強くなるデタラメな機体です」


「んな無茶苦茶なです……」


「うおおおおおおおっ! まだだ! まだ力がたりねぇ!!」

 ……たしかに無茶苦茶だけど彼女を見てると納得できる部分もあるというか……

 こうなれば本当にバカになったもん勝ちか。


「うおおおお! ほら夜叉姫! 私達の力はこんなもんじゃないでしょう!」


「ジョニー!!」


「ほら、もう少し! ここまでやったんだし!」


「エクレア!!」


「信じてますからねKANATA!!」


「マヤ!!」


「後ろには守らなければならないものがあるんだから!」


「フェイフェイ!!」


「不本意ながら、ここまできたら今さら変わりませんし」


「フー!!」


「私達が協力するから……」


「アルミ!!」


「さぁ、しんがりはまかせるっちゃ! 心置きなくやるっちゃよ!!」


「ドロシー!!」


「がんばれやしゃひめ! おまえがなんばーわんだ!」


「モモ!!」


 なんだかんだで、みんな楽しんでるな。

 さりげにモモがまた危険な台詞を吐いていたような気がするが気にしないでおこう。

 いや……っていうか最終回じゃないよね?


「止まらない! 止まれない! 私達の明日はここにある! 轟け! カイザー・ルック・ア・グラウンドォ!!!」


 わかるようなわからんような言葉の後に多分、必殺技? を炸裂させる。

 直訳すると『皇帝が周りを見る』なんだけど、きっと互換でしか考えてないんだろうな。

 そして……貨物船が……止まった。

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