スーパーソニックジェットガールズ その4
エクレアがスカートから銃を抜き構える。
「あれはアインの銃……姉さん!」
「エクレアさん!」
ツヴァイとドライも複雑な気持ちが混じった声をあげて武器を構える。
でも、私達の狙いはそんなんじゃない。
バン!
エクレアの銃が船のガラス壁を打ちぬき穴をあける。突風が船の中をかけぬけブラニーもツヴァイもドライも何が起きたかわからないといった感じで顔をふさぐ。
この状況下でもピアノを引きつづけるアルミは逆にたいしたものだ。
「くっ、隔壁を下ろせ!」
ブラニーが声をあげるけどもう遅い。
「そいじゃ、またね」
エクレアが割れたガラスから宙に身を投げる。
「姉さん!」
落下していくエクレアに手を伸ばすべく身を乗り出したツヴァイを踏み台にして私も宙に身を投げる。
「私を踏み台にしたぁ!?」
「落下しながらでは戦闘機の召還は不可能です」
ツヴァイとドライが言葉が背中越しに聞こえる。
ブラニーが言ってたように、どうやって私がここに来たかわからないって事は私が飛べるって事は知らなかったみたい。
ざまぁみろ、出しぬいてやったぜ!
って、こうもやってられない。早くエクレアを回収しないと。
「エクレアーーーー!」
「ジョニーーーーー!」
私は片手で剣を操作して、片手で落下していくエクレアに手を伸ばす。
もうちょっと……
あー!風がうざい!
もう少し……
よっしゃ掴んだ!!!
途端にガクンと高度が下がる。
「エクレア、重すぎ!」
「仕方ないじゃん、銃をいっぱい持ってんだから!」
とりあえず憎まれ口を叩く私とエクレア。
「ジョニー、私がアインになってたらとか考えなかったの?」
「全然、だってエクレアだし」
私はニヤリと笑って見せる。
「エクレアだって、私が来るなんて思ってなかったでしょ?」
「全然、だってジョニーだし」
エクレアもニヤリと笑ってみせた。
「リアルアプローチ、ニルギルス!」
私の頭上に座標軸が出現する。
「奴だよジョニー!」
「あーもう、しつこい!」
私が思わず声をあげると、それにドロシーが反応する。
「ジョニー! 遅いっちゃよ! でもまぁ、これで思いきりこの子の相手ができるっちゃ!」
「やっと通信が復活したよ、ところでこの夜叉姫をどう思う? フェイフェイとしては弱いけど面白いんだけど」
「弱いだと、こんちくしょぉおおおおお! 赤くない、細い、燃える物がなにもない! くそっ! バクテンオー、お前はこんなもんじゃないだろう!!?」
外の戦況はどうなってたんだかわかんないけど、ダイアとドロシーは五分五分、フェイフェイと夜叉姫はフェイフェイがかなり押してたみたいだな。
「くそーっ! アタイは逃げねぇ! アタイは強い!! アタイが負けるはずがねぇーーーーーーっ!!!」
「フェイフェイとしてはまだ戦ってたいけど、ちょっと友達を待たせてるから!」
バクテンオーの突進をひらりと避けるとサルバトーレのヌンチャクがバクテンオーの顔面を弾き飛ばした。
「うおーーーーーっ! アタイは、バクテンオーはここまでなのかーーーーっ!!!」
ダメージレベルがセーフティーの限界を超えたのかバクテンオーが座標軸に包まれて消えていく。
夜叉姫自身はあのハッチのところに戻されたはず、これで相手はワルキュリエとニルギルスだけ!
「エマージェンシー、バーディクト」
「……エマージェンシー……サグラーダ」
さらに二つ座標が現れる。
「ちょっ、ジョニーまさか!?」
「あの二人の!!」
声のイントネーションから察するにバーディクトがツヴァイ、サグラーダがドライの機体みたいだ。
ってか、さすがに四対二じゃまずい!
