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ワイルド・ワイルド・ガールズ  作者: 虹野サヴァ子
後編『月よりも優しい少女達』
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テニスのメイド様 その4


 私はビデオボードの電源を落とした。


「あれ、読まないの?面白いのに」


「ん、いい。どうせテニスといいつつ殺人バトルをするんでしょ?」


「何でわかるの?」


「やっぱりか! 私達のやってるテニスと違うでしょ!!」


「それは……あ! エクレア達とドロシー達が出てきたよ」


 あからさまに話題をそらすマヤ。私は普通の名前だからこそ一番ヤバイという法則をちょっと思い出した。

 それはともかくとして、ゲートから出てきたのはエクレア達とドロシー達。


 練習の時はごぶごぶだったし、私もどっちが勝つか予想ができない。


「エクレア、アルミ・ヨシュリア・ヒルデ組み対ドロシー・ライバック、ウォン・フェイフェイ組み」


 みんなの名前が呼ばれた瞬間につんざく声が会場に響き渡った。


「ちょ~~~~っと待ったぁ!!」


 凄い声量の声が会場に響き渡った。

 観衆も全員、声の方へと振りかえる。目線の先は旗がはためくポールの天辺。


 どうやってそこまで昇ったのかはさておいて、赤いマフラーで中途半端に顔を隠した声の主のその女。その名は夜叉姫が細いポールの天辺で器用に仁王立ちしていた。


「やいやい! そこのお団子頭、ここで会ったが百年目! あの日のバクテンオーがやられたセピア色の消せない思い出!今こそ清算する時が来た! トゥー!」


 見事なまでの啖呵をきって、夜叉姫が膝を抱えて宙を舞う。キャット空中三回転を綺麗にきめて再びフェイフェイを睨みながらラケットをつき付ける。


「今度こそテニスで大往生をお前に叩きつけてやる! さぁ、かかってこい!」


 観客は騒然として何が起こっているのかを把握するのがやっとというところ。

 そんな中、アナウンサーがこう言った。


「いや……エキシビジョンとしても……ダブルスですので」


「ど畜生ーーーーーーーー!!!!」


 普通にシングルでやればいいような気がするんだけどそこは従うんだ……

 アナウンサーもいきなりの事でテンパったとはいえ、突っ込み所が違うし。

 しかし、そこを突かれても夜叉姫は怯む事は無かった、他人事だから傍観できるけど何がおきるんだろう?


「だが、しかし! ダブルスというならこっちにだってタッグパートナーの一人や二人! さぁ、出てこいクールでグレイトな粋な奴! アタチのむくつけき相棒(ナイスッバディ)フー!」


 びしっ! と通路を指差す夜叉姫。

 闇を帯びた通路に皆の視線が集まる中!

 ……誰も出てこないし……何も起きないな。

 でも、何かちょっと聞いた名前のような?


 会場の空気は夜叉姫の勢いにもってかれていたから、さすがにここにきてこれでは落差が激しくて夜叉姫に冷たい視線が集まっていく。

 さすがの夜叉姫もちょっと泣きそうになってるし。


「うおおお! アタイのこの魂の叫びを聞いてまだ出てこない気か!! なんだったらアンタが寝てる耳元でザ・ジャスティス~正義まみれのあんちくしょう~を一晩中歌いつづけてもいいんだぜ!」


 相棒への言葉にしては脅しがかった……いや、的外れだけど脅しなんだろう。

 地団太踏んで、バタバタ暴れる夜叉姫。

 思えば夜叉姫にしか興味もなくて見てなかったけど、夜叉姫とダブルス組む人って誰なんだろう?

 そう思って進行表に目をやると夜叉姫の隣にはフー・フーフーとある。


 あれ? この名前って!!


 私がハッと気がついてコートに目をやると、いつぞやの星で私達の邪魔をしていた掴み所のなかった奴の顔。

 前と同じオリエンタルな服に身を包んだのは私達の知っているフー・フーフーその人だった。


「わけのわからない脅しはやめてください……目立つような事はしないとい約束だからこうして付き合っていますのに……」


「おー! 出てきた出てきた! さぁ、フー! アタイ達の力をみせてやろうぜ!」


 きっと夜叉姫は何も考えていない。

 良く言えば純粋、悪く言えば馬鹿なのだろう。

 そういう意味ではこのフーとの組み合わせは驚き、というかどういう関係なんだろう。


「あっれ? フーじゃん!」


 さらに話しがややこしくなりそうな人がフーに声をかけた。


「あれ? フェイフェイさん?こんなところで何をしているんです? う~ん、よく見ればエクレアさんも。ジョニーさんは一緒じゃないんですか?こんなところで何してるんですってテニスの大会ですよね。ふ~む」