「エクレアさん……私達にはあなたが必要です……」
「そういうわけなんで、ジョニーさんをはじめ、皆さん覚悟しちゃってくださいね」
そう言うとサグラーダが私の目の前まで急降下してくる。
早い!
ネクストレベル機の動きは早いとは思ったけどこのサグラーダの動きは高速移動機に肉薄するスピードだ。
ぐわん、と手を伸ばすサグラーダ。
なんとか間を抜けてよけるものの、これは厳しい。
「ドライちゃん、そっちは任せしちゃうね。私はこっちのお手伝いをするから」
そういうとバーディクトの背中から無数のガクガクと曲がるレーザーが発射される。
「ちょっと待つっちゃ! これは反則っちゃね! うわああああ!!!」
ワルキュリエの攻撃を避けている途中から、そんなトリッキーな攻撃が飛んできて吹っ飛ばされるドロシー。
「邪魔をするなぁ! 私の力で屈服させなきゃ意味ないでしょうが!!」
いきなりキレるダイア、そういえばドロシーとダイアも何か口論してたしなぁ。
「はいやぁああ!」
「あらあら、その程度ではこのバーディクトを捕らえる事はできませんよ」
「くそっ、フェイフェイ的には会心の一撃だったのに!」
「もう逃げられません、がんじがらめですよ~」
再びバーディクトの背中からレーザーが発射され網のようにフェイフェイのサルバトーレを捕まえる。
「おおっ!? なんだこれ!」
「私と似たような技を使っちゃ! 放すっちゃーーーっ!」
ゴシックスを飛ばしてフェイフェイを救出しようとするもののそれをワルキュリエに止められる。
「なんぼのもんだっちゃ! そこをどくちゃーーーっ!!」
途端ワルキュリエの腕から伸びたワイヤーがロンドニアを捕まえる。
「力に屈して負けなさい!!」
あれはヤバイ、この前無理やりブラニーを止めた攻撃!!
「うわーーーーーーーっ!!」
電撃か何かなんだろうけど、ドロシーが苦悶の声をあげる!
「ジョニー私をあっちに投げて!」
「あえっ! 何いってんのエクレア!」
「いいから投げて!早く!!」
な、なんだかよくわからんが。
「うおーーーりゃーーー! 飛んでけエクレアーーーー!!」
「よっしゃーーー!」
ワルキュリエにむかって飛びながらエクレアがモゾリとスカートから銃を取り出す、あれは!
「出し惜しみしないよ、前段発射!!」
確かにあの武器の火力なら戦闘機にも大ダメージを与えられる、よっしゃ行けエクレア!
「めーしあがれーーーッ!!」
0距離とはいかないまでも地面を抉るほどの威力を誇るマザーティストの一撃がワルキュリエの腕を捕らえ、吹き飛んでいくワルキュリエの腕。
と同時にワイヤーに流れる電撃みたいな何かは止まる。
「よくもやっちゃっちゃ……さぁ、おかえしだっちゃ!」
もともとフェイフェイに向けて放たれてとまったままのゴシックスがいっせいにワルキュリエに向けて狙いをさだめる。
「くそっ、なんであなた達……そこまでしてーーーっ!!」
「それがわからねぇっちゃから、あなたは私達に負けたっちゃよ!」
ある程度のダメージを与えるようにゴシックスの砲撃がワルキュリエを捕らえる。
爆音と共にバクテンオーと同じように消えていくワルキュリエ。
「ドロシーはフェイフェイ! 私はエクレアを拾わなきゃ!!」
「オッケーです! まかせるです!」
ロンドニアがゴシックスと共にフェイフェイの救出に向かうも、サグラーダがそのスピードで立ちふさがる。
「今度はおめぇっちゃか?」
「あなたを……負けさせます……」
次から次へと……
って、ちょっと待て!