 そう言ってフーはひときしり考え込む。


「ジョニーどうする? 私達も行ってみる?」


「そうだね、なんかわけわからん事になってるし」


 事情はいまいち飲み込めないけど、一つだけわかってる事がある。

 絶対にまた面倒な事に巻き込まれるんだ、そうに決まってる。


「フェイフェイ、何このガキです! 生意気すぎるです!」


 会場に下りると、早速ドロシーがフーと激しく言い合っていた。

 正確にはドロシーが激しくまくしてたてるのをフーが冷笑しながら軽くいなしているだけなのだけど。


「大きい声をあげないでくださいドロシーさん、アルミさんなんて静かなもんじゃないですか?」


「そんなに誉めないで」


「いやアルミ、誉められているわけではないです! フェイフェイも何か言うです!」


「いや~、フーは別に普通なんだけどね。フェイフェイ思うんだけど、ちょっとドロシーは気にしすぎ」


「キーーーー、フェイフェイまでぇ!」


「いいからはやくやろうぜぇ! うおおお! みなぎってきたぁ!」


 何コレ?

 全く状況がつかめない。


「ね、ねえエクレアなんかすっごい収集がつかなくなってるみたいなんだけど?」


「こんな騒ぎになっても大会の運営の人は何も言ってこないんですね……」


 エクレアは暇そうにテニスボールをポンポンとラケットでリフティングして暇をもてあましていた。


「な~んかね。ドロシーってほら、語尾に「っちゃ」ってつけるじゃん。それをフーに言われてムカっぱらを立ててるみたいだよ」


 キーキーと騒ぐドロシーとそれを小バカにするフー。

 うん、なんか確かにこの二人はそりが合わなさそうだな。


「まぁ、こんなドリル髪はさておきまして。フェイフェイさん、どうしてこの大会へ?」


「また無視されたっちゃ! どいつもこいつもだっちゃわいやぁ!」


「ん~、フェイフェイ達は夜叉姫に用があってこの大会に出たから。むしろフェイフェイ思い返せばこの時点で目的達成なわけなんだよね」


 あ、そうだ。

 なんかおかしな事になってたか気がまわらなかったけど、フェイフェイの言う通り目的は今私の目の前にいるんだよな。


「え~と、そうだ。フェイフェイなら夜叉姫にからまれてるから話しやすいんじゃない?」


「あ~、フェイフェイだと無理。話がかみ合わなかった」


 ふぅ、とため息をつくとフェイフェイは手をWの形にあげる。

 頭が痛くなってきた私とは対照的に、その話しを聞いてさらに頭を捻るフー。思えばコイツは何なんだろう、私達が、さぁこれからって時にはいつもいるんだよなぁ。


「ふむふむ、あの二人の監視についてはシャオロンさんの命令だったし……そうなるとシャオロンさんの言ってた事が本当……にわかには信じられない話しなんですけどね……ふ~む、あのタヌキ爺……もしかして……?」


 フーがぶつぶつ呟きながら顔がどんどんしかめ顔になっていく。

 う~ん、なんだか違和感があるんだよな。


「フェイフェイ、フーと友達って本当?」


「ん、本当。ふる~い付き合いだよ」


 ふ~む、フーがあのグラントと繋がってるって事はないのか?


「ねぇ、フーちゃん。あなたが何で夜叉姫ちゃんと一緒にいるのか教えてくれないかしら?」


 こっちがあれこれ悩んでいるというのに、アルミはにっこりといつもの笑顔でフーにたずねてみる。


「クライアントからの命令でして……中間どころの辛い役回りってやつです」


「あっれ? シャオロンも夜叉姫の知り合い?シャオロンも変な事を頼んだねぇ?」


 シャオロンってあのブラニーと一緒にいた色っぽい姉ちゃんで間違いないとして。

 何かつなっがってないようで微妙に話しが繋がってる気がしないでもないんだけど。 


「いえ、シャオロンさんからの命令ではなくてシャオロンさんの取引先の命令ですね。フェイフェイさん、クライアントの意味知ってます?」


「ん~、話半分くらい?2分の1カップ?」


 ビーーーーーーーッ!!

 いきなりけたたましい音が鳴り響いた。


「何だこの音!?」


 楽しそうにリフティングしてたのに音に驚いてテニスボールを落としたエクレアが不機嫌そうに声をあげる。

 けっこう続いてたからね……


「緊急警報だっちゃ! 何かあったんだっちゃ!」


「何だってんですこんな時に!」


「とりあえず落ちつこう、話はそれからだよ」


 マヤとドロシーをなだめて、何が起きたのか反応を待つ。

 ほどなく、存在の意味があんまなかった司会進行の放送の人の声が会場に響いた。

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