「うわーっ、ちょっとリロード間に合わないから!」
再装填を急ぐエクレアをニルギルスの腕が掴んだ。
「エクレア!!」
「これであとは……あなたを殺すだけ!!」
本当に嬉しそうに言うな……でも、ちょっとこれはヤバイぞ……
私の目の前のニルギルスが私に銃口を向ける。
ちょっとどころか、これはっ!?
「させるかぁーーーーーーッ!!!」
ニルギルスを黒と黄色のコントラストの影が吹き飛ばした。
「ぬぅつ!!?」
エクレアがニルギルスの手から再び離れた。
チャンス、そしてあの影は……
月凪!!
「マヤ、大丈夫なの!?」
「私だけ寝てられないでしょ、二人して案の定ピンチなんだしさ!!」
とはいってもあの怪我だったんだ、しかも追いつくために月凪をフルスピードで飛ばしてきたんだろう。大丈夫なはずがない。
「どいつもこいつもぉーーーーー!!」
「チェーーーーストォーーーーーー!!」
マヤの月凪に気を取られたブラニー、しかしマヤはブラニーにかまわないでフェイフェイの方へ飛んでいく。
そして再び体当たりでバーディクトを吹き飛ばす。
「はわわわ」
本当にキャラが変わった悲鳴をあげるツヴァイ。
私はその間にエクレアを再びキャッチ、ニルギルスの正面を捉える。
「一発かましてやんなさい!」
「オーケィ、ジョニー! 再装填完了、撃てるよっ!!」
「「めーしあがれーーッ!!」」
エクレアの砲撃がニルギルスの顔面をぶっ飛ばす!
相変わらず固い装甲してるせいかそれでも外装をぶっとばしただけだった。
「くそーーーっ!」
「あらあら……大変。ブラニーちゃん、この前もですけど、ちょっとやられすぎです。肝心な時に不具合を出してもしょうがないですよ。ここは引いちゃいましょう」
「ふざけないで!」
「私も撤退を提案します……しかし精神状態からブラニーから納得するとは思えません」
性格が変わってこの二人、バランスがよくなってないか?
「もう……しょがないわね、ぐるぐるがんじがらめで逃げられないようにしちゃいましょ」
フェイフェイを捕らえたバーディクトの攻撃がニルギルスを捕らえた。
「何をしてるの! 放しなさい!!」
「駄目ですよんブラニーちゃん、これ以上は業務に支障をきたしちゃいますから。まずは任務続行ですよ、余計な感情なんていれ込んじゃ駄目なんですからね」
「……姉さんもお気をつけて」
「マヤー、入れてー、さすがに疲れてきたよー」
戦闘機型のマヤの月凪はハッチさえあければコクピットの部分に座れるので私もエクレアもやっと落ちつく事ができた。
「マヤ大丈夫、包帯ほどけかかってるよ」
やっぱり無理してたのかマヤの包帯はほどけかかり、血も滲んで赤く染まっていた。
「私よりも、二人は大丈夫なの? その……精神的に……」
私とエクレアもちょっと考え込む。
「私もジョニーと同じ。自分でちゃんと納得するまでは、ね」
「そういう事。ここまできたら最後まで、ね。何かあればまたマヤが助けてくれるでしょ?」
「はぁ……何よそれ……どーして二人とも肝心なとこで無計画なんだか……ま、これまでと同じ。いつも通りって事ね」
マヤは呆れながらも嬉しそうに笑った。
最後に何が待ってようともう関係ない。私もエクレアも、お互いの存在が自分を傷つける事になっても、もう私達は何一つ後悔はしない。
「知ってはいたけど、やっぱり三人はいいチームだっちゃ。あとはアルミだけっちゃジョニー、アルミはどこだっちゃ?」
「ピアノを弾いてたけど、ダイアと話しをするって残ってる」
「あ、座標軸! あれってアルミのヴァンピールのだよ!」
「……心配させたわね、さぁ屋敷に戻りましょう」